第349射:意外な差
意外な差
Side:ナデシコ・ヤマト
私たちは今、冒険者ギルドの訓練場に来ているのですが……。
しん……。
そう表現するしかない状況になっています。
普通であれば、冒険者たちが訓練をして力をつけているので、活気がある場所でこんな静かになるようなことはありません。
なぜこのように静かになっているのかというと……。
ガラッ。ミシッ。
その音が原因です。
音が鳴る先にはシシルさんが壁まで吹き飛びへこませ、地面にヒビを入れてうつぶせに倒れているギネルさんがいます。
「って、ぼさっとするな。光! 回復! 俺はギネルさんのところに行くから!」
「あ、うん!」
晃さんの言葉で我に返り、地面にたたきつけたギネルさんの様子を伺います。
光さんも慌てて、吹き飛ばしたシシルさんのもとへ駆けていきます。
彼女はエクストラヒールが使えるので、治療に問題はないという判断ですね。
私の場合はそれが使えないですから……・
「ギネルさん。大丈夫でしょうか?」
「あ……う……」
あまり意識がはっきりしていませんわね。
下手に動かすわけには……。
「とりあえず撫子。回復魔術かけろ。いいですよねルクエルさん!」
晃さんが立ち合いをしてくれているルクエルギルド長に確認を取ると……。
「あ、ああ! 治療にあたってくれ。お前も治療に加われ」
「は、はい!」
ルクエルギルド長も我に返ったのか、横にいる回復術師らしき人に声をかけて動き出します。
ですが、それはどうでもいいです。
回復魔術を全体にかけてはいますがこのままでは非効率です。
ケガをしているところに集中的に回復させるのがいいのですが……。
地面が窪むほど叩き込んだギネルさんですが……両脚は変な方向に曲がっていますし、防御に回った片腕は完全に折れています。
……この状態だと中にもダメージがいってる可能性がありますね。
「加減しろよ……」
「まさかこんな風になるとは思ってなかったんです」
そう、こんな風に見事に攻撃が直撃したことなんて今までありませんでした。
なにせ田中さんやジョシーさんには全く攻撃が当たらず、ヨフィアさんやゴードルさん、ノールタル姉さん、セイールさんたちには見事に受け止められていたのです。
だから、こちらの冒険者の上位であるギネルさんに攻撃が通じるとは思っていなかったというのは真相です。
「意外と俺たちもすごいかもな。そこら辺の認識ズレを調整してもらった方がいいかもしれない。とりあえず、折れた足をまっすぐにするから……」
「わかりましたわ。すみません少し我慢してくださいませ」
私はそういうとギネルさんの折れ曲がった足をまっすぐにする。
これをすると回復魔術による体の移動が無くなるのでより回復効率が上がるのです。
下手な魔術師がやると曲がったままくっついてしまうこともあるので、そういうのがないようにこうすることがこの世界でも普通らしいとルルア様がいっていました。
おそらく知識がないとだめということでしょう。
と、そこはいいとして。
「あぐっ」
ギネルさんはうめき声を上げますが、治療のために我慢してもらうしかありません。
なるべく早く骨折を直します。
そして、防御に使った腕は晃さんが腕を直してくれていました。
「よし。見てわかるところは回復したな。あとは、ギネルさん聞こえますか? 体で痛いところはありますか?」
そう晃さんが声をかけてくれます。
流石に傷をつけた私が声をかけるのははばかられたので黙って様子を伺っていると。
「う、ううっ。大丈夫? ちょっと、まってください」
そう返事をするとギネルさんはその場で立ち上がり、不思議そうに手や足を確認しています。
「治っています。あれだけ重症だったのに……」
驚きを隠せないようで今までひしゃげていた手と私たちの顔を交互に見比べていた。
その様子に内蔵関連は傷ついていないと安心する。
「それはよかった。でも、一応念のためにもう一度回復しておきますね」
「え?」
ギネルさんは驚いた様子でしたが、晃さんは返事を聞く間もなく、回復魔術をかけてしまいます。
おそらく自覚症状がないものがあることを考慮して全体的に回復をしているのでしょう。
私も同じようにします。
とりあえず今の所は大丈夫そうだと安堵していると……。
「ふぅ、こっちも終わったよー。そっちも大丈夫そうだね」
そう言いながら、光さんがシシルさんを連れて戻ってきました。
「でさぁ、ルクエルさん今のって手加減してた? それとも本気? いや、骨折れてたしこっちの攻撃を軽減してなかったよね?」
光さんはこちらの様子を見た後審判役をしていたルクエルギルド長に確認を取っています。
確かに、明らかに実力が違いすぎました。
シャノウにいたシャノンギルド長よりも明らかにしたで、どの程度を見ていたのでしょうか?
「いや、2人に手は抜くなと言っていました。というか、こちらから言わせればそちらの実力が高すぎますな。確かにこれならシャノンと渡り合える……いえ、かなり手加減していたのですね」
そう言われると確かに、シャノンさんとの戦いの時は手は抜いていました。
下手に有名になるのも困るし、相手がどこまで強いかというのもわかっていませんでしたから新人として冒険者ギルドに向かったのです。
とはいえ、これを素直に言うのはどうかと悩んでいると……。
「当然ですよ。私たちは海を渡ってきたといっているでしょう? こちらの力がどのようなものかわかっていないのです。ですから、隠して様子を見るというのは当たり前です」
ヨフィアさんが笑顔でそう答えます。
「まあ、意外なのはこちらがある程度力を入れた程度で、ギルドから派遣されるほどの人物が一撃で戦闘不能になったのは驚きですけど。不快かもしれませんが、彼女たちの実力はこのような物でしょうか?」
さらに追撃で聞きにくいことをズバッと聞きます。
彼女たちの顔は多少しかめっ面になります。
それは分かります。
何せ弱い、役に立たないと面と向かっていったようなものですから。
「こういうと言い訳に聞こえるかもしれないが、彼女たちはあくまでも連絡役だ。なのでそこまで戦闘が上手いかというとそうでもない。とはいえ、彼女たちもギルドの指導役として立ちまわっていますが」
「なるほど、となると彼女たちの実力が不足しているというよりもこちらが強すぎるという認識で間違ってないのですね?」
「ですな。一体どのようなことをすれば彼女たちのような若者がそれだけの強さを持てるのか……」
「それは秘密です。まあ、私のご主人様たちなのでこれぐらい当然ですが」
流石に私たちが召喚された勇者であることは秘密となっています。
これは私たちがルーメルに使われているだけと認識されてしまいますからね。
間違いではないのですが、妙なちょっかいが出てくる可能性があるので秘密となっています。
帰るための手段を探すという露骨なことも言っていません。
それだけで手段となりますからね。
表向きはユーリアを筆頭にルーメルの人たちがゼランさんたちを追い詰めた魔族に対する対抗するためにということになっています。
名を広めた後で、ついでに情報の収集も行うというのが田中さんたちの判断です。
下手をすると遺跡を調査させるから無償で働けと言われかねないといっていました。
……そんなことはないと言い切れないのが悲しいことろです。
「それで、彼女たちは敗北しましたが連絡役にふさわしいでしょうか? 別の人員を用意した方がよろしいでしょうか?」
おっと、今回の力試しはそのためでした。
だからこそ私たちは手加減をせずにやったのです。
とはいえ、この場合交代してもらうべきなんでしょうか?
せめて私たちの攻撃を受けられる、避けられるぐらいの実力はないと魔族との戦いにはついてこれない気がするんですが……。
「そうですねー。実力的には、まあ初見での油断があったのは事実でしょう。とはいえ油断しすぎですけどね。私から見ると今ナデシコ様たちの動きを見た後なら多少ましになると見ています。とはいえ、実力が高いことには越したことはないんですが、交代するとしたらどれぐらい時間が掛かりますか?」
「正直、彼女たち以上の人材はシャノンギルド長などを遠方から呼び寄せる必要があるのでしばらく時間が掛かるし声をかけたところで受けてもらえる可能性は低い。なにせ理由が理由ですからな」
私たちの存在を伝えたところで信じてもらえないということですね。
シャノンさんは理解してくれそうですが、仕事を放棄してまでとなると代わりの人を用意するとかで時間が掛かるのは当然ですね。
「でしたらその2人で大丈夫ですよ。こちらで鍛えますし、元々欲しいのは連絡と情報ですから。多少動けるぐらいでいいでしょう」
「あなた方のような方に指導してもらえるというだけでも幸運ですね。2人ともいいか?」
「「はい」」
特に2人も否定することはありません。
許可を貰えたのですから当然と言えば当然なのですが……。
「ねぇ、晃、撫子。訓練っていうと……」
「多分じゃなくて、どうみても田中さんだよな……」
「いえ、案外ジョシーさんがやるかもしれませんよ?」
「「「……」」」
私たち3人は沈黙します。
どのみち楽なことはないと思ったからです。
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