第16射:色々な意味で現実を見る

色々な意味で現実を見る



Side:アキラ・ユウキ



「あいたた……」


朝起きたら、昨日の疲れが残っているのか、体が軋みを上げていた。

筋肉痛かな?

一応、治療してもらったんだけど、治療漏れがあったのかな?


「んー。まあ、動けなくもないし、さっさと起きるか。今日は仕事だし……」


昨日は訓練して、今日は仕事。

人は楽できないよー。

いそいそを武具を着込んで、準備をして下に降りると、既に宿の食堂には他の皆がそろっていた。


「遅かったですわね」

「あれでしょ? 筋肉痛」

「お、光。当たり。というと光も?」

「そうそう。朝起きたらバキバキでさ。撫子に頼んで治してもらったんだ。なんか知らないけど、回復魔術じゃ治らなかったし」

「おそらくですが、お2人は怪我を治すという意識が強いのではないでしょうか? 筋肉痛は筋肉を酷使したことによる治療中に起こる炎症が筋肉痛と一般的には言われていますわ」

「えーと、つまり、筋肉痛が起こっているのは治療されているから、回復魔術の範囲にならないってこと?」

「恐らくですが。まあ、そこを踏まえて、回復力を上げる感じにすれば……」


そう言って撫子は俺に回復魔術を使うと、じわじわと筋肉痛が引いてきた。


「おー、すげー」

「筋肉痛の主な原因は使わない筋肉を酷使した時に起こりやすいと言われていますわね。昨日の集団戦は今までの動きとは違う筋肉の使い方をしていたのでしょう」

「あー、なんかわかるね。相手を一人だけ見るんじゃなくて、全体的に見てたし、フォローで動くこともあったし」

「色々筋肉を使ったって言われると納得だ」


無理な連携で、変な恰好した記憶はある。

ああいうことをしていれば、そりゃ筋肉痛になるよな。

そんな話をしていると、田中さんが話しかけてきた。


「筋肉痛が治まったなら、さっさと食事しよう。腹減った」

「あ、すいません。朝食お願いします!!」


ということで、遅れていた朝食をとることになった。

まあ、そこまで高くない宿だから、パンにスープだけの簡単なものだから、時間もかからず食べ終わり、今日の仕事について話し合う。


「で、今日はどうするんだ?」

「今日は、訓練だめなんですよね?」

「どうしてもって言うならやれないことはないが。今は自分たちのお金で生活できてるわけじゃないからな。そこらへんは、自覚を持っておけよ」

「「「あー」」」


誘拐された身であるとはいえ、一定の生活保障はしてもらっているのは運がよかったんだろう。

だけど、このままずっと生活が保障されるわけでもないし、このお金を借金だと言われかねないって言われたもんな。

誘拐する人たちが大人しく我慢するわけもないし、仕事を頑張ろうってなったんだよな。

しかも、俺たちの生活費は国から出ているってことは、税金ってこと。


「あとあと、文句を付けられても面倒ですわ。普通に今日は仕事をこなしましょう」

「「異議なし」」


そういうことで、俺たちは冒険者ギルドに向かったのだが……。



ザワザワ……。


「あれ? なんか、騒がしくないか?」

「だねー」

「何かあったのでしょうか?」


なぜか冒険者ギルドの前にはいつも以上に人だかりが出来て、騒がしくなっていた。


「残党を追いこめ!! スラム街の南部へ逃げこんだ!! 第三陣向かわせろ!!」

「了解」

「第二陣の負傷者がまずい!! 治療を!!」

「そこで、寝かせとけ!! 第一陣と先発隊の負傷者の治療が終わってない!!」


目の前で、血まみれになった冒険者?たちが運び込まれて、追い出され地面に寝かされる。


「ちょ、ちょっと!? それはないんじゃない!?」


ひどい仕打ちを見た光がそんな声を上げる。


「部外者が口を出すな!! まだ他にも沢山負傷者がいるんだ!! こいつだけを特別扱いするわけにはいかないんだよ!! 次の人運びこんでくれ、1人空いた」

「1人空いたならその人を……!! ふがっ!?」


光が更なる言葉をつづけようとしたら、田中さんが口をふさいで後ろに連れて行き、俺たちもそれに続く。


「落ち着け。あれは、トリアージだ。助かるやつから助ける。医療の現場においては当然の方法だ」

「ぷはっ!? なんでよ!! あの人まだ助かるかもしれないのに!!」

「助かるかもじゃだめだ。助かる可能性が低いなら、助かる可能性の高い奴を助けたほうがいい。医療品や医者の腕、時間は有限だからな。無駄に時間と道具をかけて助からなかったら、そのかけた時間と道具の分、助かるはずだった人も減る。それにな、1人空いたってのはな……」


そう言って、ギルドの裏をみると、手を胸で組まされた血まみれの人たちがモノのように置かれていた。

それが何かわかって、俺たちの血の気は引いていった。


「あ、あれって……」

「そうだ。助からなかった人だ。まあ、冒険者稼業だ。いつかあるかとは思ってたが、いい機会だ。よく見とけ。俺たちも同じ現場に立っているってな」


よくよく見れば、内臓が出ている人もいて……。


「うぷっ……」


吐き気をもようしたが、それを押し込んで……。


「撫子、光、治療できるか? 魔力に余裕はあるか?」

「え、あ、うん!! あるよ!!」

「……そうですわね。冒険者は死と隣り合わせ。ならば、助け合いも問題ないですわね?」


そう言って俺たちは田中さんの方を見る。


「ほお。吐くかと思ったが耐えたか。ま、頑張ってこい。治療手伝い仕事は俺の方で受けてくるから」

「ありがとうございます」


田中さんたちに仕事の受付を任せて、俺たちはそのまま放置されているけが人の元へと駆けよる。


「こら、けが人に近寄るな!!」

「いや、治療できます」


そう言って、3人で怪我の具合を診ていく。


「どこにけがを?」

「は、はら……」

「傷口を見せてね」

「流血が多すぎて、見えないですわね。ふき取りますわよ。って、綺麗な布が……」

「こちらにありますよー」

「ありがとうヨフィアさん」

「この傷なら、回復魔術でいけるな」


残念ながら、1人で怪我人1人を診るような腕はないので、みんなで怪我の具合を判断する。

その治療の中で、この騒動の原因を聞いた。

昨日の夜に、冒険者ギルドが闇ギルドへの強襲を行ったそうだ。

闇ギルドっていうのは、所謂、暗殺とか犯罪をするギルド。

その被害は大きく、その関係で、冒険者ギルドは前々から依頼を受けて調べていたそうで、昨日ようやくルーメルの王都にある支部を強襲したというわけだった。

その結果、支部の幹部連中は軒並み捕縛か殺害できたが、過程で激しい戦闘が起きて双方にかなりの被害が出た結果がこの怪我人たちだ。

今も、闇ギルドのメンバーがスラム街に逃げ込んでいて、討伐部隊を送り込んでいるらしい。



「怪我人が多いのは、真っ向勝負になったせいだ。最初の奇襲の内はこちらには被害はほとんどなかったんだがな。思った以上に反撃が大きかった。ま、なんにせよ。スラム街の南側に逃げ込んだ連中はほとんど下っぱだ。もうこれで終わりだろう。勇者殿たちが回復魔術も使えたおかげで、怪我人も最小限で抑えられた。感謝する」


そういって、クォレンギルド長は俺たちに頭を下げてお礼を言う。

俺たちは、外に放置されていた怪我人を治療したあとは、ギルドの中で治療を行い、ギルド長に呼ばれて話を聞くことになった。


「いや、これなら最初から治療要員として、迎えておくべきだった。そこだけは判断ミスだな。勇者殿たちはまだギルドに入って間もないから、今回の作戦は伝えていなかったし、参加もさせるつもりはなかったが、流石、勇者というわけか、回復魔術までここまで達者とは」

「あ、いえ……」

「全然だよ。血を見てくらくらしてたし、連れて行かれても人殺しはできなかったと思う」

「……ですわね。私たちはまだまだ新人で構いませんわ」


光や撫子の言う通り、最初から仕事に従事させられていたら、きっとまともに動けなかったと思う。

あれは、普通に仕事をやるぞって感じでいたから、やれただけだ。


「ああ、だろうな。最初に怪我人の選別をしていた冒険者に食ってかかった話は聞いている。未熟なのを自分で理解しているのはいい。ま、適度に頑張っていくと良い。さて、治療の報酬は受付で受け取るといい」


そんな話をして、俺たちは報酬受け取りは田中さんにお願いして、疲れた体を引きずり、宿へと戻った。



「……食欲わかないよな」

「……いいんじゃない。どうせ食べても吐くと思うし」

「やってるときは必死でしたが、落ち着きを取り戻してみると、なかなかきついですわね。光さんの怪我もあれに比べれば……」

「ただの怪我だよな……」

「まだまだ、甘く見てたよね……」


そう言って、少し落ち込む。

何度同じようなことを繰り返すんだろうな。

はぁ、駄目だよな俺たち。

そんな感じで落ち込んでいると、料理がテーブルに置かれた。


「あれ? 頼んでないですけど?」

「ん? タナカの旦那から頼まれたんだが?」

「田中さんが?」


なんでまた? と思って視線を向けると、田中さんたちは既に料理を食べている最中で……。


「んー? ああ、俺が頼んだ。まあ、気分が乗らないってのはわかるが、食える時に食っとけ。前から言ってる話だ。結城君たちがこの空腹で明日仕事でミスして死んだら、怪我を治してもらった人たちが悔やむからな」

「いや、空腹でミスって」

「あるんだよ。判断力も落ちるし、動きも鈍る。気合と根性じゃどうにもならんからな。だから、食っとけ。吐くなら、既に吐いてるから。もう十分に胃は丈夫になってるよ。自分の為にも、明日俺や他の人が後悔しないためにも食っとけ」

「「「……はい」」」


田中さんの言うことは尤もなので、頼まれた料理を食べたのだが、体は栄養を欲していたのか、素直に胃に入って満足できた。

完食したのをみて満足したのか、俺たちの前に袋を置いた。


ガチャ、ドス。


音からして、重たいものが入っているんだろうなと思っていたんだけど……。


「じゃ、今日の報酬な。ギルドでの臨時の治療行為、金貨50枚だそうだ」

「「「金貨50枚!?」」」

「さて、俺は寝るが、金貨の分け前とか管理しっかり決めとけよ。身持ち崩さないように気を付けとけ」


そう言って、田中さんは去っていって、俺たちは慌てて部屋に戻り……。


「……なあ」

「言わないでいいよ」

「病院でも開いた方がいいのでは? ですか?」

「そう、それ」

「いや、僕たち勇者でしょ? 立場上できるわけないじゃん」

「ですわね。でも、稼ぐには苦労しないですわねー。命を懸けて冒険者する理由がなかなか……」

「いや、帰るためだろう?」

「そうだよ。撫子」

「でも、お金を稼いで、他の冒険者に色々調べてもらうとか、どう思いますか?」

「「……」」


その日の会議は深夜まで及んだ……。



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