第329射:信用される方法
信用される方法
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
僕たち、というかゼランさんだけど、それに一緒についていくとこの町の領主館に到着した。
それは当然だよね。
領主館で話をしようってことだったんだし。
僕たちとしてはようやく領主と面談ができる機会。
とはいえ、ゾンビの集団、軍団が向かってきていると思っているから僕たちが話せるタイミングはあるんだろうか?
まあ、そこらへんは田中さんが上手くやってくれると思うけど。
「そういえば、ジョシーを置いてきてよかったの?」
「別にいい。あれにはゼランの拠点の確保を任せているし、こちらの盗聴器を用意しているから、ここでの話も聞いている。なあ?」
『ああ、そういう肩が凝りそうなところは遠慮したいんで、ありがたいね』
と、ジョシーは心底助かったみたいな返事をしている。
下手に会話に入られて引っ掻き回されるよりはいいのかな?
そんなことを考えていると、髭を生やしたダンディさんが入ってきた。
するとシャノンさんや、ゼランさんは片膝をつくから、僕たちもそうした方がいいのかなーと思っていると、田中さんに止められた。
なんでだろうと思っていると……。
「なぜ膝を折らぬか! 無礼であろう!」
と、護衛と思しき兵士が僕たちに向けて怒鳴ってきた。
やっぱり失礼なことなんだよね?
どうしたらいいんだろうと思っていると。
「おや、私たちのことはゼランを通じて聞いていたのではありませんか? それでも膝を折れというのであれば、宣戦布告と受け取りますがよろしいでしょうか?」
ユーリアは絶対零度の笑顔でそう告げる。
顔は見えていないけど、絶対そうだと言い切れるほど空気の温度が下がったもんね。
怒鳴った兵士はその気迫に押されたのか押し黙ってしばらく沈黙が続く。
すると、お髭のダンディが兵士に声をかける。
「よい。彼女の風格はまさに王国貴族の者だ。他国の者が膝を折れぬのは道理」
「はっ」
「部下が失礼をいたしました。私、シャノウ一帯を治めるハウエクブ王国の臣が一人、ノーダンル・シャノウ子爵と申します」
「私は海の向こうにあるルーメル王国、第一王女ユーリアと申します」
お互い綺麗な礼を取って挨拶をする。
なんというか息苦しさを感じるよねー。
で、その光景に唖然としているのは私たち一行の正体を知らなかったシャノンさん。
まあ、王女様が一緒に歩いているとか普通の人は考えないよねー。
「ゼランからの報告の通りですか。いえ、今はその真意を測る前に話すことがありますのでそちらを勧めても?」
「はい。私たちにも関係のあることなのでこちらに来ました」
「それはどういうことでしょうか? シャノウギルド長、説明願えるか?」
「はっ。今回の森への調査は、こちらのゼラン殿によるものです」
「なるほど。この事態を察知したのは王女様たちだったというわけか」
おー、たったこれだけで察したよ。
いや、僕たちが一緒に来た時点で察しないと頭が悪いのかな?
「その詳しい話はあとで聞くとして、まずは報告を。我が騎士隊が戻ってないのはなぜなのか?」
「はい。報告によれば、およそ数千のゾンビがこちらに向かっているようで、大半の隊員を森に向かわせた騎士隊は応戦していたようです。冒険者たちは半数をいれて存在を確認した後即時撤退を開始、騎士たちはしんがりを受け持ち勇戦したようです」
あれ? 全然話が違う気がする。
バカが突っ込んで勝手に自滅しただけじゃないの?
