第107射:発見と異常

発見と異常



Side:タダノリ・タナカ



王家の倉庫漁りを始めて、はや2時間ほど。

意外なトラブルが発生していた。


「うわー。すごいよ。この宝石!!」

「こちらの指輪も綺麗ですわね」

「ええ。叔父様はこんなものまで持っていたなんて思いもしませんでした」

「いやー、ここの財宝売ったらいくらぐらいになりますかね? 一つぐらいもらって行ってもいいですかね?」

「ヨフィアさん。不謹慎なことは……」

「ヨフィア。いい加減に……」


と、そんな感じで、女性陣は役立たずになっていた。


「……田中さん」

「ほっとけ。女に金銀財宝はだめだっていうのはよくわかったな」


宝石に魅せられてというバカな話を聞いたことがあるが、あながち嘘じゃないらしい。


「いやー、普通ならば、あれほどの宝を見たら、あのようになるのが当然かと……」

「売れる場所があればな。普通は簡単に足が付く品物を買い取ったりはしねえよ」


ああいう宝物関連は、すぐに情報が洩れるから、売るところを探すにも一苦労なんだよ。

つまり、ヨフィアの売却妄想計画は成功しないってことだ。

時価数億の絵画を盗んでも買い手がいないってことだ。

まあ、闇ルートで売却できないことはないが、今は金に困ってないからな。

というか、目的が違うんだよ。

俺たちが今探しているのは、魔族の拠点などの情報が記載されている書類。


そもそも、このままだと、魔族が攻めてきてお金を手に入れてもどうしようもない。

買う場所が無くなるんだからな。

情報を手に入れないと、いくら金を手に入れても仕方がないんだよ。


「ということで、俺たちでさっさと調べるぞ。残るはあと4つだ」

「「おう」」


全く、男のくせに家具が多い。

まあ、一国の王なんだから、これぐらいは当然なのかもしれないが、調べるこちら側としては迷惑極まりない。


「俺はあの机。結城君は小さい棚。リカルドはあっちのタンスな」

「わかりました」

「了解いたしました」

「これ以上遅れると、昼食なしになりそうだからな。手早く調べて、最後の一個は協力して調べるぞ」

「「はい!!」」


2人が返事をしたのを聞いてから、俺はさっそく机を調べ始める。


「これが一番可能性が大きそうだな。というか、それがわかっていて、俺がこれを引き受けたんだが」


別に結城君たちを信用していないというわけではないが、執務用の机というのは結構隠す場所が多いのだ。

二重底は当然、上に貼り付けていたりするのは序の口。

引き出しを取り出して、中の方に隠しているところもある。

ひどい時は机の脚の空洞の中に隠していた時もあった。

これは毎回、取り出すときどうするんだろうと悩むレベルだ。

まあ、こういうのは既に本人が死を覚悟していて隠すものだから、回収を考えていないのだろうが、探す方も見つけられんぞ普通は。

そんなことを考えつつ。まずは、引き出しを全部取り出す。


「流石に執務用の机だから、中身は空か」


当たり前のことだが、机の中身は全て回収されているようで、どの引き出しも中身は空だった。


「まあ、国を動かすうえで必要な書類を残すわけも……お?」


よくよく見ると、一つの引き出しの底に小さな穴が開いている。


「二重底か。ピックを差し込んで……」


そのまま、二重底を開けてみると……。

中には10枚ほどの紙が挟んであった。

それを俺は慎重に取り出し、広げる。


『魔王城を発見』


と題した報告書が存在していた。

当たりかと思ったが、心を落ち着けてしっかり内容を読んでみると。


偶然狩人が、大森林へ狩りに行った時に、荒れてはいるが、かなり広い街道を発見したそうだ。

大森林の中はここ数百年人の出入りはないし、街道を作った記録などもルーメルのどこにも存在しない。

そして、その街道に偵察隊を送ると、街道の先には砦が存在していて、魔族の歩哨が居たそうだ。

この情報をもたらされた当時のルーメル上層部は、これは魔族の侵攻準備ではないか? という結論に至ったようだ。

いやいや、道が荒れているって言われているから、使ってねーだろうが、準備もクソもあるか、と思ったらまだ続きがあって……。


魔族の寿命はながく、一度断念したのだろうが、いつ何時、ルーメル侵攻作戦が再開されるかもわからない。

ならば、逆に荒れてはいるが、整備された街道を通って、攻め込めばいいのではないか?

という、案が出されてそれを前王は受け入れたようだ。


まあ、国の安全保障の関連だからなー。

会話という手段は、魔族が国際社会的にも一般の認識的にも敵の立場だから、するわけにはいかなかったんだろうな。

とはいえ、魔王を倒せなくても、多少は不意打ちで敵の国力をそぎ落とせるという思惑もあったようで、とりあえず、攻めてみようということになったようだ。


作戦ガバガバだなおい。

砦の先の情報なども特になく、そこを落とせば打撃になるだろうという感じで向かったらしい。


で、結果がそこの砦で恐らく迎撃にあって全滅したと。

さらには、今現在、宰相がルーメルへの報復を恐れる要因の一つになっていて、俺たちまで巻き込まれる騒ぎになっているんだよなー。

とりあえず、今はここまでにしておこう。資料は1つ確保しただけで、他になにかあるかもしれないからな。


「ふう。終わりましたねー」

「そうですな」


そう言って、汗をぬぐう2人。

ただの家具移動と中身を調べるだけだが、丁寧に扱い、戻す作業もいるから、意外と疲れる。

俺も、慣れない古美術の作業に同じように汗をかいている。

というか、この王家の倉庫には、窓が遠くに一ヶ所あるだけだ。

まあ、貴重品管理の問題で仕方ないのだろうが、換気も悪いので、汗だく、埃まみれになっている。

しかも、あれからの作業で見つけられた資料はなく。俺が見つけた一個だけだ。


「まあ、それでも、これが出てきたのが幸いだったな」


俺がそう言って、アイテムバッグから資料を取り出して見せると、2人とも驚いた顔になって。


「え? 何かあったんですか!?」

「聞いていませんぞ?」

「ああ、そういえば、伝えてなかったな。魔族の拠点に関する資料が見つかったんだよ」

「ええ!? それって凄いじゃないですか!!」

「その通りです。これで、何かわかるかもしれない!!」


2人は喜びを露わにするが、残念ながら資料の内容を見るのはあと少し先だ。

なぜなら……。


「ま、その前に、そろそろ女性陣を宝物から引きはがすぞ。あれから更に小1時間だが、トータル3時間も宝物検分をしている。これは流石におかしい」


そう、未だに女性陣は宝物に夢中なのだ。


「ルクセン君やヨフィアだけならともかく、お姫さん、カチュア、キシュア、そして大和君がずっとあの状態なのはおかしい」

「いやー、光もヨフィアさんも、結構真面目ですよ。まあ、今の状態がおかしいの認めますけど」

「ええ。確かにおかしい、キシュアは徴税官の任をうけていましたから、あの程度のことで心が揺らぐようなタイプではないはずですが……」

「となると、宝石に魅了されるって言う冗談はあながち嘘でもないようだな。とりあえず、話しかけて元に戻るならよし。戻らないなら、対処を一度考えるぞ」

「「はい」」


ということで、男3人、宝物に魅了されている女性陣に近寄ってみるが、足音にも反応示さない。

流石におかしいとは思いつつ、予定通り結城君が声をかける。


「おーい。光、撫子。いい加減にしろよ。もう調べ物は終わったぞ?」

「ふぇ?」

「ふぁい?」


そう言って振り返ったルクセン君と大和君はどう見ても、目の焦点が合っていなかった。


「ちっ、どう見ても正気じゃないな。流石、魔法とかわけのわからんものがある世界だ。こういうこともよくあるんだな」

「ですねー」

「いやいや。こういうことはめったにありませんぞ!! というか私も初めての経験ですから!!」


俺と結城君が正直なこの世界の感想を言うと、必死に否定するリカルドが存在していた。

まあ、こんなアホなことが日常茶飯事だとは思われたくはないよな。


「わかってる。こんなことがしょっちゅうあるなら、宝石は所持禁止になっとるわ」

「どう見ても、クスリとかやってそうな感じですもんね」


結城君が本当のヤクをやっている連中を見たことがあるとは思わんが、まあ、大体あんな感じだ。

こういう時は変な声掛けても意味がない。原因となっている物体から引き離して、ある程度時間を置くしかない。

とはいえ、クスリを奪おうとすると依存者は暴れる。


「さて、面倒なことになったな。原因である宝石を引き離そうとすると暴れるだろうからな」

「……まあ、お約束ですよね」

「しかも、ルクセン君、大和君は魔術師としてはそれなりの破壊力がある」

「正気を失っているのであれば、吹き飛ばされかねませんな」


リカルドの言う通り、加減なく吹き飛ばされかねない。

そんなのはごめんだ。

城が吹き飛ぼうが、国が吹き飛ぼうが、そんなのはどうでもいいが、誤射で死ぬのは勘弁だ。


「よし。耳と目を塞いで、あの家具の裏に隠れろ。スタングレネード、ほれ」


コンッ、コロコロ……。


「うそっ!?」

「アキラ殿逃げましょう!!」


散々鍛えただけあって、俺が宣言すると、即座に行動に移せるのは素晴らしいな。

と、感心するのは良いとして、俺も隠れよう。

その際に、宝物に魅入られている女性陣は、スタングレネードのことも目にとめず、そのままの状態だ。

まじでなにか、呪いかなんかだな。と思いつつ、家具の裏に隠れると。


ドンッ!!


閃光と、爆音が響く。

俺はそっとルクセン君たちの様子を覗いてみると……。


「「「……!?」」」


スタングレネードをもろに食らったのか、耳を押さえてふらふらしている。

よし、いい感じだな。

俺は、そっと精神安定剤がしみ込んだタオルで口を塞いで寝かせていく。

暴れるがスタングレネードをもろに食らっているので、問題なく落とせた。


「うわー。それってなんの薬品ですか? 後遺症ないんですか?」

「普通に精神安定剤だな。この程度で普通は寝たりしないが、正気を失っている分、素直に体の欲求に従ったんだろうな」

「え? 精神安定剤って眠くなるんですか?」

「クスリっていうのは基本眠くなるぞ。その中でも精神安定剤は強烈だな。まあ、麻酔を打ち込むのが一番いいんだが、流石に誤射があったら怖いからな」


銃で撃つと、頭とか、目にストンとか行ったら大事だし、注射は大人しくするとは思えんから、まず薬をかがせてみたというやつだ。

第一段階で上手くいってよかったわ。


「よくわかりませんが、とにかく女性陣は落ち着きましたな。これからどうしますか?」

「そうだな……。まずは……」


俺が指示をだそうとすると、廊下の方が騒がしくなってきて……。


『姫様!! 何事ですか!! 衛兵!! 慎重に行け!!』


そんなマノジルの声が聞こえてきた。

あー、爆音が響いたからな。

とはいえ、女性陣を運び出すことに力を割かなくて済むのはありがたいのかね?


と、のんびりそんなことを考えるのであった。


「昼飯食えるかなー?」

「マノジルに説明しながらでも食うぞ」

「……相変わらず豪胆ですな」


腹が減っては戦はできないんだよ。

食える時に食う。それが鉄則。


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