第205射:撤退支援と緊急事態

撤退支援と緊急事態



Side:アキラ・ユウキ



「あんのクソ男が!!」

「ええ。もうこの際、銃撃で殺してはどうでしょうか?」

「落ちつけ二人とも!! そんなことやったらリリアーナ女王の復権につながらないからな!!」


デキラの蛮行を見てひどく怒っている光と撫子。

まあ、無理もない。

メイドさんにひどいことをして、人質にとったんだからな。

俺にとってはヨフィアさんをあんな風にされたら正気を失う自信がある。

だけど、今は幸い2人が怒ってくれたおかげで冷静でいられた。


「結城君の言う通りだ。冷静になれないなら、ドローンを消すぞ。頭を冷やせ」

「「……」」


田中さんがそう言い放つと二人とも一気に静かになる。

田中さんはやると言ったらやるからな。


「でも、タナカさん。想定外のことが起きてますけど、どうするんですか?」

「流石にあのメイドを抱えたまま逃げるのはなかなか難しいかと」

「わかっている。まずは、一度予定地点の森まで逃げ出してからだ。いいなリリアーナ」

『……ええ』


リリアーナ女王はデキラの暴力であごを砕かれたようでうまく喋れず、単調な返事だけしかできなくなっている。

心配だけど、足取りはしっかりしているから今はなんとか……って!?

そう思った瞬間、次のドローンに足を掛けた途端そのまま真っ逆さまに落ちていく。

まずい、人ひとり抱えているから、ドローンを踏んでいく魔術の調整がうまくいかなかったか!?


『きゃぁぁぁ!? こ、こなくそ!!』


でも、メイドさんもただ助けられているわけじゃなく、地面に激突する瞬間に風の魔術を使って、難を逃れた。


「リカルド!! 町の方はどうなっている」

「だめです。先ほどの魔術で土埃が舞い上がって確認されました。兵士が動いています! すぐに外にでてくるでしょう!!」

「そのまま監視! 動いたら報告!」

「了解!」

「ノールタル! デキラの方は!」

「確認してるよ。既に城の門前で指示だしている。音声もはいってるよ」


そう言われて、俺たちはノールタル姉さんのもつタブレットに意識を向けると……。


『リリアーナはリテア方面へと逃げた、すぐに馬を走らせろ。砦からも人をだせ! こちらからも追跡部隊を走らせろ』

『『『はっ!』』』

『あとは、城下町の民に触れをだせ! すでに我々はルーメルへ攻め込んでいると! アスタリにいる勇者を倒し、そのままルーメル王都を落とすとな!』

『『『はっ!!』』』


とんでもないことをデキラが言い出した!

まさか、もうルーメルに侵攻してるのか!?


「た、田中さん!!」

「どうしましょう……」


俺と同じようにそのデキラの言葉を聞いた光と撫子は混乱したように田中さんをみる。


「落ち着け。予想はしていた。もともとルーメルに攻め込むってことは言っていたからな。準備はしてたってな。ゴードルが仲間になる前に決めていたんだろう。で、慌てている暇があったら、モニターでルーメル方面の砦を確認しろ。キシュア」

「は、はい!」


田中さんに言われて、唖然としていたキシュアさんがタブレットを操作して、ルーメル方面の砦に待機させているドローンのモニターを映すと……。

そこに砦から多くの兵士が松明を持って出てきている姿が映し出されている。


「ま、まじかよ」


その光景に、ついそんな言葉が口からでてしまう。

本当に戦争が始まってしまった。

まさか、こんなことになるなんて、こうなる前に止めるはずじゃ……。

と、そんな感じで俺も焦りを感じているなか、田中さんだけ冷静に慌てることなく画面を見ながら……。


「喜べ、リリアーナ女王。デキラはお前の追撃よりも、ルーメル侵攻に力を入れているようだぞ」

『……そ、う』

「あとは、お前さんが逃げ切って、ルーメルでデキラの先発隊と戦っている俺たちと合流して、王都を取り返せばあとはどうにでもなる。ほかの3大国はいまだ情報封鎖のお陰で、のんびりダンジョンの交易に目がくらんでいるからな」


あっさりと、今後の展開を言って笑っていた。

すごい。

この状況でこれだけポジティブになれるんだと感心した。

だけど、やはり人の命を奪い合う戦場なだけある。


「さ、話が分かったら、移動開始しろ。これで捕まれば終わりだからな。そのメイドは、あきらめろ。負傷者を抱えたまま逃げ出せるような格好には見えないからな」


リリアーナ女王がせっかく助けたメイドはこのまま捨てていけという。

わかる。理屈は分かる。彼女を連れて逃げるのはかなり難しい。

だけど……。


『……彼女を、リ、テアに、おねが、い』

「はぁ!? っておい!!」


リリアーナ女王はそう言うなり、その場から走り出してしまう。しかも目立つように高くジャンプしながら。


「くそっ! 俺が……くそ、結城君、大和君リリアーナ女王を追え、俺はこっちの手助けだ」

「わかったよ」

「了解」


俺たちはそう返事をして即座にリリアーナ女王を追うと……。


『いたぞー!!』

『あそこだ! ロシュール方面だ! リテア方面はおとりだ! 兵士をこっちに回せ!』


そんな声が聞こえて、囮になって逃げたのだと気が付く。

まったく、そこまでしなくても……。

そう思いつつ、女王を追う兵隊に向けて、ドローンで遠慮なく攻撃を仕掛ける。


ドカンッ!!


グレランを放ったドローンが墜落していくのがめちゃくちゃになったモニターからわかる。

だが、それで終わりじゃない。


「晃さん次です!」

「おう!」


俺は撫子から、次のドローンのタブレットを預かり即座に操作して、すぐに打ち込む。

実は既にドローン援護のためにかなりの数を配置している。

今日起こることはわかっていたからな。

田中さんはそれを想定して、一発で使い捨ての戦力として、配置しているんだ。

もちろん許可も……。


「遠慮するな。予備はある、追跡してくる連中は確実につぶせよ。女王はノールタルが追っているからな。と、メイド、話は聞こえるか? このドローンの籠に入っている回復薬を飲め。女王の好意を無駄にするな!」

「はい!」

『は、はい!!』


田中さんから既に出ている。

もう、出し惜しみしている場合じゃないからね。

そして、田中さんの方も、メイドさんの治療を行っていて、逃げるための準備をしている。


「ルクセン君。そのメイドの面倒見て、そのままリテアへのルートで逃がしてやれ」

「え? いいの?」

「いいもなにも、そのメイドを生かしてみろっていう女王の命令だ。ここで恩を売っておけば後々楽だからな」

「「「……」」」


なんというか、素直じゃないな。

いや、まあ、田中さんなら、まじでそんなことを考えていそうだけど。


「見殺しで納得したいならそのまま固まってろ。俺はほかにやることがあるからな」

「あ、いや、そんなことないよ! そこのメイドさん聞こえる? 今から誘導するから付いて来て!」

『わかりました。これは使い魔なんですね!』


……そうか、俺たちが見過ごせないからこういう方法を採るしかなかったのか。

田中さんが素直じゃないとかじゃなくて、俺たちの甘さを補ってくれているってことか。

……くそっ。

それが分かっていても……。


「見捨てるわけにはいきませんわ。晃さん。リリアーナ女王の援護を」

「ああ、足を引っ張った分は補う」


撫子も同じ気持ちのようで、俺のサポートをずっと続けてくれる。

俺もドローンでの援護をミスるわけにはいかない。

本来なら、あのメイドさんはほっといて、みんなで女王の援護に行った方がいいんだ。

それを俺たちが受け入れないと知って、田中さんがあんな指示を出した。

無理をさせたんだから、こっちもちゃんと結果をだす!

絶対に女王は逃がす。


「女王聞こえますか、そのまま走ってください。ここはドローンで足止めします」

『あ、り……がとう』

「セイールさん、予定とは違いますが、女王を追ってください」

「うん。任せて」


そう言ってセイールさんが、リリアーナ女王の後を追うようにドローンで追いかける。

よし、一人でもドローンが傍にいるなら、田中さんのスキルでドローンを増やせる。

あとは、俺たちが後を追わせないように……。


『ドォン!!』

「うわっ!?」


タブレットの画面がいきなり爆音とともに煙に包まれて、何もこっちには影響がないのに俺は驚いてしまった。


「晃さん! 自分には何も影響がないですから、しっかり!」

「あ、ごめん。で、いったい何が!?」

「どうやら、デキラの部下たちがドローンに気が付いたようです」


そう言って、撫子が自分の持っているタブレットを見せてくれると、そこには……。


『上だ! 上にいる魔物を落とせ! あれはおそらく女王が使役している魔物だ!』


指示を出しているデキラの姿があった。


「勘のいいやつ。って、まずい。ドローンが回収されている!」

「田中さん。消せますか?」

「ちっ、あの野郎そこらへんのことはちゃんとしているか、オフラインになっているやつだな。……よし消しておいた」


田中さんは撫子がいうとすぐに来てくれて、タブレットの通信状況をぱっと確認してからドローンを消してくれる。

これで、敵にドローンが鹵獲されないですんでよかったけど、完全にこっちのことが知られたな。

おかげで、リリアーナ女王の追撃は足止めできたけど……。


「おおっと」

「……ちっ、厄介ですね。でも、相手の意識をこっちに向けさせられたのはいいことですが」


敵の攻撃をかわすことで精一杯だ。

一発喰らっただけで、ドローンは墜落してしまうから、攻撃を受けるわけにはいかない。

いや、別に喰らっても、こっちには直接的な被害はないけど、女王を追わせるわけにはいかないからな。

ここで、出来るだけ時間を稼ぐ。

そうやって、撫子と俺で翻弄している内に、ノールタルさんが操作するドローンも援護に加わって。


「よし、デキラに一発入れてやる」

「ちょっ!?」

「ノールタルさん! それは……」


止める前に、ノールタル姉さんはデキラに向かってグレランを打ち込む。

しかも命中弾。


ドカン!!


と、辺りに爆音が響く。


「うわ、やっちゃった!?」

「田中さん!!」

「聞いている。ノールタル、何やってる」

「普通にデキラを狙っただけだよ。死んでないから大丈夫。ほら?」


ノールタル姉さんは特に気にした様子もなく、タブレットを見せるとそこには、デキラが無傷とまではいかないけど、かすり傷程度で普通に立っている。


「え? 直撃したよな」

「ええ。見ました」

「魔力の障壁さ。四天王クラスとなるとあれぐらい強い障壁が作れるんだよ。というか、ドローンの武器が驚きさ。見た感じ多少傷を負わせているし、本当にこれで一斉攻撃でもすればデキラは落とせるね。と、デキラが撤退したね」


流石に、ドローンに攻撃されたことに驚いたのか、デキラは兵士をまとめて、引き上げていく。


「よし。色々言いたいことはあるが、まずは3人は女王を追え。他は引き続き担当地区の警戒」

「「「はい!」」」


そうだ、まだ気を緩めるわけにはいかない。

女王がこの森を無事に抜けるまでは。


いや、ちがう。この問題が終わるまでは決して気を抜いちゃいけない。


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