そう思っていると、田中さんがこっちに向かって笑顔になった。
あー、黙ってろってことね了解。
「……ギナスの方からも同じ報告がきているな。やはり嘘ではなかったか。騎士たちには報いねばな」
「はっ。どうか冒険者たちを逃がしてくれた勇敢な騎士たちには名誉を」
「うむ。それは約束しよう。だが、それもこの町が残っていればだ。私はこれから兵士を集める。冒険者ギルドには招集を依頼する」
「はい。わかりました」
意外と、すぐに討伐たちの組織を始めた二人だけど……。
「お二人ともお待ちください。その討伐の件でお話があります」
今まで黙っていたゼランさんが口を開いた。
「なんだ? 今は一刻を争う。討伐に協力をしたいと申すか?」
「いえ、すでにそのゾンビの群れは私たちの、いえユーリア姫の指示のもと殲滅しております」
「「は?」」
ゼランさんの言葉に時が止まる2人。
そして、すぐに再起動して……。
「馬鹿を言うな! 数千のゾンビがお前たちの手勢だけですでに倒せているなど妄言を申すな!」
「そうです。今はそんな冗談を言っている暇はないのです! 何よりあなたたちはこのシャノウにいたではないですか、どうやって戦ったというのですか!」
そうやって否定して怒る2人。
まあ、確かにここの常識じゃありえない話だ。
でもねー。
そんな常識が通じない人がいるんだよねー。
と、遠い目をしてそんなことを考えていると、今度はユーリアが口を開く。
「信じられないのはわかります。なので軍を派遣して確認してみるといいでしょう。そのあとでまたお話ができればと思っています」
「……ユーリア姫だったか、もう少し嘘をつくのであればまともの話が聞きたかったな。ともかく、今は時間がない、改めて後日詳しく話を聞くとしよう。この町が無事であればな。よし、兵を集めろ!」
「「「はっ!」」」
そんな感じで僕たちは追い返されるような感じで領主館を出ていくことになった。
「えーっと、ユーリア。あれでよかったの?」
流石に心配になってそう聞くと……。
「いいですわ。何を言っても私たちのことは信じがたいのはわかりますから。ですが現実は変わりません」
「だね。すでにギナス、冒険者ギルドから確かな報告がされてゾンビの集団が向かっているのは確定しているんだ。それがいなくなっているなら、誰かが何かをしたってことだ。そこでさっきの私たちが言ったことが真実になる」
「あー、そういうことか」
「ですが、逆に私たちが疑われませんか? 自作自演をしたと」
「ありそうだよな。俺たちは海の向こうから来たって疑われているし、魔族とつながっているんじゃないかって」
うげ、何その話。
やけにリアルで嫌なんだけど。
そうなると面倒そうだなー。
「いえ、そうなればある意味楽です。わかりやすくこちらの力を示せますからね。タナカ殿も協力してくれるでしょう。そうですわね?」
「まあな。わかりやすく力を見せつけるにはいいよな。領主にようやく面会できたんだ。ここで一気に畳みかけるのが正解だろうさ。それで喧嘩を売ってくるなら逃げるでいいんじゃないか? つぶしてもいいが」
「それはだめです。統治をするだけでも面倒ですから。あの領主がちゃんと判断できるかが問題でしょう。ゼランはどう思っているのですか?」
「あー、子爵ならこっちの力を見ればおとなしくなると思う。そこまでバカじゃないんだ。まあ、お姫様たちへの対応が遅いっていうのはだめだけどな。そこは海の向こうだからかね」
それだけ海に出るってことは死ぬしかないっていうことだよね。
本当に一体どんな魔物が海にいるんだよ。
僕、この海で絶対泳がないって決めたよ。
なんかきっと怪獣みたいなやつがいるんだ。
「あとは領主たちがどう行動をするか見張ればいい。こっちに攻めてくるなら全員叩き潰せばいいし、話し合いっていうなら話し合えばいい。わかりやすいよな。あ、話し合いの場所はこっちで頼むぞ」
「そうですわね。他国の姫を呼びつけておいて、嘘つき呼ばわり。それで向こうに出向くわけにはいきませんから」
「国を下に見られますからね。それで正解です」
田中さんの言葉にユーリアもリリアーナ女王もうなずいている。
はぁー、そういうもんですか。
なんか政治ってやっぱり大変だよねー。
それで思い出した。
「そういえば、なんでシャノンさん騎士たちが勇戦したなんて言ったんだろう? 勝手に突っ込んで全滅しただけじゃん」
「光さん。あの時はそういわないと、子爵が不快になる可能性がありましたわ」
「不快って自分のせいじゃん」
「その結果協力できないなんて馬鹿だろう? だから守ってくれたってことにして持ち上げたんだよ。頼りない騎士って街中に話が広がっても問題だし」
「あー、確かに」
弱い騎士が守ってますとか、全然安心できないよね。
その場合町が混乱する。
そうなると話し合いも何もないか。
「適当におだてることは必要だって話だな。ルクセン君たちもそこらへん覚えておくといい。実力を示したいならともかく、目立ちたくないならこういうやり方も有効だからな」
そういわれて頷く僕たち。
面倒事に巻き込まれるなんて嫌だしね。
「それで、面会は済ませましたが、これからどうするんですか?」
「別にやることもないからゼランの倉庫でのんびりだろ。ああ、もちろん監視はするけどな。あと船を移動するかもって連絡は必要か」
「「「……」」」
なるほど。
最悪、船を持ってきて話し合いするつもりなのね。
なんかこういうことを歴史で勉強したような。
「黒船来航ですわね」
「ペリー提督だよなー」
「ああ、それだ」
ん? ちょっとまってよ。
僕たちってなんかとんでもないことをしようとしてるんじゃないだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます