第247射:別れと再会の約束

別れと再会の約束



Side:ナデシコ・ヤマト



「……ということで、俺たちに戻ってきてほしいだとさ」


そう田中さんは、ルーメル王から届いた手紙の内容を教えてくれます。

どうやら、ルーメル王はお姫様や私たちの行動に対して処罰しようなどとは思っていないようです。


「おー、よかったじゃん! これでゆっくり帰る方法を探せるね!」

「だな。でも、凱旋とか面倒だな。俺たちが別に魔王を倒したわけじゃないのに」

「……そういったポーズが必要ということですわ。そうですよね、田中さん?」

「そうだな。連合軍が魔王を倒したなんて言われたら、俺たちとしては構わんが、ルーメルは何もしてないことになるからな。幸い、連合軍のほうもみんなで魔王を倒したってことにしているから、勇者たちも協力して倒したことにしていいって許可はもらっている」


セラリア女王には本当に感謝しないといけませんね。

おかげで、ルーメルは私たちと敵対する道を選べなくなったのですから。


「とはいえ、気を付けておけ。今回の騒動でルーメル王都に集まった諸侯軍には俺たちの功績が目障りらしい様子の連中もいるそうだ」

「えー、なにそれー」

「あれだろ。手柄を奪われたってやつ」

「そんなことを言うならどうぞ自分たちで退治してほしかったですわね」


いわゆる負け犬の遠吠えというやつでしょう。

しかし、それで邪魔をされるのは面白くありませんわ。


「まあ、ルーメル全体が敵にならなかっただけましだろう。そこはよかったと思うべきだな。で、お姫さんの意見はどうだ?」


そうです。

私たちだけで話しても意味がありません。

お姫様はこの手紙をどう見ているのでしょうか?


「……そうですね。私もタナカ殿と同じように、ひとまずは安心かと思います。とはいえ、諸侯軍の妬みが心配ではありますね。そうそう手を出してくるとは思いませんが、そこは注意した方がいいでしょう。お父様たちに関しては、心配はいらないでしょう。勇者様たちが打ち立てた功績を利用したいのは間違いないでしょうし、当初から勇者様の召喚には懐疑的でしたから」

「あの、王様はもともと戦うことには後ろ向きだったしねー」

「まあなー」


確かに、お姫様のお父様は備える方向で動いていましたし、そこは信用できそうです。


「どのみち、マノジルから話を聞かないといけないんだ。堂々と戻れるだけましだな。とりあえず気をつけろって注意が付くだけだ。ああ、一人にはなるなよ。団体行動だ。特にゴードル、ノールタル、セイールはな」


田中さんはそう言ってゴードルさんたちに視線を向けます。


「わかってるだよ。とはいえ、こっちもリリアーナ様に親書をもらってるから、動かないといけないべ」

「そうそう。これでも私らは、魔族代表の使者でもあるからね」

「はい。使者という立場もあって危害は加えられないだろうって女王様が言っていましたし」


そう、実はゴードルさんたちにも、リリアーナ女王は餞別としてラスト王国からの使者とした立場をくれました。

なぜなら危害を加えれば、それはラスト王国に、魔族に戦争を仕掛けると同じ意味なのですから。

しかも、同盟を組んでいるロシュール、リテア、ガルツを敵に回すことも意味します。


「よし。とりあえず、全会一致で王都に向かうってことで良いな?」


田中さんがそう言うと私たちは頷きます。

ほかに方法がないのですからうなずくしかありません。


「じゃ、明日には出る。知り合いへのあいさつは済ませておけよ」



ということで、私たちはまず初めに、ギルド長たちに挨拶をすることにしました。


「そうですか。寂しくなりますね。でも、勇者様たちが無事に戻る方法を見つけ出すことを祈っていますわ」

「ああ。こちらでも色々調べてみる。何かあれば頼ってくれ」

「はい。ありがとうございます」

「うん。その時はよろしくねー。っていうかさ、帰るときには一度挨拶に来るよ」

「だな。また会いに来ます」


そう私たちは挨拶をして、ノールタルさんたちは……。


「いやー、お世話になったね。ソアラ、イーリス」

「はい。お二人には私たちは助けられました。本当にありがとうございます」

「おでからもお礼を言うだよ。2人を助けてくれてあんがとな」

「いえ。当然のことをしたまでです。気になさらないでください。そして、勇者様たちにも言いましたが、ノールタルさんたちも同じです。何かあればいつでも頼ってください」

「ああ、今度遊びによるからさ。その時は美味しいお店でも紹介してくれ」

「そうだな。今度からは堂々と表を歩けるからな。いいお店で一緒に楽しもう」

「はい。その時を楽しみにしています」

「んだ。こっちの料理はたのしみだー」


そんなことを話しながら、ソアラさんたちとノールタルさんたちは握手をしています。

そんな光景を見ていると、魔族と共に生きていくという未来が鮮明に見えた気がします。

私たちはきっとこの日を迎える為に、この世界に呼び出されたのでは? というおバカなことを思ってしまいます。

そして改めて思います。

始まりは誘拐でしたが、この人たちと永遠にお別れなどというのはあまりにも寂しい。

田中さんの言うように、行き来出来る手段を探すべきでしょう。

そう決意していると自然に口が動いて……。


「ソアラさん、イーリスさん」

「なんでしょうか?」

「なんだ?」

「必ず、帰る方法を、いえ行き来できる方法を見つけて、皆さんを私たちの故郷へご案内いたしますわ」

「うん。そうだよ。その時は日本を目一杯案内するよ!」

「そうだな。その時を楽しみにしててください」


私に連れられて、光さんや晃さんもそう言ってくれて、それを聞いたソアラさん、イーリスさんも……。


「はい。その時を楽しみにしていますわ」

「ああ。楽しみだ。だが、無理はしないようにな。と、これは餞別だ」


そう言ってイーリスさんが私に何かが入った袋を渡してくれます。

それなりに重いので、中身が気になるところですが、この場で中身を暴くのは、礼儀に……と思っていると。


「中を見てみるといい」


渡してくれたイーリスさんがそう言ってくれるので、袋の中を確認してみると、いくつかの細い木の棒が出てきました。

コルクの蓋がしてあるので、おそらく何かを入れているのでしょう。


「これは?」

「私が作ったポーションとかエンチャントだ。回復力だけでいうと、ヒカリやアキラ、ナデシコが使う回復魔術には遠く及ばないが、店売りの物よりは効き目が良いし即効性だ。魔術を使う暇がない時は、それを代わりに使うといい」

「おー、すげー。イーリスってこんな薬も作れるんだ。てっきり攻撃魔術ばっかりだと思ってたよ」

「あれですよ。隣に猪突猛進のアホギルド長がいるでしょう? それを補うためにも私とイーリスが薬でフォローしていたんですよ」

「誰が、猪突猛進のあほギルド長ですか!」

「いや、お前だよ」

「はいはい。お前たち落ち着け」


普通に二人をたしなめるイーリスさんはすごいと思います。

というか、ヨフィアさんは本当に毒をはきますわね。私たちにはとてもやさしいのに。

ソアラギルド長はそんなに迷惑をかけたのでしょうかと思ってしまいます。

と、そこはいいのです。

今は、貴重な薬を譲ってくれたイーリスさんにお礼を言わないといけません。


「ありがとうございます。大事に使わせていただきますわ」

「あー、そこまで気にするな。消費期限があるのがポーションの弱点でな。確かに高位のポーションなら期限は無限とかもある。エリクサーとかな。でも私のはせいぜい4か月ほどだ。店売りのでよくて2か月で、効果もそこまで高くないから、持っている連中があまりいないんだよ。タナカ殿が持っていないからわかるだろう?」

「「「あー」」」


そう言われて納得しましたわ。

確かに、期限がなければ非常に使い勝手の良い道具です。

それを田中さんが買っていないのですから、そこまで実用性はないのでしょう。


「ま、イーリスのは使えますから、なくなったらまたもらいに来ますよ」

「ナデシコたちにはいいが、お前にはタダではやん」

「ひっどー!?」

「はっ、いい気味です。昔転売したのがいけないんです」


ヨフィアさん、それはどうかと思いますわ。

そんな視線が突き刺さっているのがわかったのか、ヨフィアさんは慌てて弁解を始める。


「仕方なかったんですよ! つい持っていたら便利だろうって、たくさん作ってもらったのはいいですけど、塵も積もれば山となるってやつで……」

「あー、沢山頼みすぎて持てなくなったわけだ」


なるほど。そういう弊害もあるわけですね。

確かに一つはそこまでないですが、数多く持つとなると、せいぜい5つほどが限界でしょう。

それ以上はほかの荷物を圧迫しそうです。


「はい! さすがアキラさん! その通りなんです! だから、持てない分を換金したわけです。決してやましいことには使っていませんから」

「で、その結果。お前の投げナイフになったんだよな」

「うっ」

「あなたの方が馬鹿よ」

「ま、そこはいい。ということで、そこまで大事にしなくてもいい。まずはちょっとしたケガの時に傷口にかけたり飲んだりしてどれぐらいのものか確認してみるといい。ヨフィアが言ったように、なくなったらまたくればいい。そうすれば、こっちに来る理由にもなるだろう」


そう言ってイーリスさんはウィンクしてくれます。

同じ女性なのに、すごくかっこいいと思ってしまいます。

これが大人の女性というやつなのでしょうか。


「……で、いつまでお別れのあいさつをしているつもりだ」


そんな声を聴いて振り返ると、ドアのところで田中さんが立っていました。

何を言っているのかよくわからないので全員が沈黙していると、田中さんは時計を取り出して……。


「時間も有限だ。別にここで最後の別れにしなくてもいいだろう。どこか近場の飯屋にでも行って、のんびり話せばいい」

「「「……」」」


それもそうだと思ってしまいます。

ですが、こちらによったのは、ソアラさんたちは仕事で忙しいと思ってここで話をしていたんですが……。


「辛気臭い別れの挨拶より、今から飯を食いに行った方がいいだろう? どうせ、再会したときにうまいもんでもとか言ってたんだろう? なら戻ってきたくなるようなうまい飯でも食わせてくれ」

「その通りだな。辛気臭いのは嫌だからな。仕事はここまでだ。ソアラ行くぞ」

「むう。今回ばかりはタナカの言う通りですね。じゃ、飲みに行きましょう!」

「やったー! ソアラのおごりー!!」

「ヨフィアは自腹です」

「えええー!?」

「「「あははは!」」」


こうして私たちはアスタリの町を去る前にいい思い出ができたのでした。


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