第360射:用意しましたよ

用意しましたよ



Side:タダノリ・タナカ



お姫さんが提案した物資の供給についてのことを王宮に伝えてからが意外と面白かった。

まずはホッとする連中が半分、そんなことが簡単にできるのかという疑惑をもつものが半分。

何せ物資の量だが、五千の軍が半年行動できるとか言う量だ。

それは尋常じゃない量で、確かにこれを用意して維持するだけでも相当な金額や労力が必要だというのは誰にでもわかるだろう。


まあ、ここの連中からすれば行軍用の物資は各々の領主が用意するのが当然という世界だ。

もちろんどうしても用意できないところには、国から物資を提供することもあるが、それは正直あまり印象はよくない。

何せこういう時のために自前で用意するために領地を与えているからだ。

しかもそれが自国防衛でも国土を広げるためでもない。

連合と魔族の戦いに参加させられるだけだ。

後方のハブエクブ王国にとってこの戦争の存在は懐が痛むだけでかかわりたくないと内心思っているんだろうな。

この国ののんびりとした空気からそれが伝わってくる。

実際、敵は主要街道で止められているのは事実だ。

だが押し込めてもいないのも事実。

それを理解しているからこそ、そこへの派兵も嫌なわけだ。


ハブエクブ王国が参加したからと言って押し込めるわけもないと馬鹿じゃないのでそこは理解していたということ。

そこだけは喜ぶべきことだな。


とはいえ、こちらが提示された物資を簡単に用意できるわけがないと高を括っていたのは褒められないが。

つまりだ、無理な量を頼んで結局のところ進軍を遅らせてやるっていう意思は強かった。

いや、こちらの実力を見て勝てると思い本気で頑張ってはいるかもしれないが、物資の確保はそう簡単ではないというのも確かにあるだろう。

なので、俺たちはお姫さんから頼まれていたシャノウの沖合から予定通り車両を用いて物資を輸送することになった。

結果、ハブエクブ王国王都の壁外にはずらっと物資を積んだ車両が並ぶことになる。


それが実に約4日のことだ。

俺たちにとってもフリゲート艦から上陸のプロセスをやりたかったので、好都合でもあった。

とはいえ、あの艦は基本的に水上攻撃艦なので、上陸用の戦力を載せるなどの搭載力はない。

つまり、わざわざ上陸のための艦、つまり上陸用舟艇を用意して車両をガンガン送り込んだわけだ。

しかし、こういうモノを出しても俺は特に吐血はしなかった。

あれだな、現代兵器の装備過多だとダメージを食らうんだなと把握できたのはいいことだ。


で、その物資を簡単に用意されたハブエクブ王国は即座に動き出した。

俺たちの動きに驚いたのはもちろんあるんだろうが、実質タダで戦争に行けるのだ。

功名心、つまり手柄を立てたい連中はここぞとばかりに動き出したのだ。

しかもお金ですらこっちが多少出す。

領民どころか傭兵ですら雇えると知ったハブエクブ王国の領主たちはこぞって兵を集めて準備を始めたってわけだ。


ここまでならいい動きだと思うだろうが……。


『ぶわっはっはっは! 王様じゃなくてお姫様の配下だよ!』


と、ジョシーが大爆笑しつつ連絡をしてくる。

外で聞き耳立てている連中に聞かれるぞと思うが、まあただの馬鹿笑いとしか思えないよな。

言っていることは本当にただの馬鹿でしかない。


『ジョシーさん。もう少し抑えてください。ある種予定通りではありますが、これでは王国側の面子が丸つぶれになります。そうなれば不和になりかねません』


そう、この物資提供を聞いて動いた領主たちはハブエクブ王国に従ってというわけではなく、ルーメル王国のユーリア姫に招集され配下という扱いになっているのだ。


なんでそんなことにと思うだろうが、実に理由は簡単だ。

物資を即座にそろえるということを成し遂げた。

つまり、ルーメルの国力は圧倒的にハブエクブ王国よりも上だということを、まだ半信半疑だった領主たちに知らしめたわけだ。

しかも、お姫様にポンと渡せるなんて、大本であるルーメルの国力はと考えると……。

そういう想像が働き、先ほどの無料で戦争に行けるというのも相まって、まず機嫌を取るべきはお姫さんという判断になったんだろう。


だが、お姫さんの言っている通り、これはハブエクブ王国王家に喧嘩を売っているともいえる。

まあ、条件を飲んだのは王家側だから自業自得ではあるんだが、面子がつぶれるというのは予想していなかっただろう。

まあ、それだけ俺たちが魔族との戦いに気合を入れているというのが分かってもらえたとは思うが。

下手をするとお姫さんにハブエクブ王国が乗っ取られかねないと考えるやつも出てくるだろう。

そんなこと戦車を並べて撃てばそれで終わりなんだけどな。

力関係は最初からこっちに軍配が上がっているが、そういうのを理解していない馬鹿もいるのだ。


「話は分かったがどうするんだ? そのまま地方領主たちをまとめておくってわけにもいかないんだろう? それともそのまま引っ張っていくか?」

『そんなことをすれば王家の方から背中を刺されかねません。まあ、そうされても負けるつもりはありませんが、味方を私たちで潰す意味もありませんから、物資の供給判断は王家が用意する将軍に一任するというしかないでしょう』

「ま、それしかないよな」


つまりお姫さんは王家から指揮権を預かっている将軍の判断で領主たちに物資を供給するというわけだ。

だから、上位者はハブエクブ王家でその下のお姫さんがつくということになる。

これで機嫌をとるべきは王家もとなるわけだが……。


『今更王家に機嫌を取るような相手を信用するでしょうか?』


鋭いツッコミを入れるのは大和君だ。

手のひらクルクルの奴を信用できないっていうのは同意だが……。


『信用もクソもないさ。圧倒的にユーリア姫の方が上なんだ。機嫌を取ることは当たり前。姫の機嫌を損ねれば国が亡ぶ。そう言えばなんとでもなる。というか、元々王家の方が出した条件だし、それをお姫さんが譲歩して王家に主導権を戻すのはこれからのこと、王家がこれで領主たちに何か罰を下せば完全にユーリア姫に付く。馬鹿にしたがっちゃ生きていけないからね』


ゼランのいうことも真実。

手のひらクルクルなのは生きるため。

そして安心させられない王国が悪いのもまた事実。

忠誠心で飯は食っていけないし命の保証はない。

まあ、どんな時でも絶対というのはないんだけどな。


「あとは王家がどうまとめるかだな。それで、冒険者ギルドの方はどうだ?」


ハブエクブ王国の動きはこれからどうなるか見ものだとして、あとは此方に付くといった冒険者ギルドはどう動くかって話だな。

物資を提供して動きが早まるのは把握しているだろう。

それで冒険者ギルドはどうするのか。


『いえ、そこらへんは何とも。物資は集まっても揉めるだろうって話で、それを見てから冒険者ギルドも動くと』

「ああ、あっちもこっちの動きに予想外ってことか」

『当然さ。奴らはいまだに馬だぜ? 車なんて見たこともない奴が輸送用の大型車両なんて思いつくわけないだろう?』

「確かにそういえばそうか」


ルクエルの方はこちらに合わせるとは言ってたが、あっちにとっても予想外か。

とはいえ、冒険者ギルドとしては傭兵の派遣で口を挟むぐらいだろう。

あとは、冒険者ギルド独自の情報収集。

期待できるといいんだけどな。

まあ多くは望むまい。

ともかく、あとは兵士さえ集まれば動き出すが、それでも時間はかかるだろうな。

10日、いや20日はかかるか?

それまでに冒険者ギルドや国がどんな情報を上げてくるか楽しみにしておこう。

そして、俺たちの方も準備をするべきだな。


いい加減、到着するはずだしな。

俺はそう思いつつ、別においているタブレットに移る光景を見つめる。

そこには陣を張って大所帯がワイワイやっている人々が映っている。

爆撃したくなるのは俺だけか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る