第323射:仕事とプライベートはわける

仕事とプライベートはわける



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「おっ、こっちも意外といけるな。ほれ、ヒカリ食べてみな」


そういって、ジェシーが果物をこっちに放り投げてくる。

それをキャッチしてパクっとかじってみると、意外な甘みと酸味が合わさって思った以上においしかった。

オレンジとレモンを混ぜたような味だ。


「おー、初めての味わい」

「だろ? 初めての土地に来たときのだいご味ってやつさ。怖がる前にやってみろってことだ」


そういってジェシーは笑顔でいいつつ。


「ほら、お前らも」


晃や撫子、ノールタル姉さんたちにもポイポイと投げ渡す。


「ど、どうもありがとうございます」

「……ありがとうございます」


受け取った2人は微妙な顔をしつつもちゃんと受け取ってかじっている。

まあ、2人とも撃たれたからそこらへんいろいろ思うところがあるんだろうけど、ジェシーがあまりにも敵意がなさ過ぎてちょっと自分の態度をどうするべきが迷っているかんじかな?


「うん。おいしいね。しかし、ジェシーは本当に敵だったのかい?」


ノールタル姉さんは特にそういう因縁はなくて遠慮なく疑問をぶつける。

そのストレートな物言いはちょっととは思うけど、ここではっきり聞くのもいいのかなと思ってジェシーの顔を見ると。


「ん? 敵というかターゲットだな。仕事で相手を殺すなんてのはよくあることだったからね」

「敵とターゲットって違うのかい? いや、全然殺気がなくてヒカリたちの警戒がかみ合ってない気がするんだよね」


そうそう、ノールタル姉さんの言う通り。

私たちが警戒しています、信用していませんという威圧をしているのにこのジェシーと来たら普通に街歩いて、僕たちに接してくるのでなんというか調子が狂うんだよねー。

そんなことを思っていると、ジェシーは僕たちに視線を向けてきて。


「そりゃ、仕事は終わったんだ。殺意なんて向ける理由がないね」

「なるほど、ジェシーは軍人なんだべな」


なんだよそれ、と思ったけど、意外なことにゴードルのおっちゃんが素直に認めている。

どういうことだろうと思っていると、ジェシーがなんか苦笑いをしながら……。


「軍人じゃないよ。あそこまでがっつり徹底しているわけじゃない。私たちのような傭兵は個人個人の気分さ。とはいえ、気分で恨みつらみを重ねていたら山ほど殺す相手を作らないといけないからねー。仕事として割り切るのさ。スポーツで負けた相手を憎むなっていうのと一緒だよ。ヤマトだっけか?」

「……はい。そうです」

「ま、怒って襲い掛からないだけましか。とはいえ、お前だってダストと一緒に敵を倒したんだろう? 人じゃなくても魔物とかな。そいつらから恨まれてもおかしくないわけだ」

「それは……その通りです」


撫子は気まずそうに答える。

まあ、撫子は生真面目だからなー。

自分がジェシーと同じだって言われていると素直に認めつらいものはあるよねー。

とはいえ、言っていることは事実かー。

だけど……。


「それを返せば、ジェシーは私たちの敵になることはないってことでいいのかな?」

「ああ、わざわざ敵を作る理由はないね。仕事で敵対して次の仕事でチームだったっていうのは戦場ではよくあること。何より私は今ゾンビらしいからね。ダストとの契約を破れば死体に戻るんだろう? そういうのは勘弁だからね」

「なんか、ジェシー……さんは田中さんに撃たれたのに、敵意がないんですね」


晃がそうちょっと言いづらそうに口を開く。

まあ、そうだよね。

晃もジェシーに直接撃たれたんだし。

そして、ジェシーも田中さんに見事に穴だらけにされたはずなのになぜか敵意がない。

それは不思議だよねー。

いくら何でも自分が直接やられたんだから、そこに多少感情があってもいいとは思うんだけど。


「敵になったんだから撃たれるだろう。それだけの話だ。そして私は新しくダストと契約をした。死んだことに対しては自分の力量不足を嘆くだけだね。あと、敵意を抱いていたら処分されるんだから普通やめるだろう?」

「「……」」


もっともなことを言われて、晃と撫子は黙る。

確かに命に係わることだし、大人しくなるのは当然だとは思うけどね。

とはいえ、やっぱり撃たれた二人としては微妙な気持ちらしい。


「慣れてない新兵みたいだなー」

「実際僕たちは新兵とそこまで変わらないけどねー」

「確かにな。ダストからの話だと日本の学生だったとか」

「そうだよ。こっちに来るまでは人殺しどころか、喧嘩もしたことなかったよ」

「うへ。ぴよぴよ以前の問題かよ。よくあの馬鹿どもは戦力にいれようなんて思ったな」


本当にそう思うよ。

でも、ユーリア的には未来が見えていたからこそ僕たちを呼んだんだけどね。


「だから、田中さんは僕たちを助けてくれたんだよー」

「ま、当然だな。あんなアホばかりの中で勇者とかなんとかいう立場があるヒカリたちを守った方が今後取れる手段は多いよな」

「ま、田中さんの事情はいいとして、そういうことで僕たちは一緒に行動して帰る方法を探しつつ、色々鍛えてもらっているわけさ」

「帰る方法ねー。本当にあるのかね」

「それを調べるためにこの大陸に来ているのです」

「向こうの大陸はルーメルが調べているんで」

「ふーん。ま、色々気になるが、そこはダストの奴が上手くやるだろうさ。よし、ま、見たいところは見たし。おまえさんたちとも話は出来たし、戻るか」


そう言って、ジェシーはゼランさんの倉庫がある方向へ歩き始める。


「え? もういいのですか?」


その行動に撫子が不思議そうに声をかける。


「ああ。とりあえず、町中でガキたちとメンバーとの話しもできたんだ。これで十分だろう」

「それって僕たちとうまくやれるかって話?」

「そうだな。というか、私はともかく、ヤマト、ユウキがどうなるかって話だったな。とりあえず後ろから撃たれる心配はないようだから問題ないと判断したんだよ。撃つかい?」

「撃ちません」

「撃たないですよ」


質問されて即座に返答する2人。

確かに、この2人がジェシーを背中から撃つような真似はしないよねー。

と、思っていると……。


「私は変な動きをすると、あなたをぶっ殺しますからね?」


そう冷たい声でヨフィアさんがいう。

いやー、笑顔なのに笑顔じゃないっていうやつだねー。


「はは、お前程度にやられるとは思わないけどね。ま、気を付けておくよ」

「ちっ、それが本当だから質が悪いですね」

「もっと現場をくぐればいいさ」

「あー、私はか弱いメイドなのでそういうのは遠慮しております」

「くくっ。か弱いねー。まあいいさ。とさっさと戻るよ。ダストのやつも待っているだろうからね。さて、魔族の死体の一つでも持ち帰ってくれればいいんだけどねー」

「いや、あれは無理でしょ」


ジェシーの言葉に突っ込みを入れる僕。

いや仕方ないじゃん。どっからどう見ても、あの爆発で生き残っているとかありえないし。


「そうだろうね。とはいえ何か少しでもヒントになるものぐらいは見つけてくるさ。ダストはそういうやつだよ」

「そういえば、ジェシーって田中さんと一緒の傭兵団だったんだよね?」

「ああ、マイケルの奴が運営していた傭兵団に入ってた。というか今も入っているつもりなんだけどね」

「入っているつもりというのはどういうことでしょうか?」

「私の話は聞いていないのかい? 私の記憶ではマイケルの傭兵団の任務中にこっちに飛ばされてきているんだよ」

「あー、なんかそんなことを聞いたような? でも、時間がおかしくないですか?」


うん、田中さんから聞いたけど、ジェシーが死んだと思われる戦いは、かなり前でだからこそドローンでの奇襲が上手くいったって言ってるから、少なくとも10年近くは前のことだ。


「そこらへんは私にもわからないね。タイムトラベルという可能性もあるけど、そこらへんは私は専門外だね。とりあえず今は、この港を防衛だろ?」

「あ、はい。その通りですわ」

「といってもどう防衛するんですか?」

「とりあえず、ドローンで絶えず監視しかないね。ま、ダストが戻ってくるまでの間に魔族が来るならやるだけの簡単なお仕事だよ」


そう言いながらジェシーは歩いていく。

その言葉には何も恐れはない。

ただ仕事をこなすというだけ。

その姿勢は田中さんを思い出させる。

なるほど。こういうのを職業病みたいな感じなのかな?

そんなことを考えながら、僕は撫子に近寄り……。


「で、どう?」

「……気持ち的には警戒しますが、今の様子を見る限り敵対するような方には見えませんでした」

「そうだよね。あとは僕たちの気持ち次第かな?」

「そうかと。はぁ、これが大人の世界なのですね」

「いやー。結構特殊だと思うけどね」


まあ、商売敵っていう話は確かに日本でも通用するとは思うけどねー。


「とりあえず、ジェシーが仲間に加わったんだし喜ぼうよ」

「……確かに、戦力としても今の会話を聞いてもかなり心強いですね」

「そーそー。色々あるけどさ、ジェシーもああやって距離を縮めようとしているんだからさ」


僕は正直ジェシーの加入はものすごい戦力アップじゃないかって思っているんだけどね?


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