第201射:審判の日

審判の日



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「あー、この日が来るのを待っていた……」

「……ですわね。不謹慎ですが、本当にこの日が来るのを待ちわびていました」

「長かったよな……」


僕たちはそういって、ドローンの画面に映るラスト城を見つめていた。

そう、僕たちは、あれから長い間……というのは大げさだけど、リリアーナ女王がデキラを糾弾する裁判までに、田中さんからドローンの操作訓練を受けていたんだ。


まず大変だったのが、眠気との戦い。

今まで散々ドローンでの睡眠と戦ってきたけど、今回もやはり眠気が一番の強敵だった。

あれだね、なれているのと、訓練といっても僕たちは座ったまま画面をみて操作するだけ、攻撃にしても、ボタンを押すだけと、ゲームと変わらないから、ものすごく眠たくなるね。

あれだね、レベル上げのボタン連打って感じ。


異世界に来てまで何してんだろうって、真剣に思ったね。


だけど、これは本当に必要なことだから、ちゃんと頑張ったわけ。

そして、今日その地獄の訓練の日々が報われる日が来た。


「ほぼ眠気との戦いだからな。こういうのは、まあ、今日無事に終わればそれもおしまいだ。リリアーナ女王もそれなりに根回しはした。あとはデキラが大人しくお縄につけば、こっちもこんなに警戒しなくてすんだんだが……」

『それは無理な話ですね。すでにデキラの方は無理やりにでも裁判を捻じ曲げる気でいます。悔しいですが、言葉だけでは止められません。タナカ殿たちの期待を裏切って申し訳ないですが、まず間違いなく私は逃げることになるでしょう』


そう、リリアーナ女王は申し訳なさそうに言うけど……。


「リリアーナ女王は悪くないんだから気にしないでいいよ」

「はい。女王に非はありません。それは私たちはもちろん、国民も分かってくれるはずです」

「そうですよ。まあ、いっちゃわるいけど、ドローンを使える機会でもありますし、デキラが動くのはこっちとしても望むところです」


うん。晃の言う通り。

あれだけ訓練してきたんだ。

ちょっと人でなしの意見かもしれないけど、頑張った分の成果はだしたいから、デキラの奴が暴れてくれるのは大歓迎。

今までのうっぷん晴らしてやる。


「私も同じ意見だね。遠くにいてデキラにいやがらせをできるなら、どれだけ胸がすっきりするか。だから、ちゃんと逃げてきな」

『自分で言っておいてなんですが、ちゃんと自重はしてくださいね? 町がボロボロになっては意味がないんですから』

「分かってるって」


そこら辺はちゃんと守る。

そういうミスが無いようにちゃんと訓練してきた。

デキラだけに痛打を与える練習は山ほど!!


「ま、こんな感じで、ルクセン君たちは戦意は高いから問題ない。ルートに関しては、今のところ封鎖されているようには見えない。グランドマスターの方も偶然を装って大森林の方へと要人の捜索というのを頼んでくれたのは知っているだろう?」

『ええ。グランドマスター殿にも生きてあってお礼を言わないといけませんね』

「そうだな。ま、無理はしないことだ。あまりデキラを刺激しすぎないようにな」


田中さんの言う通り、刺激しすぎると怒って襲ってくる可能性もあるからね。

ほどほどにしてもらわないといけない。

おちょくるのは僕たちがやるからね!!

と、そんなことを話していると、ゴードルのおっちゃんが通信に入ってくる。


『遅れただよ』

『ゴードル。到着しましたか』

「よう、ゴードル。やっぱりデキラはやる気か?」

『んだな。やる気まんまんだべ。聖女暗殺の件で、リリアーナ様の融和策を非難する気だべな』


あー、あの件ね。

結局、リテアとガルツ、ロシュールは聖女暗殺の事件は世間的には、魔族のせいって言っちゃたんだよね。

……全く余計なことしかしないんだから!!


「リリアーナ女王。真実を伝えることはできないんですか?」

『アキラさん。残念ながらそれは意味がないでしょう。デキラはきっと、人はどうしても魔族を滅ぼすつもりだといいます』

『もうやる気まんまんだべだしな。下手に納得しちゃ、罪を認めることにもなるだべ。それはデキラたち好戦派にとっては絶対に反対しないといけないことだべ』

「……そう、ですよね」


晃は少しがっかりした様子だ。

まあ、デキラが大人しくなるわけないとわかり切っていたけど、やっぱり少しでも被害を少なくって思っちゃうよね。

あ、デキラ個人の被害は別ね。

あいつは、女性の下着を盗るという大罪を犯しているから、そのケジメは付けないといけない。

で、リリアーナ女王はそのアキラの様子を見て……。


『アキラさんはお優しいですね。あのデキラにも情けを掛けるんですから』

「あ、いえ、デキラは仕方ないです。でも、それでリリアーナ女王やゴードルさんたちが危険になるのは……」

『それを優しいっていうべよ。戦士には向かないだべな』

「はは、すいません」

『こら、ゴードル。アキラさんは勇者様なのです。慈悲深くて当然です。それを否定するような言い回しはやめなさい』

『いやー、誉め言葉のつもりだっただべが。ごめんなー、アキラ』

「大丈夫ですよ。伝わっていますから。リリアーナ女王も俺を心配してくれてありがとうございます」

『いえ。人として当然のことですよ。それに、今日は皆さんに守ってもらわないといけませんからね。こうして好意を稼いでいるわけです』


そう言って茶目っ気を見せるリリアーナ女王。

うん、超絶スタイル抜群の美人のこういう顔は嫌み一つなく可愛く見えるね。

くやしい!!


「はいはい。雑談はそこまでにしておけ。最終打ち合わせだ。ゴードルはデキラ派で相手の動きを探る。そして、リリアーナ女王は今日の討論次第では亡命ってことで間違いないな?」

『はい』

『んだ。デキラの動きは逐一つたえるだよ。しかし、このマイクとイヤホンは便利だべな』

『ですね。このおかげで、安心して逃げられます』


そう言って二人は田中さんが出して渡しているワイヤレスのピンマイクとイヤホンを付けているのをこちらに見せる。

地球の人が見ればすぐわかるが、マイクとイヤホンの存在自体を知らないこちらの人が見てもただの変なアクセサリーとしか思わないよね。

田中さんが今回、迅速な誘導のためにマイクとイヤホンを出したわけ。

今までなんで使わなかったか不思議だったけど、僕たちは基本一緒だったし、交渉事は田中さんがやってくれてたから、必要なかったんだよねー。

でも、今回は絶対に必要だ。


「安心するな。まずは逃げる羽目にならないようにしろ。俺の誘導が正しいってことも限らないからな」

『はい。わかっています。ですがそれだけ信用していると思ってください』

『んだ。タナカ。リリアーナ様のことたのんだべ』

「はぁ、なんでそんなに信頼を置いているのかわからんな」


田中さんはそう言ってあきれている。

だけど、田中さんはそんなこと言いつつも、約束は守るからね。

それをリリアーナ女王も、ゴードルのおっちゃんもわかっているんだ。

無論、僕たちも。

これまでずっと守ってきてくれたからね。


「とりあえず、話の続きだ。デキラが動き次第、基本的にリリアーナ女王はリテアの方に亡命だ。これがAルート。そしてBルートは……」

『ガルツ方面ですね』

「そうだ。ガルツ方面ならお姫さんのコネでなんとか行けないことはない。だが、危険が伴う。そして最後のCルートは……」

『ロシュール方面だべな。しかし、ここまでやる必要があるのだべか?』

「逃げ道は多い方がいい。正直ロシュール方面はダンジョンを管理下に置いたっていう変な噂もあるし、元聖女であり王女を殺されたことでピリピリしているからな。逃げるときはA、Bのルートが使えない時に限る」


今回、リリアーナ女王の逃亡ルートは3ルート。


Aルート:リテア聖国へ行って、グランドマスターのお爺ちゃんと合流して最終的には僕たちと合流ルート。

このルートは今リテアが内輪もめの最中だから、バレずにお爺ちゃんに匿ってもらえる可能性が高い。

3種類のルートの中でも安全な道だね。


Bルート:ガルツ王国へ行って、僕たちとの合流を果たす。

一件一番安全そうな気がするけど、リリアーナ女王が頼る人がいないのと、僕たちがアスタリの町を離れなければいけないっていうリスクがある。


Cルート:ロシュール王国に行って、遠回りをして僕たちと合流を果たす。

一番危険なルート。4大国の中で最も聖女暗殺の件で魔族に恨みを持っている可能性が高い国。

そしてさらに、ダンジョンを制御しているという得体のしれない力があること。

これは、予想が付かないので、田中さん的には行ってほしくないみたい。

でも、グランドマスターのお爺さんから聞く限りじゃ、そのダンジョンに難民の受け入れとかしているし、僕は悪いことをしているようには思えないんだよなー。

ま、何かされたら逃げ道が無いっていうのはよくわかるけどさ。


『タナカ殿の言う通り、逃げ道が多いのは悪いことではありませんからね。とはいえ、ロシュールのダンジョン町。気になるところではあります。多くの難民が集まっているという話なら、魔族になってしまった子がいてもおかしくないですから』

『そうだなぁ。見つかっちまったら、大変な目にあうだよ』


魔族っていうのは突然変異みたいなんだよね。

魔力が多い人が子供の内に変質するみたいなことが分かっているみたい。

だから、今回のダンジョンに移動した難民の中に魔族の子がいれば、とんでもない目に合うってことだけど……。


「悪いが、そこまで面倒を見れる立場じゃないからな?」

『分かっています。ですが、いつかそのダンジョンとは関わり合いを持つことになるでしょう』

『そうだべな。ゲートを使った物資の輸送とか、便利すぎるだべ』


そうだね。女王の言う通り、そのダンジョンとはいつかかかわりを持って、何か帰る手段でも探せればいいなーとは思う。

だって、ゴードルが言うように物資の輸送が楽になるってことは、もちろん人も移動が可能ってことで、あちこち調査をして回るなら、僕たちにとってもいい場所だ。

とはいえ、まだ僕たちはそんな地点に立っていない。

無事にデキラという変態を倒した後の話だ。


「未来に夢を抱くのは悪いことじゃないが、それもこれも、今回の事を乗り切ってからだ。そこを忘れるなよ。上ばかり見て足元をおろそかとか馬鹿だからな?」

『そうですね。まずは、デキラ、好戦派の連中を何とかしなければ。さて、私もそろそろ時間です。あとはマイクとイヤホンからになりますがよろしくお願いします』

「了解。上空に不穏な動きは今の所ない。ゴードルは?」

『こっちもないべ。デキラたちも弁明前に襲うつもりはないみたいだな』



こうして、僕たちにとって長い一日が始まるのだった。


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