第85射:会議室へ

会議室へ



Side:タダノリ・タナカ



バカを空砲で脅して、あっさり吐かせたあと、のんびりと俺たちは朝食をとっている。


「いやー、驚いたよ。田中さん、あの伯爵を撃ったものかと」

「ええ。普通に発砲音までして驚きましたわ」


ルクセン君と大和君は俺の行動によほど驚いたようで、朝食が始まってもあの時の行動を話している。

とは言え、俺は別に必要もないのに人を殺す趣味はないから、否定はしておこう。


「よくある手だからな? 空砲撃ちで相手は結構気絶することは多い」


映画とかドラマ、漫画などでよくある演出だが、実際にも多い。

死の恐怖が目の前にあるからな。

これで発砲音が聞こえれば失禁して気絶する奴はかなりいる。

そして、訓練された兵士ならともかく、一般人はこの脅しで大抵は何でも白状する。

「銃」と言う物を知っていればな。

知らなければ「銃」はただの変なモノにしか見えない。

良くて、鉄の杖って反応だな。

ということで、あの反応を示した伯爵は……。


「明らかに銃におびえていましたもんね。あれで知らないはないでしょう」

「アキラ殿の言う通りですな。ジョシーという女を呼び出したのは伯爵で間違いないでしょう」

「しかし、気になることもあります。なぜ姫様もろとも亡き者にしようとしたのでしょうか? それでは、地位向上も望めないと思いますが」

「そういえばそうですねー。でも、あの女が勝手に判断したことではー?」

「いや、それはない。暗殺というのは対象だけを殺すのが目的だ。他の者まで巻き込んでは困るということがあるから、暗殺を頼んだんだ。それで、国の要人であるお姫さんまで邪魔だから殺そうとは思わん。というか、俺たちを殺したいだけなら、あそこに殴りこむか?」

「「「あ」」」


そう。俺たちの暗殺だけが目的ならわざわざ、お城に来ている時、しかもお姫さんと話している時を狙わなくていい。

町中の方が圧倒的に楽だ。

つまり……。


「うわぁ、本当に僕たちだけじゃなくて、お姫様殺すつもりだったんだ……」

「しかし、なぜ、お姫様まで?」

「田中さんはなぜだと思いますか?」

「さあな。詳しい話はあの伯爵が喋ってくれるだろうが、お姫様が俺たちと同じように邪魔になったのは間違いないだろうな」

「姫様が邪魔と? 今まで、協力してきたのにですか?」

「だからこそだろう? 役に立たないというか、俺という厄介な相手を引いて上手く使えなかったんだ。ならば自分で功績を上げたくなったんだろう。ほれ、姫様に任せて勇者殿たちは出て行ったからな。そして、ジョシーを使って一掃して、犯人は俺か結城君たちのせいにでもして、自分が勇者を召喚したとでも言うつもりだったんじゃないか? ま、予想でしかないけどな」


もっと他の理由があるのかもしれないが、俺が想像できるのはこんなところだ。

まあ、魔族と繋がっていたとかありそうだが、そこを喋れば無駄に騒ぎを広げることになるし、色々な意味でまた警戒されるだろうからな。


「うへー、最悪」

「でも、あり得そうですわね」

「漫画やドラマでよくある奴だな。濡れ衣を着せられるってやつ」

「ま、よくある話ではないが、俺たちの立場だとこういうのはあるだろうから、気を付けておけ。迂闊な発言で、妙な責任を負わされるからな。勇者様が許可したーとかな」


勝手に名前を使うのはよくあることだ。

アホな奴が結城君たちの言ったことを拡大解釈してな。


「いやすぎるー」

「責任ある立場は大変ですわね」

「全然関係ない生活だったんだけどなー」

「まあ、望む望まざるに関わらず勝手にそう言う立場になるもんだ。さて、雑談はここまでにして、さっさと飯を食うぞ」


俺はそう言って、用意された朝ご飯を食べ始める。


「どうせこの後も長い話が続くんだ。食べておかないと、話の最中で、おなかすいたとかは言えないぞ?」

「あー、そうだね。たべよっと」

「なんか懐かしいですわね」

「まあ、初めてこの世界で食事をしたところだからなー」


結城君たちも納得して朝ご飯を食べ始める。

ここら辺はすっかりなじんでくれたよな。

昨日は大量の発砲殺人事件に、さっきは伯爵の嫌な場面を見たというのに、しっかり朝ご飯を食べているんだ。

これをなじんでいると言わずになんと言うのか。

本人たちはまだまだと思っているが、ここにいる期間で考えれば物凄い成長だ。

まあ、向上心を失ってほしくないので、これを言うことはないが。

正直な話、ここまでに誰か一人二人は脱落すると思ったんだがな。

死ぬとかそういうのではなく、心が折れるとかいう方向で。

前も考えたが、そういう心の強さも考慮して、あのお姫さんは呼んだのかもしれないな。

ああ、元から未来予知に沿ってだから、元々耐えられることが確定していたのかね?

と、そんなことを考えだしたらキリがない。

結城君たちが頑張ったからこそある今だからな、確定していたとか侮辱だな。

そんなことを考えていると、兵士から声がかかる。


「勇者様方。ご朝食中失礼いたします。陛下が伯爵のことでお呼びです」


意外と早かったな。

伯爵の尋問で時間がかかるかと思ってたが……。

まあ、朝飯を既に食べてたのが幸いしたな。

これから長い話になるだろう。



そうして、俺たちが案内された場所は、謁見の間ではなく、会議室のような場所だった。

中ではお姫さんが既に座っていてカチュアが横に控えていた。


「お、カチュアさん元気そうだね」

「何か体に違和感はありませんか?」

「はい。ヒカル様、ナデシコ様たちのおかげで、何も後遺症なく生きております」


そう言ってカチュアもすぐに返事を返す。

どうやら、本当にルクセン君の回復魔術は上手くいったようだな。

いやー、あの死体をここまで戻すなんてな。

本当に便利な魔術があったもんだ。

さて、それはいいとして……。


「で、お姫さんの方は、あれから何かわかったか?」

「いいえ。伯爵はまだお話を聞いている途中です」

「お話ね」

「ええ。お話です」


それはさぞかし痛いお話なんだろうな。

色々全部喋ってもらうために必要だから仕方ないか。


「ふむ。ユーリアが言ったことは嘘ではなかったか。タナカ殿と和解したというのはいささか信用ならなかったが」


そんな声が聞こえた方向へと振り向くとルーメル王がそこに立っていた。


「ええ。私は嘘は申しません」

「嘘はな。だが隠し事が多すぎる。今回のドトゥスの件についても、勇者殿たちのことについてもだ。おかげでどれだけ我が国が危機に瀕したと思っている」

「お叱りはごもっともですが、必要なことだったのです。魔王との決戦が終わるまではどうしても勇者様たちを帰すわけにはいきません」

「……また、未来予知の話か」


どうやら、王は姫さんの未来予知スキルを知っているようだ。


「お前の懸念はわからないでもないがな。本来、そういうことは我が国、我が世界の者たちで解決するべきことだ。このような、若者たちを連れてくることではない。と、何度も言ったな。そして、ドトゥス伯爵を巻き込み、というかアレを調子に乗らせて、召喚を強行した結果がこれだ」

「……」


確かになー。

姫さんの未来予知スキルを信じるとしても、おかげでお城の中は大損害ときたもんだ。

これで何もありませんでしたじゃ、すまないよな。

王の言うように自国でトラブルは解決するべきというのは、基本的に当たり前のことだしな。

どうしようもなくなってから、ほかを頼るもんだ。

安易に周りを頼っていたら、いざというとき助けてもらえなくなるからな。

わかりやすいのが、銀行からお金借りるとかな。

とは言え、今は関係のないことか。


「まあ、王様、そこら辺で終わったことに対する説教はいい。反省しているのは俺たちも知っているからな。わざわざ目の前で小芝居をしなくていい」

「……小芝居のつもりはなかったのだが、端から見ればそうだな。うむ。では、昨日の話の続きだ」


そう言って、ルーメル王は合図を送ると、部屋に荷物を持った兵士が多数入ってきて、テーブルに色々物を置いていく。

書類らしきモノだったり、武器だったり、変な道具だったりと、様々だ。


「これらはドトゥス伯爵の屋敷から押収したものだ。まだ伯爵は尋問中だがな」

「お父様。召喚陣のほうは?」

「それは、マノジルから説明してもらおう」


そう言うと、今度はマノジルの爺さんが入ってくる。

足に弾が当たったのは、ルクセン君が治したようで、普通に歩いている。

いや、年寄りのケガも早く治せるっているのは本当に便利だよな。


「はっ。伯爵の屋敷で、確かに召喚陣を確認いたしました。それと魔力を補うために殺したと思われる、流れの魔術師や冒険者の魔術師の遺体も……」


おいおい、そこまでしてたのかよ。

というか、そういう血なまぐさい呼び出し方をしたら、ジョシーがでてなんの不思議もない。

あいつはそう言うのが大好きだからな。


「しかし、ドトゥスはなぜそのような強行に走ったのか。あやつは、基本的にこういうことに手を出せるほど肝の据わった奴ではないはずだが……」

「本人は一貫して、姫様の指示と言っておりますな。他の勇者様を呼び出し、今の勇者様たちを処分させると」

「そんなことは決して言っておりません!!」


マノジルの発言に怒鳴って否定をするお姫さん。


「ユーリア、落ち着け」

「……失礼いたしました。ですが、そんなことは決して指示も出しておりませんし、口に出してもおりません。それだけは信じていただきたいです」

「それは、私は疑ってはおらん。未来予知したという話だからな。それに、私の反対を押し切って勇者殿たちの召喚したあとは大人しくしておったからな。害意がないのは分かる。そもそも、あの女が襲撃してきた際にお前も始末されそうになったのは知っている。ただ、ドトゥスの動機がさっぱり分からんのだ」


確かにな。ああいう強い物に巻かれる感じの男は自分から動こうとはしないな。

意外と、行動力がありましたってならいいんだが、何か別の者が動いてたとなると、面倒な話になるな。


「まあ、ドトゥスがなぜ勝手な行動にでたかは、今は良い。考えても詮無きことだ。それにもう言い訳のできん状況だ。その理由は嫌でも喋ることになるだろう。あいつが最後まで黙っているほどの気概があるとも思えないからな」


散々な評価だなドトゥス。

そして、それを利用したお姫さんは悪女だな。

これが無ければドトゥスは死ななかっただろう。


「今の問題は、召喚技術の流出だ。勝手に誰かが別の世界から人を呼ぶなど認めていいものではない。ただの誘拐だ。それは、タナカ殿がこちらに来てから最初に指摘したことだ。私たちも勇者を呼ぶならと、気の迷いがあったが、今は違う。あの女が呼ばれたことで実感してしまったのが口惜しいが、呼ばれるモノすべてが好いモノであるとも限らぬ。召喚術は未来永劫破棄する。これは良いな?」

「「「……」」」


ルーメル王に反論を口にするものはおらず沈黙だけが続く。

まあ、これだけ被害がでた召喚をしようとは思わんよな。


「そして、ユーリアは何としても勇者殿たちを故郷に帰す手段を見つけるのだ。未来予知の話はわかるが、やはりこれはやりすぎであり、我が国をただの人さらいの国と貶める所業だ」


厳しいように聞こえるが、当然の話だよな。

だが、姫さんは厳しい目をして……。


「勇者様たちが帰る手段は必ず見つけます。ですが、あの未来を越えるまでは、勇者様たちにはこの世界にいてもらいます」

「ユーリア、何度言えばわかる。この世界の問題は……」

「失礼します」

「ユーリア!!」


なるほど、頑固なわけだ。

そんな、姫さんを見送って俺たちは会議室に残るのであった。


はぁ、これからまだまだ話は続くわけか。


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