第357射:冒険者の地図
冒険者の地図
Side:アキラ・ユウキ
今日はルクセンさんに呼び出されていた。
いや、この前のことに関してかな?
冒険者ギルドにユーリアの支援をお願いしたけど結局何もなくて終わったから何か怒られるのかと少しびくびくしていた。
騒動が明けた次の日はなんか会議をしていたようだし、色々あったのは想像できる。
それが俺たちにとっていいことかどうかはわからないからだ。
つまり、俺たちに危害を加えないとも限らないわけだ。
とりあえずハブエクブ王国とは共同で動くようなことにはなっているけど、冒険者ギルドがどう動くかはわかっていない。
油断しないようにとヨフィアさんからいわれているし、内心俺たちは緊張していたのだが……。
「いやぁ、お待たせしました。ようやく王国側と話がつきまして。どうぞお座りください」
そんな俺たちの心配は杞憂のようで笑顔で話し始め、シシルさんギネルさんがお茶の準備で動く。
「正直な話、王国とあなた方が協力体制になってよかったです。敵対しては王国を捨てるしかなかったですからね」
「おや、こちらにつくつもりだったのですか?」
ヨフィアさんが立ったままルクエルさんにそう答える。
「それはそうでしょう。あの兵器を見て敵対するような判断を下すなんて正気の沙汰ではないですからね。こちらだって命は惜しいですから。とはいえ、捨てるにしても露骨な行動はしませんが」
「まあ、それは当然でしょう。それでご主人様たちをこちらに呼び出した理由をお聞きしても?」
「ああ、そうでした。と、その前に御茶をどうぞ」
話の間にお茶の準備が整ったようで、シシルさんからお茶を受け取って一口のむ。
熱いが紅茶はこういうモノだし口の中に広がる香りが心地いい。
そしてコップを置いたのを確認してからルクエルさんが口を開く。
「それでお呼び出しした理由ですが、普通に情報提供ですね」
「情報提供ですか?」
「ええ。ハブエクブ王国と連携が取れるようになったとはいえ、まだ完全に信用できない。いえ信用してはならないと思っているでしょう? だからこうしてユウキさんたちは私たちのところにシャノンの手紙を持ってきたし、今もこうして私の呼び出しに応じてくれた。違いますか?」
「その通りですわ」
撫子は隠すことなく正直に答える。
というか隠す必要があることでもないからな。
この国がどういう対応を取ってくるかはわからないってことは最初に冒険者ギルドには話しているし、今更なんでこの話をと思うぐらいだ。
「ならば、今度も冒険者ギルド独自の情報は必要でしょう。相手が嘘をついているかもしれない。いえ、気が付いていないことにも私たちは情報提供ができるかもしれませんから」
「……お話はありがたいですが、冒険者ギルドが集めた情報を王国に流す可能性もあるのでは?」
そうだよな。
俺たちが王国にこの情報を流す可能性も捨てきれない。
それは冒険者ギルドにとっては損失になるはずだけど、なぜかルクエルさんは笑顔で。
「別に構いませんよ。必要と感じたのであれば」
「え?」
あっさりと許可を出したルクエルさんの意図が読めずに驚いていると、地図を差し出してきて……。
「正直に言いますと、王国側と冒険者ギルド側の地図に求める情報が違うんです。王国側は町や村、道など。冒険者ギルド側は森や洞窟、ダンジョンなどの位置、魔物の生息域などですね。まあ、かぶるところはあるんですが目的が違うわけです。ほかの情報に関してもです」
「とはいえ、情報を補完し合えるというのはいいことでは?」
「そうですね。いいことだとは思いますが、お互い地図を作ったという矜持もありますし、相手が正しいと認めたくないというのもあるのです。一応協力体制ではありますが、足を引っ張り合いたい気持ちもありますからね」
「……なるほど。私たちと一緒というわけですわね」
「その通りです」
うーん、そういうことか。
ここまで説明されてわかった。
冒険者ギルドも王国側の味方ってわけじゃないのか。
ただ自分たちが仕事場を構えている土地が王国にあるということで力を貸しているというだけか。
まあ、お付き合いはあるからギクシャクしない程度にはってことだろうけど、裏では色々交渉があるってことだよな。
だから撫子は俺たちと同じって言ったわけだ。
俺たちもユーリアが交渉をして協力しようといっているわけだが、全部を教えたわけじゃない。
足元を見られるかもしれないからだし、素直に協力するとも思えないからな。
「なので、ナデシコさんたちがたとえ地図を提供したとしても信じてもらえるか微妙なところです。もちろん、懇意にしてくれている王国内の人もいますが、冒険者ギルドの情報を全面的に信用しても問題があるという人もいるでしょう。なにせ、冒険者ギルドはこの大陸の各所にありますからね。そういう意味でも信用してはいけないというのがあるのですよ」
ああ、確かこれはルーメルの方でも同じだったな。
冒険者ギルドはあの大陸の各国にあるから下手な国家間の戦争に介入はしないっていっていた。
まあ、国々にある冒険者を雇うことは問題ないとか言ってたけどな。
そう考えていると、ヨフィアさんが口を開く。
「それは分かりますが、そちらが正しい情報を渡しているという証明もできないですよね」
と、笑顔でお前ら信用できないとばっさり言ってしまう。
俺たちも流石に笑顔のまま固まってしまう。
相変わらずというか、俺たちに代わって言いにくいことをバッサリ言ってくれる。
良いところでもあるけど短所でもあるよな。
いや、ちゃんと考えているっていうのは分かるけど、心臓に良くない。
そして、失礼なことを告げられたにもかかわらず、ルクエルさんはもちろんのことシシルさんやギネルさんも特に動揺することは無く笑顔のまま……。
「そうですね。正しいかどうかの証明に関しては悪魔の証明となるでしょう。いや、実際に行けばいいんでけどそれを全部調べるのは無理ですからね」
確かに、証明する方法はあるが時間が掛かりすぎるし、それをしている時間もない。
「私たちにできるのは、情報を渡すだけです。とりあえずは私たちの信頼の証として、こちらが持っている地図をお渡しします。魔族との戦いには必要でしょうから。これを信じるかどうかはナデシコさんたち次第というわけです。ああ、もちろん何か気になることがあれば聞いていただいて構いませんよ」
「……ありがとうございます。ですが、見返りなどは何をお考えで?」
「見返りについては、既に契約がされています。あなた方の味方である。まあ、もちろん何かあれば手を貸してほしいというのは以前も伝えました。まあ、元々こちらが不利というか、そちらの力を借りるのには釣り合っていないので、こうして先払いをしている状態ですね。そちらはその気になればこの王都を灰塵にできるのは知っていますから」
「つまり、誠意を示しているというわけですね」
「まあ、端的に言えばその通りですが、ヨフィア殿が言ったようにその地図やこらから渡す情報が正しいかどうかはそちらにはわからない。そこは注意してほしいというわけです」
「王国側に欺かれる可能性があると?」
「その可能性はゼロではないでしょう。なにせ、あのお姫様に脅されたといわれている者がいますからね」
いや、実際どう見ても脅しでしかない。
砲戦外交だよな。
とはいえ、そうでもしないと早急なかかわりが持てないのも事実だなんだけどな。
「こっちとしては王国側が馬鹿なことをしてあなたたちに敵対されるのは避けたい。だからこうして私たちが得られる情報を渡して、王国側が提供する情報が間違っていないのか確認してほしいのです。もちろん私たちに依頼してくれればその情報の精査も行います」
「それは冒険者ギルドとしてはいいのですか? 王国を疑っているということになりますわよ?」
「先ほども言ったように、お互いにいい距離感を保っているだけで、損得を抜いた仲良しというわけではないのです。今回に限っては王国側があなたたちと戦う姿勢を見せれば、冒険者ギルドは迷うことなくあなたたちに付きます。そういう意味です」
「わかりました。それなら早速ですが、冒険者ギルドは王国に呼び出されて何を話したのですか?」
そういえばそうだ。
なんで冒険者ギルドを王国が呼び出すことになったのか。
「ああ、それは単純な話ですよ。ユーリア姫たちのルーメルと手を組んで魔族に当たることになった。なので冒険者ギルド側もなるべくユーリア姫たちに協力してほしいという話です。向こうはあなたたちがこちらに入り込んでいるというのを知らないですからね」
「ああ、そういうことですか。しかし、本当に気がついてないのでしょうか?」
「気がついていませんね。確かにシャノウの領主からの伝令もありあなたたちの存在は知られていますが、一緒に来ていないと判断されているか、ただの護衛としての価値しか見出していないようです。まあ、謁見の時に連れていなければそこまで重要度が高いかといわれると、私も同じ判断をしてしまうでしょう」
「なるほど。とりあえず、まずはその王国側からの監視などが私たちについていないか確認をお願いできますでしょうか?」
「まずは周りの確認ですね。シシル、ギネル。そこらへんはどうですか?」
どうやらシシルさんやギネルさんはそういう役わりもあるようだ。
まあ、確かに連絡役のためだけに来ているわけないか。
「今の所王国側からナデシコ様たちの監視は来ていないです」
「はい。冒険者ギルドにはいつもよりも増員していますが」
「まあ、この状況だ。下手にルーメルにちょっかいを出されないかと心配しているんでしょう。ま、事実でもありますからね。とりあえず、改めて調査をしてそちらに報告いたします」
「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
ということで冒険者ギルドの正式な協力の証として地図を手に入れることができた。
これをさっそく持ち帰って田中さんやゼランさんと話し合いだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます