第113射:繋がりをたどる
繋がりをたどる
Side:タダノリ・タナカ
俺たちはルーメル王と別れた後、宰相の所に来ていたのだが……。
「ふむ。私に君たちが魔族の情報を聞きに来るとは思わなかったね」
「別に、好き好んできたわけではありません。必要だから来たのです!!」
会ってそうそう険悪な走り出しだ。
というか、お姫さんは先ほどのルーメル王とのやり取りからかっかしているな。
頭に血が上りすぎている。
「お姫さん。ちょっと落ち着け、今はそれだと話にならん。それとも、無理やり眠らされたいか?」
「……わかりました」
俺が脅すと、流石に本気だとわかるのか、すぐに大人しくなる。
「やれやれ。宰相。あんたもお姫さんを挑発するな。面倒でしかないだろう?」
「私とて、そう言う意味で言ったつもりはかったですよ。本当にタナカ殿たちが再びこちらを訪れるとは思っていませんでしたからな」
ま、それもそうか。
結城君たちはあまりいい感情を持っていないからな、積極的に会おうとは思わないよな。
「ま、非常事態というわけでもないが、こっちもこっちであんたに会う必要ができたってわけだ」
「そうですか。しかし、私に手伝えることがあるとは思いませんがね」
「あんたは、あくまでも魔族を倒すことが目的だからな。融和や和平を目指す俺たちとは方向性が違うよな」
「その通り。勇者殿たちの平和を求める姿勢は買いますが、現実的ではない。それだけの話です」
「「「……」」」
魔族と和平はあり得ないと言い切るような言葉は、それだけで結城君たちを不快で、かつ不安にさせる。
「アスタリの町を防衛の要としている作戦はわかった。今更変更もできないものな」
「ええ。その通りです。あそこまで防衛のために費用をかけてきて、今更なかったことになどできませんし、あの時の悲劇が無くなるわけでもありません。私たちにとっても魔族にとってもね」
「あんたが備えているのはわかる。だからこそ、情報がいる。あんたが魔族の情報を受け取っていた相手がな」
「……魔族を殺す決意でもできましたか?」
「そういう風に見えるか?」
俺はそう言って、鋭い視線で宰相を見ているお姫さんや結城君たちを見る。
「いや、そうは見えませんな。魔族側に逃げるつもりですか?」
「逃げるつもりはないよ。話し合いのために会ってみたいんだよ」
「ええ。それで戦いが回避できるのならいいことでしょう?」
「だな。宰相の問題も解決できるからいいんじゃないか?」
「甘いですね。油断したところを殺され……」
「やられると思うか?」
「……るわけがありませんね。タナカ殿がいるなら逃げることぐらいはできるでしょう。なるほど、そこで決めるというわけですか」
ここでようやく俺のやりたいことが分かったようだ。
「あんたが諦めたことを、この結城君たちが諦めるかどうか見てみるのもいいんじゃないか? それで結城君たちが魔族討伐に参加してくれるなら、あんたにとってはいいことだろう?」
「……タナカ殿はてっきり勇者殿たちを守るモノと思っていましたが」
「守っているぞ。これであやふやな態度をとっていると敵を無駄に増やすし、戦場での迷いは死に繋がるからな。決意をさせるにはもってこいだ」
「モノは言いようですね。……なるほど、私にも利点があると」
「そうだ。このまま、ここでじっとしているのは不本意だろう?」
「私が誤情報を与える可能性もありますが?」
「これで、俺たちが死ねば真っ先にあんたが疑われるな。国を守るどころの話じゃなくなる。それとも、もう個人的な恨みを晴らす方向にかわったか?」
「そんなことは決してありませんな。私は最初から最後までルーメルに尽くす所存です」
「そうか。で、答えは?」
「……」
宰相は沈黙して、結城君たちやお姫さんを見る。
「ふむ。勇者殿たちはわかりませんが、姫様ならば魔族討伐を選びそうですね。いいでしょう。私が情報を得ていた人を紹介しましょう」
「私は戦乱など望んではいません……」
お姫さんは宰相をにらみながらそう言う。
「姫様が、望む未来を手に入れられることを祈っていますよ」
皮肉なのか。それとも本心で言っているのかわからない言葉を言って視線を俺に戻す。
「誰に話を聞けばいい?」
「フクロウに……」
「うげっ!? あのババアが魔族と組んでいたんですか!? やっぱりさっさと殺しておくべきでした!!」
ヨフィアが出てきた名前に過敏に反応する。
しかも素の方でだ。
よほど、情報屋のフクロウが嫌いらしい。
「いや、そうではない。娘。そういえば、お前はフクロウ殿の知り合いだったな」
「知り合いじゃないですよ。いつかぶちころ……。いえ、一発殴る予定ですから」
ようやく、結城君たちの視線に気が付いたのか、取り繕うが、もう遅いと思うが……。
まあ、これは前からわかっていたし、この程度で信頼が揺らぐわけもないが。
「で、そうではないと言うのは、フクロウが、魔族と繋がっているやつの情報を知っているという意味でいいか?」
「そうだ。話が早くて助かる。ドトゥス伯爵が捕まった時に、身を隠すように言ってな。わたしからは連絡の取りようがない」
「だから、フクロウを頼って場所を聞き出せってことか」
「その通りです。彼女なら知っているでしょう」
「わかった。フクロウに聞くとする。みんな行こう。急げば、まだ日が落ちる前に間に合う」
「「「はい」」」
お昼を食べてから、宰相のところに来ているので、城下にいるフクロウに会えるかぎりぎりのところだな。
ま、空振りなら空振りで、その時は冒険者ギルドに顔を出してクォレンから情報を引き出すのを先にすればいい。
「……話し合いで未来が得られるのならば、戦争なんて起こりませんよ。ですが、人はそれが出来ない」
そう、出ていく俺たちにボソッとつぶやく宰相に俺たちは反応を示さず部屋を出ていく。
宰相の言うことは一々もっともだが、人は理想を求めるものだからな。
結城君たちが戦争なんてと思って動くのが大事だろう。
行動を起こさないと、何も始まらないからな。
人は不可能を可能にする。そんなことを何度もやってきたからな。
まあ、ダメな時はダメだけどな。
成功の裏に沢山の失敗がある。
その時は、俺が全力でやらせてもらうとしよう。
どこまでのモノを出せるか試してみたいからな。
俺にとってはどっちに転んでも構わないわけだ。
そんなことを考えつつ、足早に城下町にやってきて、フクロウのところへと足を運ぶのだが……。
「おーい、クソババア!! 出てこーい!!」
ドンドンドン!!
ヨフィアがそんな風に叫んで、ドアが壊れそうなほど叩いているが反応がない。
「いないみたいだねー」
「急な訪問ですからね」
「ヨフィアさん。もうそれぐらいでいいよ」
「そうですか? 役に立たないババアですねぇ。アキラさんたちが、わざわざ来たっていうのに……」
「ま、いないものは仕方がない。手紙を残しておけば連絡を取ってくるだろう。だよな。ヨフィア?」
「ええ。あのババアならどうとでも連絡を入れてきますよ」
「ついでだ。帰りに冒険者ギルドに顔を出しておこうと思うが、みんなはどうする?」
冒険者ギルドに寄る理由は情報を集めるためだが、既に夕方だし、時間がかかりすぎれば、城下町で宿をとることになる。
そうなると、護衛の観点からお姫さんが危険なわけだ。
元々、お姫さんが俺たちと一緒なのは、暗殺を避けるためというのもあるからな。
まあ、暗殺されるなら最初からされているだろうが、今回はあからさまに色々文句を言いすぎたからな。
ルーメル王が考えているアスタリの町の防衛施策に対して文句を言うというのは、娘であろうがちょっとまずい。
全部を守りたいという気持ちはわかるが、現実的にはそんなことは不可能だからな。
下手すると、今回の作戦に関わっている連中が襲ってくる可能性があるわけだ。
お姫さんを放っておくと、国が亡びるってな。
わざわざ、襲ってくださいと言わんばかりの場所にとどまる必要はないだろう。
と、そんな俺の思惑をよそに……。
「何か、情報があるかもしれないのですね? 私も同席させていただきます。宰相のことをどれだけ信じられるのか、確認したいです」
お姫さんはついてくる気満々だ。
「あー、結城君たちが来るのは特に何もいわないが、お付きのカチュアとしてはどうなんだ?」
流石に、ひどいとまでは言わないが、冒険者の雰囲気にお姫さんがなじむとは思えん。
そして、暗殺者が来るとは思わんが、そういう可能性もなくはない。
魔族云々ではなく、ただの突発的な犯行って言うのはあるからな。
で、カチュアの答えはというと……。
「本来であれば、姫様が近寄るような場所ではないと思っておりますが、今回は状況が状況ですので、致し方ないかと」
「そうか。ならいいだろう。俺たちの側を離れるなよ。危険とは言わないが、冒険者をやっている連中とトラブルがあれば、それだけ時間を食うからな」
「ええ。わかっていますわ」
カチュアも止めないのであれば、連れて行くのには問題はない。
あとは、冒険者の連中とトラブルがないように釘を刺しておくが、まあ、そういうことは理解しているようで素直に頷く。
この様子なら、問題ないか。
ということで、俺たちはそのまま冒険者ギルドに向かうと、日が落ちかけで辺りがうっすらと暗くなっている。
「いいタイミングだったかもな」
「だねー。もうほとんどの冒険者は清算を済ませて、ご飯食べてたもんね」
「ですわね。もうこの時間は夕食の時間ですから」
「中、ガラガラだなー」
冒険者ギルドの中は、まばらにしか人はおらず、もう閉店かという感じだった。
すると、二階の方から人が降りてくるのが見える。
「んー!! 今日もよく働いた!!」
ルーメル王都冒険者ギルド支部のギルド長クォレンだ。
なんて、タイミングのいい奴だ。
「さて、帰りに一杯でも……」
そして、俺たちの姿をみたクォレンは感動したようで、固まってしまったようだ。
まあ、勇者様たちに、お姫さんが一緒だからな。
「よお。ちょっと、聞きたいことがあるんだが、いいよな? 今仕事が終わったみたいだからな」
「……いやー、今から大急ぎの要件があってな。そっちの方が……」
そう言って、即座に二階へと踵を返すクォレンを捕まえて……。
「ああ、仕事後の一杯は美味いよな。それは大急ぎの要件だ。じゃあ、飲みながら話すか」
「……そんな軽い話なのか?」
「そうだな。軽い魔族との国防戦に関してだな」
「そんなの外で話せるか!! まったく、タナカ殿がくるとひと騒動だな」
「何言ってやがる。最初のトラブルはそっちが持ち掛けてきたんだろうが。まあ、今回のことはあれだからな。ほれ、酒だ」
「ちっ。こんな酒で……って、なんだこりゃ? 見たことないな」
「それは、故郷の酒だ。異世界のだな」
「ほう。貴重な酒だな」
そう言って、クォレンが手を伸ばすがひょいと躱す。
「おい」
「話を聞いてくれるよな?」
「わかった。わかったから、酒をよこせ」
ということで、俺たちはクォレンから情報を聞き出すことになったのであった。
因みに、クォレンに渡した酒は、やっすいブランデーなので、全然高価でもなんでもない。
まあ、こっちの世界だと希少価値はあるだろうがな。
「あのお酒って、親父が飲んでたやつだ。確か980え……、がふっ!?」
「黙っとけ」
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