第98射:村の処遇

村の処遇



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「まったく。2人とも途中で遊びに変わっていましたわね?」

「えー、それを言うなら撫子もでしょー?」

「鬼ごっことか久々だったよな」


そんなことを言いながら、すっかり日の暮れた村の広場でそんなことを言い合う私たち。

きっかけは晃がちょっと難しいことを考えて、思い詰めていたんだけど、そこに茶々を入れて、なんか知らないけど、荒野の決闘から鬼ごっこになっていた。


「鬼は撫子だったよねー。僕たちをずっと追いかけまわしてきたから」

「だな。なんとか逃げ切った」

「勝手に鬼にしないでください。最初は喧嘩をしそうだから慌てて止めに入ったのに、2人して私から逃げ出すんですから驚きました」


いやー、正直この3人の中じゃ怒ったら怖そうだし、晃を目を合わせただけで逃げようってなった。


「でもさ、すっきりしたよ。なんか久々に遊んだーて感じ」

「わかる。鬼ごっことか小学校の時以来だよな」

「ですわね。中学生にもなると、もう勉強勉強ですから」

「部活動とかもあったからねー」

「自由って感じじゃないよな。中学からはなんか社会のルールに縛られるというか……」

「まあ、それは仕方のないことでしょう。大人になるってことですから」


撫子の言う通り、大人への道なんだろうけどさ、こういう楽しい遊びを忘れてたのは悲しいよね。

でも、今日それが思い出せてすっきりした。

何も考えずに走り回って、夕暮れには家に帰るんだ。


「と、僕たちに貸し出されている家ってどこだっけ?」

「あっちの家だろ? ほら、お姫様が窓から見える」


晃に言われてその家の窓を見てみると、確かにお姫様の姿が見える。

あそこが僕たちが今日泊まる家か。


「やったねー。屋根と壁がしっかりしてゆっくり寝られるー」

「そうだな。って、前まで普通のことだったのに、なんか本当に殺伐とした生活おくってるよなー」

「ま、そこらへんもあって晃も疲れて妙に悩んでたんだよ」

「だなー。光、撫子、本当にありがとうな」

「お互い様だよ。僕もこっちの世界でたまってた鬱憤を晴らしているみたいな意味もあったし」

「私もそうですわね。二人がいたからここまでやってこれましたわ。そしてこれからもよろし……」


と撫子は言葉を最後まで言わずにその場で立ち止まる。


「どうしたの撫子? なんか忘れ物?」

「何かもってたっけ?」


そんな感じで僕と晃は声をかけるんだけど、撫子の様子は落とし物という感じではない。


「ちょっと待ってください。お姫様の様子が何か変です」

「「お姫様が?」」


そう言われて、僕たちは再び窓越しのお姫様を見ると、その表情はなにか暗い感じはする。


「あー、ほら晃と同じようにこの村の話を聞いて落ち込んでるんじゃないの?」

「まあ、ありそうだよな」


僕はそう判断して、晃も賛同してきたのだが、撫子だけは僕の話に乗らずに、厳しい顔のままで……。


「お姫様としては、この魔族の村はどう見えるのかが心配ですわね」


そう言われて、僕と晃はぎょっとした。


「ちょ、ちょいまち。それって、この村を潰すとかじゃないよね?」

「流石にそれはないだろう」

「私もそう願いたいですわ。でも、宰相はこの場を利用して魔族の情報を得ていることもあって、お姫様から見ればここは裏切者が利用してた村である上に、住んでいるのは魔族です。となると下手に考えなくても不法占拠みたいなものです。下手をすれば領土侵犯、あるいは侵略行為とでも取れます」


それは僕でもわかる。

でも、こののどかな村を見てそんなことは……。


「とりあえず、お姫様の本心を聞いておきたいですわね。相手は田中さんのようですから、隠しはしないと思いますが、私たちを見て答えが代わるかもしれませんから、隠れて様子を窺いましょう」

「あー、でも、盗み聞きっていいのかなー?」


流石にお姫様を疑うようなことはどうなんだろう?

いや、疑うのは当然なんだけど、こういう盗み聞きはなんか今後の信頼関係に罅が入る気がする。

それは、色々とまずい気がするんだけど……。


「しかし、本心が聞けないのであれば、それは問題でしょう?」

「まあな。でも、逆に俺たちが聞いているのがばれて、勝手に動かれるのも問題じゃないか?」


お、晃、ナイス!

私の言いたいこと言ってくれた!


「……むう。確かにそうですわね」

「ここは、正々堂々聞いて、これで俺たちを騙すとか勝手に動くなら、それまでだったって方がよくないか?」

「なるほど。私たちに非は、後ろめたいことはないという話ですね」

「そうそう。何かしてたら、仕方がないとか思うかもしれないけど、こっちは何も恥ずかしいことはしてないのに向こうが不義理っていうのかな、そういうことをすれば、俺たちがかばってやる理由もないだろう?」


おお、なるほど。確かにそれなら、僕たちもその時は未練なくお姫様を多分見捨てられるかな?

まあ、実際どうなるかはわからないけど、確実に僕たちの罪悪感は減るね。


「わかりました。晃さんの言う通りだと思いますわ。正々堂々とお姫様の意見を聞きましょう。警戒して疑うよりましです。光さんもいいですか?」

「僕も問題なーし」


ということで、僕たちは堂々と正面から家の中へと入っていくと……。


「皆さん……」

「お。喧嘩は終わったか」


お姫様は何と言っていいのかわからないって感じでこっちも見つめてきたけど、田中さんはさっきと変わらない感じだ。

よし、これなら話を聞いても問題ないと判断した僕は……。


「おわったよ。僕の大勝利。晃は泣いて謝ってた」

「いや、勝手に捏造するなよ」

「け、喧嘩ですか!?」


適当に冗談を言うと、すぐに晃が反応して、お姫様も慌てている。


「別に気にしないでください。ただのじゃれ合いみたいなものですわ。おかげで大変でした。最後には鬼ごっこでしたし」


撫子もこっちに合わせてくる。

横に控えていたカチュアさんはいつものように静かにしているから、やっぱりというか、そこまで危険な話ではなかったのかな?


「で、2人は向かい合って何か話してたの?」


単刀直入に聞くことにした。

こっちのことを聞かれて答えたんだから、別に聞き返しても不自然じゃないよね。


「それは……」

「別に隠すようなことじゃないだろう? それとも隠しておくか?」

「……タナカ殿その話し方では、何か隠したいことがあるだろうかと言っているようなものですが」

「その表情で俺と話しておいて、今更隠す方が不信感を持たれるぞ?」

「……わかりました」


お姫様は観念したのか、こちらにしっかりと向き直って口を開く。


「正直な話。この村の取り扱いを悩んでおりました」

「……魔族の村だからですか?」


晃が心配そうにお姫様に聞き返す。

さっきもそれで悩んでたから心配だよねー。

ま、いざとなれば、ルーメルとガチンコすればいいんだよ。

僕たちが魔王の代わりになればいいのさ!! って感じには割り切れないんだろうね。

どっちも大事にしたいんだろうね。僕はどちらかというと、はっきりしているからねー。晃みたいに悩むことはないかな。


「はい。正直に申しますと、これは魔族によるルーメルの侵略行為ともとれます」

「話はわかりますが、すべての村が開拓をするのに国の許可をいただいているのですか? 勝手に切り開いて村を作っているという話も多々聞きますが?」

「……それはそのとおりです。国法であれば、村を自ら切り開いた場合はその切り開いたものたちの土地です。ある意味独立国家のようなものですが、大抵国の庇護を求めますので、税金を納め、我が国の一員として迎えることとなります。ですので……」


恐らくお姫様は魔族の村は認められないとでも言うつもりだったんだろうけど、そこで撫子が口をひらく。


「では、安心ですわね。既にあの村の人たちはルーメル国民と認められたということですから」

「……それは」

「魔族だったから無しとなるのですか?」

「……そこで悩んでいます」


お姫様はそう言って顔を下に向けて、話を続ける。


「私が、勇者様たちをこの世界に呼び出したのは、あの過酷な未来を回避、あるいは乗り越えるためです」


それは知ってる。

だから、無理をしてまで僕たちをこのお姫様は呼び出した。


「……それは自分の為だけではありません。国の民の為です」

「話はわかるけどさ。でも、その未来に繋がっているか分からない、この村の魔族をのみんなを排除するつもり? 何も悪いことはしていないのに?」

「ですが、これから何かを起こす可能性が……」

「案外それがきっかけで、あの戦いが始まるとしてもですか?」

「……」


そう、撫子の言うようにこういう民間人への無差別攻撃が、お姫様が見た未来に繋がる可能性だってある。

そしてなにより……。


「お姫様はこの村で静かに暮らす人たちが死んでも胸が痛まないですか?」

「……」


晃が言う通り、こんな人たちを殺したり、追い散らすなんてのは、まともな思考の持ち主だったらできない。

そして、その質問に答えられないお姫様を見ると、やはり好き好んで殺したいと思っているわけじゃない。穏便に済むならそれが一番いいはずだ。


「痛みますが、それで未来を守れるのなら……」


周りの反対を押し切って僕たちを呼んだお姫様らしい答えだ。

でもなー。それで流石に死人がでるのはいただけないよ。

けど、説得する方法も持ち合わせていないんだよなー。

お姫様がやるといったら、僕たちのことなんか無視なのは良く知っているし。

そんなことを考えていると、不意に田中さんが口を開いて……。


「いや、真剣な話なところ悪いが、ここを1つ潰したところで何も変わらんぞ。ここだけが情報収集の拠点なわけないだろう」

「「「……」」」


と、真剣な空気をぶち壊してくれた。


「そもそも、ここがそれだけ重要な拠点なら、こんなゆるーい警備なわけないだろう」

「「「……」」」


御尤もです。

僕たちとか既に襲われてそうだよね。


「結城君の心配も、お姫さんの懸念もわかるが、ここで何かが起こるとは思えないし、もっと他で備えた方が効率的だろう。俺たちも、無論魔王の軍勢もな」

「「「……」」」


はい、そうですね。

僕たちが先走りし過ぎました。


「で、お姫さんどうする?」

「……情報だけ集めて帰りましょう。もっと攻めるに適した場所は確かにいくらでもありますから」


お姫様はそう言って、肩を落とす。


「さ、村長が用意してくれた晩御飯もありますので、今日は暖かい食事を食べて、ベッドでゆっくり休みましょう」


そう言って、カチュアさんがお姫様を含めて僕たちを促す。


「え? でも、普通にタナカさんが出すご飯の方が暖かくて美味しくないですか? ちょっとここの……げふっ!?」


ヨフィアの言いたいことは非常にわかるけど、ご飯を用意してくれた村長さんに失礼だから、カチュアさんにボディーを入れられたのは仕方がない。


とまあ、そんな感じで、僕たちは魔族さんたちが暮らす村でのんびり料理を食べて、眠りにつくのだった。



「あ、意外に美味しい」

「だからあなたは失礼なのです!! リカルドさん。キシュアさん」

「「はっ」」

「ちょっ!? 裏切ったなー!?」


なんかこっちはこっちで楽しそうだねー。


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