第105射:具体的な行動

具体的な行動



Side:タダノリ・タナカ



ルクセン君たちの答えは、正直、意外だった。

リカルドの言うように、こういう多くの命運が係わる決断は誰だって重荷だ。

その決断による責任の重さは大人になったとしても、立場の偉い人物になったからといって、感じなくなるわけじゃない。

まあ、心がマヒして、それに何も反応を示さなくなる人や、部下は使い捨てるモノだと思う連中もいるが、普通の人はこういう決断は必ずためらう。

というか、こういうことで即断即決できる奴は、大体どこかぶっ壊れている。

では、ルクセン君たちがそんなぶっ壊れたやつだったのかというと……。


「でも、やっぱりキシュアさんも、徴税官の仕事って辛かったんだ」

「ええ。楽しいモノではありませんでしたね。まあ、稼いでいるのに払わない相手はともかく、本当にお金がなくて、払えない相手にも、国が決めた法律通りにしなければいけませんからね」

「そっかー。それって辛いよねー」


話を聞いて難しい顔をしているところを見る限り、普通の学生にみえる。

おそらく、先ほどの一番最善とも思える選択を選び取ったのは、この世界にきて成長したからであって、ぶっ壊れたわけではなさそうだ。

しかし、これは喜ぶべきことなのか、日本の大人としては微妙なところだな。

俺がここまでにしておいて何をいうのかという気持ちもあるが、やっぱり罪悪感はある。

吹っ切れたとも言うべきかな? 

まあ、今の状況としては好ましいので、良しとしておこう。

これで、ルクセン君たちがいきなり離脱するということはなさそうなので、安心だ。何か不満があれば言ってくるだろう。


「税金が払えないとどうなるんですか?」

「普通に捕縛されます。そこから、奴隷に落とされ、それで足りなければ国で買い上げて、払い終わるまで指定の仕事に従事させることになります」

「うわ。その仕事って……」

「主に鉱山の仕事ですね。魔物が湧きだすことや、妙なガス、そして落盤で人が多く死にます。そこでの人手は沢山あった方がいいですからね」


現代の地球ではそこまで危険性はないが、昔の鉱山発掘作業はキシュアの言うようにかなりの危険が伴う仕事だった。

そして、この世界は地球よりも技術が低いのはわかっているので、その死亡率はとんでもないモノだろう。


「私の報告書で、犯罪者だけが鉱山にいくのならいいのですが、親の借金で子供まで鉱山に連れて行くという結果になるのはかなりきつい物がありましたね。しかし、法を守らねば何のための徴税官であるかわかりませんからね」


キシュアの言うことは至極当然の話だ。

政治家がルールを守らずに無法をしていれば、国は乱れるからこそ、政治に携わる者のルール順守は徹底される。というかされるべきだ。それが出来ずに追及を受ける政治家もたくさんいるけどな。

キシュアは模範的であり、上に立つものとしての仕事を行っていたとわかる。

とは言え、周りから見れば、非情だと思われることもあるだろう。

俺たちも傭兵ではあったが、日本人から見ればただの戦いが大好きな集団にしか見えないからな。

俺たちは生きるために戦っただけなんだがな。


「そっか。やっぱりみんな色々責任を背負ってるんだ」

「ですわね。働くということは楽ではないですわね」

「冒険者をやってわかっているつもりだったけど、やっぱりまだ俺たちは子供なんだろうなー」


そんな風に理解と認識、反省をする3人。

ここまで世の中の人が物分かりが良ければ、世界は平和なんだがなー。

さて、このまま3人の成長を見守るというのも面白いかもしれんが、状況が状況だ、話を進めさせてもらう。


「ま、結城君たちがまだ子供かどうかは、これからの行動次第だ。口では何とでも言えるからな」


信頼を得るには行動を起こさないとだめだ。

口先だけでは誰も信用してくれない。

あとは、行動で証明するのだが、まあ、そこも心配はしていない。

なにせ、ルクセン君たちは今まで俺たちと散々行動してきたから、今さら動かないということもないだろう。


「で、具体的にどういう行動を起こすかだが……」


無血へ向けてっていうのは中々難しいところはあるだろうが、情報を集めることには賛成だ。

そして、その情報源に思い当るところはある。


「昨日、ヨフィアたちと結城君たちの心配ついでで話をしていて気が付いたんだが、恐らく、前王は何かしら、魔王や魔族がいる拠点に目星がついていたんじゃないかと、予想ができた」

「え!? それって凄いことじゃん!!」

「ルクセン君落ち着け。周りに人がいるし、別に確定した状況じゃない。情報を得られる可能性があるというだけだ」

「……もう少し詳しく話していただけませんか?」

「なんか、昨日俺たちが悩んでいる間に色々あったんですね」


色々あったというか、大半はヨフィアの結城君たちが心配ですって話だったがな。

と、そこはいいとして、情報源の話だ。


「まずは、朝食を食べてから結城君の部屋に集合だ。そこで詳しく話す。その時にはお姫さんも合流することになっているからな」

「「「はい」」」


お姫さんが前王、現ルーメル王の兄の情報を聞き出しているはずだ。

それを聞いて行動という感じだな。

さて、当たるか外れるか、楽しみだな。

まあ、これで情報なしだと、また足で稼がないといけないから面倒なんだよな。

その時は冒険者ギルド伝手をたよるか、クォレンなら魔族とのいざこざを教えれば手は貸してくれるだろうしな。

そんなことを考えつつ、朝食を済ませて結城君の部屋に移動する。


しかし、毎度のことながら、結城君の部屋は集まる場所になっているな。

まあ、女性の部屋よりも男の部屋、そして一番部屋の質が高いのは勇者である結城君の部屋になるから、まあ当然の答えではあるが、結城君は自分に宛がわれた部屋に仲間とはいえ、毎度毎度集まるのは不満に思ってないだろうか?

そう思って、小声で話し掛ける。


「結城君。いまさらで申し訳ないが、いつも結城君の部屋で集まることになってしまっているが、部屋に入られて嫌だとかはないか?」

「え? ああ、いえ、自分は全然気にしていませんよ。別に男友達とか、母親が部屋を漁るわけじゃないですからね。そして、別に隠しているモノなんてありませんし」


ああ、なるほど。

自分の部屋ってわけでもないからな。

そこら辺は負担になってないようだな。

で、その話声が聞こえたのか、ルクセン君が割り込んでくる。


「あー、自分の部屋には何か隠してるんだー」

「そりゃな。光だってエロ本とか隠してるだろ?」

「だ、だれが、エッチな本とか隠すか!!」


とまあ、そんなやり取りをしている間に、ヨフィアがお茶を出して、これからのことを話し始める。


「お姫さんはまだ来ていないようだが、事前説明ってことでいいだろう。まず、先ほどの話の続きだが……」


俺は昨日、ヨフィアたちに話した内容をそのまま伝える。

大軍を動かすのに、目的地も分からず、大きな負担となる戦費を背負ってまで、遠征するだろうかという疑問をもったこと、実は何か確実な情報を得ていたから動いたのではないかということ。


「おおー。確かに。魔王とか魔族の居場所を知ってたから、軍を動かすよね普通」

「だな。遠征して負けたぐらいしか認識がなかったけど、言われてみればそうだよな」

「……確かに、場所が分からなければ、莫大な戦費が無駄になります。そんなの周りの臣下が許すわけがありませんわね」


3人も内容に納得してくれる。

やはり、前回の魔王征伐の内容は不自然なのだ。


「で、今、お姫様はその内容を王様に聞きに行っているわけか」

「でも、前とはいえ、王様の遺品とか調べさせてくれるのか?」

「どうでしょう。そこは王様がどう判断するかですが……」


と、そんな話をしていると、部屋の扉は開かれてお姫さんがカチュアを連れてやってくる。


「皆さま、ご歓談中の所、失礼いたします。私も混ぜてくださいませ」


と笑顔で言って、俺たちの話に加わってくる。

ご歓談ね。まあ、そうでも言わないと怪しい話をしていますよって感じだからな。

そして、部屋の扉が完全に閉まったのを確認すると……。


「では、お父様から聞いた話をお伝え致します」


キリッとした表情のお姫さんに早変わり。

女は簡単に化けるからこえーわな。

さて、俺のお姫さんの感想はどうでもいいとして、お姫さんが集めてきた情報は……。


「はっきりといいます。今回の件をしっかり伝えたところ、叔父様の遺品から探すことの許可はいただけました」

「お、やったじゃん」

「だな。何か見つかるかもしれない」

「案外他にも何か見つかるかもしれませんわね」


3人はお姫さんからの答えに喜んでいるが、俺は別の懸念が湧いてきた。


「お姫さん。その話だと、王は兄がどんな情報を元に魔王討伐を始めたのかは知らないんだな?」

「……ええ。お父様は叔父様がなぜ魔王討伐に踏み切ったか見当がつかない様子でしたが、私の話を聞いて何か情報を得ていた可能性に気が付いたようです。はぁ……」


そう言ってため息をつくお姫さん。

自分の親が情けないんだろうが、そんなこと言ったら、お前ら全員俺が言うまで気が付かなかった間抜けだからな。

……などと言えば、また荒れるだろうから、とりあえず軽くフォローしてから……。


「まあ、ルーメル王は魔王討伐隊が全滅した事態の収拾で忙しかったんだろうさ、一々その理由を探そうとは思わんだろう。いや、変なことを聞いて悪かった」

「いえ。言われてみればそうですね。お父様も叔父様の代わりにルーメルを治めるのにかなり忙しかったですから」


ほっと、荒れなくてよかった。俺が蒔いた種でもあるからな、しかし、ここまで誰も気にしていないってのも不思議な話だな。

それとも、わざと避けていたか。

ああ、下手したらかたき討ちだと騒ぐからな。そうなれば、更なる戦力の投入、戦費の増加、ルーメルの破産や崩壊が起こるわけだ。それを恐れて、わざと話をしなかったか、意識をずらしたわけだ。

……こっちの可能性が大きいな。


大きい地雷だな。下手に俺たちが魔族の拠点を見つけても、口外しないようにしなければ、国民が勝手に前王や兵士たちのかたき討ちだと騒ぎかねん。

その時の旗印にされるのは、どう見ても結城君たちで間違いないしな。

もれなくルーメルVS魔族の国という図式になるわけだ。

結城君たちの無血解決からは程遠いな。

あとでこっそり結城君たちに注意を促すか、これをお姫さんにも伝えれば、なにかと利用しかねん。


「で、その前王の遺品はどこにあるんだ?」

「はい。そちらは、まとめて王家の倉庫にあるようです」

「王家の倉庫?」


聞きなれない言葉に、俺が聞き返すと、お姫さんは説明を続ける。


「はい。歴代の王が過ごした道具などを保管しておく場所です。基本的には美術品などの価値があるので残しておくのですが、先代の王などの道具は、今代の王が引き継ぐものなどもありますので、丸まる保管されているようです。不幸中の幸いでした」


なるほど。

都合がいいようにも聞こえるが、まあ、まずはそこからか。

何かわかりやすいものが見つかるのか、それとも何も情報がないのか。

調べてみないとわからんか。



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