第229射:会議と無理のしわ寄せ

会議と無理のしわ寄せ



Side:アキラ・ユウキ



「つまり、今後は連合軍が来るまでじっと耐える必要があるというわけですね」

「でも、耐えられるのですか? 毎日誰かが鞭に打たれるんでしょう? それが私の子供だったら……」

「そこは、成人男性にお願いするしかないね。子供たちも兵士の人に逆らわないようにお願いしないと」

「ですが、子供が理解できるか……」

「そこはみんなでフォローするしかない。聖女様たちの言うように、ここだけの戦力じゃどうにもならない。食料と衣類はどうにかしてもらったけど武器といえば農具だけだ。こんな装備でデキラたちに対抗できるわけがない……」

「「「……」」」


集まって状況を説明したんだけど、やっぱり田中さんの言う通り、鞭で打たれる人が心配だという点に話が向かった。

鞭で打たれる人を見て耐えられるのか?

この問いに関しては、子供を持つお母さんたちは無理だという表情だ。

当然だよな。子供が鞭に打たれて泣き叫んでいるのを黙って見ているわけにはいかない。

でも、冷静な人もいるみたいで、この人数と農具だけで対抗できるとは思えないという人もいる。


「……鞭に打たれると厳しい人たちは、貧民区の方に逃がしましょう。私の方から話を通しておきます。あちらに潜伏すれば」

「まて、向こうの巡回もないわけじゃない。逃げだした人々が見つかれば確実に処刑だ。安易に逃がすわけにもいかない」


あー、なるほど。

貧民区にいた人たちが静かに過ごしていたのは見つからないようにしていたのか。

とはいえ、巡回の兵士はそんなにいなかったけどな。

ダイジョブだと思うけどな。

そんなことを考えていると……。


「見つかった時は確実に処刑だからな。そんなところが安全といって逃がせるか? って話だよ。結城君」

「ああ、そういうことですか」

「ここから貧民区はかなり距離があるからな。何かあったからといってすぐに駆け付けられるわけじゃない。まあ、ここが攻められた時は逃がすにも難しいってことになるんだが、どっちもどっちだな。向こうに逃がすにしても、場所と物資の確保は必要だし、護衛もゼロってわけにはいかないから、こっちから人員を回す必要がある」

「そうなると、戦力分散ですか」


意外と難しい話だ。

どっちがここのみんなにとっていい判断なのだろうか?

そう悩んでいると、田中さんが口を開き。


「今答えを出すことじゃないな。逃がすにしても、貧民区に避難場所を確保する必要があるし、物資の運び込みも必要だ。いまいきなり送り出しても捕まるだけだ」

「確かに。タナカ殿の言う通りだ」

「では、まずは、貧民区の避難所になりそうなところを探すべきだろう。そこを見つけてからだな。それまではみんなには堪えてもらうしかない」


そんな感じで、いつまで続くかわからなかった話が一気に終わる。

なるほどな。今考えてもまとまらないことは一時置いておくのがいいのか。

確かに準備も何もなく人を逃がしても路頭に迷うだけだよな。

今回の場合は死に追いやることになるから、田中さんの言うことが正しい。

準備を整えてから検討するべきだ。


「今考えるべきは、準備が整うまでのあいだ、どうやって、ここの人たちを守るかだ。まあ、もちろん貧民区の逃がす場所を探す役割もいるけどな」

「タナカ殿は何かいい案はありますか?」

「簡単に、逃げ出したければ静かにしていろって言えば良い。これ以上の説明は存在しないだろう」


ま、それだよな。

暴れていると戻れなくなる。静かにしていろ。こう言われて大人しくできないやつは稀だろうな。

そんなことを言うやつがいれば状況を全く把握してないか、自殺志願者だ。


「でも田中さん。子供とかいるお母さんはこんなところにいたくないって思うよ?」

「ですわね。それに私たちの作戦に首を縦にふらないものもいるでしょう。そういう方たちはどうするのですか?」

「そういう非好戦的な連中はどこかに逃がす必要はあるだろうな。そのための事前調査でもある。安全な場所を探すからしばらくはじっとしていてくれってな」


ああ、そういう説得の仕方もあるのか。

確かに戦えない人たちを逃がすことも必要だよな。

でも、それ以外の人もいると思うんだよな。

例えば……。


「ねえ。タナカさん、普通にさっさと戦おうっていう連中はどうするの?」

「だね。貧民区の連中にはそういう声を上げている連中もいる」

「そりゃ、勝手に行動して暴れてくれるならこっちとしては陽動につかえるからいいだろう。そういうのは却って抑えるとこっちが労力を使うからな。……っていうのは最後の手段だ。勝手に暴走して捕まってこっちの情報を吐かれたらたまらない。そういうのは、デキラたちと戦う時には斬り込み隊長を任せるとかいって抑えるしかないな。まあ、そんなことを実際できる連中が残っているかは疑問だけどな」

「え、どういうことですか? 実際に仕返しをするっていう人はいますけど?」


なんで田中さんは好戦的な奴らが残っていないなんて思うんだろうか?


「簡単だ。そういう無謀な反抗精神を持っているやつは……。結城君、君も見ただろう? 真っ先に死体になっているのを」

「「「あ」」」


そうか、もう考えられない無謀な人たちは既に死んでいるのか……。


「まあ、ゼロじゃないだろうが、今までデキラがキツイ仕打ちをしているおかげで、失敗すれば死ぬというのは誰だってわかっているだろうからな。暴走っていうのは限りなく低いと思うぞ。ああ、もう助からないと思えば破れかぶれで突っ込むことはあるだろうけどな。そういうのは俺たちが失敗したあとだからあまり気にしなくていいだろう」

「いやぁ、だめでしょそれ」

「それって私たちが死んでいませんか?」

「だよなぁ」


俺たちが失敗したときって結構絶望的だよな。

撫子の言うようにおそらく俺たちも死んでいるだろうし。


「さて、そういう心配は実際出てから話し合うといい。今は行動して、みんなに今後の方針をしっかり話すことだ。ノールタル、兵士長、頼めるか?」

「ああ、任せてくれ。ちゃんと説得してみせるよ」

「はっ。兵士への通達は任せてください!」


ということで、みんなそれぞれ動き始めた。


「で、僕たちはどうすればいいんだろう?」

「何かできることはないのでしょうか?」

「物資を配るのを手伝うか」

「まて、そのまま座っておけ」


そんなことを言って腰をあげようとすると、田中さんが待ったをかけてくる。


「何かまだ話すことでもあった?」

「話すことはある。人の手伝いをしたいという気持ちは買うが、その前にやることがあるからな」

「やることですか? いったい何が?」


すると、田中さんの後ろから目の下にクマを作ったお姫様とカチュアさんがゆらぁっと現れた。


「……元気が有り余っているのでしたら、どうぞ私たちの代わりにドローンに監視をやっていただけませんか?」

「……ヒカリ様とナデシコ様が皆様のお手伝いをしたいという気持ちはわかりますが、私たちもソロソロ限界ですので」


そう告げる2人はなんというか独特の迫力がある。

眠たくて仕方がないんだろうな。

というか、カチュアさんがここまで言うってことはそれだけ疲れたんだろう。


「予定通りに終わっていれば、帰ってきた俺たちや、ルクセン君たちと交代の予定だったからな。彼女たちが頑張ってくれたわけだ。まあ、人命には代えられないがな。なあ?」

「……ええ。人命が関わっていましたから、頑張らせていただきました」

「……はい。ですが、これ以上は交代していただきたいのです」


その言葉の裏には、もういい加減交代してくれ。という意味が込められているのが十分に感じられらた。

それは撫子や光にも十分に伝わったようで。


「はい。お任せください。あとはゆっくり休んでくださいませ」

「うん! そうだね。ごめんね。監視任せちゃって」

「……では、休ませてもらいますわ」

「……姫様こちらです」


休んでいいと許可をもらったお姫様とカチュアさんはまるで幽霊のようにふらふらしながら、俺たちが使っているスペースの布団に倒れ込んで動かなくなった。

余程疲れていたんだろうな。


「というわけだ。他の人に無理をさせた分、ああいうところでしわ寄せが行くからな。今回はたまたま上手く行ったからいいが、これで失敗してたら、お姫さんたちの信用はがた落ちだ。わかるな?」

「……はい」

「……うん」


人に無理を押し付けた挙句失敗とか、腹立つよな。

当たり前のことを言われただけだけど、こうして実際に言われると身に染みる。


「じゃ、あとはしっかりと監視しような」


田中さんは笑顔でそう言って、2人から受け取った監視のタブレットを渡す。


「「……」」

「ま、丸一日ってことはないだろうさ。ここで働かされている人たちの説得の手伝いもあるかもしれないからな。とりあえず、人に無理をさせた分、少しでも頑張ろうな」

「「……はい」」


流石にこの状況で嫌とはいえないようで、大人しくタブレットを受け取る2人だが……。


「さて、休みもしないで、あと何時間耐えられるかね」

「「!?」」

「あ、そういえば、別に監視をしてないからって、撫子と光が休んだってわけでもないですよね」

「そうだが、こういうことも覚悟の上だろうからな」

「ちょ、ちょっとまってください。確かに、無理な予定の変更をしたのは私たちですが、このままではまともに監視ができるとは思えないんですが!」

「そうそう! 絶対寝落ちするって!」


ようやく自分たちがこれから地獄を味わうことに気が付いて、何とか田中さんと俺を説得にかかる。


「そこは心配するな。ちゃんと落ちそうになったら変わるようにリカルドとキシュアに言ってる」

「あ、そういえば、あの2人も無理をしてたんじゃ?」

「その2人は交代で休んでいるから大丈夫だ」

「いや、なんで交代してなかったの?」

「交代をする予定だったぞ。この後リカルドとな。ま、その前に2人が終わったからこっちと交代になったわけだ」

「なるほど。それではそこまで無理はしてなかったのですね」

「監視する時間が伸びたのは間違いないからな。本人たちの前でいうなよ? 8時間も監視をしていてそこまで無理をしていないとかな」

「そうですね。ま、こんなことを言う2人ですし、8時間頑張ってもらいましょうか。俺たちは休みましょう」

「そうだな」


そう言って、俺と田中さんも布団へ向かい。


「「ちょ、ちょっと!?」」


そんなことをいう2人を無視して眠りにつくのだった。


「落ち着いて2人とも。私とセイールが代わるからさ」

「うん。だから、がんばろう」


と、ノールタル姉さんとセイールに説得されている声が聞こえた気がした。

甘いよな。ノールタル姉さんたち。


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