第257射:意外と知らない
意外と知らない
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「いいか、銃っていうのは簡単そうに見えて簡単じゃない」
そう言って、田中さんはホルスターから銃を引き抜いて見せる。
いつも田中さんが携帯している銃だ。
「まあ、撃つだけなら簡単だ。こんな風にな」
田中さんは横にある的に向かって銃を向けて引き金を引く。
パンッ。
そんな乾いた音が響く。
でも、なんというか、以前ジョシーってクソ女から銃を向けられて撃たれた時のような怖さはないし、思ったより音が軽いなーって感じがするのはなぜだろう?
僕も染まってきてるのかな?
と、そんなことを考えていると、不意に撫子が手を挙げて質問をしている。
「田中さん。今更ではありますが、なぜ銃のレクチャーを?」
「ん? ああ、いい加減場数を踏んできたから、ハンドガンぐらい渡していいだろうって結論に至った」
「え? それじゃ、俺たちも銃もらえるんですか!」
「おおー!! それってすごいじゃん!」
銃! 本物の銃! 便利! 簡単! 強い!
「……大和君はともかく、残りの二人は心配になってきたな」
「「えー」」
「お二人とも冗談はやめておきなさい。銃は命を奪うものですよ。田中さんの話を真剣に聞けないなら、私も銃を扱うことには反対です」
うげっ、悪乗りが過ぎた。
撫子が今にも怒りそうな感じでこちらをにらんでいる。
「まあまあ、ナデシコ様。そんな危なっかしいような感じはしませんから、アキラさんもヒカリ様もちょっと場を和ませようとしただけですよ」
ヨフィアさん、ナイスフォロー!
これは流れに乗るしかないね。
「そうそう!」
「ああ、ほら、俺達って銃で撃たれてトラウマがあるかなーって身構えてたからさ」
「ああ。そういえばそうでしたね。って光さんは撃たれていないはずですが?」
「いや、銃口を向けられただけで怖かったし。撃たれてないとカウントしちゃだめってこと?」
「あ、いえ。そういうことではないですわ。私も神経質になっていたようです」
なるほど。僕たちの場合は恐怖が先に立ったけど、撫子は撃たれたから、扱うことに対して慎重になっているのか。
それで僕たちがふざけているように見えれば怒るよね。
「ま、心配はするな。扱えないと思えば、俺の方ですぐに消せるからな」
田中さんはそう言うと、手に持っていた銃をぱっと消した。
この地球の物資を出したり消したりできるのは、僕たちよりもよっぽどチートだと思うんだけど、僕たちの場合は銃を使いこなせないから意味がないんだよね。
うーん、チートとはいったい何なのかと考えさせられるね。
「だからこそヨフィアたちにも練習させているわけだ。どっかに売りさばこうとしても無駄だからな?」
「やだー。そんなことするわけないじゃないですか。というか、それを使えば荒稼ぎできません? 無限に出せるんですよね? 売ったあとすぐ消すんじゃなくてしばらくして消せばタナカ様がやったって気が付かないんじゃ?」
おお、なんという名案!
稼ぎ放題じゃん! と思ったけど……。
「馬鹿か。まあ数量ならなくしたで済むかもしれんが、金額が大きくなれば監視も強まる。そうなれば大本が疑われるからな。無用に方々から恨みを買う必要もなければ、敵に銃を渡してこんな兵器があるのかと認識させる理由もない。それがわからん馬鹿メイドじゃないだろう?」
田中さんはそう言うと、ヨフィアさんに銃を向ける。
目が笑っていないから、やばい。
「わ、わかってますよ! そんなことしませんから! 銃を向けないでください~!」
「田中さん。やめてあげてください。ヨフィアさんも撃たれてるんですから」
即座にガクブルになったヨフィアさんに晃がすかさず間に入ってかばう。
あ、ヨフィアさんの顔が速攻でにやけた。
わかりやすっ。
「……ったく。お前の中の感覚はただ強力で高く売れる武器ぐらいの認識なんだろうが、間違っても解析とかされたら困るんだよ。こう言う武器には対策を打たれるのが世の常だからな」
「いえいえ。そこらへんもフクロウの婆から教わっていますから知ってますよ。ただ活動資金稼ぎにはなるかと思いまして」
「……本当にそれはいざという時だな。というか、そもそも銃なんかよりチョコを売ったほうがいいだろうな」
「「「チョコを売るなんてとんでもない!」」」
田中さんの言葉にヨフィアどころか、ノールタル姉さん、セイールまで否定してきた。
「売るぐらいなら私たちにください」
「そうだね。甘い物は私たちの物だから売るなんて考えないでくれ」
「はい。そんなことをすればきっと各国がチョコを狙って私たちを追ってくるでしょう」
そんなバカな。と思っても口には出せない。
姉さんたちは甘い物に飢えているからねー。
甘い物のためには何時間待ちの列にも女の子は並べるのさ!
「……話がそれたな。取り合えず、まじめに銃を使う練習をしろって話だ。銃やチョコを売って財源にするようなことはない。今までちゃんと稼いできているからな」
あー、そういえば僕たちって意外とお金持ちになっちゃったんだよね。
魔王を倒した褒章とかで。
家ももらったけど、田中さん曰く、人の出入りがありすぎて拠点には向かないらしい。
だから、僕たちは田中さんがフクロウさんに頼んでいた拠点が本拠点ってことになっている。
「ということで、ヨフィア。金の心配はない。じゃ、さっさと銃の訓練をやるぞ。ザーギス頼む」
「はい。では、皆さま土を盛り上げて的を出しますので、そちらに向かって射撃練習をしてください」
そう言うと、ザーギスさんは魔術を使って即座に的を作りあげる。
速度に精度がものすごい。
ザーギスさんって研究一辺倒ってわけじゃないんだ。
「おー、流石ザーギス。前よりも魔術の速度が上がってるね」
「んだ。やっぱり魔術はザーギスが一番だべな」
「お褒めに頂き光栄です。ノールタル様。ゴードル殿」
で、このザーギスさん。
ノールタル姉さんとは前から知り合いらしく、色々便宜を図っていたんだとか。
ノールタル姉さんが……クソどもに誘拐されたときは実地調査って偽って飛び出してあたりを捜索していたみたい。
「その様はやめてくれって言ってるんだけどね」
「いえ、ノールタル様は女王陛下の姉なのですから。実力主義のこのラスト王国ですが一定の敬意を払って当然かと思います」
「ただ単に、ザーギスが家から放り出されたとき、飯を食わせてもらった恩だけどな」
「ええ。あの時は本当に助かりました。おかげで陛下にもお目通り出来、四天王までになれたのですから」
おー、そんなストーリーがあったんだね。
そんな風に関心していると……。
「ザーギスの話で盛り上がるっているのはいいが、銃の練習を始めるぞ」
「「「はい」」」
田中さんの声に否も何もなく即座に行動に移すあたり僕たちもすっかり調教されちゃったねー。
と、そんなくだらないことを考えつつ、田中さんから言われるままにまずは銃を握ってみる。
「重い」
そう、ハンドガン、日本語で言うと拳銃で、拳サイズのものなのにその手にかかる重さはズシッと来る。
「そりゃ、壊れないためにしっかり作っているからな。というか、結城君たちはこれよりも重い剣を握っているだろう?」
「あー、そうなんですけど。これだけ小さいのにずっしり来るのは初めてで」
「そう言われるとそうだな。密度はこっちの方が上か。ま、それはいいとして問題はちゃんと持てるかだな」
うん、晃の言うように、ハンドガンはこの大きさので剣よりも重く感じる。
でも、レベルアップしているおかげで特に苦も無く振り回せる。
それっぽく構えてみるけど、やっぱり負担は感じない。
「それだけ動かせれば問題ないだろう。次は構えて、ザーギスが用意した的に銃を向けてみろ」
そう言われて僕たちは早速的に向けて銃をスチャッと向けて引き金を引くが……。
「あれ? 弾がでないよ?」
「誰が撃てといった。そもそも弾倉入れてないからな」
「「「だんそう?」」」
田中さんの言葉で首をかしげたのは、ノールタル姉さんたちだ。
まあ、銃の仕組みなんて知らないよね。
僕たちも気が付くのは遅れたけど。
「弾倉っていうのは拳銃の握りのところに入れる、弾が入ったカートリッジだな。わかりやすく言うなら、弾を込める道具だ。この弾倉がなければリロード、弾の補給ができないから、見ての通りただの重い鉄くずになる。入れ方はこうだ。そして出し方はこう」
田中さんはそう言いながら、弾倉を目の前で出し入れをしてくれる。
わかりやすい。
僕も弾倉ぐらいは知っていたけど、入れ方出し方はさっぱりだったからね。
さて、弾倉も入れてこれで完璧。
早速的に狙いを定めて……と、思ったら田中さんが僕の頭をたたく。
「撃てと言ってないからな。まだ待て。ここからが大事だ」
「え? なんかあったっけ?」
「ある。弾倉を入れた状態で人に銃口を向けるな。撃たれても文句は言えないからな」
「あー」
それは確かに大事だ。
「どういうことだい? 撫子はわかるかい?」
「いえ。一体どういうことでしょうか?」
おや、珍しい。
撫子が知らないなんて。
って、戦争ものの映画なんて見ないか。
「銃という武器が強力なのはここのメンバーなら知っているだろう。そしてその攻撃は弾倉が入っている銃口から出てくる。つまり、弾倉入りの銃口を向けられるということは撃たれて死ぬという可能性があるわけだ」
「なるほど。だから弾倉入りの銃口向けた場合撃たれるってことか」
「そういうことですか。わかりました」
「ま、そこは覚えおけよ。俺も今後は結城君に銃口を向けられたら撃つからな。遊びでも人に銃口を向けるな。銃を使う者の基本だ」
「「「はい」」」
「って、さっき私に普通に銃口向けてませんでしたっけ?」
「ヨフィアはそれぐらいでちょうどいいと思っただけだ」
「ひどっ!?」
そんな感じで笑いを取りつつ、僕たちは銃の練習を始めることになり……。
「あれ? 意外と当たらない」
「難しいですわね」
なぜか的に当たらない。
なんでだろう?
首をかしげていると、晃が……。
「いや、サイトをちゃんと覗けよ」
「「「サイト?」」」
なんか変なことを言って僕たち全員がさらに首をかしげる。
「結城君意外と、サイトって知らない奴は多いんだ。まあ、こういうのを教えるためのものだから、しっかり覚えてもらうとしよう。土壇場で渡さなくてよかったと思えばいい」
「……ですね。これ本番だったフレンドリーファイアでしたよ」
どゆこと?
とりあえず、僕たちはこうしてその日から銃の訓練を始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます