レベル１の今は一般人さん

第１６６射：お城へ赴く

お城へ赴く

Side：タダノリ・タナカ

「偵察報告。進む先に魔物はいないようだ」

『そりゃ楽なことだ』

「だが、森の中を詳しく見れるわけじゃない。油断は禁物だ」

『そうだべな。でも、ここら辺の魔物は動きだけで騒がしいからなぁ。みてりゃわかるべよ』

「そういうもんか」

『そういうもんだべよ』

と、こんな感じで、俺はゴードルと会話をしながら、ドローンを使っての先行偵察を行っている。

協力者のゴードルをこんなことで失いたくはないからな。

まあ、ゴードルの腕前なら魔物に負けるとは思わないが。

「でも、意外と町まで遠いよね。なんでこんな離れたところに農地作ったんだろう？　毎日通うの大変だよね？」

『それは、これから町を広げることも予定していたからだべよ』

「なるほど。そのために余裕を持たせていたというわけですか。でも、戦争で……」

『んだ。それで人手が足りなくなって予定の収穫もできなくなっているだよ』

「なるほどな。で、ゴードルさんは農家の人たちを守るために、こうして外で生活しているのか」

『魔物を退治しておかないとのんびり農作物もつくれないからなぁ』

ルーメルの侵攻は魔族にとっても色々と打撃を与えている様だな。

まあ、そうでもないと、ここまで問題になっていないか。

しかし、これはある意味好都合だな。

好戦派の連中もずっと戦えるわけじゃない。

物資切れを待つことも可能ってことだ。

……その場合は多くの一般人が飢えに苦しむことになるけどな。

そうなれば、現政権、女王の支持が持つか心配だな。

デキラたちの支持は落ちる可能性があるが、そうなっても、そのあとは内紛に突入する可能性があるから、あまりお勧めではないな。

そんなことを考えているうちに、魔族の街、ラスト国の壁が見えてきた。

「ゴードル。壁が見えてきた。そろそろ怪しまれないように通信はやめておくぞ。一人でぶつぶつ言っている怪しい奴になるからな」

『ははっ。それは勘弁だべ。ま、何かあればこっちから連絡を入れるだよ』

「ああ、そうしてくれ。一応俺たちは上空からついて行く」

『んだ。じゃ、またあとでな』

そう言って、ゴードルからの通信が終わる。

後は、問題なく城まで行って、リリアーナ女王との話し合いに持っていけるかってところだな。

「ヨフィア。街の方に動きは？」

「特になにもないですよー。いつもの通りですねー」

「リカルド、城の方は？」

「魔王城も動きはありません」

とりあえず、今はまだ動きはない。

だが、ゴードルから話を聞いて動き出すのは時間の問題だとわかった。

食料自給率が追い付いていない。来年には枯渇が目に見えている。

そんな状態で軍を集めているデキラはそれまでに結果を示さないと、支持を失うし、兵糧が無くて動けなくなる。

ボーっと様子見をしていたら危なかったかもしれないな。

そんなことを考えていると、ゴードルは門にたどり着き衛兵と軽く話をしたあと、荷物を検査させてから町の中へと入って行く。

「普通に荷物検査をしていましたわね。なぜ、ノールタルさんたちは止められなかったのでしょうか？　どうやって、連れ去られたか覚えていますか？」

「んー。それがね、何か薬を嗅がされたみたいでその間に大量の荷物と一緒に連れていかれたみたいなんだよ」

「ま、軍需品はこの門から出るとは限らないしな。デキラが軍を握っているなら、それぐらいは何とかなるだろう。そういうズルが必要な時もあるからな」

「えー、どんな時？　そんなことがあるの？」

「意外と多い。例えば、軍人が銃器を使う時は、どの国も基本的に使用許可はもちろん持っていく弾薬数も記載する必要がある。使った弾数も報告書に記載しないといけない場合もある。だが、有事の際、例えばテロなどで武器が必要になった場合、そんな手続きをやっている暇はない。分かるだろう？」

