レベル1の今は一般人さん

雪だるま弐式

一般人異世界に立つ

第1射:一般人異世界に立つ



やっはろー、俺は田中忠則(たなかただのり)中堅下請け会社に勤めている25歳。

なんか、お約束みたいに異世界に呼ばれましたけど、俺のステータスは以下の通りでありました!!


いかん混乱していてちょっとテンションがおかしい。



名前:田中 忠則 表記はこっち:タダノリ・タナカ

種族:人族

身分:地球の一般人

性別:男

職業:株式会社(有)ワールド・システム プログラマー・雑用主任

年齢:25歳



Lv.1

HP:30

MP:10

STR(筋力):15

DEF(防御力):13

INT(賢さ):320

AGI(素早さ):32

LUK(運):2


スキル

地球で取得したスキル 魔力代用スキル(魔力で代用出来る)




あ、因みに一緒に召喚された若者3人は以下の通りであります。



一人目の青年はTHE勇者ってみたいな子。


名前:結城 晃 表記はこっち:アキラ・ユウキ

種族:人族

身分:異世界からの救世主

性別:男

職業:閃光の勇者

年齢:18歳



Lv.5

HP:520

MP:400

STR(筋力):210

DEF(防御力):160

INT(賢さ):180

AGI(素早さ):330

LUK(運):90


スキル

剣の才能LV3 

光魔術LV2 

回復魔術LV2 

勇者の資質(ステータス上昇、LVUP時の上昇率UP)

天凛の才(スキル習得が早くなる)



次に見事な日本美人。


名前:大和 撫子 表記はこっち:ナデシコ・ヤマト

種族:人族

身分:異世界からの救世主

性別:女

職業:日ノ本の勇者

年齢:18歳



Lv.6

HP:230

MP:820

STR(筋力):90

DEF(防御力):120

INT(賢さ):880

AGI(素早さ):130

LUK(運):120


スキル

刀の才能LV3

扇の才能LV4 

五行術LV4(木・火・土・金・水・魔術行使可能)

勇者の資質(ステータス上昇、LVUP時の上昇率UP)

天凛の才(スキル習得が早くなる)



最後にハーフなのかな?それでもものすごい美人な子だ。


名前:光・アールス・ルクセン 表記はこっち:ヒカリ・アールス・ルクセン

種族:人族

身分:異世界からの救世主

性別:女

職業:懸け橋の勇者

年齢:18歳



Lv.5

HP:150

MP:450

STR(筋力):120

DEF(防御力):140

INT(賢さ):570

AGI(素早さ):110

LUK(運):100


スキル

剣の才能LV2

槍の才能LV3

盾の才能LV4

弓の才能LV4 

光魔術LV3

水魔術LV2

回復魔術LV2

勇者の資質(ステータス上昇、LVUP時の上昇率UP)

天凛の才(スキル習得が早くなる)



まあ、ご覧の通りです。

25歳の自分は18歳の学生諸君に数字は完全に負けている。

あと、これが一般人の平均なのかと言われてもわからないが…。


「…すまぬ。間違ってお主を召喚したようだ」

「も、もうしわけありません!!」


王様と、王女様が頭を下げている。


「…3人の若者は素晴らしい素質をお持ちの様だ」

「…しかし、あの男はあの歳でLV1とはいったいどんな生活をしておったのだ?ありえぬ、あの歳なら自然と7・8ぐらいまでは上がるはずなのに」

「…いえいえ、稀にいるでしょう。全然LVのあがらない輩が…きっとその部類かと…」


周りの兵士や大臣?みたいな人はそう言ってるので、俺は低いのだろう。


「あ、あのすいません。このステータスは凄いのですか?」


結城君が恐る恐る王様に声をかける。


「おお、すまなかったユウキ殿。そのステータスはかなりの物だ、しかもそのレベルでその数字、鍛えれば必ずや魔王を倒す力を手に入れられるだろう!!」


王様は気を取り直して、結城君に返答する。


「ヤマト様もルクセン様も素晴らしい力をお持ちですわ!!素晴らしい勇者様になられるでしょう!!」


「はぁ、どうも」

「ふ~ん」


大和君にルクセン君はあまり興味なさげだ。

まあ現状いきなり召喚なんてことで、拉致監禁と何も変わらないからな。

しかし、相手は今まで下手にでてるってことは色々と思惑があるのだろう。

魔王を倒せって、まあお約束ですな。


「申し訳ありませんが、一応年長者として、私から聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


一歩前にでる俺。


「貴様!!勇者でもない村人が恐れ多いぞ!!」


なんか、偉そうな鎧着たイケメン?が吠えてくる。


「よい、リカルド。常に若人を導くのが先人の務め。彼の行動は模範とすべきものであろう。して、なんであろうか、タナカ殿?」


「今一度状況を確認したく思います。私達は魔王を倒すために召喚でこの場に呼び出された。これで間違いはございませんね?」


「うむ相違ない。しかしタナカ殿は勇者ではないようだ。先ほど言っての通りこちらのミスである。申し訳ない」


「いえ、それは仕方のない事でしょう。しかし、先ほど伝えての通り私達の国は60年近く戦争を行っておりません。彼らにその役を与えるのは、元の世界の大人として許容しかねます」


「力のない貴様と違う、勇者殿達を一緒にするな!!勇者殿達ならきっと成し遂げる!!」


「リカルド、出来る出来ないの話ではない。タナカ殿は彼等を争いに巻き込むなと言っておるのだ」


「失礼ながらその通りです。剣も矢も持ったことない、平和な時代に生きた彼等にそんなことはさせられません。どうか帰していただけないでしょうか?」


「田中さん…」


後ろから結城君が声を掛けてくる。


「結城君、これはね国家間の問題になりかねないんだ。事実上の拉致。戦闘行為の強制。王様、この国は拉致や同意のない強制労働はどういった処罰になるのでしょうか?」


「…この国では、重罰に処されるな」


「お願いいたします!!私達の国を救ってください!!勇者様達、タナカ様をここに連れてきたのは確かに罪です!!しかし、私達にはこれしかなかったのです!!」


後ろにいたユーリア王女様がこちらに進み出て懇願してくる。


「…国ね。世界ではないんですか?」


俺がそう問うとユーリア王女様は肩をビクッとさせる。


「ち、違います!!国を救うことが世界を救うことになるのです!!」


…わかりやす。そんな王女様を見ているとさっきのリカルドとか呼ばれた兵士がこちらに進み出てくる。


「貴様、先ほどから聞いていれば何たる無礼!!国を世界を救うのになんのためらいがある!!貴様が死にたくないから、情けない事を言っているのではないのか!!」


「リカルド…」


王様が再びなだめようとするがリカルドは止まらない。


「いいえ王よ!!この者の言無視できませぬ。王に勇者として認められた栄誉を蹴り、あまつさえ国家問題だと!!貴様ごときに国が動くわけがない!!そして、万が一戦争になっても我が国が勝つ!!それさえも理解せぬ凡愚が、お前は頷いておればいいのだ!!」


「その万が一戦争になっても、勝てる国から来た人間を勇者に据えるのは駄目だろう」


「違うな、お前らの愚かな国は勇者殿達の才能を見抜けなかったのだ!!我が国にいることこそが彼等にとって正しいあり方なのだ!!」


「いきなり家族や友人から引き離して正しいと言うのか!!」


俺はつい怒鳴ってしまった。流石に拉致したのが正しいなどと言われては我慢はできん。

この言葉で流石のリカルドも黙った。


「…タナカ殿、そなたの言っていることは正しい。だが、すまぬ。そなた達を送り返す手段は持ち合わせておらぬのだ」


「えっ、嘘だよな?」


「…ありえませんわ」


「最悪」


後ろにいた3人もあまりの発言に愕然としている。

ち、お約束通りか、隠しているのか、本当にないのかは判断はつかないな。


「ふむ、なるほど。こちらに選択権は殆どないということですか。後ろの3人は迂闊に手放したくない、返せないと、では逆に聞きましょう。貴方達が彼等に与えられるものは何ですか?」


「こちらでの生活を一生保障しよう。望めば領地や爵位も用意しよう」


王様が待ってましたと言わんばかりに、お約束の言葉を並べ立てる。


「足りませんね、全然」


「なっ!!貴様ふざけるのも大概にしろ!!これ以上名誉なことはないだろう!!」


「もう、お前黙ってろ」


俺はリカルドに睨みを聞かせて黙らせる。


「もう一度聞きます。世界を救ってもらう相手に、その報酬はふさわしいのでしょうか?」


「…」


王様は黙り込む。


「…ああもう!!貴方は勇者でもないくせに五月蠅いですわ!!レベル1の分際で!!衛兵、この者をつまみ出しなさい!!適当に城門前に放りだしなさい!!」


ユーリア王女様が自爆する。

ここでそれ言っちゃだめだぞ…バカ王女。


「聞いたか結城君達、これが力の無い者への対処だ。ここは日本じゃない、しっかり考えて答えを選び取れ。この国は確実に君達を利用することしか考えていない。姑息な手も山ほど使うだろう。俺をこの後捕らえて「魔王に捕まったから助けるには魔王を倒さないと」なんてな」


「ッ!?」


「…はぁ、もうちょっと隠せよ」


「王様、こっちからの条件を言ってやる」


「条件だと?」



「一つ、これ以上の召喚被害者がでない為に、召喚術?や技術をすべて放棄させてくれ。


二つ、俺達を送り返す研究してくれ。


三つ、この城にある文献、知識、全ての開示を求める。


四つ、彼等の同意なしに戦場に送ることを禁ずる。


五つ、四の条件は俺が同意してのみ戦場に出ることを認める。


六つ、彼等の衣食住は絶対に整えること。たとえ戦闘放棄しても守れ。


七つ、勇者の名をつかった、各国に対する政治利用。国内における徴税を禁ずる。


八つ、俺達の4人はいつでも会えるようにすること、一日以上邪魔されるなら条件を破棄とみる。


九つ、彼等3人が1人でも死亡するようなことがあれば、お前ら全員のクビを要求する。


以上の条件を要求する。尚、一つでも条件を満たせなければ、戦闘に出ることは絶対にない。

そして、この約定はこちらの国の言葉、日本語とそちらの国の言葉で三枚ずつ用意すること」


今俺が考えられる限りの条件を付ける。


「なんて厚かましい!!」


王女様が吠えるが、いやー当然だろう。


「…なるほど。田中さんの条件でなら、なるべく勇者として力を振るいます」


結城君が俺の条件を聞いて頷いてくれた。

よし、勇者がこの条件なら手伝うといえば相手は断りずらい。


「流石社会人ですね。その条件なら私も異議はありませんわ」


大和君も同意。


「う~ん、これ以上はキツイね。田中さんいい仕事したよ!!」


ルクセン君も問題ないようだ。


「どうしますか?ルーメル王?」


俺が初めてルーメルという国名をだして王様に問う。


「わかった。その条件を呑もう。しかしだ、なぜ三枚ずつも証文を取る必要があるのだ?」


おいおい、さっきから王女様があくどい事してるのにそれを聞くのか?


「一枚ずつでは、失くした紛失したで言い訳されるのは分かるな。二枚目はお互いに同じ保管所に置くものだ。三枚目については独自判断だがお互いの言葉で書いたものを交換しておくんだ。ないだろうが、書類偽造防止だな。俺の国の言葉はそちらにはわからないだろう?万が一偽装されても俺達の国の言葉は偽装しようがないからな」


「…なるほどな」


「ついでに証文作成時には、第三者に見届けてもらう。全員グルでそっちの言葉で文面偽装されてもたまらないからな。ま、その為にこちらの言語での証文も作るわけだが」


「そちらが、そちらの言語で偽装する可能性もあるのでは?」


「なに言ってやがる。こっちはこれ以上下手に条件付ける意味がない。というより、こっちの偽装があったとしても、基本的にそちらが力が強い。意味わかるよな?」


「…これは証文という名の見極めか?」


「ああ、下手に手を加えた時点で条件破棄決定というわけだ。しかし、真摯に条件を守る限りそっちにとって不利にはならないだろ?こっちには、そちらを信用する要素が一つもないんだ、なんせ拉致されてるからな」


「…わかった。この証文については、なるべく早く場所を整えよう」


「いや、3日後だな。第三者はこちらで用意する。なお、あの条約は今から有効とする。文章ができなくちゃ無効なんて言わないよな」


「…っ。では、そのように」


「よし、それじゃ今日は休ませてもらう。案内頼めますか?」


そうやって、俺と勇者三人はあてがわれた部屋へと戻っていった。



side:ルーメル王


あの青年と勇者殿達が出て行って、この場は荒れに荒れていた。


「まったくなんですの!!あのタナカとかいう凡愚は!!勇者様でもないくせにぺらぺらと偉そうに!!」


「全くです!!王もなんとか言ってください!!これでは威厳が保てませぬ!!」


我が娘ユーリアと近衛隊長のリカルドはもっとも激昂しておる。


「あのタナカとかい男、いっそ毒殺でもしてしまいましょうか?」

「やめておけ、ユーリア。今この場であのタナカ殿が亡くなれば、勇者殿達は確実にこの国を離れよう」


ユーリアの短絡的な考えに待ったをかける。


「それならば、勇者殿達を奴隷に落としてしまえば逃げられないのでは?」


「…リカルド、それでは他国に勇者を奴隷としている国と後ろ指どころか、攻め込まれる原因になりかねん」


リカルドもタナカ殿と相対して頭に血が上りすぎているようだ。


「っく、あのタナカとかいう男。頭だけはまわりますのね!!」


「まったく、その通りですな。男のくせにあのレベル、情けない限りです!!」


そう、あのタナカ殿は一般人でありながら、あれほどの才覚を見せたのだ。

彼等の故郷にはあのような者が、あふれているのだろうか?

あれほどの知恵者が当たり前にいる国か…リカルドの言うように戦争になれば…。

そう、想像するだけで体が震える。


「ええい、静まれい!!あの条約はこちらに不利なところなどはほぼない!!他国からの援助も勇者殿達が魔王を倒してからでも勝手に向こうが持ってこよう。こちらから訴えなければよいのだから」


おお~、と家臣から声があがる。


「役に立たなければ切り捨てればよい、しばらくはタナカ殿の条約通りに行こうと思うが問題ないな?」


そうやって隣の宰相に尋ねる。


「はい、彼等の状況や心境を考えるとこのあたりの条約は当然かと、いささか知恵はまわるようですが、九つ目の件は唯の牽制でしょう。実際に彼等の内一人が亡くなっても。我ら全員のクビを取れるとも、取ろうとも思わないでしょう。なにせ、彼等が戦うのは同意した時のみ、戦死も覚悟ということですから」


「なるほどな。では明日から勇者殿達の訓練を開始するように」


はっ、といい返事が響く。


「王よ、タナカについてはどういたしましょうか?」


リカルドが難しげに顔を歪めている。


「ふむ、外に放逐してもよいが、四つ目の戦闘の同意にも必要。勝手に城下で死なれても勇者殿達に不信感を与える。…しばらくは勇者殿達と一緒に訓練させてみよう」


「はい、ではそのように。しかし、少し自分の立場というのを理解させてよろしいでしょうか?」


嫌らしい笑いを浮かべるリカルド。


「程々にな、下手に大けがを負わせても勇者殿達に不信感がいくぞ?」


「それは承知しておりますとも」


そういって遠ざかるリカルドを見送ってこの場の会議は終了となった。




side:タナカ



「さて、君達にはすまないと思うが勝手に話をまとめてしまった。改めてこの場で謝らせてくれ。申し訳なかった」


俺は結城君達を俺の宛がわれた、小部屋に集まってもらった。

その場で今回の勝手を謝る。彼等の立場を危うくするような事をしたのだ、しっかりと謝罪する。


「いえ、田中さん頭を上げてください。田中さんがいなければ、彼等の良い様に動かされていたと思います」


「そうですわ。…しかし、田中さんだけこの部屋ですか…」


結城君が俺をフォローし、大和君が自分の部屋との違いをみて愕然としている。


「僕は感謝してるよ。…しかし大和の言う通りだね。これが彼等、この国のやり方か…」


ルクセン君はあからさまに俺の扱いに憤っているのか、プラチナの髪のツインテールを揺らしている。


「そこはまあ、あの程度ならこんなもんだろう。国で拉致を実行してるんだから下手に希望を持つとつらいぞ。あの場で切り捨てられなかっただけマシだろう」


「でも」


「君達の気持ちはありがたい。しかし、今考えるのはこれから起こることをしっかり予測を立てて対処していかなくてはいけない」


結城君が俺の扱いに対する意見を言おうとするのを止める。

俺の扱いなんぞ生きていればどうでもいい、大事なのはこれからの手順を間違えば、この3人の若者は傀儡、人形になってしまう。


「どういうことですの?」


「大和君、今一番まずいのは君達の認識だ。いまだ日本とここの違いを完全に受け入れていないだろう」


「それは、そうですが。当たり前では?」


「そう当たり前だろう。だが、即座に、なるべくなら3日以内に絶対に認識を変えて欲しい」


「…なぜです?」


「君達は俺の条件で、安全だと思っただろう?」


「はい」


「全然安全じゃないんだよ。寧ろ穴だらけなんだ。そうだな、例えば結城君。君がこの世界で恋人ができたとしよう」


「え、俺がですか?」


「例えだよ例え、しかしそれが完全に好意からとは限らない。勇者の威光にすがりたいのか、夢を見ているのか…」


「いや、それは普通じゃないですか?勇者なんて俺でも憧れますし」


「その彼女が、君を良い様に操る為に国から用意されたとしてもか?」


「っつ!?そんな事するわけが…」


「そこが甘いんだよ。というか魔法があるんだ、下手にそんな事しないで人を操る術があっても不思議じゃない」


「…そんな卑怯なマネをするのですか?」


「…大和君。最悪君達は、無理やりここの兵士に組み敷かれて、犯されるだろう。良い様に動くまで調教するためにな」


「なっ!?」


「俺だってそうだ、多分明日の訓練に俺は付き合わされる。訓練と称して、ボコボコにするだろうな」


「そんな事すれば僕は黙ってないよ!!」


「ルクセン君、君の気持はうれしいがそれを君は止められない。素人だからな。戦いの為には必要と言われて却下だ」


彼等が次々に言う甘い戯言を切って捨てる。

認識させなければいけない。俺の予想が当たっていれば、ここは現代の日本の若者には危険すぎる。


人の命の価値なんて、そこら辺に落ちるゴミ同然だということに。

若者は認めたがらない。自由はすべての人に与えられるべきものだと、人は平等であると。


そんな、平和に染まっている頭には特にな。


「今、言っている事が当たらないことを祈りたい。が…」


「…疑わないといけないんですね?」


「ひどい場所に来たものですわ」


「…これからどうするの?」


ルクセン君が途方に暮れた様な顔でこちらを見つめてくる。


「しばらくは、この国でしっかり学ばせてもらおう。生きる為の術を、常識を、魔法を、それから魔王討伐に向けて各国を回ると言って情報を集めよう。これが大まかな方針だな。帰る術はこの国が探したり研究したりすると言ったが、実際見つかっても言うわけないしな。こちらで動くしかないだろう」


「それが最善の方法なんですね?」


「いや、今俺たちが思いついて取れる方法だ。最善なんて言葉を使うな、自分を慰めるための物だ。最善なんて言って考えることを放棄するな。考え続けろ」


結城君が言った言葉に対して訂正をする。


「ここは日本じゃない、しっかり考えて答えを選び取れ。そして考え続けろ、動くのをやめるな。戦場ではそれが命取りになる」


そう、ここは戦場だ。現代の戦場よりはまだマシだがな。


「…田中さん、戦場って職業プログラマーって出てなかったっけ?」


ルクセン君がそう問いかける。


「ああ、今はプログラマーだ。だがつい6年前までは戦場を渡り歩く傭兵をやっていた」


レベルなんざ目で見える物に頼ることなんてしない。

俺は実感していない。自分の目で手で感じたのが俺の答えだ。

くだらない、表示される物にどの程度の意味があるのだろうか?


「ええっ!?ならなんでレベル1なの!?僕よりも低いなんてありえないよ!?」


「さあな、この異世界のステータスを表す基準に、俺がほとんど触れなかったのじゃないのか?」


「…それは、そうだけど…田中さんってあんまりゲームはしない?」


「んー、友人に誘われて戦場で撃ち合うゲームぐらいかな。あれは臨場感があってよかったな」


「あー、なるほどね。レベル1に動揺しないわけだ。レベル1の意味を知ってれば慌てるよ?」


なるほど、彼等にとってレベル1は弱いと認識される表示なのか。

殴られると痛い、と思うほどに彼等にとっては普通の事なんだろう。


「ゲームで思い出した。その戦場ゲームを他国の兵士が真剣にやってるって話しってるか?」


「聞いたことあります。実際の作戦行動とかの練習に使うって。あれって本当なんですか?」


「いや、俺はどこかの国に所属したことはないが、やった限りでは十分訓練になりうるな」


結城君が俺の話に興味を示してきた。

彼の興味津々な顔を見て、俺にゲームを教えてくれた友人を思い出す。

あいつは、かなり真剣にやってたな。

自分の指揮で味方の命が失っていくのをゲームなのに真剣な面持ちで受けてた。

正直戦闘はオールラウンダーで特出するような所は無かったが指揮の面では光るものがあったな。

あれが、この国、いや世界に来ればかなりの事してくれるのではないだろうか?

俺よりもこういうファンタジーに興味を持っていたし、なんで俺が呼ばれたんだか。


「なあ、鳥野。お前のほうがこの世界あってるんじゃないのか?」


なんとなく友人の名前を呟く。


「鳥野? 田中さんの友達かなにかですか?」


「ああ、鳥野和也っていってな。俺にゲームを教えてくれたり、日本に来たばかりの俺をよく助けてくれたんだよ。あいつは変に知識が多くてな、ここに来るのを羨ましがってはいないかなーとな」


「ああ、異世界に来るって男の夢ですよね!! その「とりのかずや」さんとは気が合いそうです!!」


「そうだな、だからまずはこの世界で生き残る術をしっかり学ぼう」


「はい!!」


そうやって軽い雑談をした後各部屋にもどって夜が更けていった。



side:アキラ


今俺たちはルーメル王の方針で、いや田中さんの方針で、この世界の知識を教えてもらっている。

この俺達がいる大陸に名前などないらしい。この世界が何と呼ばれているのかさえ不明瞭だ。

田中さんの言う通り、かなり酷い世界に俺達は呼ばれたみたいだ。

分かっているのは、この大陸に強国と呼ばれる国が4つ、俺達に倒してほしいといわれている魔王が治めている国が1つ。


4つの強国の名は、俺達がいるルーメル国、リリーシュという神を崇めている宗教国家リテア聖国、堅牢の国ガルツ国、そして騎士の国ロシュール国。


なんで、ルーメルに特殊な呼び名がないのかと思って疑問に思ってると。教えてくれたおじいさんは他の国に比べて全てに秀でているという。

田中さんに聞けば「ルーメルが強国の中で一番立場が低いんじゃないのか?だから魔王を倒す手段の勇者を召喚して立場を上げたかったんじゃないか?」と言っていた、なるほど田中さんが言ってることが正しいと思う。


お金に関しては俺達の世界と同じ10進法。銅貨<銀貨<金貨<白金貨のように繰り上がっていく。

大体金貨一枚で4人の家族がひと月暮らせるらしい。単位は「フォル」

金貨一枚で大体30万から40万くらいになるんじゃね?と田中さんはいっていた。


そんな感じで午前中は勉強していたのだが、昼食前に戦闘訓練をすることになった。

リカルドさん曰く「食べた後では戻すと危険なので」と言っていた。

そうだな、初めてのことだし、それなりに配慮してくれたのだろうか?

そして、俺達の相手を丁寧にしてくれた。


「はぁっ…。はぁっ…」



「…結構キツイですわね」


「…ふう。久々に御爺さんと剣の練習したの思い出したよ」


結局俺達はリカルドさんやその兵士にまったく歯が立たなかった。

当然か、田中さんの言った通り。俺達は平和な日本から来たのだ、田中さんが戦場と称した世界で生きているのだ。

幾ら才能があろうが、今の僕たちがリカルドさん達に勝てる道理はなかった。

そして、田中さんが予想してたことが起こった。


「さて、勇者殿達はお休みです。タナカ殿、あなたも勇者殿達の保護者というなら、しっかり戦えるようにならないといけませんよ?」


にやにやと、剣を田中さんに向ける。

こいつ、絶対に良くないこと考えている。


「そうだな、自分がどこまでできるか知っておくのも重要だな」


田中さんはなんでもなさげに前に進み出てくる。


「ほう。昨日はあれだけ戦うことを怖がってたのに、多少は男らしい所はあるようだ」


「いや、そんなことはない。俺は臆病だ。だから全力でいかせてもらう。すまないが剣は使い慣れてないので色々するが構わないか?」


田中さんは訓練用の剣をもって、不慣れに振っている。


「ええ、構いませんよ。タナカ殿がどれだけやってもレベル1ですからね。大丈夫です。こちらも勇者殿の保護者ですから多少厳しくいきますがよろしいか?」


「構わない」


そう言った途端リカルドさんが俺達とは比べ物にならない速度で、田中さんに剣を振るう。

田中さんは微動だにせず。反応できずその剣をその身に…



side:ナデシコ


田中さんの言った通り、外道な手で今まさに田中さんにリカルドが剣を振りおろそうとしていました。

訓練という名の、一方的な暴行。その理由を知ってる私はリカルドがとても醜く見えました。

しかし、私達は手も声も出さず見守っていました。

田中さんがそれを望んだからです。あの人は最初から私達を守る為に動いてくれました。

これも見極める為に必要だというのです。田中さんを本当にボコボコにするのかではなく…。


田中さんが本当にレベル1なのか…いえ数字通りなのかを。


ドズン!!


重いものが落ちた音があたりに響きます。


「ごぶっ!?」


倒れていた人物はリカルドでした。


「な、なにが起こった」


リカルドは自分に何が起こったのか理解しておりませんでした。

しかし、私達は見ました。あれは背負い投げでした。

…相手のダメージを緩和する引きを行ってはいませんでしたが。


「ほう、速度といい丈夫さといい。レベルが高いのはそれなりに便利そうだな」


田中さんは普通に感心するような声を上げます。


「ぐっ、レベル1に私が倒された?そんな馬鹿なことはあり得ない。偶然だ!!」


そう言ってリカルドは立ち上がります。


「偶然ね。リカルドさん、あんた死んでたって自覚あるかい?」


「どういうことだ!!」


「いや、戦場で転がった相手を放置しておくのかい?あんたは?」


「っぐ、今は訓練だ!!貴様が偶然俺のバランスを崩したのだ!!」


「そうかい、まあどうでもいい。俺の訓練に付き合ってくれ。今度は俺から行く」


田中さんがそう言うと、いきなり姿が消えました…いえ体を限界すれすれまで地面に寄せて、一気にリカルドに近寄りました。


「っ!?」


リカルドは見失ったのか驚いていますが…。


「っが!?」


そのまま顎を撃ち抜かれます。

しかし、なんとか踏みとどまります。


「っぐ、卑怯な。それでも男か!!」


「いや、お前。敵に切りかかるとき、わざわざ何処にどう切るのか宣言するのか?先ほどの結城君達の時にもやってなかったぞ?」


「っ違う!!そこではない!!剣で戦わないのが卑怯だと言ったのだ!!」


「バカだろお前。剣がなくなったらどうするんだ?戦うのやめて逃げるのか?ついでに色々するのをお前は承諾していた。なあ、結城君達?」


そうやってにっこりとほほ笑む田中さん。

常在戦場、おじい様が言っていた言葉を思い出しました。

笑っているのに、全然隙がありません。


「ふざけるなぁぁぁぁああああ!!」


リカルドさんは外聞をかなぐり捨てて腰にあった真剣を抜きます。

ですが、あっさりそのまま力を利用されてぶん投げられます。

そして、倒れたリカルドさんの顔を田中さんが遠慮なく踏みつぶします。


「ぐげっ!?や、やめっつ!?」


顔だけを執拗に踏みつぶしているかと思えば、適度に、リカルドさんの指を踏みつぶしています。

あの角度だと、指は砕かれているでしょう。

しばらくリカルドさんを踏み続けます。無言で。

田中さんの姿に飲まれているのか、周りの兵士は微動だにしません。

いえ、多分感じているんでしょう。

下手に手をだせば、自分も同じ目に合うと。


「立て。訓練は終わっていない。俺はまだ試したいことがある」


ただ作業を確認するような感じで田中さんは喋ります。いえ、実際彼にとっては確認作業なのでしょう。

自分の能力を確認するという為の。


「も、もう…指が…剣を握れない…ゆるして…」


リカルドがそう続けるが彼に殴り飛ばされて、塞がれる。


「バカか、お前はまだ生きている。最後まで足掻け。戦場ではそれが一番大事だ。許しを請うことも降ることも必要だろう…」


「な、なら…」


「言っただろう? これは戦闘訓練だ。戦闘訓練に許しを請うことや降る訓練などない、力尽きるまで動け、それが生きるということだ」


そう言って田中さんはリカルドに更に近づく。


「ひっ。き、きさば!! レベル1でば、ないな!! 隠ぺい…っぶ!?」


「一々口を開くな、怪我が増える。まあ、文句をその状態で言えるのは褒めてやる。レベルが高いってのはすごいらしい。いいね、存分に訓練できそうだ。おい、あんた回復魔術師なんだろう?流石にあれでは訓練の効果を望めない。精神は鍛えられるが、俺の訓練がメインなんでな。リカルドさんの訓練をやっているわけではない」


そうやって回復魔術師に声をかけるとその人はようやく我に返ったようで回復魔術をリカルドにかける。


「タ、タナカ殿。リカルド様は消耗が激しいようなのでここら辺で訓練をやめては?」


「ほう、リカルドさんでは俺の訓練相手は務まらないとおっしゃるわけだ? ふむならば他の誰かが相手になるのですね? 例えばあなたとか?」


「い、いえそういうことでは!?」


回復術師さんがリカルドのそばから離れます。


「ふんっ!!次はもうその奇妙な動きは通用しないぞ!!変なごまかしをしおって!!覚悟しろ!!」


…リカルド、貴方のプライドは分からないでもないですが。

田中さんとは、格が違います。彼は私達の世界の戦場を渡り歩いていたのです。

なるほど、レベルなんて彼にはただの不確かな情報でしかないのですね。

必要なのは目の前にある真実のみ。

そんな事を考えているとリカルドがまた吹き飛ばされます。


「やめでっ!? …たずげッつ!?」


又同じように田中さんに踏みつぶされます。

しかし、今度はなかなかやめません。

そしてリカルドが反応を示さなくなります。


「ちっ、この程度で気絶か。おい衛生兵、この男治療しとけ」


そう言って、つまらなそうに私達の前に田中さんは戻ってきました。

全然息一つ乱していません。

その彼に一人の兵士が声を上げます。


「お、お前はレベル1なんだろう!? 見たぞお前のステータス!! 同じ年の一般人にも劣るステータスだ!!」


声は震えていました。目の前の出来事を否定したいが為にだした声でしょう。

しかし、彼にとってはどうでもいいこと。ですから…。


「レベル1? それがどうした?」


と、答えるだけでした。

私達は、とても頼れる人と今いるのではないでしょうか?


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