第71射:伝手

伝手



Side:タダノリ・タナカ



話が終わったあとは、結城君たちは先に退出させて、俺はクォレンだけになる。


「で、情報を集めるといったが、どうするつもりだ? ルーメルには大した伝手もないだろう?」

「さあな。ま、本人たちはやる気なんだ。警戒しているのは悪いことじゃない」

「まあな。しかし、貴族たちはどうやってでも、彼らを取り込もうとするぞ? そうでもしないと国として終わるからな」

「大義名分が無くなるのはまずいよな」


魔王を退治するために勇者を呼んだ国が、勇者を暗殺しようとしましたとか、笑い話でしかない。

さっきも言ったように、魔王の一派とみられて囲まれて殲滅されるだろうな。

ガルツにリテアと見て回ったが、魔物、魔族が悪だという認識はどこも変わりない。

そんな状況で、魔族に手を貸して勇者を始末とか、周りの国から見れば敵でしかない。


「なるようになるさ」

「まったく、その顔だと伝手はあるみたいだな」

「おう。紹介して欲しかったらその時に言うさ」


俺はそう言ってクォレンの部屋を出て結城君たちと合流する。


「出てくるのが遅かったけど、何を話してたの?」

「いや、普通に情報を集めるにしてもどうするつもりだってな」

「どうするって、聞き込みをするんじゃないですか?」

「それで、必要な情報が集まると思うか?」

「……それは、地道にやれば」


俺が聞き返すの大和君が気まずそうに言う。

本人たちも、簡単に情報が集まるとは思っていないようだ。

そう思っていると……。


「あ、そうだ。田中さんがさっき上で話しているときにさ、ドラゴンバスターズっていう、闇ギルドの討伐の時に助けた冒険者たちにあってさ。裏路地とかスラムのところに情報屋があるって聞いたよ」

「そうだった。そこに行きましょう」

「お金はありますし、問題はないかと」


へえ。当然といえば当然だが、冒険者たちも独自の情報網は持っているもんだな。


「そこはいいな。で、詳しい場所は聞いているか?」

「ううん。ドラゴンバスターズにまた詳しく聞いてみるよ」

「ゆっくりするって言ってたよな」

「受付の人に聞けばわかるかもしれません」

「じゃ、それは明日だな。まずは宿を決めよう」


意外とすんなり次の目的が決まったのはいいことだが、ルーメルで過ごす宿を決めていない。


「前の宿屋は?」

「あそこはやめておけ。監視されている可能性があるからな」

「ああ、取り込むって話ですか」

「面倒ですわね。あそこはお世話になっていい人たちで好きだったんですが、襲われでもしたら、宿に迷惑をかけることになりますわね」

「まあ、そう言う心配もあるよな。だから、迷惑をかけないためにも宿は変えた方がいい。幸いお金はあるからな。宿探しには困らない」


どの世界でも先立つモノは金ということだな。

人よりも金、悲しきかな。だが、金は裏切らない。

インフレとかになって価値が暴落しない限りは。

戦時国家ではたまにあるんだよな。その国の紙幣がただの紙切れ同然になることが。

信用って大事だよなー。そして、お金は難しいというのがよくわかる。

ただ作ればいいだけではないのだ。

と、そんな理由で、俺たちは一度ギルドを離れて、それなりの宿で部屋を借りることになる。

高いだけあって、部屋はキレイで内装も豪華だった。

前のただ寝るだけの前の宿屋とは違いすぎる。しかしながら、人暖かさは向こうが上だったな。

大和君と同じで、俺もあちらのおばちゃんと話すのは面白かったから居心地はよかったんだが、そうもいかんからな。

とは言え、それでも精々ビジネスホテルぐらいだが。


「うひゃー。ベッドが柔らかい。ちくちくしないよ」

「藁のベッドじゃないからな」

「とは言え、あの草の香りがするベッドも嫌いではなかったのですが」


3人は各々、新しい寝床を試して楽しんでいるようだ。

それとは別に、大人たちは難しい顔をしている。


「タナカさまー。正直にいいますけど、アキラ君がスラムの裏路地に行くのは絶対反対ですよ? あんな可愛い純真な子はパクッといかれちゃいます。というか、監視がこの宿に届いてないとか甘い話ですよねー?」

「ヨフィアの意見に賛成です。スラムの裏路地は危険極まりないです。犯罪の温床となっています。どうも気が乗りませんな」

「街で税を集めていたのでよくわかりますが、あそこは本当に危険です。裏の情報などは確かに集まりますが、暴力、盗み、強姦は当たり前、殺しも普通に起こっています。勇者様たちには、対応できることではないかと……」


スラムなんてそんなものなんだが、きっと結城君たちが思い浮かべているスラムっていうのはただの不良の溜まり場くらいという可能性もあるか?

今まで、散々この世界の厳しさを見てきたからそこまで過保護にしなくてもいいとは思うが……。

……ああ、そういう相手の仕方は教えてなかったな。

スラムに住む連中は街に住む連中とはルールが違う。

結城君たちの対応の仕方ではトラブルが起こるのは目に見えているな。


「話はわかったが、結城君をずいぶん気安く呼ぶようになったな。ヨフィア」

「ええ。馬車の中で色々話しましたから、もうすぐ私だけの勇者様になる予定ですよー」

「そりゃ気の早いことで、結城君、避妊はしとけよ」


と、若者に注意をしておく。

ヨフィアはこれでも使えるからな。


「いや、そんなことしてませんってば!?」

「うわー。晃、けだものー」

「ヨフィアさんの胸をよく凝視していましたからね」


まだまだ反応を見る限りチェリーか。


「まだ先は遠そうだな」

「だからいいんですよー。私好みのいい男に育ててみせましょー」


逆光源氏か。


「ま、人の色恋に口を出すことはないが、敵対するなら、結城君も含めてBANGだからな?」

「わかってますってー」

「しませんよ。そんなこと」


だといいがな。

色々しがらみが増えるからな、恋人がいると……。

ふっ、恋人がいることがしがらみか。笑えて来る。俺には一生、恋人なんて無理だな。


「ま、3人の言いたいことはわかった。結城君たちもヤーさんの相手をしたことはないだろうからな。スラムに行くときは俺たちがついて行く。傍を離れない。どうだ?」

「まあ、それならば」

「3人だけで行くのが心配でしたからねー」

「私たちがいるなら問題ないでしょう」

「で、3人は無理に自分たちだけで情報を集めてみたいとかあるか?」


チャレンジしたいというのなら、俺たちが後方で見守るという方法もあるんだが。


「いやいや、そっち系の人を相手にしたことはないから、田中さんたちと一緒でいいよ。というかついて来て」

「まともに話せると思えませんから、ついて来て下さい」

「流石に私たちでスラムを歩けるとは思っていませんわ。田中さんたちもしくは他の同行者を募ると思いますわ」

「なら、そのドラゴンバスターズと連絡を取って、場所を確認したらスラムの方に行くとしよう」


そういう感じで、情報収集の話がまとまったのだが、不意にルクセン君が……。


「そういえば、田中さんは何か情報を集める伝手があるの?」


そんなことを聞いてきて視線が集まる。


「一応、1人2人はあてがある」

「誰ですか?」

「1人は、俺たちが最初にお世話になった飲食店のおやじだな」

「ああ、私たち新人を雇ってくれた場所ですわね」

「確かに、あそこならいろいろ噂話聞けるかも。明日、依頼が無いか聞いてみようっと」


そう、新人の仕事先とは別の意味で、あの場所には噂話という旨みがある。

嘘か本当かわからないが、俺たちが安全に情報を集めるには丁度いいだろう。


「でも、あそこは色々人が集まるので、あそこで働いていればお城の人にばれるのでは?」

「別に何日もあそこで働くわけじゃない。というか、働く前にあそこの店長に話を聞いた方が早いかもしれないしな」

「納得。あの店長なら色々知ってそう」

「なるほど。お客さんで行けばいいのか。なんかいつも働いていた場所だから、行くなら働かないとって思った」

「私も働くばかりかと。頭が固い証拠ですわね」


まあ、働いていた店に飯を食べに行くというのはそうあるものじゃないからな。

普通は他の店に行って他の味を楽しむものだ。

働いたことがある場所はいろんな意味で気を使うからな。

だが、今回は別というやつだな。


「じゃあ、人が集まるのは夜だし、それまで自由?」

「いや、光。ドラゴンバスターズに話を聞きに行くんだろう?」

「情報屋の話ですわね」

「あ、そうだった」

「じゃ、そっちは頼む。俺はマノジル爺さんに会って来ようと思っているからな」

「え? マノジルさんに?」


俺がそう言うと、驚いた顔をで全員がこちらを見てくる。


「そうだ。あれ以上に城の事情に詳しい知り合いもいないだろう」

「でも、それは危険じゃないんですか?」

「そうです。私たちを取り込もうと……」


そう大和君は言って、あることに気が付いた。

リカルドも理解したようで、頷いている。


「確かに、タナカ殿ならば、正面から城に殴り込めますな」

「なるほど。確かに」

「もう、タナカさんだけでいいじゃないんですかー?」

「馬鹿。誰が堂々と殴り込むか。こっそりだよ、こっそり」


殴り込むぐらいなら、前も言ったが城ごとまとめて爆破だ。

誰が一々戦闘なんて自分の身を危険に晒すような真似をするか。

映画みたいな撃ち合いなぞ、現実ではありえん。

拠点を占拠したいのなら、まあ撃ち合いは多少あるだろうが、拠点を攻める際はもう勝敗が決まっているようなものだからな。

強襲で一気にけりがつく。


「ということは、スネークってわけだね、田中さん」

「蛇? まあ、よくわからんが隠密でこっそりだな」


俺がそう返すと、ルクセン君は少し悲しそうな顔をして……。


「分かってもらえなかった」

「いやいや、さっきのは光が悪いだろ? というか自爆だろうに」

「光さんが落ち込んでいるのはいいとして、でもわざわざお昼に会いに行くんですか?」

「ん? ああ、いやいや。俺は今から行ってくる。そうでもしないと朝からになると、夜のお店に合流できるか怪しいからな。早ければ朝の内に戻ってこれるだろうが、下手をすると、また夜になるからな」


やはりこういう潜入するときは夜の闇に紛れるのがいいのは、この世界でも変わらないってわけだ。


「そうだよねー。流石に朝から忍び込まないよね」

「田中さん。余計な心配かもしれないけど、気を付けてください」

「ええ。どうか無事に戻ってきてください」

「ああ。ありがとう」


こういうところが、まだ擦れていないというか、こっちの世界に染まっていないって感じがするよな。

まあ、だからこそ守る意味があるのだが、こっちにどっぷり染まってしまえば、地球に戻ったとしても問題だらけで、俺の責任問題を問われることになるかもしれん。

これは俺の為でもあるってことだな。

そんなことを考えて不意に思う。

……俺もなんらかの理由をつけて、結城君たちを守りたいのかね?

それとも、俺の理性を守っているのが、彼らなのかもしれないな。


「田中さん、どうしたの? 考え込んでるみたいだけど、何かあった?」

「いや、ただどのルートが人が少ないかを考えてただけだ。さて、ルートも決まったし行ってくる。俺はいないが、くれぐれも一人で動かないようにな」


全員が頷くのを確認して、俺は部屋をでて行く。


「なるべく早く戻ってくるが、何かあればちゃんと考えて自分たちで動けよ」


最後にそう言って、俺は夜のルーメル王都へと出て行った。


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