第67射:別れの挨拶
別れの挨拶
Side:タダノリ・タナカ
俺たちは森の調査を終えて、冒険者ギルドに報告をしていたのだが……。
「……ということで、オークの群れはいたが、オークを追い出したとみられる魔物は発見できなかった」
「そうか。まあ、縄張り争いはよくあることじゃし、場所がロシュールとの国境近くの森じゃからな。そこまで危険はないじゃろう。近くの街も基本的に国境近くなので、砦が備えておるし」
まあ、当初の予想通りあまり重要視されなかった。
逆にオーガテンペストのことがあったので、警戒されるかもと俺や、大和君は思っていたが、予想が外れたということになる。
「タナカ殿たちが、命からがら逃げ帰ったというのなら話は別じゃったがのう。何もなかったではな」
確かに、その通りだ。
俺たちが森を調査、探索して、3日間、余裕で何もなかったと返事をして、一大事だと冒険者ギルドの全員に召集をかけるのは無理がある。
せいぜい個人的に、冒険者の1、2チームに再び調査の依頼をだすだけだな。
「とはいえ。オークの群れはそれなりに脅威じゃ。討伐報酬はあるぞ」
そう言われて、爺さんからオーガの群れほどではないにしろ、それなりの金額を報酬として受け取った。
色々リテアではあったが、金銭収支だけなら、リテアが一番よかったな。
いや、それなら経験も一番稼げたか。
ここで、結城君たちは人の死を目の当たりにしたし、魔物の恐ろしさを再確認しただろう。
俺はそんなことを考えながら、報酬額に間違いないか確認をする。
お金の確認は大事だからな。
で、その間に爺さんが話しかけてくる。
「これで、リテアを離れるのか?」
「そうだな。ここにいる理由もなくなった」
「ルルア殿に教えを乞う話はどうする?」
「次に機会があれば頼むさ。今リテアに残っても巻き込まれるだけだ」
この国は、水面下どころか、あから様に対立の兆しがある。
内戦で済めばいいが、この時代、平和維持機構とか国連軍とかないだろうからな。
一度揉めると各国の介入も出てくるだろう。
そうなると泥沼だ。
かといって、俺たちがいたところで、こんな戦争になるような揉め事を解決できる力はない。
いや、主要人物全員殺るって手段はあるけどな。
それだと収拾つかないし、ルーメルがリテアの国土を侵略するきっかけになる。
これもだめ。
俺たちの帰る方法を探すという目的から遠ざかりすぎる。
なので、最適なのはさっさとこの国から去る。
「確かにのう。しかし、いざというときはルルア殿の護衛を務めてくれるか?」
「依頼だからな。俺がこの土地にいるときは引き受けるさ」
以前、言われた聖女様の護衛のことだ。
別に好き好んで見殺しにしたいわけでもないし、聖女様は便利なエクストラヒールの使い手だ。
地球でいうなら、戦闘機乗りだ。希少なのだ。
いれば俺たちの代わりに目立つし、恩を感じてくれれば、俺たちの今後の行動に対して後押しも期待できるだろう。
「いや、流石にそれは気まぐれが過ぎるじゃろう。何かあればルーメルのギルドに手紙をだすことにするから、よろしくたのむぞい」
「まあ、それぐらいはいいが。こっちもそれどころじゃないかもしれないんだよな」
「ルーメルの上層部がもめている件か?」
「だな。そっちの派閥争いに参加なんてことにならなければいいが」
ついでに、魔族が暗躍している件もあるんだが、これは俺たちしか知らない情報だしな。
「闇ギルドが無くなったのはいいが、その繋がりが厄介じゃったか」
「ま、誰だって後ろ暗いところはあるしな。立場だ名誉だなんだのと色々あるお貴族様は重宝していた連中も多いだろうな」
「その騒動の中に戻るつもりかのう?」
「とはいえ、長い間ルーメルを開けていても色々面倒だ。リテアも難癖つけられるぞ。勇者を奪ったーとかな」
「……なるほどのう。あくまでも訪問というわけか。しかし、非公式に来たのはなんでじゃ? このまま雲隠れするつもりではなかったのか?」
「その可能性も考慮していたが、こっちで騒ぎにまきこまれたからな。ついでに非公式だったのは別の意味もある」
「……それが、お主が持っている情報か? リテアの街道沿いに魔物が多数でてくるのと何が関係している?」
おっと、これだけで関係していると勘付くか。
とはいえ、話す義理はない。
「何か其方が俺たちにとって有益な情報があるなら教えてもいいがな」
「……相変わらずがめついのう。ここはサービスしてただで教えてもいいじゃろう? 何かと恩に感じるかもしれんぞ?」
「そっちががめついと思うがな。俺たちは勇者一行とはいえ、一個人。そっちはギルドの総まとめ役ときたもんだ。もうちょっと何かないのか?」
「ああいえばこういう奴じゃな……」
「それは爺さんの方だ。と、お金確認した。これでサヨナラだな」
俺はそう言って、席を立つ。
いい加減、爺さんの長話には飽きたところだ。
オーヴィク君たちや孤児院のなんだっけな? まあ、子供たちにも挨拶をしないといけないしな。
が、それでも俺の背中に話しかけてくる爺さん。
「……ふむ。あの若者たちを本当に元の世界に戻せると思っているのか?」
「さあな。だが、今の所の目標はそれだ。納得するまで探せば、違う道を選んだとしても後悔はさほどしないだろう」
「そうか。しかし、お主はどうする? お主も元の世界に戻るつもりか?」
「それはその時になってみないと分からん」
このヤリタイ放題の世界を気に入るのか、それとも身の危険が無い日本の生活に戻るのか。
それはその時が来てみないと何とも言えん。
まあ、こっちでは、制限があるものの、銃を気兼ねなく撃てるのはいいがな。
とは言え、不便が過ぎるからな、こっちの世界は。
今のところは向こうに戻りたい気持ちが強いな。
「……そうよな。すまぬ。妙なことを聞いた」
「いや、気にするな。俺みたいなのが、平和の中で過ごせるのかと思ったんだろうが、人間慣れるもんだ」
そう、どんな状況にもな。
人があっという間にクソ袋になるような戦場で飯を食うのにも慣れるし、命乞いをする敵兵士を撃ち殺すのにも躊躇いなんて無くなる。それが女子供であってもな。
「たっしゃでな」
「おう。と、そうだ。俺の情報の件だが、ここを離れるから教えてやろう」
「なに? いいのか? 先ほどまであれほど喋るのを嫌がっておったのに」
いきなりのことで驚いている爺さん。
先ほどまで頑なに教えようとしなかったのに、こうもあっさり教えようとするからな。
「もう、出て行くと決まれば、リテア内のトラブルに巻き込まれることはないだろうからな。最後の手土産だよ。聞くか? 嫌なら言わないが?」
爆弾というな。
「……嫌な予感がするが聞こう」
爺さんは神妙な顔つきになってこちらを見つめる。
「俺たちがわざわざ人知れずリテアに来たのはルーメルの騒動に関係しているのは、まあ間違いない。だが、それだけじゃない。俺たちがリテアの前に、ガルツへ行ったのは話したな?」
「聞いたのう」
「その道中で、魔物の群れに襲われた。まあ、行きは偶然巻き込まれたかと思ったが、帰り道に、魔族から襲撃を受けた」
「なに!? 魔族じゃと!?」
「しかも、ルーメルの貴族が俺たちの情報を流しているようでな。行きで魔物の群れをけしかけたことを白状してくれたよ」
「……その関係で、内密でリテアに来たわけじゃな」
「そういうことだ。で、こっちに来た途端オーガと戦っているオーヴィクたちと出くわした」
俺がそこまで言って、爺さんは目を見開いて、俺が言いたいことに気が付いたのか、口を開く。
「この街道沿いに多くの魔物が出てくる原因は、お主らを狙ったものであると?」
「さあな。だが、その可能性も否定できないし、無関係かもしれない。あるいは……」
「あるいは?」
「別の魔族が別の目的で、リテア近辺で暗躍しているって可能性もあるな。俺はこの説が有力だと思っている」
「……なぜじゃ?」
「内通者がいるなら、俺たちを真っ先に狙ってくるはずだからな。冒険者たちと一緒の所を襲うのは非効率だ。あの状況なら、まず俺たちが襲われるだろう? そして今回の国境沿いの調査も、格好のチャンスだったのにノータッチだ。なら別で動いていると思うだろう?」
「……確かに。しかし、ダンジョンなどや、魔物の群れの移動なども捨てきれん」
「そうだな。その可能性もある。だが、俺は無関係とは思えなかったし、これが原因でリテアに責められる可能性も考慮したわけだ」
下手したら、リテア聖国そのものが敵になりかねんからな。
「なるほどのう。それでは迂闊に言えんわけだ。それでいて、話したということは、本当に離れるつもりじゃからか?」
「だな。この話を信じる信じないはそっち次第で、俺たちが原因というのもよし、魔族が暗躍していると騒ぐのもよし、無視するのもよしだ」
「……厄介な情報を。先に出しても後に出しても責められそうな内容じゃな。しかも、このリテアの情勢では混乱を招く可能性もあるか」
「頑張って有効活用してくれ。さて、この代金がいつか支払われる時が来ないといいんだがな」
この代金が支払われる時は、大騒動になったことを意味するからな。
お金を受けるために、苦労することは目に見えている。
「本当にそうじゃな。じゃが、お主はともかく、あの若者たちは生き残れるのか?」
「だから、死なないように、俺が連れまわしているんだよ。わかるだろう? ルーメルだけだとそれこそ政治抗争に巻き込まれるからな」
「なるほど。本当に保護者というわけか。リテアでのことは若者たちの糧になったかのう?」
「しらん。が、本人たちはよかったと思っているようだぞ。オーヴィクたちや子供たちとの別れは惜しんでいるようだからな」
「そうか、良き友人たちを作れたか。それがいつか、若者たちの助けになればいいがのう」
「だな。伝手は大事だ」
「……お主は情緒が無いのう」
「うっさい。じゃ、いい加減さよならだ。長生きしろよ爺さん。頼る相手が減るのは損失だからな」
「おう。お主もな」
俺とグランドマスターはそう言って別れる。
グランドマスターは結城君たちに会うつもりはないようで、そのまま机について書類仕事を始める。
恐らく俺からの情報を元に色々調べてみる気だろう。
頑張ってくれ。
そして、それが俺たちの役に立つことを祈っている。
さて、あとは俺もオーヴィクたちと別れの挨拶だな。
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