「うだうだしてたら、撃ち殺されるよな」

「結城君の言う通りだ。まあ、これを悪用しているって感じだな」

「……どのみちデキラがクソで変態というのは分かりました」

『ぶっ……』

そう大和君が吐き捨てると、マイクから突然吹き出す声が聞こえてくる。

「何かあったか、ゴードル」

『いやぁ、こっちは何ともないだ。ただ、ナデシコがデキラを変態って言うのが楽しくてなぁ。ま、あいつがあんな変態だとは思わなかっただべが。人の趣味はわからんべな』

「まあな。だが、女性にとってはデリケートな問題だ。この話はリリアーナ女王にはするなよ。トラブルの元だ」

『わかってるだ。それにそんな話より、ノールタルさんのことを伝えた方がよっぽどいいだよ』

「ああ、ノールタルのことを話すタイミングも難しいが、まずは物資、献上品を渡して、行方不明の話に持って行ってくれ」

『んだ。任せるだ。と、話はまた後でだ』

そういえば、既にもう街中だったな。

一人で喋っているゴードルが怪しまれたら問題だ。

「ヨフィア。ゴードルに視線が集まっている様子はあるか？」

「いえー。普通ですね。まあ、はたから見れば荷物を持っているただの人ですしね」

「四天王なのに、そういう人気はないんだね」

「いや、そうでもありませんわ。ほら、あちらの人は手を挙げています。ゴードルさんも手を挙げて答えていますわ」

「あれだな。農家としても働いているから、そういう関係で顔見知りなんだろう。有名人といってもいつも顔を合わせていたら、わざわざ話しかけることもないだろう」

「ああ、なるほど」

そんな感じで、ゴードルは軽い挨拶をしつつ、城の門までやってくる。

ここも衛兵と少し話しただけであっさりと中に通される。

流石四天王といったところか。

そう思っていると、ゴードルの無線から変な会話が聞こえてくる。

『土臭いゴードルか』

『ん？　おお、デキラかぁ。久しぶりだなぁ』

「「「！？」」」

誰かとの会話かと思えば、デキラとか。

まあ、あいつも変態ではあるが、四天王だから城の中にいてもおかしくないな。

とはいえ、変質者と知っていて出会うとちょっと気持ちが悪いというのはわかる。

ここで状況を見守っている女性陣の顔はものすごい殺気を放っているしな。

『ふん。相変わらず、小麦粉を運んでご苦労なことだ。森の獲物でも持ってきた方が腹にたまるだろうに』

『んなこたねえだ。この小麦はみんなが丹精込めて作った小麦だ。うめえだよ。デキラもこれでパン食ってるべ』

『俺はパンなどくわん。そんな貧乏くさいモノはな。そんなものを育てるより、敵の土地を奪い略奪したほうが早い。ちがうか？』

『戦ってなんになるだよ。そうなると敵はルーメルだけじゃないべ。ルーメルが落ちたところで、ほかの国が黙ってるわけないだ』

『それも全て粉砕すればいい。それで解決だ』

『はぁ、デキラの考えなさにびっくりだよ。噂には聞いてるだよ。勇者が呼び出されたって』

『把握しているが、ただのひよっこだ。異世界からつれてきた子供だそうだ』

『詳しいだな。』『それはもちろん情報収集も怠っていないからな』

『それなら、無謀な攻勢ってわかりそうなもんだが……』

『ルーメルに攻められて黙っている方が問題だ。我々魔族は生きるためにここにいるのだ。虐げられるためではない。平和を守るためにも、この国に住む者たちのためにも、新しい土地がいるのだ！！』

デキラのやつもただ単に人の国を攻めたいと言っているわけじゃなさそうだな。

まあ、それもそうか、ただの戦闘狂に人が付いていくわけもないからな。

『はぁ、何度もいうだべが、女王様の方針とは違うだべよ。だからおらは付き合えない』

『ちっ。このわからずやのでくの坊が』

『そうだべ。おらはでくの坊だべよ。じゃ、またなデキラ。パンツはほどほどにしとけよ』

『なっ！？』

意外とゴードルもデキラに対して色々溜まっているようだな。

最後にそう言って離れて行ったようだ。

「勘づかれないか？」

『んなことはないべ。もともとデキラがリリアーナ様に恋慕しているのはしっているからな。ま、パンツのことを知られて驚いているみたいだべだが。どうせリリアーナ様に伝えても知らぬ存ぜぬで通すだよ。リリアーナ様も四天王に下着を盗られてたとか、ただの失態でしかないだべよ』

部下の手綱を握れていないという証拠になるわけか。

デキラにとっても評判を落としかねないところだから、何か言うこともないと。

『ま、これ以上デキラがパンツを取ることは控えるだべよ』

「なるほどな。ゴードルは色々考えているんだな」

『動くからには、考えて動かねえとまずいだべよ』

それが理解できているだけでも大したもんだ。

正直、俺にとって、魔族の中で一番評価の高い男だ。

『さて、向こうの角を曲がったらだべだが、一つだけ難点があるんだべよな。リリアーナ様にべったりのレーイアが……』

「ああ、あの痴女？」

『ぷっ。まあ、痴女だべな。若い女性があんな格好しているんだからなぁ。とはいえ、あの服装は魔力上げる特注品だべよ。リリアーナ様が下に着こめばいいといったんだが、そのまま着てるんだべよ』

「意外な理由があったのですね。でも、あれだけで過ごすのはかなりアレですが」

「だね。どれだけ自分の体に自信があるっていうんだよ……」

痴女かと思えば、あれも立派な忠臣か。

面倒だな。この意見はデキラも同じなんだろうな。

崩れかかってはいるが、リリアーナ女王の支持はそれなりに厚いってわけか。

これは不意討ちでリリアーナ女王を殺せば完全に魔族と敵対すること確定だな。

彼女の死は何としても防がないといけないわけだ。

まったく護衛任務が一番面倒なんだけどな。

と、そんなことを考えているのだが、一向にレーイアとの会話は聞こえてこない。

『おかしいなぁ？　レーイアがいないべ。ま、何か用事でも言いつけられたべな。こっちとしては楽でいいだ』

どうやら、レーイアは席をはずしているようだ。

『これはゴードル様。陛下に何か？』

『んだ。いつもの献上品だべ。人気だべな』

『ああ、なるほど。陛下は苦笑いなさるでしょうね。食料は皆で分けてほしいと』

『まあ、余裕が無ければしないから大丈夫だべよ』

『その御説明はゴードル様がお願いいたします』

『んだ。じゃ、入るべ』

『はっ』

恐らく扉前の兵士とのやり取りなんだろうが、随分フランクだな。

まあ、これも四天王という立場がなせる技か。

で、ドアが開く音がして……。

『あら、ゴードルではないですか。何かありましたか？』

と、綺麗な女性の声がこちら側にも聞こえてきた。

恐らくこの声が……。

『どうもリリアーナ様。また、持ってきただよ』

『はぁ。私に食料なんていいのに……』

『諦めてくれだ。みんな魔王様に食べて欲しいだよ』

『……私だけ太るわけにもいかないでしょう？』

『ははっ、リリアーナ様もやはり気にされるだな』

『当然。私も王ではあっても女ですからね』

これが、俺たちとリリアーナの……。

いや、勇者と魔王の邂逅であった。

デジタルな方法だけどな。