第187射:捜索再開と発見

捜索再開と発見



Side:アキラ・ユウキ



……やばい。眠い。死ぬほど眠い。

そんな感覚に俺は陥っている。

今まで何度も経験してきたが、これは強烈だ。


「……」

『……』


なんか、田中さんが誰かと通信しているけど、そんなことが頭に入らなくなるぐらい、眠い。

徹夜での魔物退治のあと、戻ってからドローンでのリテアの監視だからな。

リテアに変化は無し、ただひたすらリテアを見つめるだけの作業がどれだけ辛いか……。

あ、意識飛びそう。

と、思っていると、不意に体をゆすられる。


「ん?」

「お、気が付きましたか。アキラさん」

「あ、ヨフィアさん」


俺の体を揺すっていたのはヨフィアさんだ。

彼女は俺が魔物の迎撃に出ていた時にドローンの監視を任せていた。

だから、寝るものかと思っていたんだけど、その手にはパンが乗せられたお皿があった。


「はい。朝ご飯ですよ。徹夜でご苦労様です」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


ヨフィアさんの優しさに涙が出てきそうになる、光や撫子とか交代しないと、殺すぞって感じだったからな。

とはいえ、ヨフィアさんも疲労しているはずだし、これ以上甘えるわけにもいかない。

というか、彼女を休ませないと、今度は俺が次の交代要員がいなくて困ることになる。


「朝ご飯ありがとうございました。もう大丈夫です。ヨフィアさんはもう休んでください」


そう休むように言ったんだけど、ヨフィアさんは休もうとはしないで……。


「ちょーっと、起きてます。今タナカさんが話している相手が、フクロウのババアなもので」

「え? フクロウさんからなんですか?」

「ええ。そのようですよ。ルーメルの動きがわかるはずです。それを聞いたら私も眠りますよ。場合によってはすぐに動くことになりそうですが」


そう言われて、俺も田中さんの方へ視線を向ける。


「……ああ、わかった」

『……たのむよ』


確かに、相手は女性だ。

日が昇っているし、時間からしてリリアーナ女王って可能性は低い。

となると、やっぱりフクロウさんなのだろう。

そんなことを考えていると、会話が終わったようで、田中さんは通話をしていたタブレットを置き、再び馬車を探しているドローンの操作を始めるのだが……。


「あの、田中さん……」

「タナカさん。ババアから連絡きてませんでしたか?」


相変わらず、ヨフィアさんはフクロウさんに辛辣だなー。

まあ、直球で聞けたんだからいいか。


「ん? ああ、ヨフィアか、寝てなかったのか」

「そりゃもう。ババアからの連絡ですからね。何か情報を掴んだんじゃないですか?」

「ああ、ありがたい話だな。とはいえ、あとで全員の前で話すから寝てていいぞ」

「いや、気になるので、話してください」

「……まあいいか。別に急ぎの話はない。フクロウからの連絡は主に、元聖女死亡のことでだ。上は随分と混乱というかこれからどうするか悩んでいるようで、確認をリテアに取っているところだ」

「そういうことですか。ようやく向こうにも連絡が届いたってことですか」

「そういうことだ」


なるほど。今まで動きがなかったルーメルはようやく情報を手に入れてどう動くかを悩んでいる所ってことか。

……田中さんが言うように、動きは鈍いな。情報が遅れるってことがどれだけ大変かよくわかる。


「引き続きフクロウにはルーメルや各国の情報を収集してもらうことになっている。幸いなことにルーメルのあの宰相は特に動きを見せていない。まあ、今度下手な動きをすれば、首が飛ぶしな。そう意味では安全ではあるとはいえ、ようやく元聖女死亡の連絡が届いたんだ何か動くかもしれないからそこらへんは要注意だな」

「そういえば田中さん。聖女様が生きていた件は伝えたんですか?」

「ああ、フクロウには伝えた。まあ、これも確認が必要だからな。フクロウはともかく、国の連中はまた確認で身動きが取れないって感じだな」


と、そんなことを話していると、不意に田中さんがドローンの方へ視線を向けて……。


「お、馬車を発見。しかも高そうな馬車が数台並んでだ。これは当たりか?」

「えっ!?」

「おおっ、見つけましたか!?」


聖女様を乗せた馬車を発見した!? 

