第102射:若者は悩む
若者は悩む
Side:アキラ・ユウキ
「状況は確認してきたようですね」
そう澄ました顔でいうのはフォアマン宰相。
何を今さら澄ました顔を……。
「なーにどや顔で言ってるんだか。結局煽ったのは自分たちじゃん」
光は素直に宰相に毒を吐く。
いや、真実だから毒でもないか。
「で、村で情報を集めてきたが、逆にお前さんの考えていることが分からなくなった。もっといい穏便な方法があるとわかっていたはずだが?」
「……」
沈黙する宰相。
こんな感じで、僕たちは村からもどってきてから、さっそく宰相に対しての尋問を始めることになった。
もちろん、尋問を主導するのは田中さん。
失礼な言い方になるかもしれないけど、この人以外に最適な人はいないだろう。
因みに場所は地下牢の尋問室で行っていて、前回一緒にいた尋問官たちも同席している。
王様に情報を伝えるため、記録を取っているらしい。
そんなことを考えていると田中さんが言葉を続ける。
「だんまりか。でもまあ、このままじゃお姫さんが見た未来は近いかもな。案外、ルーメルという国を滅ぼしたかったといわれる方が納得できる行動だよな」
「そんなことは断じてない!!」
お、なんか反応した。
流石田中さん。いいところ付く。
確かに、見方によってはルーメルを滅ぼすような行動をとっているようにも見えるよな。
でも、本人は違うと叫んだ。
つもり、本人はあくまでも国を救うためってことか。
あ、これって、誘導尋問みたいなものか。
「ふうん。なら、なにが目的でこんな戦力が不安定な時期に動き出した? 俺たちが戦力になるなんて確信はなかっただろうに? それとも、派閥の関係で今しかないと思ったか?」
「……そこまで聞いているのならば、私に聞く必要もないだろう」
「そっちの関係で、焦っていたのか」
「そうだ。どのみち私たちが攻めたことは変わらない。いつかその報復がくる。原因を作った私たちには、それを防ぐ必要がある。そして今、魔族内部は親交派などど融和をという者たちがいて、侵攻派を押さえている。このチャンスを生かさずにどうするのか?」
あー。やっぱり田中さんの予想をしたうちの一つが当たった感じかなー。
「同士討ちは狙えそうにないがなぁ。しかもその話はルーメルの作戦が成功すること前提だ。失敗した場合はひどい状態になるのは考えなかったか?」
「いずれ訪れるのならば、こちらから先手を打つべきだ」
「まあ、戦争ってのは仕掛けた方が有利なんだが、国力差で結局は覆るぞ? そこらへんはどう見てるんだ?」
「魔族内部の融和派と手を結んで、侵攻派を叩けばいける」
言っていることはわかるんだけど、宰相が言っていることは矛盾がある。
「まってください。宰相は魔族は全滅させるって言ってましたけど、それは侵攻派だけということですか? 作戦が成功して侵攻派を倒したとして、残った融和派はどうするつもりなんですか?」
「……」
俺の質問に対して沈黙を貫く宰相。
「おいおい、露骨に沈黙するなよ。そのあとにまとめて始末とか考えているのか? 襲ってきたとか言って」
「……人の未来のためだ」
素直というべきか、俺に図星を突かれたせいなのかはわかないけど、俺たちに対してはマイナス要素が大きい。
ここは普通にごまかせばいいのに。
「「「……」」」
ほら、そのおかげで撫子たちの顔つきが険しくなっている。
「結局それは恨みを買うのと変わらんぞ。魔族は生まれ続ける。ずっと弾圧していてそれで終わると思うか? この場がしのげればいいか?」
「解決方法などそれ以外ない」
「手を取り合おうとは?」
「今の情勢では無理だ。魔族は人の敵だ」
「はぁ、お前らだって、争って妥協して、我慢して、この国が出来たんだろうに」
「……私にはそれだけの度量はない。そしてその資格もない。攻め込んでいるからな。私が手を取り合おうなどといって相手が信じるわけもない。違うか? そして、お前は傭兵だといっていた。こういう戦いで稼ぐものだろうが」
田中さんの職業は確かに戦場で稼ぐものだろうけど、それは今関係ない。
あいかわらず詭弁でごまかそうとする宰相に怒りが増してきたんだけど、何か言う前に田中さんが口を開く。
「そりゃー、元の職業は戦場で稼ぐものだからな。でも……お前と俺は立場が違うだろう? お前は宰相で俺たちは傭兵。国を運営する側なら国を守るために動くものだろう? 未来に禍根を残さないために、わざわざ戦争に踏み切ることもなかっただろう」
「勇者が異世界より呼び出された。魔王を追い詰めた伝説の勇者と同じ異世界からの勇者がだ」
「それで、行けると思ったわけか。お前がそんな伝説にすがるか?」
「信じてはいなかった。だが、姫様が呼び出した。文字通り本物の勇者をだ。それを目の当たりにして希望を持って何が悪い。そして、魔族内部は割れている。これほどのチャンスはないだろう?」
あー、なるほど。
超兵器を手に入れた国って感じかな。
この世界じゃ、魔術での技術は普通に認められているし、ステータスという人の能力を半ば目で確認できるから、人の強さを数値化してわかりやすい戦力として扱っている。
つまりは武器だ。この世界の人はスペック表が付いている武器といえばわかりやすいかな。
その認識は宰相も同じなんだ。
勇者という眉唾なモノを信じてはいなかったが、戦力的には十分すごい人物が現れたという認識なのだ。
俺からすればただの一般人なんだけど、宰相たちから見れば、超兵器が現れたように見えたわけだ。
……俺はまだこっちの世界の常識に慣れない。
だけど、俺たちが使えるか使えないかの判断を下してから判断すればよかったんだ。
宰相が迂闊なのは変わりない。
「話は分かったが、これからどうする? 普通に生活している魔族を殺しにいってこい、そして味方になった魔族も殺す。しかも勇者たちの手柄にして。お気楽なもんだな。責任を全部異世界人に押し付けて」
「莫大な名誉と資産も手に入る。それが約束されているのに、拒まれるとは思わなかった」
「異世界人を見くびったな。そんなところは通り過ぎているんだよ。お互い殺し合えば全てを吹き飛ばす武器ができたからな。仲良くしないと、破滅しかないんだよ」
田中さんの言う通り、世界大戦から生まれた核兵器の出現で、文字通り、世界が灰になるまで、人が住めなくる世界にはできてしまうんだ。
「……いや、田中さん。そこは、平和に目覚めたって言ってほしいんだけど」
「まあ、そういう面もあるが、宰相にはこっちの言葉の方がいいかと思ってな」
光が気まずそうにいうが、田中さんがそんな言い方をしたのは、宰相はこっちの世界をなめているから。
人と人が手を取り合ってというのは、こいつらに言わせれば軟弱な発想になる。
敵は倒せばいい。それだけだ。
俺たちは既にそこを通り過ぎているという認識がない。
だからこそ、なぜ平和という結果にたどり着いたのかを説明しないといけないんだ。
「……よくそんな世界で、人は生き残っているな」
「自分で蒔いた種だから。どうにかできるんだよ。というか、先ほど言ったようにすべて無くなるからな。暴力以外の解決方法がいるんだよ。それから考えると、世界の破滅に近いのはこの世界よりも案外地球の方が世界の破滅一歩手前かもな」
よく映画であるからな。核ミサイルの発射を阻止せよとか、第三次世界大戦を阻止せよとか。
まあ、どこかの学者様が第四次世界大戦はこん棒と石で行われるとか言ってたっけな。
つまり、第三次世界大戦が起これば世界は滅びるという意味だ。
「……それで、私に魔族と手を取り合うように努力しろとでも言うつもりか?」
「別にそんなことはどうでもいい。元々お前さんの動機が聞きたかっただけだ」
結局、随分残念な動機だった。
簡潔に言うと、凄い武器が開発できたから、敵を倒して領土を増やそう。って話だ。
分かり易い戦争勃発理由だ。もう三流映画の脚本を通り越してベタだよ。
「……で、結城君たちはどうする? お姫さんもだ」
田中さんは振り向いて、俺たちにそう聞いてくる。
これは、俺たちが決めろということだ。
今から宰相を無理やり融和の方へと舵を切ってもらうにしても、やはり宰相の言う通り、周りの反発がひどいのは目に見えている。それを行おうとすれば、やっぱり俺たちが勇者として名乗りを上げた方がまとまりやすい。だけど、最前線に立つことになる。本末転倒だ。
じゃあ、予定通りに魔王を倒すかといえば、これも言わずもがな、最強戦力である俺たちが最前線に出ることになるだろう。
あとは、いつ来るかわからない敵に備えるか。その時もやっぱり俺たちが苦労することになる。
結局、俺たちには戦うしか道が無いということだ。
あとは、逃げるくらいだけど、今の俺にあの村とか、無暗に殺される人たちを無視できるのか?
そんなことを考えていると、横にお姫様が口を開く。
「私は戦いを望んではいません。できるのであれば、和解をしたいと思っています」
「そうか。お姫さんはそう言う答えか。で、その答えを実行する案は?」
「……それは」
お姫様は俺たちを見て口を閉ざす。
やっぱり、俺たちを使うということだよなー。
それは田中さんにもわかったようで……。
「結城君たちを使うか。まあ、当然だな。魔族に偏見なく、話し合いがちゃんとできそうなのは、結城君たち以外には存在しない。でも、結局は俺たちに死地に行って来いってのと変わりないよな。あれだろう? 和解、融和を拒否するなら、そのまま倒して来いって話だよな?」
「……はい。それが魔族の長、魔王や敵対派閥の長を討つ絶好の機会かと。大義名分も立ちます」
「敵のど真ん中で大立ち回りして、大将首を落とせか。まあ、作戦としてはありだが、どこまで成功率があると思ってるんだ? そもそも、まともに魔族の国にたどり着けると思うか?」
「……」
どうやら、片道切符もないようで、行き先に着く前にやられる可能性もあるみたいだ。
「ま、お姫さんの意見はわかった。可能性がないことでもないからな。ひとまずは保留だ。あとは結城君たちだな。君たちはこの状況でどうしたい?」
田中さんはお姫様とのお話を聞くのをやめて、今度は僕たちに聞いてくる。
「うーん。正直よくわかんないや」
「どうするのが正しい答えなのかわかりません」
「……俺も同じです」
「だよなー」
文句の1つでも言われるかと思ったけど、そんなことはなく苦笑いをしているだけ。
「こんな決断。簡単に決められるものでもないだろう。制限時間はあるが悩むといい。とはいえ、望む答えが見つかるとは限らないけどな」
そう言って、俺たちが悩むことを許してくれた。
「まあ、人生は制限時間ばかりだけどな。そして判れとは言わんが、この宰相もお姫さんもこうして悩んだ果ての答えが今だったってことを忘れるな。で、結局、悩んで考えて失敗したいい例だ。よく見ておけ」
「「……」」
そう言ってくいっと親指を二人に向け、指を向けられた二人は顔を逸らす。
なんか微妙な空気になったな……。
そう思っていると、光が口を開く。
「いや、あの、田中さん。ここは悩んで出した答えは後悔しないとかいわないの?」
「言わんな。人生悩んだら失敗しないわけでもないからな。だからこそ、この二人を見せたわけだ。いい例だぞ。悩んだところで失敗する奴は失敗する。案外即断即決するからこそ解決することもある。って話だ。まあ、宰相の場合は即断即決しすぎて俺たちのことを読めずに失敗したがな。極端なんだよな。悩んだ時期はあるのに、悩むべき時間を取らなかったからこうなった」
「「「……」」」
遠慮なく、ズタボロにいいいますね……。
「大事なのは情報収集と、その情報を的確に分析する能力。それがあれば、大抵何とかなる。ま、頑張って考えてみるといい。今の君たちにとって何が最適か。じゃ、解散。3日後には答えをきかせてくれい」
そう言って、田中さんは尋問室から出て行った。
「どうしよう?」
「どうしましょう?」
「ほんとどうしようか?」
と3人で顔を見合わせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます