第339射:冒険者たちの宿

冒険者たちの宿



Side:アキラ・ユウキ



わいわい、ガヤガヤ……。


「おー、流石王都。シャノウとは違うねー」

「だな。かなり人が多い」


光がいうように流石王都って所か。

シャノウよりも人が多くて活気がある。

日本で言えば東京って所だもんな。

俺たちは、無事にハウエクブ王国王都に到着して、予定通り本日は宿を探してぶらついている。


「ユーリアさんたちも無事に入れたようで何よりですわ。下手をすれば王都が廃墟になるとも思っていましたし」

「あははー。ジョシーさんならありそうだしね。というか、戦車とか自走砲は王都の外に放置だけどよかったのかな?」

『仕方がない。戦車なんて王都に入らないからな。精々馬車が通れるぐらいだ』


イヤホンから耳に声が届く。

この声は田中さんだ。


「そっちは大丈夫ですか?」

『俺の方は問題ない。そっちはどうだ?』

「こっちも問題ないです。でも、わざわざゼランさんと別行動する必要はあったんですか?」


俺たちは田中さんとは別行動だが、ゼランさんと一緒にいる予定だった。

でも急遽俺たちも別行動でゼランさんとは別にこの王都に侵入することになった。


『念の為だな。今、この王都に侵入している部隊は5つだ』

「5つもあったっけ?」

「確か、王城で交渉するユーリアたち。商会のゼランさん。冒険者の私たち。そして田中さん。4つしかいない気がするのですが?」


撫子の言う通り、この王都にいる部隊っていうとあれだけど、チームは4つのはずだけど?


『ま、認識の違いだな。上空で待機しているドローンがいるだろう』

「あー。あれって数に入れるんだ」

『独立して監視をしていてくれるからな』


なるほど、確かに俺たちはとは別の判断で動いている部隊とも言えなくはない。

空を見てもドローンの姿はさっぱり見えない。


「空を見ても見えないからかなり上空なんですよね?」

『ああ、ドローンなんて上空200メートル地点ぐらいだからな。視認できる距離じゃないだろう。どっかの部族でもない限りな』

「あー、なんかものすごく目のいい部族っていたよねー」

「テレビで見た記憶がありますね」

「あったあった。なんかものすごく遠くまでも見通せる部族だったよな」

『とまあ、気がつかれても俺たちと関係があるとも思われないし、攻撃される心配もないだろう。監視ドローンが万が一落とされても四方に8機は配置しているからそこからフォローもできる』


うん、なんて万全な布陣だろうか。

心配のしようもない。

そんなことを話しながら俺たちは町の中を進む。


「パッとみて戦争をしているような感じはしないけどなー」

「そうですね。町を行く人たちにはそういう焦りみたいなものはないですわね」

「だよなー。あとは商店とか除いて物価の確認とかだけど、その前に門番の人に言われた宿が先だよな」

「だねー。まずは拠点を確保しないと」

「何をするにもそこが大事ですわね。ゼランさんたちと合流するのは数日置かないといけませんし」


そう、俺たちはすぐにゼランさんと会うことはしない。

繋がりを知られないためだ。

まあ、しっかり調べればすぐにわかるんだろうけど、時間が掛かって相手にばれる前にはすでにこちらのつながりは向こう側には伝えている予定。


「でもさー。こういっちゃ悪いけど、宿屋のレベルが心配」

「装甲車で寝ていた方がましだった可能性が高いですからね」

「とりあえずアイテムバックにシーツとか寝袋とか用意しているし、何とかするしかないよなー」


俺たちが一番滅入っているのは不衛生な宿屋で寝ることだ。

宿屋の人たちは頑張っているつもりなのかもしれないが、俺たちの常識である清潔とこちらの常識の清潔は同じではない。

この町もルーメル王都やシャノウの町と同じように路地からは糞尿の匂いが漂ってきている。

つまり垂れ流しなのだ。

これが当たり前の国とトイレ環境がしっかりしていて衛生観念がしっかりしている日本と比べるまでもない。


『そこらへんは気を付けておけよ。下手に病気とかになると後方に送るからな』

「うん。手洗いうがいは必須だね」

「除菌シートがどれだけ便利だと思わなかったなー」

「そうですね。こういう場で力を発揮していくれるのが助かります」


子供の時はよくわからなかった手洗いの概念だけど、ここの世界に来ると大事だなーっていうのがよくわかる。

そんな雑談をしながら町を歩いていくと、大通りに面した宿屋を発見。


「おっ、あれじゃないか?」

「おー。そうだね。行こう」

「あ、2人とも子供じゃないんですから」


俺と光は走り出し、撫子は追いかけてくる。

もう荷物が重くて、さっさと下ろしたかったんだよな。

いや、レベルが上がっているおかげでそこまでつらいってわけじゃないけど、やっぱりお荷物はさっさと下ろしたいからな。

宿屋の中に入ると、ちょっと高そうな服を着たフロントの人がこちらを下から上までみて。


「いらっしゃいませ。服装は冒険者のそれですが、鎧の下の服はかなりいいものですね。お忍びでしょうか?」

「冒険者なのは間違いないですわ。伝手はありますわ」


俺たちを代表して撫子がフロントの人と話を進める。

服装を見てお客さんを選別するって失礼な話に聞こえるが、それは地球での常識だ。

この世界は普通に治安が悪い。

お金があっても常識がない者もおおい。まあ冒険者に多い。

だからまずは身なりを見てその人の性質を見極めるというのも当たり前。

そうじゃないとトラブルで宿が壊されて被害がとんでもないということにもなりかねない。


「伝手ですか。ふふっ、御隠しのつもりであればその丁寧な言葉は替えた方がいいですね」

「別に隠すことではありませんわ。こうしてちゃんと受付をして貰うためにも必要ですもの」

「確かにその通りですね。とはいえ、それを発揮する場所はご注意くださいませ。さて、おせっかいはここまでにして、料金はこの程度になりますが、ランクによっても……」

「この程度でしたら、まずはよい部屋を一週間お願いいたしますわ。最高級はやめてください。目を付けられますから」

「かしこまりました。皆様同じ部屋で?」

「ええ。構いませんわ」

「では、ご案内いたします。おい」

「はい」


フロントの人が声をかけると美人のホテルウーマンたちがやってくる。


「お荷物をお持ちいたします」

「えっと、重いですよ?」

「それもお仕事ですから」

「わかりました。じゃあよろしくお願いいます」


この世界に来てから学んだことで、こういうことを拒否するのは相手の仕事を奪うことになる。

だから、任せることも大事なのだ。

盗まれても問題のないものだし大人しく荷物を渡す。

光や撫子も荷物を渡している。


「では、こちらに」


メイドさんっぽいんだけど、なんというかカチュアさんやヨフィアさんとは違うんだよなー。


「ふん、エセメイドですね」

「やっぱり何か違うよね?」

「はい。流石は私という専属メイドをお持ちのアキラさん。彼女たちは報酬ありきで頑張っているから、そういうのがにじみ出ているんでしょう」

「え? 報酬ってヨフィアももらっているじゃん」

「お給与でいえばそうですが、彼女たちが求めているのはチップです」

「ああ、なるほど」


外国ではチップは当たり前だ。

もちろんこのハウエクブ王国もチップ制度はある。

ルーメル王都はチップ制度あったけど、ウィードとかはないらしい。

まあ、国それぞれっていう所だろう。


「お金に献身なんで、そこがこのパーフェクトメイドと違うところですよ」

「というか、ヨフィアがいたから僕たちがタダものじゃないって思ったんじゃない?」

「そうですわね。普通冒険者がメイドを連れて来たりしませんもの」

「田中さんなんで服装止めなかったんだろう?」

『いや、そりゃメイドを連れていれば多少の身分保障になるだろう。安宿に行きたいならあれだったが。防犯が大変だしな』


ああ、そういう意味もあったわけだ。

確かに俺たちだけだと追い返される可能性が高いとは思う。

そんなことを話しつつ4階の大部屋に案内されて、ヨフィアさんがチップを多めに払って休憩をする。


「あー、いい椅子だねー」

「ベッドもいいものですわ。高いだけありますわね」

「だな。でもヨフィアさん結構なチップ払ってたけどいいの?」

「いいんですよ。多めに払うことによって、情報の共有や優遇をお願いできるんです。自分の懐を潤してくれる人を邪険にはしないでしょう?」

「確かにねー。何かあるとしたらそれ以上か、裏に何かあるってことだよねー」

「そんな映画みたいなことありますか?」

「いや、撫子。俺たちって十分映画みたいなこと起こってるぞ」

「……そうでしたわね」


異世界に来て勇者になってるってだけでどこかのラノベ要素だ。

戦国自衛隊とかにも通じるから映画にもいけるだろう。


「こほん。では、休憩しながら聞いてください。これからどういたしますか?」

「予定通り冒険者ギルドだけど、今日はここでのんびりなんでしょう?」

「だな。まずは疲れていることをアピールしつつ、この宿で情報を集める」

「任せてください。さっきチップはたんまり渡したんで彼女たちが色々教えてくれるでしょう。食事をとりながら雑談交じりに色々聞いてみるといいですよ」

『おう。それがいい。こっちも宿をとったから今日はのんびりさせてもらう』


田中さんの方も宿を確保したようだけど……。


「ねえ。田中さんの宿ってどこなの?」

『ああ、場所はマークしたからタブレットで確認してみろ』


そう言われて俺たちはタブレットを出して地図を確認してみると……。


「……ここはスラムって言われていませんでしたか?」


撫子の言う通り田中さんの宿がある場所は、ゼランさんから悪い奴のたまり場となっている場所だった。


『そうだ。身を隠すならこういう所が定番だからな。ああ、安全は確保しているし心配するな』

「あ、うん。そうだよねー」


光が棒読みな返事を返す。

いったいどれだけの人が田中さんの前に犠牲になるのだろうかと、ちょっと遠い目になってしまった俺は間違っていないと思う。


「明日、スラムが無事だといいな」

「あっはっは! そんなことがあれば残骸しか残りませんって」


ヨフィアさんの言う通り田中さんが動けばそれぐらいは当然だよな。

……なんだろうこの言い知れない不安感は。


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