第165射:交渉方法を考えよう
交渉方法を考えよう
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「へー、ゴードルって、元は農家の人だったんだ」
『んだ。毎日畑を耕して頑張ってただ。まあ、今でも変わらないだべが』
「あれ? 今は畑を守る仕事じゃないの?」
『それもあるだが、作物を作るのもおらの仕事だ』
「はぁー。農家の人って大変だね」
僕は今ゴードルとそんな世間話をしている。
あの夜から朝になっている状態だ。
あのあとは、いったん寝るってことになって、起きてからはこうして、ゴードルと僕たちはこんな風に話を続けている。
『がはは。農家は大地との戦いだべ』
「どこの世界でも、農家の人たちは逞しいですわね」
『自然が相手だからなぁ。自然とこうなるべよ』
「自然相手は大変そうだなぁ」
『そうだなぁ。アキラやヒカリ、ナデシコは線が細いからなぁ。ちーときついかもしれんな』
ゴードルは意外と気さくで、僕たちと普通に話してくれる。
あれだね。本当に農家のおっちゃんだよね。
「でもさ、こうして話していると、ゴードルが四天王なんて思えないよねー……」
『ははは。それを言ったらちっこいヒカリが勇者なのが信じられないべ』
「あー、それは僕も同じくって、僕はこれから大きくなるんだからね!」
『おうおう。めしを沢山食って大きくなれ』
アキラと違う感じの返しで、全然喧嘩になることもない。
いやー、田中さんやリカルドさんとも違う大人の人って感じだね。癒し系?
そんなことを考えていると、不意にゴードルの言った言葉であることを思い出す。
「あ、朝ご飯食べてない」
『おー、そう言えばそうだな。なんつーか、このタブレットっていうアイテムで喋っていると楽しいからな。時間を忘れるべ。ちょっくらおいらも飯を……』
そう言って、ゴードルさんが立ち上がろうとすると、田中さんがやってきて……。
「まて、ゴードル。こちらから朝食を送る」
『どういうことだ?』
「見ての通りだ。ほれ」
田中さんがそう言うと、タブレットの前にパンやサンドイッチが山ほど置かれる。
『おおっ!? なんだべこれ?』
「勇者じゃない俺のスキルだな。こうした物を呼び出せるらしい。あ、出したものは食いものだから食ってくれ」
田中さんはゴードルさんに見せるように袋を破いて中のパンを食べて見せる。
『ほぉー。こういうのが呼び出せるスキルって便利だなー。っていうか、タナカが物資をおらたちにくれれば解決しそうだな』
「「「あ」」」
ゴードルの言葉に行けそうかもと僕たちは思って田中さんの方を見るんだけど……。
「俺が物資を支援した所で止まるわけないだろう。デキラの連中は攻撃してきた人に対しての復讐も考えているんだ。その人からの物資をもらって納得できると思うか?」
「「「……」」」
そんなわけないよね。
食べ物上げるから大人しくしてねってぐらいで大人しくなるなら、こんなことにはなってないよね。
『そうか。やっぱり無駄よな~』
ゴードルも田中さんの言葉に肩を落とす。
「まあ、そこまで落ち込む理由もない。出せる物資はゴードルやリリアーナ女王に提供してもいい。これで支持を回復するきっかけになるかもしれない」
『おおっ。確かにそれはありがたいべ。デキラのお陰で兵員が増えて、作物を作る人が減って物資が不足しがちだ。それを補えると分かれば、話はしやすいかもしれないべ』
なるほど。物資でつるというわけか。
まあ、何もしないで信じてくれってのはきついよね。
ああ、誠意を見せるって奴だね。
そんな感じで納得していると、不意にゴードルが立ち上がる。
『食糧難が解決できるってことは、早く話したほうがいいべ』
あ、なんか今から話にいくつもりだよ。
「まてまて、物資の支援といっても、どういう物を送ればいいのかを決めないといけない。それに、こんな日中にリリアーナ女王に俺たちの話を聞かせるわけにもかないだろう。デキラに知られたらそれこそだ」
『……ああ、確かにそうだべな。すまないべ。少し我を忘れていただよ』
「それだけ、食糧難なのか?」
『んー、今はそこまででもないだ。だが、備蓄は無くなってきているだ。来年の冬は厳しいとみているべ』
「……リミットは来年の冬か。いや、軍が動けばあっという間に枯渇するな」
『んだ。だからこそあせってしまっただ』
「「『……』」」
なんか、その話でいったんみんなが沈黙してしまう。
一体何が問題だったんだろう?
「えーと、軍が動くとなんで食料がなくなるの?」
「ああ、それは事前に沢山の食糧をもっていくからな。その食料は基本的に備蓄からだ」
「ええ!? そんなの駄目じゃん!! ご飯食べられなくなるよ!! なんで、そんなことするの?」
「……光さん。おそらく、デキラはルーメルを攻め取ることで食料が得られると思っているんですよ」
「そういえば、村長さんが言ってたな。人の国に出てきたのは、食料とか生活できるかどうか試すためもあるって……」
村長さんがあの村で生活しているのは、戦争の為なんかじゃないよ。
人と仲良くやるために頑張っているのに……。
「絶対だめだよ。誰も幸せにならないよ」
『んだ。ヒカリの言う通りだ。だから、なんとしても止めるべ。とはいえ、今はちょっとおいらが焦りすぎたって話だ。ヒカリも慌てすぎて、大事なことを忘れねえようにな』
「あ、うん。わかったよ」
『うん。素直ないい子だ。タナカ、いい子を育てたな』
「残念ながら俺の子供じゃねえよ。そこはわかっているだろう?」
『わかってるって。でも、こんなことに巻き込まれて、それでも大事なことを忘れないでいるのは、タナカのお陰だよ』
「そこは本人の資質だな。どんなに気を使ってもぶっ壊れるやつはぶっ壊れる。ま、そういうことより、いったん飯でも食え。パンがもったいない」
『ああ、そう言えばそうだったな。このまま失礼するべ』
そう言って、ゴードルが手に取ったのはメロンパン。
『しかし、パンといっただな? この丸パン以外は見たこともないモノばかりだべ』
「魔族のパンって丸パンしかないの?」
『んだ。と、いただくべよ』
「おう」
そう言って、ゴードルはメロンパンを口にいれて……。
『おー!? 甘い? この上の白いのは砂糖だべか?』
なぜか、食べて驚きの声を……って、そういえばこっちじゃ砂糖って高級品だったね。
お菓子もクソもないんだよね。
まあ、お姫様とか上流貴族は食べているみたいだけど、一般には全然ってやつ。
「ああ、メロンパンっていうやつでな。俺たちの世界の果物の姿を真似たパンだ』
『ほぉ。果物を真似て、果物の甘さを再現するために砂糖をかけただべか。贅沢だべな。こんなのが人の国にはあるんだなぁ』
「それは誤解だ。俺たちの世界って言っただろう? こっちの世界にはない。ま、ゴードルだけ特別ってやつだ」
『そりゃ、うれしいだ。じゃ、この袋にはいってるのは……』
「そうだ。全部地球産だな。俺のスキルってやつだ」
『便利だなぁ。ん、これもうめえだ』
そんな感じで、ゴードルはしっかり地球のパンを食べてくれた。
気に入ってくれて何よりだよ。
因みに気に入ってくれたのは、メロンパン。丸パンに近いのがよかったのかな?
で、そんな食事の余韻もそこそこに田中さんが話を続ける。
「まあ、女王に交渉を持ちかけるのは人目がなくなってからとして、そういうのは怪しまれないか?」
『んー。あまりよろしくないだべが、まあ、なんとかなるべ。魔物の退治の報告もそろそろしないといけないからなぁ』
「そうか、定期報告に合わせてならいいな。じゃあ、手土産の話だが、どんなものが疑われずに済む? 流石に地球のパンを持っていくわけにもいかんよな?」
『んだ。このパンを持っていったら、ほかの人の目につくだべ』
確かに、見たこともないモノを持って行ってたら、何かと気になるよね。
こっそり話したいんだし、そういうのは避けるのが一番か。
でも、そうなると、どんなものがいいんだろう?
「目立たないモノで、女王と話す理由になるものというのは何がある?」
『んー。まあ、無難に小麦だべかな。収穫があってリリアーナ様に献上品ってことで預かった。っていうのがいいだよ』
「なるほどな。じゃあ、そっちで用意するとして、入れ物とはどんなものが一般的だ? 流石にルーメルの麻袋はまずいだろう?」
『いやー、それは特にないべ。麻袋なんてどこでもおなじだぁ』
「……あー、そうか。別に袋に印字してあるわけもなかったな」
『いんじ? なんだべ?』
「いや、こっちの話だ」
あー、生産地とかそういうのね。
地球では当たり前のことだけど、こっちではそういうのはないよね。
「よし、とりあえず。麻袋入りの小麦を出してみる。献上品にふさわしいか見てくれ」
『んだ。おお、これだな』
とそんな感じで、ゴードルは後方に出現した麻袋の確認へと向かう。
「ねえ、田中さん。小麦とかよりも、砂糖とか胡椒の方が献上品としてはいいんじゃないの?」
「それも考えたが、珍しすぎないか心配でな」
「あー、それでなんか怪しまれないかってやつ?」
「そうだ。まあ、リリアーナ女王が望んだなら出してもいいが、最初に持っていくにはあれだろう?」
「むむむー。色々難しいね。なんかもっとこうパーっといかないかな?」
「流石に、そういうのはドラマとか漫画の世界だけですわよ」
「というか、そんなこというと、田中さんなら……」
「ん? 希望ならパーッと、城ごと吹き飛ばすか? ドローンに爆弾付けて」
「「「いやいやいや……」」」
冗談じゃないよ。
パーッとどころか、ドカーンだよ。
爆発オチで生きていられるのはギャグの漫画の世界だけなんだよ。
「冗談だ。それは最後の手段だ。で、どうだ、ゴードル。一応粗い小麦粉を詰めてみたが」
『これで、粗いのか。すごいべな。そういえば、さっきのパンはとてもうまかったべ、もっといい小麦粉だったのか?』
「ああ、あっちは完全に白い小麦粉だな。一応小さいので用意してみるか。献上品にはちょうどいいかもな」
『んだ。綺麗な小麦粉は充分に献上品になるだよ』
とまあ、そんな感じで、僕たちはあーだこーだと意見を出し合って、献上品を決めていき……。
「なんか、多くない?」
確かに小麦粉だけなんだけど、背負子にたっぷり小麦粉が載って重そうな荷物がその場に存在していた。
『ん? これぐらい平気だべ。ほれ』
そう言って、軽々とそれを持って背負うゴードル。
流石四天王って感じ。僕は無理だね。
「まあ、無理はしないようにな。このタブレットはそのまま道具袋にでも入れててくれ。何かあれば上のドローンに合図をくれれば予備のタブレットも出す」
『わかっただ。空を飛べるってのは便利だべな』
「じゃ、何かあればそのマイクに話せばイヤホンに声だけは聞こえるから、言ってくれ」
『んだ。まかせとけ』
こうして、タブレットを媒体とした、イヤホンもできて、ゴードルの装備が万全となり、お城へと向かうのであった。
「気を付けてねー」
『おう。行ってきます』
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