第342射:演習披露

演習披露



Side:タダノリ・タナカ



「意外と美味いものもあるんだなぁ」


俺はそう言いながら、昨日市場で買ってきた果物を美味いと食べながらテーブルに置いているタブレットを確認している。

今日はお姫さんとジョシーが戦車のお披露目をする予定だ。

監視をしっかりしていないとなー。


「昨日城門近辺に整列して放置してある戦車にちょっかいを出したのは10人か」


そう、流石に戦車を町に乗り入れるわけにもいかず、戦車を置いているのだが、お姫さんたちが城に言って説明している間。

勝手に検分している馬鹿どもがいる。

後で写真データを送ってやろう。

幸い壊せるような強度じゃないからいいが、新車とかなら塗装が剥げて弁償ものだぞ。

まあ、初めて見る物に警戒するのは当然のことだし、事前に伝えられた強力な武器であることもわかっているから情報収集はしたいだろうな。

最新兵器の情報なんて、この世界であろうが大事だと認識されているようだ。

いやー、これぐらいの動きはあって正直嬉しい。

これぐらいしてないと組むにしてもあり得ないからな。

そんな馬鹿を後ろに戦うとかやってられん。


「幸い本日は晴天。お披露目にはちょうどいい」


雨とか降っていると見にくいからな。

戦車砲の射程を考えると、視界がよくないとな。

そんなことを考えているとジョシーから連絡が来る。


『ダスト聞こえるか? 今から移動をする。そっちから確認できるか? 正門の方だ』

「了解。……確認した。馬車に乗り込んでいるな」


城の上空に待機させているドローンからお姫さんたちを確認できる。

周りにはハブエクブの連中もいる。

案内は必要だしな。


「それで、場所は?」

『まだ聞いていない。まずは外に行って戦車を動かすようにって話になっている』

「了解。移動をするときは連絡を入れてくれ。で、城の中ではどうだった?」

『敵意はほとんどないな。こっちのいうことを半信半疑って所だな。国も聞いたことがないし、嘘つきと思っている連中もいる。だから敵意を持ちようがないって所だ』

「なるほどな。暗殺の心配はなさそうか」

『今の所はな。ハブエクブ王も面白いものを見せてくれるぐらいしか思ってないみたいだ』

「戦争の情報に関しては?」

『今日の見世物が終わってからだとさ。ま、妥当だよな。こっちを信用してないんだからさ』

「じゃ、頑張って見世物を頑張るか」

『ああ、分かっていると思うがスペックを全部明かすような真似はするなよ』

「わかってる。想定の3分の1ぐらいでいいだろう」


兵器の性能を公開するというのは、俺たちの場合自殺行為でしかない。

俺が扱っている戦車にしても、装甲の厚さ、射程をしっかりばらせばそれに対抗できる兵器を相手が作ってしまうからだ。

戦場に出ればバレるじゃないかというのはあるが、最初からばれているのと、戦場でばれるのではまったくもって状況が変わってくる。

相手がこちらの兵器に対応するまでは押し込めるという意味だからな。

無論、兵器開発はイタチごっこだから、いずれ上回る兵器がでてくるがその期間を延ばすためにスペックを隠すのは重要だ。

この世界においてもな。


そんなことを考えつつ、お姫さんたちを上から追っていると連絡が来た。


『タナカ殿、上から確認できていると思いますが、私たちが乗る馬車を後ろから追ってください。このまま門を出たら演習場所に向かうそうです』

「了解」


そう言われて、俺は遠隔操作で戦闘車両群を整列させる。

この世界は馬車すれ違い通れるぐらいの道幅しかないので、戦車を並列して動かすと迷惑にしかならない。

まあ、道じゃなくても草の上でもいいんだが、スタックの可能性もあるので無理に移動する理由は無い。

勝手に動いているのを見て兵士たちは驚いているが俺の知ったことじゃない。

邪魔をする馬鹿がいれば轢き殺すだけだ。


幸い、いや残念ながら戦車に近づく馬鹿はいなかったので死者は出なかった。

しばらく馬車の後ろをついていってのんびり進む。

一体どこでやるんだろうな。

まあ、近場でやられても誤射が気になるし、横やりも入りかねないから助かるっちゃ助かるが、始末がしやすいともいえる。

その時はジョシーが上手くやってくれるとは思うが、一応上空から援護もできるようにドローンも多数展開はしている。

頭の上から攻撃させるとは思っていないだろうからな。


で、そろそろ寝てしまいたいと思っているころにどうやら演習場に着いたようだ。

見た目だたっぴろい平原だ。

軍を大規模展開するには便利な場所だ。

姫さんたちも馬車から降りてきて、王冠をかぶっている髭のおっさんと何かを話している。

そろそろ会話を聞いてもいいだろう。


『……では、ルーメルの姫、ユーリア殿。貴女がいう、その魔道具の力見せてもらう前に、まずはこちらの力をお見せしよう』

『はい。ご参考になればと思いますわ』


へぇ、そんなことを話していたのか。

敵の火力を知れるとかいい機会だな。

というか相手は馬鹿か?

いや、あれか、威信行為か。

こっちはこれだけ力を持っているから思い上がるなよって所か。

まあ、姫さんたちの話を信じられないからこんなことをするんだろうな。

すると、なんか先に到着していた兵士が並んでいて、騎馬、歩兵、後方に魔術師と弓兵という感じだ。


『始め!』


そう髭のおっさんがいうとゴーンゴーンとドラを鳴らすとまずは魔術師がもにょもにょ言って魔術を放つ。

爆発規模は精々手榴弾よりも小さい爆発が300メートルほど先に魔術師の数ぐらいに現れる。

その後に弓兵が撃ちかかり、騎馬が突入、歩兵が押し込むという感じの演習だった。

いやー、しょぼいとは思いつつも、目の前でこうしてみるのは面白いものがある。

地球での大昔の集団戦闘とは圧倒的に違うのがやっぱり魔術だ。

そのおかげで打撃力にかなり差がある。


とはいえ、ただそれだけだ。

300メートル先に手榴弾よりも小さい爆発を起こすだけなら、火炎瓶を投げるようなものだし、やはり戦術がモノをいう。

というか、有視界戦闘とか馬鹿じゃないかとな。

いや、銃撃戦も有視界戦闘と言えなくもないが、制圧戦だしな。

地球に於ける歩兵の投入というのは詰めだ。

対空兵器、地上兵器を排除したうえで歩兵を入れて制圧をする。

つまり、今見せてくれた演習は俺たちにとっては最後の最後でしかないわけだ。

事前に行われる、制空権、主要拠点、物資、戦力の排除がないのだ。

……これを引き連れてフォローとか本当にげんなりするな。

一緒に歩みを合わせるとか、正気の沙汰ではない。

そんなことを考えていると、また声が聞こえてくる。


『いかがだったかな?』

『はい。大変勇ましい兵をお持ちで、心強い限りですわ』

『ははは。それは何よりだ。それでは次はユーリア姫の連れてきたその魔道具の力を見せていただろう』

『はい。では、とくとご覧くださいませ。また攻撃の際には大きな音がたちますのでお気を付けください』

『わかっている。問題はない』

『あと、目標は同じ場所でよろしいでしょうか?』

『ああ、仮想敵の位置は同じでいい。ちょうど魔術攻撃でへこんでいるからわかりやすいだろう』

『では、ジョシーお願いします』

『はっ』


ぶっ!

ジョシーがちゃんと返答しているのに一番驚いた。

いや、あれぐらい対応は出来て当然なんだが、やっぱりあいつのイメージはトリガーハッピーだからどうも頭の中が追い付かん。


『おい。ダスト準備はいいか?』

『ああ、お姫さんもいいか?』


俺は心を安定させつつ、とりあえず戦車隊を10両横に並べて目標地点に砲身を合わせ、姫さんに確認を取る。


『はい。大丈夫です』

『わかったじゃあ、カウント30秒だ。ジョシー任せる』

『わかったよ。じゃあ、発射用意! カウント30! 29、28、27……』


ジョシーがカウントを始める。

一瞬おっさんたちは大声を出したジョシーをぎょっとして見るが、カウントダウンと分かったのか落ち着いて戦車に視線を向ける。

じゃあ、ゆっくり見ててくれよ。

ドローンでの上空監視でも敵はおらず。

地面が吹き飛ぶだけか。

とりあえずたった300メートル先だから戦車の裏に回るように言っているが、見ないといけないので妙な格好になっているのが面白い。


おっさんを守っている兵士たちはそのまま身をさらしているので、ひっくり変えること確定だな。

爆風の殺傷範囲は200メートル前後だから……おそらく大丈夫。

あれだしかも砲弾が90度で爆発した場合だからな。

……ダイジョブ。


魔術とかあるからきっと大丈夫!


俺はそう信じて、戦車砲を発射した。


ズドドドドーン!


よし、ちゃんと爆発はした。

衝撃波も後方に抜けたから大丈夫だとは思う。

向こうから連絡はないけどな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る