第192射:おっさんたちのドキドキ会話

おっさんたちのドキドキ会話



Side:タダノリ・タナカ



「……本当にでて行くおつもりですか?」

「ああ、このまま、ここに居続けるのも危険かと思ってな」

「話は理解できるが、彼女たちも連れていくのか」

「見た目は人と変わらんし、お姫さんや勇者たちの付き人だからな。下手にここに置いておくよりはマシだろう」


と、俺はいま、ソアラ、イーリスと今後の話をしていた。

ガルツに向かうから支度だけして、はいさようならとはいかない。

アスタリの世話になった連中に挨拶をしなければ、捜索願とか出されて面倒にしかならないからな。


「そう言われると、確かにですね。国をバックに差し出せといわれれば抵抗は厳しいでしょう。内部に魔族をかくまっていると情報を流されれば、このギルドは立ちいかなくなります」

「アスタリ子爵を信用していないわけじゃないが、そうならないとは言い切れないな。なら、ノールタルたちは連れて行った方が安全か」

「だろう?」


ここはギルドという組織を運営しているだけあって、理解は早い。


「しかし、連絡などは?」

「それはもちろん、タブレットを置いて行く、何かあれば連絡をする。そっちも何かれば連絡をしてくれていい」

「そう言う方面でも心配はいらないか」

「ま、今の所は魔族の方にも動きはないが、いきなりってこともある。その場合はソアラとイーリスがアスタリ子爵と協力して増援がくるまで耐えてもらうことになる」


何事も絶対はない。

というか、俺たちが出てアスタリから出ていくことを狙っているのなら、直ぐに動きがあるはずだ。


「……その場合は、まだ別の魔族が入り込んでいるということですね」

「安全確認のためにも、一度アスタリから離れる必要はあるか」


そう、相手の動きを見るというのは、逆に考えれば安全を確認するということにもつながるし、敵がいるのなら、炙り出しに使えるってわけだ。


「とりあえず、俺たちは2日後にはガルツに向けて出発するから、何かあるなら、それまでにな」

「わかりましたわ。こちらでもガルツの方を探ってみましょう」

「そうだな。少しでも情報がある方がタナカ殿たちのためになるだろう」

「ああ、そっちで何かわかったらタブレットで連絡を頼む」


期待はしていないが協力者は多い方がいい。

というか……。


「真っ先に何かあるならこのギルドだからな。まずは生きて逃げることをお勧めするぞ」

「って、何を物騒なことを言っているんですか!!」

「……冗談に聞こえないのが嫌だな」

「何言ってるんだよ。勇者様にお姫さんがなぜか子爵の屋敷じゃなくてこっちに滞在していたんだ、向こうは興味深々だろうさ。変な隠し事がばれて首を切られる前に処分しておけよ。一番厄介なノールタルたちはこっちが連れて行くからな」


俺たちがいるから自重していた連中が動き出すだろうしな。

ソアラたちが戻ってきたときに墓の下とか死体をさらされていたら、ルクセン君とか大ダメージだろうしな。

そういうのは避けたいから責めて注意をしておいたわけだ。


「ちっ、あの処分を」

「大丈夫だ。あれでしょっ引くわけないだろう」


ダメだこいつら、心当たりがあったか。

無事に生き残れるといいな。

と、アホ共の事はいいとして、俺はそのまま町の酒場にやってくる。


「おう、タナカじゃねーか。勇者様たちのお供はいいのか?」

「俺がいつも一緒じゃ成長できないだろう?」

「がははは、そりゃそうだ。で、何をのむ?」

「普通にエールで頼む」


そんな感じで、酒を注文すると、横に誰か座る。


「まったく、昼から酒とか良い御身分だな」

「そうだな。実にいい御身分だと思うぞ」

「おう。エールお待ち。なるほど、クォレンさんにか」

「あ、俺の分かよ」

「そりゃな。あ、俺には普通に水と定食な」

「あいよ」


俺は普通に昼の定食をたのんで、この場にやってきたクォレンとの話を続ける。

そう、俺がここにやってきたのはクォレンと連絡を取るためだ。

魔物の襲撃から、クォレンには魔物の動きを調べてもらっていた。

俺には妙に引っかかったからな。


「ぷはー。いや、仕事のあとのエール美味いな」

「そりゃよかった。で、魔物の調査はどうだった? 子爵とソアラ、イーリスは稀によくあることだといっていた」

「ったく、もうちょっと飲ませてくれてもいいだろうが」

「なんだ。まだ余裕があるならそれに越したことはない。金貨をくれてやるから、朝まで飲んでろ」


何もないならただの俺の警戒のし過ぎだったってことだ。

それならそれに越したことはない。

クォレンからの情報も聞けたし俺は出てきた定食に手を伸ばし食事を始める。


「ん。美味いな」


意外とこの店主の料理は美味い、これが食べられなくなるのはちょっと寂しいものがある。

戦場では粗食だからな。

そんな感じでしばらくはお互い食事に集中してあまり時間もかからずに食べ終わる。


「じゃ、俺たちはガルツに向かう」

「おう、行ってこい。この状況ならそれがいいだろうな。タナカ殿たちが動くことで何かしら動きがあるといいな。と、ガルツに行くって話で思い出したが、少し気になることがある。魔物の関連とはちょっと違うがな」

「なんだ?」

「戦争が停戦状態なせいか、それともリテアやロシュールが内部で割れているせいか、国家間の行き来が少ないように感じる」

「まあ、普通の状態だな。お互いに刺激はしたくないだろうし、戦争に巻き込まれたくはないだろうからな。でも……」


わざわざ死にに行きたい連中っていうのは冒険者ぐらいだろう。

というか、こんな状況で各国の兵士が出入りしていたら、スパイとかを疑うだろうな。

だが、クォレンがそんなことが分からないわけがない。

つまり、何か違和感があるということか。


「感じるっていうのは、クォレンにしてはあやふやだな。なぜそう思った?」

「……どうもな。お互いの国の情報が流れていないんだ」

「そりゃそうだろう。仮想敵国に情報を流さないためにも国境の封鎖はするだろう」

「いや、必要以上にだ」

「必要以上というと?」

「冒険者ギルドの通信と、町の人の情報の差がありすぎる」

「冒険者ギルドの通信方法は国も認めるほどだろう? なら、情報に疎い一般人との差があって当然だと思うが?」


携帯電話と手紙の伝達速度なぞ比べるべくもない。

コイツは何を言っているんだというレベルなんだが、やはりクォレンは難しい顔をしている。


「……まあ、俺も、ギルドの通信を使って各国の支部と連絡を取って感じ取ったものだからな。実際見たわけじゃない。タナカ殿たちが、ガルツに行くというなら、その道すがらその違和感を確かめてみるといいだろう」

「話は分かった。注意しておこう。で、クォレンの方はどうするんだ? 王都に戻るのか、それともアスタリの町に残るのか?」

「……そうだな。俺も一度王都に戻る。幸いタブレットのお陰で、連絡には困らないからな。それに王都はあらゆる場所から情報が集まるところだ。俺の違和感も解けるかもしれん」

「その違和感が厄介ごとじゃないことを祈る」

「だな。と、魔物の件はやはり通常通りでしかない。アスタリ襲撃のことは偶然だろうな」


と、そんな感じで、クォレンと俺は別々に店を出る。

魔物に関してのことは俺の直感が外れたか。

しかし、別の情報でルーメルという地域を仕切るギルド長様が感じる違和感ねぇ……。

これはこれで厄介ごととしか思えんな。


「さて、あとはアスタリ子爵のところだな」



一応、ここの街の責任者だからな。出ていくときは挨拶ぐらいしておくのが筋だろう。

黙って出て行けば追撃でもされそうだからな。

命令元はあの宰相だろうが。

その時は返り討ちにしてやるわ。

と、素直に包み隠さず、アスタリ子爵に妙な真似をするなよと釘を刺して煽ってみたのだが……。


「はっはっは!! まさか、そんなことはしませんよ。私とて命は惜しいですから。それにタナカ殿を暗殺してこいなどといって、頷く兵士はおりませんな」


ガクガクと首を縦に振る兵士連中。

お前らは命令をこなせないただ飯ぐらいだな。


「タナカ殿を殺すのであれば、もっと兵力を集めて、休む暇を与えない状況を作ってもかなり厳しいでしょう」

「俺はそこまでタフじゃない」

「それなら楽ですな。と、雑談はここまででいいでしょう。話は分かりました。元聖女様が帰還したことについてガルツがどう動くのかはルーメルとしても気になるところです。王都の方からも伝令が行っているでしょうが、勇者殿たちが向かえばまた別の情報も集まるかと思いますからな」

「意外だな。もっと引き留めると思ったが」

「堀などの防衛強化をしていただきましたからな。これで魔族が誘い出されるのであれば、タナカ殿やルーメル本隊がやってくるまで持って見せますよ」


……ちっ、やっぱりこの子爵は俺たちがガルツに向かう理由も把握してたか。

そして、最悪の事態も想定しているな。

ま、それぐらいじゃないと領主は務まらんか。


「何事もないのが一番だがな」

「そうですな。しかし、何もない時こそチャンスだと思う者も多いですな」

「厄介なことだ。で、子爵としては誰が動くと思っているんだ?」

「はて、タナカ殿は誰が動くと思いますかな?」

「宰相」

「嫌われていますな。魔族が動くとは言わないのですな」

「そんな簡単に攻めてくるならとっくの昔に来てると思うぞ」

「確かに」

「まあ、死ぬなよ」

「ええ。タナカ殿もお気をつけて、姫様を頼みます。あなたなら可能でしょう」

「買いかぶるな」


無理なものは無理だしな。

姫さんを捨てて助かるのなら、喜んで俺は捨てるぞ。

と、そんな事態になることは避けるがな。


「では、私からちょっとした餞別を」

「餞別?」

「ええ。その様子だと王都に戻るつもりはないでしょう?」

「宰相が騒ぐ理由を与えたくない。王のやつもどちらかというと、戦争に賛成だからな。開戦の理由を与えたくない」

「手厳しいですな。とはいえ、その考えは間違ってもいないでしょう。ということで、王都に寄ることなくガルツへ向かえるものですよ」


そう言って渡されたのは、商売手形入国許可と免税の札だった。


「なるほど商売人になってガルツへか」

「まさか、向こうに勇者だからということを話して殴りこむわけにもいかないでしょう」

「確かにな。それらしい理由があると便利か。しかし、支払うものがないな」

「餞別だといったでしょう? アスタリの防衛強化もしてもらいましたしね。これで、ガルツで勇者様がこっそり行商で国境を越えて民を救う。これで支持は上がるでしょう」

「ちっ、ルーメルとしてもありがたい限りか」

「そうでもないと、見過ごしませんよ。馬車と物資も用意しておきますので、明日にでも取りに来てください」

「はあ、大人は汚いな」

「あなたがそれを言いますか。とはいえ、昔が懐かしいですね。真っすぐに、ただ真っすぐに」

「そんな奴はすぐ死体になったな」

「……はぁ。本当にタナカ殿は死にそうにないですな」

「誉め言葉だな。じゃ、また明日な」


さて、ガルツに潜り込む方法もできたことだし、今日はのんびり……。


「監視でもするか」


はぁ、俺が言い出したからには、タブレットの監視は俺がなるべくやらないとな。

ということで、ギルドで残って監視をしているリカルドと交代するために戻るのであった。


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