早く確認を! そう思って、俺とヨフィアさんは田中さんの持っているタブレットをのぞき込むと、確かに貴族様が乗るような馬車が数台並んで、しかも護衛付き。

これでハズレはないだろう。


「とりあえず、ドローンの予備を作るから、そっちの操作を結城君頼む」

「はい。分かりました」


田中さんはそう言うと、即座に離れた場所にドローンを出現させて、操作用のタブレットをこっちに渡す。

俺はそれを受け取って即座にドローンを起動して空に浮かべて、馬車を捕らえる。


「起動問題無し、馬車も視界に捉えました」

「よし、俺はこれから馬車の内部の確認をする。周りの注意を頼む。また襲撃が無いとも限らないからな」

「了解です」


俺はドローンの高度を上げて、敵が来ても分かるように視界の確保をする。

見る限りは、特に異常はない。


「ヨフィアさん、何か見えますか?」

「いえ。特になにかあるようには私にも見えません。タナカさん今の所問題無しです」

「了解。こっちは……ちょっと厳しいな。晴れているおかげで、馬車に接近できない。馬車の窓も小さい。確認がしにくいな」


田中さんの方は珍しく苦戦しているようだ。

まあ、確かに、青空とは言わないけど、晴れていて一面は草原のような感じだ。

こんな中、上空から近付いて行けばドローンはばれるよな。


「とりあえず、このまま遠距離で並走して、休憩するところを狙おう。馬はずっと走っていられないからな」

「はい。と、リテアの方の監視はどうしますか?」

「ノールタル手伝ってもらえるか?」

「ん? 私かい? 構わないよ。今は休憩中だしね」

「あれ? なんで私に言わないんですか?」

「ヨフィアはもう寝てろ。フクロウからまた文句を言われるぞ」

「ちっ、あのババアなら言いそうですね。分かりましたよ。でも、ノールタルさん。アキラさんを食べちゃダメですからね」

「分かっているよ。こっちも監視で忙しいからね。残念ながらそういう暇はないさ」


……相変わらず、この人たちは俺をからかうよなー。

まあ、2人とも美人さんだから嬉しくはあるんだけどさ。

あ、まて、ノールタルさんは美幼女だから。俺はそんな趣味はないし、そんなことになれば光と撫子に殺されるから。


「いやいや、そういうのは誠心誠意気持ちを伝えれば彼女たちも納得してくれるさ。遊び半分がいけないのさ」

「あ、いやー」


普通に心を読まれてもなー。


「アキラさんは分かり易いですからね。むらむらしたらまずは私に言ってくださいね? いいですね? では、おやすみなさい」


と言って、ヨフィアさんはさっさとベッドで寝てしまう。


「はぁ、お前等は本当に結城君をからかうよな。そろそろキツイ仕置きが必要かと思うんだが……」

「これぐらいいいじゃないか。アキラは遊び半分で私たちに手を出すような男じゃないだろう?」


これは、褒められているのか、からかわれているのか微妙なんだよな。

まあ、手を出す時はちゃんと覚悟を決めた時だから、ノールタルさんの言う通りなんだけどさ……。


「まあ、そうは思うが。ノールタルは当分男は遠慮するんじゃなかったのか?」

「いやー、そう思っていたんだけどね。いい男を見ると女が反応するもんさ」

「そういうもんか」

「そういうもんだよ」


そんな感じで、雑談をしつつ監視をしていると馬車が停車する。


「田中さん」

「ああ、止まったな。こっちを警戒する様子はないから、休憩だな」


田中さんの言う通り、護衛をしていた兵士たちは、乗っている馬や、馬車を引いている馬に、水をやり始める。

馬も生き物だからなー。こういう休憩は絶対に必要なんだよな。

俺たちがガルツやリテアに行った時もそうだったし、これでアイテムカバンとかがなければ、馬車の中も圧迫するから、結構馬車移動もきついんだよなー。

と、そんなことを考えていると、豪華な馬車の扉が開いて中から人が出てくる。

聖女様が出てくるのか、と思っていたら、中から出てきたのは……。


「あれ? 冒険者?」

「……そんな風貌だな。なんであんな連中が馬車から出てくる?」


田中さんも首を傾げて映像を見ている。

それもそのはず、あの超美女というのが本当に現実にいたと思える人が出てくるかと思ったのに、中からはごつい男たちが出てきたのだから、首を傾げるしかない。

あ、なんか一人の男は魔術師風で綺麗な服を着ているから貴族かな?

そんなことを考えていると……。


「ふむ。この風貌、3人パーティーとなると、守りの英雄ですな」

「うわっ!?」


いきなりリカルドさんがにゅっと顔を出してきたので、驚いて飛び退いた。


「この連中について何か知っているのか?」

「ええ。冒険者の中でも、最高ランクの冒険者たちですな。一つの街を魔物の大群、氾濫から守り抜いたとされる英雄ともいわれる者たちです。リーダーで大剣使いのモーブ、閃光の槍使いライヤ、数多の魔術を使いこなす賢者カースの3人です。確か、ガルツの方にいたと思いますが……」

「……読めたぞ。この3人が元聖女様を助けたか」

「なるほど。そして、聖女様はそのまま護衛を依頼したと。確かにリテアの権力争いとは一番程遠いでしょうからな。これ以上信頼のおける護衛もいないでしょう」

「そうだ。別の意味で信頼がおけるからな」


そっか、この人たちが聖女様を助けたっていうなら、ここにいる意味が分かるし、これ以上ないぐらいの護衛ってことだ。


「……んー、微妙だが、馬車の扉が開いている中に、聖女ルルアらしき人物が見える。青髪のシスター服が一人見えるな」

「出てこないんですね」

「ま、正しい選択だな……。ん? 冒険者が元聖女様に膝枕してもらっているな」

「え!? なんてうらやまっ……」

「へぇ。なら、私がしてあげようか?」

「いえ、冗談ですよ。冗談」


しまった、つい口が!

あの超美女に膝枕は流石に俺としても反応してしまった。

で、その反応を見た田中さんは特に気にした様子はなく……。


「ま、若くて何よりだ。とはいえ、冒険者が膝枕というと、おそらく襲撃でも受けて負傷したんだろうな。回復役がいてよかったな。この大陸最高峰の回復役だ。なるほど、英雄と呼ばれる冒険者と、聖女と呼ばれた人物のコンビだ。これはそうそう危険はなさそうだな」


なるほど、当面の安全は確保されているってことか。


「なら、俺たちは前後を監視して襲撃がないかを注意していればいいですね」

「……ああ。そうだな」


ということで、馬車のこっそり護衛を始めることになったのだった。


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