第59射:ギルドの対応

ギルドの対応



Side:タダノリ・タナカ



幸い、傷が治ったオーヴィクたちには深刻な後遺症は残ってなかった。

最近の記憶が消えたぐらいで、動くことに、戦闘経験にも影響はなかった。

結城君たちは、記憶の件に関して少し思うところはあったのかもしれないが、それももともとオーヴィクたちや結城君たちの相性も良かったことが幸いして、記憶があろうがなかろうが、すぐに仲良くなっていた。

ああいう知り合いは得難いものだなと改めて思う。

俺には無理な話だ。

今回の記憶喪失は、俺にとってありがたいことだと思ってしまったからな。


あと、ヨフィアが冗談かどうかわからんが結城君に色仕掛けをしてきた。

あの冒険者メイドはそこら辺の感覚は鋭いし、俺との力差は理解しているから、そうそうバカな真似はしないと思うから、ある意味本気か?

それならそれでいいか。結城君も男だしな。溜まっているモノもあるだろう。

そこらへんはそれとなくヨフィアに言っておくか。

ああ、そうか。色仕掛けに関しての耐性ができるか。

なら、ヨフィアが嫌がってないなら、こっちから頼んでみるか?


と、そんなこと考えている内に俺たちは無事にリテア聖都へと戻ってきた。

特に、聖都はいつもの様子で、冒険者パーティーが半壊したことは伝わってないようだ。

オーガ討伐のことも騒がれていないから、まだ報告待ちなのか、情報封鎖でもしているんだろう。

俺たちは寄り道をせずにまっすぐ冒険者ギルドに戻ると……。


「あっ!? オーヴィクさんたちじゃないですか!? 無事だったんですね!!」


入るなり、受付の人がこちらを見てそう叫んだ。

それで他の冒険者たちの視線も集まる。

その中で会話をしている連中に意識を向けてみる。


「無事? オーヴィクたちって、リテアギルドじゃ、最高ランクだよな?」

「そのはずだが、なんで無事なんだ?」

「なんだお前ら知らないのか? ほら、この前のオーガの群れの討伐あっただろう?」

「ああ、話は聞いた。だが、俺たちはその場にいなかったからなほかの街道沿いの警戒に出ててな」

「そうか、それでオーガは無事に倒したんだが……」


なるほど、どうやら冒険者ギルドは事態を公表はしていないようだな。


「……ということで、今会議室の方で、対策会議を開いているところです。オーヴィクさんたちはそちらの方にお願いいたします」

「わかりました」


で、オーヴィクの方も受付と話が終わったようで、俺たちは会議室の方へと移動する。

会議室の前に着くと扉の向こうから何やら騒がしい声が聞こえてくる。


『オーガを倒せるパーティーが半分も戻ってこないんだ。これはもうリテア聖国に報告をして軍を動かしてもらうしかないだろう』

『まて、もともと、街道沿いの安全を確保するのが目的だ。オーガの群れを討伐したことには間違いはない。わざわざ失態を公表する必要があるのか? 冒険者ギルドの信用を落とすことにはならないか?』

『むう。しかし、オーガテンペストとなると、軍で相手をするような、大きな脅威なのだぞ?』

『その話は分かる。しかし、今回の件は街道沿いに出てきた魔物を退治したのではなく、原因究明、及び解決の為に森の中に押し入ったのだ。勝手に行動して、結果オーガテンペストと遭遇して全滅しただけだ。余計なことをしたと取られる可能性があるという話だ』

『むうう……。だが、オーガテンペストがいたのは事実だ』

『それを刺激して、リテアに被害を及ぼしたといわれる可能性がある。その場合、冒険者ギルドが被る被害は計り知れないぞという話だ。有能な冒険者たちが失われるどころの話ではないのだ!!』


とまあ、外でわざと立ち止まって聞いてみたが、面白いことになっているな。

まあ、そりゃそうだよな。

オーガテンペストを見つけたことを功績と見るか、それとも失態と見るかは、人の視点によって違う。


「どうしましょうか? このまま入るべきでしょうか? それともまだ様子をみるべきですか? オーガテンペストは倒しましたし、脅威はなくなっていますが……」


オーヴィク君がこちらに振り返って意見を聞いてくる。

俺としては、冒険者ギルドがオーガテンペストと戦っているかもしれない冒険者に対して、どう動くかを聞いてみたいんだよな。

自己責任の仕事とはいえ、冒険者上層部は下っ端の冒険者のことをどう思っているのか、本音がでそうな場面だからな。


「まて、オーガテンペストを倒したのは事実だが、これは冒険者ギルドの判断ミスというのもある。俺たちが今出ていったら、ただ称えられて終わりだ。どう動くつもりなのか見てみたい。無論、本格的に不味そうになればでて行こうとは思っている。どうだ?」


俺がそう聞くと、全員頷く。

全員、今回の冒険者ギルドの動きには色々思うところがあるようだ。

まあ、俺たちに森の探索を指示したギルド職員の処置だな。

遺体は見当たらなかったから、逃げているとは思うんだが。

そう思って耳を傾けていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


『まあ、リテアへの報告をする、しないにしても、現状をしっかり把握する必要はあるじゃろう』

『『『グランドマスター』』』

『今の情報は、オーガテンペストから逃げてきたパーティーからの報告だけじゃ。今回、冒険者たちの指揮を執ったギルド職員はどうしたんじゃ? 報告はなぜ彼からない? あ奴は、あれでもオーヴィクたちと同様元ランク6の冒険者じゃぞ?』

『それがどうも、話を聞く限り、彼が一番最初に遭遇したようで……』

『逃げる指示をだして、彼は囮になったそうです』

『……ふむ。そうか、残念だ』


……なるほど。遺体がなかったのは食われたからか。


「そんな……。あの人が逃げるとは思ってなかったけど」

「……無常だな」


オーヴィクたちも驚いているから、食われたのはもっと前か。

そして、ちゃんとした人選だったわけか。


『じゃが、あ奴のおかげでとるべき行動がわかった。我ら冒険者ギルドは保身に走ったのではない。あ奴にそして、冒険者たちは最後までリテアのために尽くした。そうじゃろう?』

『『『……』』』

『ならば、その遺志を引き継がねばなるまいて。我ら冒険者ギルドは仕事を全うするために、オーガテンペストの討伐作戦を行う。それに伴い、後顧の憂いを払うため、リテア聖国へ事態の報告をする。これで我らの名誉が損なわれることはないし、聖国も責任云々を言うことはあるまいて』


上手いことを言う。

これで、失態云々を心配していたやつは黙るしかないだろう。

しかし、これ以上この場で聞いているわけにはいかないな。

大規模な討伐隊が組まれてしまう。

そうなっては止めるのも一苦労だ。


「そろそろ入るか。ギルド側の考えもわかったことだしな」

「はい」


オーヴィクたちがうなずくのを見て、俺たちは会議室の扉を開けて入ると、すぐに視線があつまる。


「どうした? 何か情報がはいったか?」

「オーガテンペストが街道沿いにでも出たか?」

「いや、ちょっとまて。この冒険者たちはオーヴィク殿たちでは?」

「何? 逃げられたのか!?」

「皆、落ち着け。わしが話を聞く」


騒ぎかけた連中をその言葉で押さえて、爺さんがこちらを見てくる。

微笑んでいる当たり、大体察しはついているんだろうな。


「さて、オーヴィク君たちは何ようでこの場所へ来たのかな? 今はちょっと会議中なのじゃが?」


わざとらしいことを。

そう思っても、俺に言っていることではないので、黙っているしかない。


「はい。重要な報告がありまして、お邪魔かとは思いましたが、入らせていただきました。要件は、オーガ討伐の件に関してです」

「そうか。こちらもそのことで聞きたいことがあったのじゃ。オーガテンペストが出たとの報告を聞いたのじゃが、それは本当かのう?」

「はい。事実です。自分たちがどうやら対峙していたようなのです」

「ん? 対峙していたようなのです? なぜ、そんな言い回しになっとるんじゃ?」

「それが……」


オーヴィク君は包み隠さず、自分たちが記憶喪失状態なのを説明し、オーガテンペストを倒したこともちゃんと俺たちがやったと報告した。

いや、素直の気持ちのいい人物だとは思うが、正直しまったと思ってしまった。

オーガテンペストの脅威評価は聞いていたのに、対応していなかった俺も悪いが、こんな場面で、堂々と俺たちが倒した宣言をされるとは思っていなかった。

これじゃ、名が嫌でも売れてしまう。

ルーメルの上層部にしては恩を売ったとかで勝手に動きそうだ。

今更ではあるが、口止めをしておけばよかったと思った。

結城君たちが勇者であることを忘れてラッキーとか思って浮かれていたな。

サーディアにこっちのことも説明しておくべきだった……。

そんなことを考えつつも、オーヴィクはサーディアの説明やオーガテンペストの首を見せるなどして、疑問の声は無くなっていった。

本当にいいね、信頼のある若者ってのは!! 話が通りやすいわ!!


「なるほど。オーヴィク君たちも大変じゃったのじゃな。しかし、無事でよかった。それに力を合わせて、オーガテンペストを倒したことは称賛に値する。よく頑張ってくれた」


そう言って、爺さんが拍手をすると、会議室にいる他の人も拍手で称えてくれる。

オーガテンペストを俺が倒したという事実を伝えていなくて正解だったなと思う。

オーヴィクの誠実さで信じられる可能性が少しでも出てきてしまったからな。

とりあえず、記憶喪失のオーヴィク達にはオーガテンペストを弱らせていたから、俺たちが引き継いで倒したということにしている。

無論、サーディアは口裏は合わせてくれた。

本当にここは幸いだったな。


「ありがとうございます。ですが、事情も事情でしたので、オーガテンペストの遺体を含めて、素材になりそうなものも持ち帰らずに撤退してきました。なんで、素材の回収に人を回してほしいのですが」

「うむ。リテアを守るため、冒険者としての矜持を最後まで見せてくれたものたちの弔いもためにもいかねばな」


そりゃ、オーガテンペストの素材は高額で取引されるみたいだからな。

財源は欲しいだろうと、すぐに考える俺はオーヴィク君に比べて汚い大人なんだろうなーと思う。

まあ、この考えを今更変える気はないがな。


「では、さっそくオーガの素材の回収チームを組むとするかのう。しかし、オーヴィク君たちは今回は休んでおきなさい。記憶がなくなるほどの激しい戦闘じゃったんじゃ、まずはゆっくり休むといい」

「ありがとうございます」


ここら辺は常識的らしい。

休んだところで記憶が戻るかはわからないが、俺たちとしてはここで休憩がある意味は大きい。

しっかり今後の予定を話し合おう。

色々風向きが変わってきたからな。

リテアを離れることも頭に入れておく必要があるかもしない。

そんなことを考えていると……。


「では、案内の方は、タナカ殿たちに頼もう」

「はい? 休ませてくれるのでは?」

「それは、オーヴィク君たちのパーティーじゃろう? それに案内が誰もいなくてどうやって討伐場所までいくんじゃ?」


ちっ、確かにその通りだか、ギルドの連中にオーガの遺体を見せて質問攻めにされるのは面倒だな。

どうするか……。死体の細工もちゃんとしておけばよかった。

いかん、色々あって本当に今回は俺のミスが多い。

獣が来て食い散らかしてくれていることを祈るしかないな。

そう願いつつ。俺たちは再び森へと向かうのであった。



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