第27射:密会

密会



Side:タダノリ・タナカ



「木の上に……うわわわ!?」

「晃、どしたのって、うぎゃー!?」

「わらわらいますわね。どこかのパニックホラーですか……」


大和君の言うことに同意。

結城君が言った場所にはスパイダーが木の幹にわらわらと群がっている姿は、2流のパニックホラーを彷彿とさせる。

いや、人食い蜘蛛なんだから、間違いなく、パニックホラーなんだろうな。

そして、叫び声に反応にしたのか、俺たちの存在に気が付いたのか、木からわらわらと降りてきて、こちらを目指して走ってくる。


「ぎゃー!? きもっ!?」

「晃、女の子みたいに怖がってないで、排除、排除!!」

「そうですわよ!! 一匹でもこっちに近寄らせたら、今日の食事は蜘蛛三昧を食べさせますからね!!」

「ちょっ、それは、えーい!! ウィンドカッター!!」

「アイスボム!!」

「岩之槍!!」


そんなことを言いながら、魔術で近寄られる前に排除するのだから、慣れたものだ。

まあ、魔物なんてどんな能力があるのかわかったものではないから、近接戦をするのはそれしか手段のない者に限るそうだ。

尤も、魔術をここまで扱える人物はそうそういないので、この世界の冒険者や兵士などは、どんな隠し玉をもっているかもわからない魔物相手に接近戦をするのが当たり前のようだ。

実に恐ろしく、実に勇敢なことだ。新兵器相手の戦場を彷彿とさせる。

そんなことを考えていると、迂回してきたスパイダーが俺に向かってきたので、槍で串刺しにする。


「よっと、こっちは通行止めだ」


確かに足は速いのだが、餌という俺に一直線に向かってくる単純思考なので、撃破にそこまで苦労はない。

恐らく、今までの動きからみて、ほとんど移動音がしないことからの奇襲がメインなのだろう。

このスパイダーは冒険者ランク的に3なのだそうだ。

2がゴブリンやウルフがいることから、上位の魔物に分類されているようだ。

そして、大和君が言ったように、この蜘蛛食えるらしい。

身が特にうまいらしい。

いや、知っているよ、分類的に蜘蛛は節足動物に分類されていて、その中には甲殻類、カニも節足動物として含まれて、案外カニの味がするとか、地球でも蜘蛛を喰うという話は聞いたことがある

すまん、実際食べたことがある。

それなりに食える。が、地球上の蜘蛛はこんなに大きくないので、身を食べるのではなく、そのまま揚げて丸かじりというのが普通だ。

まあ、日本では普通にゲテモノ食いになるから、結城君たちにとっては、蜘蛛の食事コースは地獄でしかないだろう。

特に大和君は先ほど、蜘蛛に押し倒されたから、嫌悪感はすさまじいものがあるだろう。


「いやー、タナカ様は動揺しないですねー。私も初めての時は、おどろいたんですよー?」


メイドのヨフィアはつまらなそうに、俺が串刺しにしたスパイダーに止めを刺しながらそう言う。


「いや、十分驚いているぞ。ただ、場慣れしているせいでな。慌てたり固まったりすることが少ないだけだ」

「流石は、タナカ殿ですな」

「相変わらず、驚きの動きですね。迷いなく、スパイダーを縫い留めましたね」


リカルドの褒め言葉はともかく、キシュアのは褒めすぎ、偶然だからな。

パージ、分離して動くのは虫の得意技だから、警戒はしてたぞ。


「凄まじいですね、タナカ殿は。本当にレベル1なのかと疑いたいぐらいの腕前ですね。ローエル姫様……ではなく将軍にくれぐれもと言われていたのですが、出る幕がありません」


副官であるシェルノも驚きを露わにしている。

……魔物とか戦争とか、驚異が多く、経験している世代が少ないのか、こういうことで驚くものが多い。

まあ、シェルノもローエル将軍の副官なだけはあり、簡単にスパイダーを倒してはいるから、腕前はちゃんとあるのだろう。

いや、レベル1だというのが問題なのか? レベルが低いというのは対外的に弱いという証明だからな。

そういえば、俺を守るように、ローエル将軍の部下は配置についていた。

それをするりと抜けて、スパイダーを槍で縫い留めたのに驚いたのだろう。

だって、スパイダーの奇襲に俺よりも反応が遅かったんだから仕方ない。


「ま、俺がレベル1なのはいいとして、この量は特に問題でもないのか? 普通なのか?」


俺たちが喋っている間に、結城君たちは正面から迫ったいたスパイダーを片付け終えて、嫌そうに、スパイダーの魔石を取るために解体していた。

しかも、このスパイダー、魔石以外は肉を食うほかは特に買い取れる部分もなく、食べない大和君たちにとっては最初から最後まで嫌な生物でしかない。

食べられる人たちからすれば、魔物も退治できて、ごはんも得られる一石二鳥の魔物なのだが……。

まあ、それを言うと毛皮を利用できるウルフとかの方がマシだよなー。

と、そこはいい、目の前に散乱している死体は少なくとも10匹はいるのだ。

これは普通の事なのだろうか? そう思って、シェルノの聞いたのだが……。


「ここまでまとまっているのは珍しいですね。スパイダーの繁殖期にでもあたったのでしょうか?」


と、大和君たちの顔を青ざめさせる発言をしてきた。


「普通は見かけるウルフやゴブリンもいませんし、餌として捕まったと考えるのが普通だと思います」

「あ、あのー、親蜘蛛、スパイダーがいるかもってことですよね?」

「ええ。状況的に考えれば、その可能性が高いです」

「それって、ローエルさんが危険じゃない? 僕たちより人数少ないんだよ?」

「あははは。あのローエル姫様がスパイダーの数十匹、親であるジャイアントスパイダーに負けるわけがありませんよ。盾姫の名は飾りではありませんから」

「凄い信頼関係ですわね」

「これでもローエル姫様とは長いもので、万が一危険だとしても、逃げるぐらいはしてのけますよ」


なるほど、絶大な信頼から成り立っているのか。

まあ、軍でも要請や命令もなしに、援軍に行くとかないからな。

ある意味、ちゃんとした部隊なのだろう。

リカルドがいた近衛とは大違いな気がする。


「大物はローエル姫様がやってくれるでしょうし、私たちはこのまま退治を続けましょう」


余りにもあまりな発言だが、シェルノの絶大な自信に結城君たちは何も言えずにそのまま魔物退治を再開する。

ま、俺はこっそりつけている盗聴器でローエル将軍の様子を伺っているのだが、向こうは面白いことになっている。


『大型のスパイダーね。こんな国境付近の町で驚きね』


そう言っている声は聞き覚えなのないもので、ローエル将軍が連れてきた部下ではないのだが……。


『援護はいるかしら? ローエル?』


そう、ローエル将軍を呼び捨てにしたのだ。

それに対してローエル将軍は……。


『時間が惜しい。さっさと手伝ってくれ。セラリアも悠長にここにいるわけにもいかんだろう?』


特に怒った様子もなく、当たり前のように返事を返す。


『それもそうね。許可ももらえたし、さっさと殲滅するわよ!!』

『『『応!!』』』


そんなセラリアという女性の声に揃った返事が返される。

……セラリア、セラリアね。

ああ、確か、ロシュール王国の第二王女だったか?

……おいおい。こんなところで、敵対国の王女様と密会か?

いや、それを言うなら、ローエル将軍も王女様だったな。

ま、そこは一旦置いといて、会話を聞く限り難なく、大型のスパイダーを倒したようだ。

流石、戦場に出ているお姫様というところか。


『これで、この辺りは一旦安心かしら?』

『ああ、助かった』

『でも、やっぱりというか……、変ね』

『と言うと、そっちもか?』

『ええ。こっちの魔王領につながっている森が騒がしいわ。まあ、だからこそ、森の魔物の討伐とか言って、ここまでやってこられたんだけどね』

『やはりと言うか、今回の我がガルツとロシュールの国境争いの激化、作為的な何かを感じるな』

『そうね。表向きはロシュールの我が妹、エルジュが村の民を救うために軍と共に進発したとかなっているけど……』

『エルジュにそんな野心があるわけがない。村は結局逆らったとか言って焦土だぞ? まあ、これだけならロシュール内部の野心家の暴走とも言えるんだが、この件に関してやたらとやり返すべきだという連中がガルツに出てきた。しかも、話し合いなどもっての外といってな』

『ありえないわね。ロシュールが悪いとは言え、いきなり戦争状態突入じゃ、そのほうが被害が大きいわ。せめて、一度話し合う姿勢を見せないと周りの同情も得られない』

『そもそも、エルジュが村を焼き払ったという話からして笑い種だ』

『そうなのよねー。それに、こう言ってはなんだけど、村の一つ、二つで猛反撃するガルツも変よね』

『だな』


どうやら、秘密裏に会って、今回のガルツとロシュールの国境争いの話をしているようだ。

なるほどな。

俺たちはおまけで、こっちが本命だったわけか。

真意がわからないルーメルが召喚した怪しい勇者たち相手に王女様がわざわざ案内を買って出るわけがないよな。


『やっぱり、ロシュールとガルツの争いを煽っている連中がいるみたいね』

『ああ、その可能性が高い。この森の魔物の発生を考えると案外魔王かもな』

『はっ。ここ100年以上も強力な魔物が暮らす場所で静かにしていた連中が、こんな雑魚や、人を唆すような真似するとは到底思えないわね』

『あくまでの予想だ。絶対にないとは言い切れないだろう?』

『それを言うなら、ルーメルやリテアのほうが信憑性が高いわよ。今回の国境争いで、ルーメル、リテアに交易が集中しているから』

『そっちのほうが可能性は高いな』


意外と、政治的なところも頭が回るらしい。


『……まだ判断するには情報が足りないわね。なんとか、国境の進軍を遅らせて調べるしかないわね』

『だな。こっちもよくわかっていない。父上からはロシュール陛下に頼むと』

『こっちもクソ親父から頼むって言付かっているわ。あと、これ、進軍予定ね』

『助かる。ここで足止めをしよう』

『お願い。でも厄介よね。国民的にはエルジュの救済活動ってことになっているから、私たちも表向きに否定できないわ』

『こっちも、そこで困っている。エルジュの救済活動はガルツも認めていたところだ。それで救済した村が反発したので焼き払ったという言い分だけを信じるなら問題ないんだが……』

『占領してるのよねー。意味が分からないわ。とりあえず、町なんかを襲われてもいいように注意だけはしておいて』

『ああ。わかったそっちも気をつけてな』


なるほど、条約の穴をついたような動きをされているから、両国とも反応が鈍いのか。


『じゃ、私は戻るとするわ。と、忘れていたわ。ルーメルが誘拐した勇者様たちはどう見えた?』

『話にならんな。勇者殿たちが弱いとかいうのではなく、何も知らされていないところがだ。ルーメルが自国の評判を上げるためだけに呼び出したとしか思えん』

『はっ。屑もいいところね。幸い、こちらに魔王討伐の支援をしろと言ってないのが救いかしら?』

『それも、勇者召喚に巻き込まれた、勇者殿たちの保護者の人物がやめろと言ってやめさせたそうだ。支援などもらっても、子供たちを戦場に行かせられるかとな』

『こども? 子供なの? 勇者様たちは?』

『いや、年齢的には私やセラリアよりも少し下、エルジュと近い年といった感じだが、平和な国で過ごしていたようでな。殺し殺される心配もしたことがないらしい』

『十分子供よ。そして、そんな子供を出汁に支援を要請とか頭おかしいわよ。その保護者の人よく頑張ったわね。生きてるの?』

『生きている。幸いその世界で兵士をやっていたらしくてな。強い。と、いい加減別れよう。そろそろ勇者殿たちも心配する』

『そうね。また会いましょう。お互い死ななければね』

『死ぬか。またな』


そうローエル将軍が言うと、セラリア?たちが遠ざかる音がして、ローエル将軍たちも移動を開始したようだ。


「よっと」


俺は再び抜けてきたスパイダーを串刺しにする。


「とどめよろしく」

「任せてくださいませ」


大和君はにこやかに速やかにスパイダーにとどめを刺す。

あれから、しばらく森の中を探索したが、せいぜい3、4匹を見つけただけで、おそらくあの木と、ローエル将軍たちが仕留めた大型のスパイダーで終わりだったのだろう。

あとは、ローエル将軍と合流して、戻るだけかね。



しかし、ガルツとロシュールの争いに、魔王及び、隣国の関与の可能性ありか……。

こりゃ、また調べることが増えるな。



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