第331射:銃を突き付けてお話をする
銃を突き付けてお話をする
Side:ナデシコ・ヤマト
ノーダンル・シャノウ子爵は最悪の選択をしたようです。
私たちに向けて無体な命令を出し、物資を奪おうとしました。
その結果……。
「ううっ」
「いたい、いたい……」
100人近くいた兵士たちはあっという間に倒れ伏し、ケガ人へとなってしまいました。
しかし、これはまだましでしょう。
「うひゃー。よく全員死なずに器用に撃てたねー」
光さんの言う通り、全員生きているのです。
器用に足を撃ち抜かれて動けないようにされてです。
数人動脈を傷つけているようで止血の手当てをしましたが、それだけ。
死ぬようなケガ人はいなかったので、エルジュの指示に従って包帯で巻くだけの処置になっています。
「流石、田中さんとジョシーさんでしょうか」
人外じみている命中率ですね。
50回も撃つとなると外してもおかしくないのですが、リロードも含めてミスなく詰まることなく的確に撃ち抜いていきました。
それもわずが数分で。
中心から外側へ撃つことで外周を守っている兵士たちは何が起こっているかも理解できず、中の司令塔が倒れているので撤退することも叶わず、騎士たちは何がなんだかわからない内に逃げることもできずに倒れ伏しました。
「とりあえず、これからどうするんだろう?」
「それはもちろん姫様が考えていますよね?」
晃さんの質問にヨフィアさんが迷わずそう答えます。
え? こういう時は田中さんではと思ったのですが、その質問を受けたユーリアはすぐに口を開き。
「はい。それはもちろんです。ノーダンル子爵を上の会議室へ。あと、唖然としているシャノンギルド長とギナスさんも連れてくるようにゼランさんいいですか?」
「あいよ。おめえら。話を付けてくるから、その馬鹿共の面倒みてな。あと町の皆さんに無礼な態度をとるんじゃないよ!」
「「「うっす!」」」
本当にゼランさんは部下に慕われているようですね。
これなら町の人も問題ないでしょう。
私たちは子爵たちと一緒に会議室へと向かったのですが……。
「こんなことをしてただで済むと思うのか?」
そんなことを言って威嚇してくる子爵。
どちらが先に横暴を働いたのかと怒鳴りたくなりますが、そこはぐっとこらえてユーリアに任せることにします。
「ただで済むと思うのかですか。それはそちらが身をもってしたでしょう。こちらを甘く見た結果、騎士隊は壊滅。本隊はゾンビの確認に行って出払っている。すでにこのシャノウの町は我がルーメルの占領下といってもいいでしょう」
「小娘が! やはり魔族の手のモノだったか!」
「はぁ、どうしてそうなるのかわかりませんが、魔族でしたら命がもう無くなっているのでは?」
「……」
ユーリアのもっともな意見に黙ってしまう子爵。
これで私たちのせいにするのなら救いがなかったですが、まだ多少交渉の余地はあるのでしょうか?
「沈黙ですか。では、そちらの二人に意見を貰いましょう。冒険者ギルドのシャノン殿。スラムをまとめるギナス殿。貴方たちは私たちを敵と判断するのでしょうか?」
ユーリアはそう言って、今度は一緒についてきたシャノンさんやギナスさんに視線を向けます。
2人は一瞬怯んだ様子でしたがすぐに瞳に力を入れて……。
「敵と判断するのはまだ早いと思います」
「私は敵ではないと思っている」
シャノンさんは私たちのことを測りかねているようで灰色回答。
対してギナスさんは敵ではないとはっきり断言。
こちらの実力を知っているからでしょうか?
そしてこの回答を聞いたユーリアはというと。
「この町の名のあるモノたちが判断つかず、そして敵ではないといいました。そして何より私たちは別の国の者です。このことに責任をどうとるおつもりでしょうか?」
「違う。私はゼランの物資を押さえただけで、そちらの国と構えるつもりはない」
なるほど。子爵は確かにゼランさんだけを襲った。
建前上ユーリアや私たちに危害を加えたとは言えない。
でも……。
「おやおや。ゼランさんには私たちの物資を預けて売買をして貰っているのです。つまり売ってない分は我がルーメルの物資ということです」
「なっ」
ユーリアのいうことに驚いた顔をする子爵。
まあ、普通は商品を販売している時点でゼランさんの持ち物だと思いますよね。
地球でもこんな売り方しているところは珍しいですが、そこはいいのです。
つまりゼランさんの荷物を奪おうということは……。
「だから言っただろう。敵を増やしていいのかって? ルーメル所有の物資を強奪とは、一国との開戦覚悟ってことだよなぁ?」
「そんな世迷言を。たとえそれが事実でも援軍の来ない国などどうにもなるまい」
子爵の言う通り、確かに援軍の予定はありません。
だからこそ、話し合いで協力体制が望ましいのでしたが、相手がこうなってはどうするつもりなのでしょうかと思っていると……。
「援軍ですか。ではあちらをご覧ください」
ユーリアはそう言って海が見える大窓に視線を向ける。
傷が痛そうな子爵もシャノウとギナスによって無理に立ち上がらせて……。
「「「……」」」
3人は絶句していました。
それもそのはず、そこには田中さんが出したフリーゲート艦が2隻来ているのです。
残りの1隻は沖合に待機。
私たちには見慣れたものですが、港にいる人たちは大混乱ようで。
慌てて港から町中へと走り去っています。
それも当然ですね。遠くから見てもはっきり見えるということは船が大きいということ。
この港に泊まっているどの船よりも大きいのです。
ん? この光景って何か聞いた覚えがあるよな……。
「……んんっ。あちらが我が国の軍艦です」
ユーリアの咳払いで視線を子爵たちに戻します。
「馬鹿な……」
「あんなに大きな船が」
「はぁ。タナカが余裕だった理由か」
子爵とシャノンさんは信じられないような顔をしています。
ですがギナスさんは田中さんから何か聞いていたのか少し余裕があります。
「今回ゾンビの集団が来るということでしたので、援軍を頼んでいたのです。そして、どうやって殲滅したかもお見せしましょう。あちらの崖をご覧ください」
ユーリアはそのまま窓の端に移る港の近くにある崖に視線を向けます。
すると……。
バシュッ!
と音がして、ミサイルが飛んで行って……。
ドゴォォォォン!!
すさまじい大爆発を起こしました。
「「「……」」」
その光景に3人ともさらに絶句。
町の人たちはさらに悲鳴を上げて混乱している。
これ、いいのでしょうか?
「これがゾンビの集団を殲滅した船からの超魔術砲撃です」
「「「?」」」
ユーリアの意味不明の単語を口にし私たちはいっせいに首をかしげます。
ちょうまじゅつほうげき?
えーと、超、魔術、砲撃でしょうか?
ああ、魔術ですごい攻撃をしたという意味で?
つまり砲撃といわれてもここの人たちはさっぱりでしょうから、魔術を付けたのでしょうね。
「これを使って一気にこの港を廃墟に変えてもいいのですが、それをしないのは理性があるから、そして侵略の意思がないということを理解してもらえたでしょうか?」
ユーリアは威圧を放ちながら淡々を話を進める。
というか、脅しですね。
これが砲艦外交というものでしょう。
「「「……」」」
しかし、3人はまだ現実に追いついていないのかポカーンとした表情をしている。
「呆けるのは結構ですが、返事を頂けないでしょうか? 今までのは偶然の事故か。それとも宣戦布告を行いに来たのですかどちらでしょうか?」
ああ、流石にこのシャノウを占領する気はないのですね。
ここを占領しても維持する方法がないですから、元々そういう話でしたし私たちとしては安心ですね。
ここに来たのは帰る手段を探すことですから。
そして、ようやくその言葉で正気に戻った3人ですが……。
「そ、そうだ偶然の事故だ。も、申し訳ない」
「は、はい。今回のことはゾンビの集団が集まったことでパニックによりトラブルが起きただけかと」
「そうだな。それでいいだろう」
「そうですか。では、軍艦はあのまま待機しておきますので、ゾンビの集団が来ても安心です。討伐隊の報告を待ちましょう。それからお話を進める。それでいいでしょうか?」
「……わかりました」
子爵は顔を青くして承諾し、ユーリアの指示で回復魔術で回復させた後、騎士団たちを連れて帰っていった。
残るは冒険者ギルドのシャノンさんとギナスさんだけど……。
「あの、アキラ君たちいいかしら?」
「はい。なんですか?」
「えーと、君たちはゼランさんの知り合いだったわよね? つまり、こちらのユーリア姫とは……」
「うん。友達だよ。っていうか領主館の時も一緒だったんじゃん」
「と、友達!? ま、まさか君たちも……」
「そこまでではないですが、色々立場あるので、詳しい話は後日でよろしいでしょうか? 今回子爵の行動で色々問題がありますので」
私がそういうと、シャノンさんはすぐに頷いてくれて踵を返す。
戦闘能力はないですが、ちゃんとした判断力はあるようで何よりです。
さて残るはギナスさんですが……。
「タナカ。情報の方しっかり集めておく」
「おう。頼んだ」
そう田中さんと会話してこっちもすぐに戻っていきます。
なんだか悪い話をしているように見えるのは気のせいでしょうか?
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