第287射:埃が溜まる町
埃が溜まる町
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
『よっと。ん? いかがいたしましたか?』
『いや。やっぱりお前はメイドじゃなくて兵士だな』
うん、どう見ても兵士だよねー。
難なくロープを登っていく姿を見てしまっては田中さんの意見に同意するしかない。
ヨフィアさんって最近はメイドさんやってて、冒険者生活は遠のいていたはずなんだけどねー。
と、ドローンで田中さんとヨフィアさんの様子を見ながらそう思う。
『いえいえ、どこからどう見てもアキラさんのかわいいメイドですよ?』
『よし。降りるか』
『おーい。無視ですか』
無視するしかないじゃん。
いや、かわいいメイドなのは認めるよ。僕もヨフィアさんは可愛いと思う。
だけど、ヨフィアさんのあのセリフになんてコメントしろって?
それは無理があるってもんさ。
無視しているだけましだと思う。
きっと口開いたらものすごいこと言われると思うし。
で、そこはいいとして……。
「本当に好かれていますわね。晃さん」
「なんでだろうなー。俺としてはさっぱりなんだけど」
「ま、それがいいっていわれてるんだけどねー。僕はわかるかなー」
「え? 光さんも晃さんのことが?」
「違う違う。普通がいいって話。ヨフィアさんの生い立ちは聞いたからね。ちゃんと人として扱ってくれるってことはいいもんさ。僕もこんな髪だしね」
そう言ってプラチナブロンドの髪を触る。
日本人は真っ黒な髪が普通だからね。
小さい頃はよくいじめられもんさ。
だから、多少なりともヨフィアさんの気持ちがわかるかなーって。
「光さん……」
「ヒカリ。お姉ちゃんがいるぞ」
「大丈夫だよ。撫子、ノールタル姉ちゃん。もう昔の話だよ。だから、ヨフィアさん気持ちがわかるかなーって。まあ、晃はもっとちゃんとヨフィアさんの相手してあげようねー」
「どう相手にしろっていうんだよ」
そろそろ覚悟を決めろって話だよ鈍感。
女の子に恥をかかすんじゃない。責任取れ。
と、そこはいいとして監視をちゃんとしておかないとねー。
そう思って田中さんとヨフィアさんが映っている以外のドローンモニターに視線を向けるんだけど、やっぱりそこには誰一人いない大自然の映像が映るだけ。
何度も思ったけど、どこのヒーリング映像だよ。眠くなるんだよ。
「しっかし、晃とヨフィアさんのことは見守るとして、こっちの映像は動きがなさすぎるよねー」
「動きがある方が色々と問題だとは思いますけど」
「でも、動きがあった方がわかりやすいよなー。って、そういえばノールタル姉さんやゴードルさんはこの状況どう思います?」
「そーだねー。私はこういう状況は見たことはないからそのままいうしかないけど、どう見ても人はいないよね。敵もいない。放棄されたって意見には同意かな」
「だな。姉さんの言う通り、この町は捨てられているべ。とはいえ、綺麗すぎる気はするだがな」
「綺麗すぎる?」
ゴードルのおっちゃんの言葉に引っ掛かりを覚える。
「町の被害が少ないということですか?」
撫子の言葉でそんな話が合ったなーと思い出す。
確かに、壊れているのは町の門と領主館ぐらいでほかは傷がないんだよね。
でも、それってみんなが移動したからってことで話がついてなかったっけ?
「そうだ。でも、綺麗すぎるだべ。敵の脅威に恐れて逃げ出したなら、もっとあれているべ。すぐさま逃げなきゃいけないって状況で、扉も開けっ放しじゃない、窓も閉めてある。ただどこかに出かけているって感じだべ」
「そういわれるとそうですね」
「だねー。慌てて逃げ出した感じはしないね」
確かに、言われてみればなんかあれているって感じはしない。
しっかり戸締りをしていなくなっている様子だ。
「でも、そうなるとみんな落ち着いて出ていったってことですよね? どこに? ゼランさんは何かわかりますか?」
「いいや、ここ一帯に大きな街なんてない。避難するにしてもあの魔族が敵だとおもえば、こんなに静かに出ていくとは考えられない」
そうだよね。ゼランさんの言う通り、敵が来るかもしれないって思っているのにこんな綺麗に逃げるとは思えないよね。
「でも、そうなると町の人ってどこに行ったのかな?」
「不思議ですわね。でも、意外と秩序よく逃げ出したって可能性もございませんか? どうですか、ゴードルさん?」
「可能性はゼロじゃないだべが……。おらにはよくわかんねえだ。まさか敵に指示されて逃げ出したってのもあるかもしれないが……」
「え? それって普通に抵抗しそうじゃないですか?」
と、そんな晃の質問に答えてくれたのは、エルジュだった。
「それがそうでもないんですよ。敵が圧倒的に強いと認識した場合は、大人しく無血開城をすることも結構あります。それで町の人たちへの手出しをさせないという約束を付けるんです。もちろん町の人たちは敵の庇護下に入ります。もちろん敵に下るのですから、家屋などはそのままにしていないとだめですね」
「なるほど。そういうこともあるんだー」
身を守るためにそういうことをするんだね。
まあ、絶対死ぬとわかれば、戦うよりも投降した方がいいとは思うよね。
それで命が助かるなら僕もそうすると思う。
「ま、どの予想が当たっているかは、タナカとヨフィアがはっきりしてくれるべ」
ゴードルおっちゃんの言う通り、あの二人なら町から人が消えた理由はつかんでくるよね。
と、気が付けば田中さんたちは塀をあっさり上って、町の中を歩いている。
さて、いい感じだし定期連絡してみようっと。
「もしもし、田中さん聞こえる?」
『ああ、感度良好。問題はないな』
「町中に入った感想はどう? なんかこっちではゴードルのおっちゃんが、町が綺麗すぎるって話が出たんだけど」
『ああ、ゴードルもそう思ったか。こっちも同じような話が出たな』
あ、そうなんだ。
やっぱり、こういうことは田中さんはよくわかってるんだね。
「で、その綺麗すぎるって話を裏付けるような情報は見つかった?」
『そういうのはないな。というか、町を歩いてみてわかったが、人はいないなこりゃ』
『ですねー。家屋を何件か見てみましたが、埃をかぶっていましたから』
「ほこりって埃?」
『ああ、汚れが溜まってうっすらとテーブルとかを白くしていた。となると最低でも一週間、二週間は人がいなくなってから時間は経っているな。ゼラン。どこか見てほしいところはあるか?』
「……そうだね。教会はどうだい? あそこは治療もやっている。誰かが逃げ込んでいる可能性もゼロじゃない」
『なるほどな。遠方では詳しく、見てなかったが、教会の方が色々痕跡を見つけられそうだ』
確かにね。ケガ人とかの治療をしていたなら、そういう痕跡が残っているだろうし、逃げるのも一番最後だよね?
あれ? 日本だとケガ人病人って最優先で逃げるよね?
あ、ここ異世界だ。そういう「当たり前」はないか。
ほんと、殺伐としているよね。
「わかりました。私たちのドローンで先に上空で道の確認をします」
『おう。頼んだ。俺とヨフィアは周囲を警戒しながらゆっくり進む』
『えー。本当に人の気配がしないんですよ? 普通に走りません?』
『じゃ、お前だけ逝ってこい。ほれ走れ』
『ぜぇったい嫌です。行ってこいじゃなくて逝ってこいでしたよ!』
うん。僕にも逝ってこいって聞こえた。
というか、相変わらず田中さんってヨフィアさんには辛らつだよね。
なんでだろう?
僕たちの中じゃ一番、田中さんの戦いについていけるんだけどなー。
そんなことを考えつつ、田中さんたちの次の目的地である教会を映したモニターに視線を向ける。
「そこまで大きくないね」
モニター映っている協会はリテアの大聖堂と比べると小さくて、ちょっと大きめの教会って感じだ。
「いや、十分大きいと思うぞ」
「ですわね。リテアの大聖堂と比べていませんか?」
「あ、わかる?」
「あの大きさをそこまでというからには比較対象は大聖堂しかありませんから」
確かにそうだ。
撫子の推理は冴えわたっているね。
でも……。
「外から見る限り、絶対人いないでしょ」
そう、教会には絶対人がいないと見てわかる。
だって、教会の扉は盛大に開け放たれていて、ドローンの視界からも中が見えるから。
そこには誰一人としていない。
「いや、礼拝堂だけだろう。後ろの建物の方に人がいるかもしれないぞ」
「そうですね。礼拝堂に人がいなくても別に不思議はありませんよ。それは光さんもわかっているのでは?」
「うん。それは分かるけど、やっぱり人の気配が感じられないんだよねー。まあ、感覚?」
僕は感覚的にあの教会には人がいないと感じ取っている。
理屈は分からないけど、あそこには人がいないって確信がある。
そんなことを話し合っていると、教会へ向かっている田中さんから連絡が届く。
『ルクセン君の意見には賛成だな。まあこちらは勘とかじゃなく、肌で感じた結果だな』
『はい。残念ながらここまで近づいて誰一人わかりやすい足跡すらも残していないのは……。誰も出歩いていないということですから』
「足跡?」
『ああ、さっき言ったよな。埃が溜まっているってな。それは、家屋の中だけじゃない。外だって同じだからな』
ああ、そういうことか。
外に誰も出歩いていないから砂ぼこりとかが溜まっているのか。
そこに足跡がないなら誰もいないってわけね。
『では、教会を調べるのはやめますか?』
『いや、教会は調べる。領主館ほどじゃないだろうが、何かしら日誌や情報でもあるかもしれないからな』
『ああ、確かに。じゃ、私たちはそのまま教会に向かいますね。案外、ゾンビとか出てくるかもしれませんよ?』
『死なない奴の相手は苦手だな。バラバラにするのは面倒なんだ』
なんだろう。なんかフラグのような気がするけど、田中さんの言葉でゾンビがあっという間にバラバラになってしまう姿が目に浮かぶ。
バイオハザードなのになんでだろう?
ああ、そうか。
「田中さん、無限弾薬じゃん」
「あ、それなら負けようがないな」
「どういうことでしょうか?」
撫子は分かっていないみたいだけど、あの人弾薬制限ないから、ホラーサバイバルゲームだと無敵じゃんと納得してしまう僕と、晃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます