第52射:平和だったが……
平和だったが……
Side:アキラ・ユウキ
「おー、こんな田舎まではるばるよう来てくれましたなー」
そう言って出迎えてくれるのは、森の村としか名前がついていない、小さい村の村長さんだ。
俺たちは、街道沿いに出る魔物の被害を抑えるため、グランドマスターからの依頼を受けて、街道外れで大樹海に近い村の安否確認も兼ねて巡回に行ったのだが、小さい村はいたって平和だった。
俺たちが近づいてきたのが分かったのか、わざわざ門から人それなりに出て来て出迎えてくれたのだ。
「しかし、珍しいですなお客様とは。なにか、行商の方ですかな?」
「あ、えーっと……」
俺はそう聞かれてなんて言っていいものか悩んでしまう。
下手に村の人たちが沢山いる中で、街道沿いの魔物件を言うわけにはいかないし……。
そう思っていると、オーヴィクが前に出て……。
「いえ。残念ながら行商じゃありません。ちょっと、冒険者ギルドの仕事で、森の薬草を取りに来たんですよ。ここは大樹海に近いですから」
「ああ、なるほど。冒険者の方ですな。たまーに来られますな。しかし、ここら辺に薬草になるようなものは有れど、別にここだけでしか取れないわけでもないし、ここまでくる必要はないはずですが?」
なんか、妙に聞いてくるな。
俺はオーヴィクが話す様子を聞いて、違和感を感じてくる。
それを感じ取ったのか、田中さんが後ろからボソッと教えてくる。
「向こうにとっては、普通、人が訪れない村に、予定外の人がきたのは警戒することだ。盗賊とかの可能性があるからな。出迎えただけじゃなく、大人数でわざと出て来て威嚇も兼ねていたってわけだ」
「なるほど」
「それを証拠に、誰もが武器になりそうなもの持ってるだろう?」
そう言われて気が付いた。
確かに村の人たちは誰もかれも、農具とか、包丁とか、棒などを持って出てきていた。
それを把握して、なんというか血の気が引いた。下手したら囲まれて袋叩きだったかもしれない。
いや、それよりも村の人たちに俺たちが攻撃しないといけない、状況になるかもしれなかったことに血の気が引いた。
俺はこの人たちを傷つけることができるのか?
光や撫子が危険な目にあっているとき動けるのか?
「……というわけでして」
「ああ、あの草にそんな使い方が。そういえば、あれはこの地の特有のものでしたな」
なんか俺が嫌な想像をしている内に、オーヴィクと村長さんはにこやかに会話をして……。
「ですので、我々は敵ではありません。安心してくださって結構ですよ」
「ふむ。嘘はなさそうですな。すみませんな。冒険者の方々。昔に盗賊にこういうふうに襲われてましてな」
ああ、やっぱりそういうことがあったからこそ、こうして警戒していたのか。
「まあ、若いお嬢さんも多いですし、こんな盗賊はいませんな」
「ですね」
そう言って、オーヴィクと村長はこちらをみて微笑む。
確かに、盗賊というには、俺たちのメンバーはあれだな。
光、撫子、ラーリィ、クコさん、キシュアさん、ヨフィアさんと若い女性が多いからな。
こんなのが盗賊だったら世も末だよな。
で、注目を浴びた女性陣はというと……。
「こんなかわいい盗賊なんているわけないじゃん」
「だよねー。逆に襲われる方よね」
そんな感じで光とラーリィ言っていて。
「なるほど、私たちを盗賊かと警戒していたわけですね」
「そうね。でも、私はともかく、ナデシコみたいに容姿に服装が整っているのが盗賊なわけないわよね」
「何を言っているんですか。クコさんだって盗賊には見えませんよ」
「あら、ありがとう」
と、撫子とクコさんは女性らしい会話。
「私は、どうなるでしょうかー? メイドは盗賊ですか?」
「いえ、盗賊ではないでしょうが、この場では浮いていますね。ああ、警戒された理由はヨフィアのせいかもしれませんね」
「そんなー。それならキシュアさんだって、妙に目が鋭いから警戒されているんですよー」
「これは仕事上、仕方なくですね……」
ヨフィアさんとキシュアさんはなんか妙な責任の押し付け合いになっているけど、2人が原因とは全く思っていない。
まあ、場違いな格好や、妙に気合の入った人だなーと思うのは間違いないけど。
「おっさんたちはほぼ無視されているな」
「まあ、私たちはどちらかと言うと、盗賊に見えるからな」
「私も入っているのか!?」
ああ、田中さんたちは、もろそっち側だよな。
サーディアさん、リカルドさん共に強面だし。
田中さんは経歴を知っていると、盗賊どころか、マフィアのボスだよな。
そんなことを考えていると、村の人たちは俺たちが敵ではないの認識したのか、解散して、村長だけが残った。
「さて、冒険者の方々はどうされますかな? このまま森の方へ行かれますかな? それとも、村に入りますかな? まあ、村はこの通り小さくさびれておりますので、あまりおもてなしはできませんが」
「そうですね。ちょっと、村にお邪魔して、狩人さんとかに話を伺っていいでしょうか?」
「構いませんよ。では、こちらへ」
そんな感じで、俺たちは村の中へと入って行く。
「おー、あれが外から来た人か!!」
「すっごーい!! 剣と鎧だー!!」
中には子供たちがいて、俺たちの姿を見てはしゃいでいる。
「騒がしくてすみませんな。子供たちは村の外から人が来るのは珍しくてたまらないのですよ」
「ここはそんなに、人が来ないんですか?」
「まあ、見ての通り、魔王や魔族が住むという国に面する大樹海が隣に広がっておりますからな。普通の人は怖がって近寄りません。ある意味、それを狙ってこの村を作ったと先々代からは冗談交じりで聞いておりますな」
なるほど。ここはある意味、陸の孤島って奴なのかもしれない。
脅威が隣に存在しているとわかって来る連中は多くはないだろう。
肝試しとはわけが違うからな、この世界は。
危険だというのは本当に危険なのだ。命に係わる。
「でも、盗賊に襲われたことがあるとか? よくその盗賊はここまでやってきましたね?」
「ああ、大げさに言いましたが、なんというか狙ってきたとは思えない状態でしたからね。何せこの通り、何も財もない村ですからな。どうやら何かから逃げていたのか、ボロボロでしたて、恐らく討伐にでもあって命からがら逃げてきたのでしょう」
「なるほど」
「被害といえば、振るわれた剣で1、2人ほど斬られたぐらいで、それも大怪我ではありませんでしたが、それでも、やはり警戒するようになりましてな」
「その盗賊たちは?」
「流石に街へと連絡をして、引き取ってもらいました。まあ、村にとっては意外といい稼ぎになったので驚きましたな。わっはっはっは」
「ははは」
2人は笑っているが、俺にとってはトンデモない話だった。
襲ってきたとはいえ、ボロボロになっている盗賊を売り払ったということだ。
いや、この世界としては当然の行為だというのは理解していたつもりだったが、こうして、横で直に話を聞くとやっぱり何かが違うのか、自分の理性が拒否するような感じがする。
始めてウルフとかゴブリンをやった時の感覚と似ている。
まあ、俺の心情は横に置いて、村はいたって平和で穏やかな時間が流れており、街道沿いに魔物が現れているとか、リテア聖国内部が色々大変なことによる緊張感などはなかった。
都会とは別の時間が流れているような感じで、これが田舎って感じなんだろうなと思った。
そして、村の中を進むとすぐに村長の家に到着して中でゆっくり話を聞くことになる。
「さて、お水でもうしわけないのですが」
「いえ。ありがとうございます。あ、そういえばこれをどうぞ」
そう言って、オーヴィクは馬車から持ってきた小樽を村長の方へと差し出す。
「こちらは?」
「グランドマスターからの差し入れです」
「ほほ。これはありがたい」
いつのまに、グランドマスターとそんな話をしていたんだろうか?
あの時はそんなこと言ってなかったんだけどな。
そう不思議に思っていると、田中さんがボソッと教えてくれる。
「アドリブだよ。アドリブ。こんな小さな村に俺たちの人数をもてなす余裕は基本的にはないはずだ。だが、断るのも村のメンツをつぶすからな。こっちから材料費というか、宿泊代を出すってやつだ」
「ああ、なるほど」
「好意とはいえ、お金というか備蓄を消費してしまうからな。こういう村にとって一番仲良くなるのは、物資の提供だな。まあ、お金もありといえばありだが、ここではお金よりも現物の方が喜ばれるな」
「買う場所がないですからね」
「そういうことだ。まあ、これも余裕がある時に限るんだがな。自分たちが生きていけないのに物資を差し出すのはアホのすることだからな」
「だけど、村の人たちからの感触はよくなるってやつですよね」
「結城君も分かって来たじゃないか。そうだ。現地の人と仲良くしておいて損はない。敵対されると思わぬところで足を掬われるからな。これは必要経費ってやつだ」
そんな話をしている間に、村長さんの顔から笑みが消えて、オーヴィクと話していた。
「で、本当はどのような目的で来られたのですかな? 殆ど誰も来ないような場所の薬草を取りに来た。というのは尤もらしい話ですが、そんな仕事にこんなに大人数できますかな?」
「はは、流石、村長ですね。見破られていましましたか。ですが、別に悪意とかはないのでそれは信じていただけますか?」
「それは信じます。あなた方は妙に迫力がある冒険者としてもかなりの実力者なのでしょう。ですが、なぜこのような辺鄙な村に?」
「村長には伝えておくつもりでいたのですが、実は……」
オーヴィクは村長にこの村へ訪れた本当の理由を説明する。
最近街道沿いに魔物が出没して被害が出ており、その対処に冒険者たちも狩りだされていると、そして、行き来の少ない村の確認に自分たちが派遣されてきたということ。
「正直、オーガも街道に出現していましたので、村は絶望的だとみていました」
「なるほど、街道沿いに魔物が。私たちの知らぬ間に、結構なことが起きておるのですな。しかし、この村にはそう言うのはありませんな」
「ええ。平和そうで安心しました。ですが、村長は、この村はどうされますか?」
問題はこれからだ。
魔物が街道沿いに出現しているこの状況でこの村がこのまま安全である保障はない。
一旦リテア聖都に避難するのか、それともこのまま何もないと信じて村に留まるか。
「避難するのであれば、私たちが冒険者ギルドに報告をして、避難の支援を要請します」
「……この村に、そんな余裕はありませんからな」
問題はそこだ。
避難したとしても、リテア聖都で暮らすだけの余裕がない。
「事前に逃げたとしても、それは私たちの意思で逃げたということで支援金などは見込めないでしょう」
「それは、そうですね……」
日本でも同じだ。地震などの災害が起きそうだからどこかに避難してお金がかかっても、政府がお金を出してくれることは稀だ。
いや、被害がでてから、該当地域の人だけしか支援金はでない。
万が一を考えて避難していた人たちの分も補うほど余裕がないし、どこまでを避難とみなすのかが問題になる。
よくテレビにそういう話がでてた。
「でしたら、私たちは村で同じように過ごします。魔物がまだ襲ってもこない状況で避難を呼びかけても信じない村人もいるでしょうから」
「たしかに。わかりました。ですが、何かあれば……」
「ええ。その時は逃げさせてもらいます。なに、あなた方が気にされることはありません。これは私たちの選択なのですから」
そう言う村長に俺たちは何も言えず。
そのまま村を後にしたのだった。
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