第286射:町へ
町へ
Side:タダノリ・タナカ
ゴーストタウンと化している町を調べているうちにわかったことがある。
それをただいま会議室でまとめていることだ。
「さて、今までみんなに集めてもらった情報を整理するぞ。まず、2日間にかけてバウシャイの調査をした結果だが、パッと見る限り人がいる様子はない。どこかに隠れているって可能性も低い。なぜなら窓を打ち付けて封鎖していないことや、夜に明かりも一切見えず、こっそり外出している様子がないからだ」
そう、まず住人が残っている可能性はゼロに近いということがわかっている。
ラスト王国ではスラム地区の住人は徴兵から逃れて隠れている連中がいたが、こちらはそういう証拠がない。
「まあ、可能性があるとしたら地下道とかに逃げ込んでいるってこともあるが……ゼラン。バウシャイの町の下にそういうのがあるって話は?」
「聞いたことがないね。まあ、私が知らないってものもあるかもしれないけどね。とはいえ、私もそれなりに情報には精通しているつもりだ。可能性は低いと思う」
俺たちの視界に映らないような場所に逃げ込んでいるって可能性も低いか。
まあ、生きている人がいるなら物資を回収するために夜にでも出てくるわけだが、それもない。
こうなると、あとは……。
「そうか。まあ、そっちを調べつつ。そろそろ町の調査に行こうと思うが、人選は……俺とヨフィアの二人で行く」
こうなると、残るは現場に踏み込んで調査するしかない。
「え? なんで少なくない?」
俺の決定に首をかしげるルクセン君。
まあ、危険な町の調査をしようというのに、たった二人で乗り込むとか馬鹿だろうっていうのは分かるが……。
「前に説明したように、大勢で行くと町ごとドカンという可能性もあるし、敵が攻めてこないとも限らない。だから、偵察が得意なメンバーで行く。リリアーナが空中飛翔ができるみたいだが、それは逃亡手段だな。俺たち2人なら一緒に逃げられるだろう?」
「はい。2人なら問題ありません」
女王をそういう手段に使うのはどうかと思うが、生きるためだ使えるものは使う。それだけの話だ。
何より、これでちゃんと手伝ったという実績もできるし、魔族は勇者の友達であるとアピールにもつながるだろう。
「というか、ほかのメンバーは全員ドローンやレーダーで偵察と索敵だからな。そっちの見落としが俺たちの死につながるから頼むぞ」
「はい。そこはお任せください。今まで散々訓練してきましたら」
俺の言葉に目の死んだ大和君がそう答えると、ほかのみんなも目の死んだ顔で頷いてくる。
まあ、つらいからな監視任務って。そりゃ無表情にもなるさ。俺も経験がある。
とはいえ、連れていくわけにもいかないから、このまま話を進めることにする。
「じゃ、俺とヨフィアでバウシャイの町を調べるが、第一次調査は開始時刻は朝7時から12時までの間にする」
「あれ? 意外と時間短くない?」
「長くしたからといって何かが見つかるわけもないからな。まずは町に入ってかあの雰囲気を肌で感じてくる。そこからわかることもあるだろう? な、ヨフィア」
「はい。まずは一度街中を歩いてみてからですね。映像だけじゃわからないこともたくさんありますんで。晃さんたちは私たちが無事に帰ってこれるようにサポートお願いします」
「わかりました。ヨフィアさん、田中さん。どうかお気をつけて」
「おう」
「任せてくださいな」
ということで、俺とヨフィアは小さいボートを用意して、町に直接向かうことはしないで静かな岩礁地帯へ向かう。
敵が潜んでいたら、どう考えてもボートの接近に気が付くし、的になるしかない。
そんなのは勘弁だからな。
「で、ヨフィア。お前の冒険者としての勘はどうだ?」
俺はボートで移動中、ヨフィアにそう話かける。
「おや、私よりもこういうことに経験があるタナカさんが聞かれますか?」
「当然だ。情報はないよりある方がいい。何より、俺はこっちの生活はしらないからな」
「私もこの大陸は初めてなんですけどねー。それならゼラン様を連れてくるべきではなかったですか?」
「わかってて言ってるだろう。故郷を眺めて我慢しろっていわれて大人しくできるたまじゃない。ゼランはあくまでも商売人だ」
そう、ゼランは商売人の娘だ。
今までは絶望的な状況で精いっぱいだったが、奇跡的に戻ってこれた。
そこで町を外から様子見できるわけがない。
「まあ、そうですよねー。絶対奪還してやるって思いますよねー。だからわざと沖に置いたんですよね」
「そうでもしないとこっちの指示を無視して泳いでいきそうだからな」
「ですねー。でも、タナカさんの指示を無視するとも思えないんですけどねー」
「悪いが、そこまで訓練できるわけないぞ」
地球だって新兵は混乱するのが当たり前だからな。
そういうのはいつまでたっても不安要素だ。
できるのは、ベテランをあてがって、予定通りに作戦を進めるぐらいしかない。
今回に限っては戦艦という強力な船に乗せることによって精神の安定を図っている状態だ。
「でも、ヨーヒスさんたちに手伝ってもらってもよかったのでは?」
「ヨーヒスたちには事前に配置についてもらっている。偵察もな。この周辺には人食い魔物はいないようだ。元々このバウシャイは港町だったみたいだから、しっかりと駆除をしていたんだろう」
そこは幸いだろう。
最悪泳いで逃げるという戦法も取れるんだから。
酸素ボンベをもって水中に逃げれば何とかなるだろう。
ヨーヒスたちは俺たちが水上、水中ルートで逃げる際のサポートで待機してもらっている。
だから、俺たち2人で探索ってわけだ。
「それに、リアルタイムで映像が送られてくるんだから、わざわざほかに人が行く必要もないだろう?」
そう、大和君たちにはドローンでの町全体の監視に、レーダーによる飛行物体の監視を任せている。
何かあればすぐ知らせてくれるし、こっちからも見れるようになっている。
まあ、目が死んでいたから信用ならんところもあるからな。
「そうですね。あとはちゃっちゃと調査をして帰るのが一番ですね。話がそれましたが、私個人の経験としては、ああいう状態の町は放棄されたって所ですね」
「放棄か。つまり町の人たちはどこかへ逃げたってことだな」
「ええ。略奪の跡はなかったですから、これは普通に放棄してどこかに逃げたんでしょう。敵に襲われてたりしたなら、門の前にあった人の死体がそこら中に落ちていても不思議じゃないですよ」
「略奪ねぇ。こっちの軍じゃ当たり前か」
あっちの世界の正規軍じゃ非戦闘員への攻撃とか厳重に罰せられるからな。
ついでに全世界からバッシングを受けるから面倒なんだよな。
ま、そんな不祥事は基本的にもみ消されるけどな。
どこの時代でもそういうことは起こる。
「で、私の答えはこんなものですが、タナカさんのご意見は?」
「そうだな。俺としてはヨフィアの放棄に一票だな。とはいえ、町を捨てて逃げるときにはいくらか騒ぎは起こるんだが、その様子が見られないのがおかしいな」
通常町を出て逃げるなんて判断になると、町に住んでいる人はパニックになる。
それによる略奪や荒れるぐらいは起こるもんだが……。
「ああ、それは簡単ですよ。誰かがしっかり統治をして放棄したんですよ。ただ逃げ出しただけならここまで大人しい状態になっていませんから」
「つまり、まとまって計画的に逃げ出したってことか?」
「はい。私はあの状態の町を見てそう思いました。そうでもなければ、タナカさんの言う通り、綺麗すぎますからね。まあもっとも、敵味方どちらの指示に従って逃げ出したかはわかりませんけど。私的には敵ですかねー。領主館吹っ飛んでましたし」
「敵か味方かっていわれると俺も同じだな。領主館を吹き飛ばされて町の権力者たちが軒並み死亡。そのあと温情の降伏勧告をすれば、大人しくするだろう。吹き飛ばされたくはないだろうしな」
「ですねー。それに荷造りの準備もしてくれるとなると、大人しくするでしょう。逆に味方が逃げろって言ってくるとなると、それこそいつ敵が来るかわかりませんからね。もっとあわただしい状態になると思います」
「とはいえ、実際の答えは現場を見てからだな。じゃ、行くぞ」
「はい」
お喋りをしているうちに岩礁地帯に到着した俺たちはボートを寄せて着岸する。
「ヨーヒス。ついてきてるか?」
「ああ、ボートの監視はしておくから行ってこい」
「頼む」
「ヨーヒスさんも無理をなさらないように」
ヨーヒスに見送られながら俺たちは町へと進む。
幸い、俺たちがボートを着岸した場所は町からは見えない死角の位置であり敵に見つかる可能性が低く、町までの道のりも岩が多く点在し、身を隠す場所には困らない地形となっている。
「上空からの映像にも人影はないな」
「気配も感じないので、問題ないでしょう」
俺とヨフィアは上空からの映像で周囲を確認しつつ町へと接近する。
最初からわかっていたことだが、人がいないので問題なく町の壁へとたどりつく。
「トラップもなかったな」
「まあ、こちらから人が来ることは想定していないでしょうからねー」
確かにな。
こんな険しい岩礁地帯が主要通路になるわけがない。
「さて、日のあるうちにいったん入るか」
「はい。それがいいでしょう。明るいほうがこちらも対処がしやすいですし。むしろその方が好都合でしょう」
「だな。ここで誰かが隠れて俺たちを襲ってくれた方がわかりやすくて楽だからな」
そういう意味でも俺とヨフィアだというわけだ。
奇襲に対しても対応できる。
結城君たちはまだそこらへんはな。
「じゃ、こちらシーカー1町へ侵入する」
『了解です。町の中、外どちらも人の気配はありません。田中さんお気をつけて。ヨフィアさんも気を付けて』
「はいはーい。ちゃんとアキラさんのもとへ帰ってきますよー」
今の担当は結城君か。
ヨフィアのやる気を上げるためだろうな。
こいつは腕はいいくせに気分屋だからな。いい判断だ。
と、そんなことを考えながら俺は紐を壁にかけて登り始める。
腕だけでロープを登る。いやー、本当にこっちに来てから昔の技能を使いまくるな。
筋トレしてなかったらできないぞこれ。
というか、ヨフィアは行けるのか?
そう思っていたが……。
「よっと。ん? いかがいたしましたか?」
「いや。やっぱりお前はメイドじゃなくて兵士だな」
「いえいえ、どこからどう見てもアキラさんのかわいいメイドですよ?」
「よし。降りるか」
「おーい。無視ですか」
さ、仕事だ仕事。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます