第275射:海の生き物
海の生き物
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「で、そのヨーヒスさんと仲良くなったと」
「ああ」
「おう。よろしくな」
そう言ってサハギンのヨーヒスさんが手を上げる。
僕たちもその挨拶に答える。
「どうも」
「はい。よろしくお願いします」
「始めまして」
うん。普通に挨拶しているけど、僕が聞きたいのはそういうことじゃない。
「普通に挨拶したけど、なんで連れてきたわけ?」
そう、問題はそこだ。
田中さんがわざわざ人を連れてくるなんてのは何か事情があるはずだ。
「そりゃ、面白い情報を持ってたからな。あと魚」
「おう。お前さんたち魚好きなんだってな。昨日の夜捕って余ってるもんだ。食べてくれ」
「あ、うん。ありがとう」
「ありがとうございます。海の魚ですか、いいですね」
「だな。っていうかこれ初めてみる魚だけど、どう料理すればいいんだ?」
「ああ、そこは俺に任せてくれ。ヨーヒスを連れてきた理由も食事後に話す」
田中さんはそういうなり、調理場へ消えていってしまう。
「「「……」」」
お互いに無言になってしまう僕たち。
さて、このヨーヒスさんと何を話せばいいのか。
そんなことを悩んでいると、ヨフィアさんが口を開く。
「えーと、ヨーヒスさんは海で漁をしているんですよね?」
「ああ。この種族だからな」
「なるほどー。ということは人魚ともお知り合いで?」
「「「人魚!?」」」
「「「?」」」
あまりの衝撃的な言葉に僕たち地球組は一斉に声を上げる。
エルジュやユーリアは首をかしげていたけど、仕方がないよね。
だって、人魚だよ。人魚! マーメイド!
そんな感じで僕たちだけ興奮している様子を不思議そうに見ながら、ヨーヒスさんは口を開く。
「えーと、人魚の知り合いももちろんいますよ」
「「「おー」」」
いたんだ人魚。
人魚は本当にいた!
あれだよね。おっぱいを貝とか海藻で隠しているんだよね。
「ほうほう。それはいいことを聞きました。タナカさんが連れてきたのも納得ですね。人魚は海の魔術師ともいわれていますから、いい情報を持っているかもしれません」
そういうことか。
田中さんはこの話を聞いて僕たちに紹介したんだね。
いやーそれ抜きでも人魚を見ないといけない。
生の人魚とあったとか絶対自慢できる。
写真や動画も田中さんのおかげで撮れるし、異世界に来た記念に記録に残す!
と。そんなことを考えているうちに話は進んでいく。
「ですな。人魚というのは魔力が多く魔術が得意な者が多いですから、何かしら情報が得られる可能性がありますな。ヨーヒス殿。その人魚たちと会うにはどうすればよいでしょうか?」
「人魚たちにですか? 彼女たちは私たち魚人とは違い、足がありませんからね。陸地に上がってくるのは稀です。それに魔物といって排除する人たちも多いですからね。しかし、皆様のお話だと何か魔術の情報が必要で?」
「はい。私たちは国の命の元、こちらの勇者様たちを元の世界に帰す方法を探しておりまして、少しでも何か情報があればと思っております」
ユーリアがそう説明したとたんヨーヒスさんは驚いた顔になり。
「え!? 勇者様!? この子たちが魔王を倒したっていう?」
「え? いや、魔王を倒したのって連合軍じゃなかった?」
「具体的にはローエルさんたち将軍ですわね」
「こっちじゃ、そういう話になっているんですか?」
「あ、いえ、連合の将軍たちの活躍も聞き及んでおります。盾姫様やリテアの親衛隊長が魔王を倒したと。しかし、勇者様たちの援護がなければ敵に囲まれていたと」
うん。正しく内容は伝わっているみたいだ。
というか……。
「こんなところまで話が伝わってるんだね」
「大規模に告知がありましたからね。魔王は討伐し、虐げられた魔族は解放された。差別することのないようにと見つけたら報告をしてくれといわれました」
「なるほど。各国はちゃんと公布をしているようです」
そうだね。これで魔族だからっていじめられる可能性は少しでも減るかな?
「それなら話が早いです。この皆さんこそ我が連合に協力してくれ、魔王を打ち破るため少人数で先に魔族たちが虐げられている土地に忍び込み準備を整えてくれた、ルーメルの勇者様たちなのです」
「おー。で、貴方様は?」
「これは申し遅れました。私は連合軍のお飾りとはいえ大将を務めており、今回の避難船団の魔族の件で先遣隊としてこのノルマンディーにやってきた、エルジュと申します」
「はぁ!?」
「そして、私がこのサザーン王国の庇護を担っているルーメル王国の第一王女であるユーリアです」
「こ、これは大変失礼をいたしました!」
そういうなりヨーヒスさんはその場で土下座をして頭をさげる。
うん、その気持ちはわかるよ。
目の前に大統領とかそういうのが現れたって感じだもんね。
あれだね、水戸黄門様がひかえおろうーって言われてははーって言っちゃうかんじ。
偉い人の威光っていうのがよくわかるね。
「いえ、お気になさらないでください。おかげでこのノルマンディーに勇者様たちをただ手助けで連れてきたのではなく、帰る方法のヒントが見つかったのです」
「ええ。エルジュの言う通りですわ。ヨーヒスといいましたね。あなたさえよければもっと魔術に関して知っていることがあれば教えていただけますか? むろん、ただでとは言いません。報奨金もお渡ししましょう。いいですよね? マノジル?」
「はい。人魚の話を聞いただけでも有意義な情報です。彼女たちは人を基本的に警戒しておりますからな。ルーメルでも交流はほとんどありません。この話は十分に褒賞に値するでしょう。どうぞ、ヨーヒス殿」
マノジルさんは袋から銀貨を取り出してヨーヒスさんに渡す。
「い、いえ、この程度の話で……」
「それだけ価値のあるお話だということです。よければ人魚の話や何か有意義な話があればもう少し教えていただいてよろしいでしょうか?」
「その程度でしたらいくらでも」
そんな感じで僕たちはヨーヒスさんの話す人魚話や沈没船からの宝物、そして海の大怪物とかの話を聞いて盛り上がっていると、田中さんがいい香りをさせる料理をもって、ゼランさんと一緒にやってきた。
「おう、盛り上がってるな。ついでに昼も食べながら話してくれ。ゼランとばったり会ってな、向こうの味付けにもしてもらった」
「口に合うかはわからないけどね。楽しんでくれ」
「「「おー」」」
ということで、みんなで魚料理を楽しみながら、話を続けていく。
「なるほどね。勇者様たちを故郷に帰すためか」
「ええ。何か情報は知りませんか?」
「残念ながら、私は魔術師じゃなくてね。そういうのは専門外さ。でも、国に戻ればその手の専門家はいたから調べることはできると思う。と、この茶色の液を使った魚は美味いね」
「臭みが消えて美味しいですな。この貝に茶色の液体を付けたものもいい味を出しています」
ゼランさんとヨーヒスさんも醤油が口に合ったようで田中さんも魚介料理をパクパク食べている。
やっぱり醤油は万能調味料だよね。
うん。美味しい。
ゼランさんの用意してくれた魚料理は香辛料をふんだんに使いすぎて、元の魚の味がわからなくなってた。
外国人を差別するわけじゃないけど、味付けが0か10かの両極端のような感じ。
「なるほどな。やっぱりそっちの国でも魔術の研究はやってたか」
「ああ。そりゃな。とはいえ、才能に左右されすぎるのが問題だな。私でも簡単に火をつけることぐらいはできるんだが、爆発するようなファイアーボールとかは使えないんだ」
そう言ってゼランさんは指に火をともす。
使い方に迷いはないし、これでファイヤーボールが使えないとか不思議だなー。
「まあ、これだけでも十分便利さ。特に航海じゃ真水を出せる水の魔術はちょっとでも重宝するもんさ」
「水の調達には航海では困らないってことか」
「ああ、魔力さえあれば飲み水ぐらいは困らないからね。まず水夫たちの一日は水の魔術で水を補給することから始まるのさ。そして水を補給して終わる。水がなければ海では生きていけないからね」
あー、そっか。
海って海水しかないから、飲み水がないんだったっけ?
それを考えると、水を出せるって本当にいいね。
魔術って便利だー。
「で、ゼランはヨーヒスにも驚いてないが、こういう魚人も向こうじゃ珍しくないのか?」
「そうだね。海を進む仲間として頼りにしているよ。とはいえ、あの騒ぎで私たちと行動を共にしてくれたのはわずか3人だけさ。彼らは水の中に逃げられるからね、仕方ないことさ」
「ほう。その3人は今も一緒なのか?」
「いや、海を進むときに1人魔物にやられて死んだよ。1人がその時の戦闘で負傷。無事なのは1人だけだね」
「海を進んでその程度の被害で済んで驚きですね。余程優秀な魚人たちだったのですね」
「ああ。自慢の船員だった。まあ、けが人はそっちの勇者様や聖女様に助けられて無事さ。後悔はないよ。やられた仲間の分まで私たちが生きるだけさ。海で生きてるんだ。こういうのはよくあることさ。だから、ヒカリたちも気にするんじゃないよ」
え? なんかそんな顔してた?
私が周りに顔を向けると、エルジュやユーリアは頷いてくる。
うわー、表情にでてたとかまだまだだなー。
「まだ若いからな。そういうのは気にするんだよ。特に治療とかしているからな」
「だろうね。人の命を救う貴重な治療魔術師が、人の命に敏感じゃない方が心配さ。まあ、動揺しすぎるのも問題だが」
「そういえば、その船に医者はいなかったのか?」
「いないことはないけど、日に日に増える壊血病の病人でダウンさ。それで最悪になっちまった。元々2人しかいなかったからね」
あー、たった2人で100人以上も無理だようね。
しかも治療方法がわかってなかったし。
「でも、今度は大丈夫さ。壊血病の治療方法も教わった。物資を積めるだけ積んで、戻るつもりさ」
「え、でも、魔族がいるんでしょう?」
ちょう奇怪で強い化け物が。
「ああ。でもね、故郷に帰りたいってのが大半なんだ。そして、今度はちゃんと準備をしていく。できる限り武器も集めてね。そこで、お願いがある。あんたたちはこの大陸でかなりの実力者なんだろう? 準備が整うまでの間、訓練や武器の調達に協力してくれないか? もちろん、帰還の方法を探しているのはわかるから向こうで奪還できた時には情報の提供もする。どうだい?」
むう。覚悟は本物みたいだけど……。
こういうのは田中さんが決めることだし。
そう思って視線を向けると。
「別にいいぞ。こっちにとって悪い話じゃない」
ありゃ、もっと条件を付けるかと思ったけど、あっさりと受け入れてくれた。
いや、まてよ。これから色々言うんじゃないだろうか?
と、ゼランさんたちの行く末を心配するのだった。
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