第308射:裏の情報は?
裏の情報は?
Side:タダノリ・タナカ
「私たちがちょっと故郷に戻っている間に随分ことが進んだみたいだね」
「はい。驚きました」
そう俺に話しかけてくるのは、魔族のノールタルとセイールだ。
俺は一旦タブレットを置き話をすることにする。
「ああ、意外と収穫はあったな。バウシャイの町からいなくなった人たちの痕跡を見つけた」
「へぇ。その人たちは生きてそうなのかい?」
「どうだろうな。おそらく全員アンデッドになっている可能性は高いな。魔族の材料にされそうだ」
「……話は聞きましたが、本当に人を材料に?」
セイールは信じられないという感じでこちらを見つめ返す。
「ノルマンディーで魔族の死体は見ただろう? どうみても人をつなぎ合わせて作ったような感じだ。まあ、確定したわけじゃないが、発生地点などを考えても可能性は高いだろうな」
否定するのは人それぞれでいい。
俺はただ今まで集めた情報からそう推察しているだけに過ぎない。
あとは現実がどうなるかだけだ。
覚悟のない奴は動きが鈍って死ぬ。それだけの話だ。
「それで、私のかわいい妹たちは冒険者になっていると?」
「情報を集めにな。こっちの大陸がロガリ大陸と違いがないかな。あと戦争をしている前線の情報とか地図な」
今後の予定を決めるうえで詳細な地図は必要だ。
ゼランが商会を使って集めてくれている物もあるが、冒険者ギルドの地図も欲しい。
国防のために地図の存在はトップシークレットいうのがこの世界の常識だからな。
航空機や人工衛星がないからこそだろうな。
最悪ドローンを飛ばして地図をっていうのもあるが、それでも限度はあるからな。
「ふーん。まあ、そこらへんはよくわからないけど、タナカが必要っていうなら必要なんだろうね。ま、そこはいいとして……」
「ナデシコたちだけで大丈夫なのでしょうか?」
「そこまで過保護にならなくてもいいだろう。あいつらは自分で考えて行動を起こした。何か助けを求めているならともかく、俺たちが勝手に口出ししても面白くないだろう」
「普通は信頼しているんだね。っていう所だけど」
「その、タナカ殿の場合は放置しているように聞こえます」
「おう。間違ってないからな。仕事は沢山ある。いつまでもガキのおもりはしてられない。一応そうそう死ぬようなところでもないからな。ここで死ぬならそこまでだったてことだ」
人の運命なんてわからん。
どんなにも守ったとしてもあっさり死ぬのもいれば、絶対死ぬだろうって状況でもなんてことのない顔をして生きて出てくる化け物もいる。
今回に限っては、ある程度安全が保障されている町中だ。
そして、大和君たちもずぶの素人でもない。
まあ、毛が生えた程度だが、銃撃でもない限りはやられはしないだろう。
魔法がつかえるしな。
あ、こっちでは魔術だっけか?
違いがよくわからん。
「はぁ。ま、ヒカリたちが戻ってきたら話を聞いてみるよ。それぐらいはいいだろう?」
「ああ。そっちは任せる。俺はこうして情報収集だよ。あとは、ああ、そういえばギナスの方に話をしてなかったな」
「ギナス? ああ、スラムのトップでしたか?」
「そうだ。今話したバウシャイの情報を伝えようかと思ってな」
「いいのかい? 大事な情報だろう?」
「それは間違いないが、アンデッドを連れた魔族がこのシャノウを横切る可能性があるからな。そこを捕捉するか、襲撃するか見送るか話し合わないといけないからな」
「ああ、そういうことかい。でも、そんな大事お姫様たちを放っておいていいのかい?」
「陛下にもご報告は?」
「作戦開始までに戻ってこなければ事後報告だ。それに俺は別に誰かの配下になったつもりはないからな」
ユーリアの姫さんはまだルーメルで爺さんと一緒に報告中。
同じくリリアーナ女王も聖女と一緒に戻って各国へ俺たちの情報をせっせと流していることだろう。
扱いづらいからな。ま、どう調整をするのか戻ってきてから楽しみだ。
「なにより、何もしないままシャノウが魔族とアンデッドの襲撃に合うのは面倒だからな。せっかく手に入れた拠点がパーになる。下手をすれば一気に無人化した何らかの方法を知らないうちにやられる可能性もある」
「……それを狙ってあの山脈越えをしている?」
「まさか、そんなことを?」
「確証はないが、ありえないことでもないからな。山脈を進んでいくと死体が増えているしな。つまり、ようやく手に入れた材料が減っているってことだ。どこかで補充をしてもおかしくはないだろう」
「それを普通に言うのが恐ろしいね」
「恐ろしいから対策をしなくていいって話にはならないからな。ゼランの方には商会に頼んで連絡してもらっているし、俺は俺でスラムの方に情報を流しておくことが必要だろう。じゃ、少しでる」
「わかったよ。とはいえ、私たちはどうしたもんかね」
「町にでて少しでも情報を集めますか?」
そんな感じで、今後どうするかを考えている二人だが、世の中そんなに甘くはない。
「大丈夫だ。2人には頼みたいことがある。これだ」
俺は笑顔でそう言ってタブレットを手渡す。
「ちょっとまちな」
「別に断ってくれてもいいぞ。その分敵の位置がわからないだけだからな」
「本当にタナカ殿は遠慮がありませんね」
「人員は少ないからな、できる限りやるべきだろう。この町の人たちの命が掛かっている。いや、結城君たちの命もだ」
「わかったよ。ほらさっさと行ってきな。ドローンの操作と捜索技術はタナカが一番上なんだから、早く戻ってきなよ」
「わかってる」
ドローンを使えるようになったとはいえ、俺の操作には及ばない。
それでもノールタルやセイールは頑張っているとは思うけどな。
現実じゃ頑張っただけじゃだめだ。
ちゃんと実力が伴ってこそ役に立つ。
捜索速度が落ちるのは絶対間違っていない。
俺がさっさと話しを終わらせておくのに損はない。
ということで、さっそくギナスの家までのんびり歩いていくことにする。
「ああ、今日は天気がいいな」
世の中焦ったところで事態が急変するわけでもないからな。
戦場のど真ん中で給弾をしているわけでもないから、ここは一度ゆっくり歩いて思考を纏めてみよう。
案外いい案が出るかもしれない。
ワイワイ、ガヤガヤ……
シャノウの商店街は相変わらず賑やかだ。
活気が前に比べて落ちていることもない様子から、やはり戦いの予兆はないようだ。
平和でなによりだが、俺たちに必要な情報はなかなか集まらないな。
はぁ、さっさと帰るっていうのが目的だったのに、帰るために命の危険を冒して戦場へ向かうっていうのもなにか間違っている気もする。
とはいえ、動かなければ俺の平和はない。
平和ために戦う。間違っているのかもしれないっていうのは誰かの話にあったな。
だが、勝ち取らなければ死ぬだけだからそこは勘弁だ。
「お、この前の兄ちゃんじゃないか」
「よう。この前はありがとうな。色々情報が集まった」
「そうか、それは何よりだが。なんだ、どこかに移動する予定か? ああ、ゼランの知り合いだったか」
「おう。それで安全な国を探していたってわけだな」
「なるほどな。あのじゃじゃ馬の世話は大変だろう?」
「ま、仕事だ。できる限りはやるさ。と、またこの果物くれ」
「あいよ」
俺はそう言ってお金を支払って果物を手にする。
意外とこのリンゴもどきの果物は食べ応えがあっていい。
水分もあるから腹も満たせるのがいい。
何より、こうして作物を普通に売っぱらっているんだから随分と安定しているんだろう。
戦争の中で普通こんな商売できないからな。
それだけ安全な地域だってことだ。
本当に戦火に巻き込まれた場所は何もかもなくなるからな。
「どうした兄ちゃん?」
「ああ、悪い。平和だなってな」
「あはは。ゼランの御守をしていたなら大変だったろうさ。ま、今のうちに平和を楽しみな」
「そうする。じゃ、またな」
「ああ」
町はいまだに平和だ。
そうなるとますます厄介だな。
結城君やゼラン経由で町の偉い人に敵が近づいているかもしれないといってもすぐに何かを起こすことはないだろう。
これで空振りなんてなれば大失態だからな。
ちゃんと調べて情報を集めてということになる。
それで間に合えばいいが、普通そういう偵察は消される。
何とか初回の出会いで潰せればいいんだがそう簡単にもいかないだろう。
ということで……。
「それでこっちに来たわけかタナカ殿」
「そういうこと。まあ、ちょっとした情報も集まったしな。そっちの状況も聞きたい」
ギナスの屋敷に着くなり特に遠慮もなく、ギナスと面会をして話をしている。
こういうのが裏のトップの便利なところだよな。
ある程度力を見せれば協力体制をとってくれる。
強い相手とはちゃんと契約を結ぶわけだ。
だからこそ、俺たちが弱くなればあっさり裏切るだろうけどな。
「こっちはそっちから提供された品物を資金源に色々やらせてもらっている。情報も集まってはいるが、そこまで時間が経ってないからな。まだ提供できるのは少ない。魔族が出没したフィエオン王国なのは間違いない」
「情報の正確さは?」
「フィエオン王国の王族が魔族が出てきて国が乗っ取られたと吠えていたからな」
「それはそれは。よく生きていたな。王族なんて真っ先に死にそうだが」
「いや、普通真っ先に逃げるだろう? ああ、王様じゃなくて王族だからな。外に流されたやつさ」
「ああ。そっちか。で、運よく生き残ったわけだ」
「そうだ。フィエオン王族はそいつ以外全滅のようだ。ま、おかげで悲劇の王族で何とかなってるな。そうでもなきゃ、魔族の被害を受けた各国からひとまずつるし上げだったろうさ」
恨み言を言いやすいからな。
敵が強いなら弱い味方を叩いてうっ憤を晴らすってやつだ。
「地図に関しては?」
「地図の方はそう簡単に完全品は手に入らないな。一族郎党皆殺しになる。ま、そうならないタイプの地図はかき集めている。それがあればある程度は分かると思う」
「そうか」
「で、タナカ殿が仕入れた情報っていうのは?」
「ああ。バウシャイを襲った連中が町の連中を従えて、あっちの山脈を越えている最中かもしれないって話だ」
「……さらっとすごいことを言ったな。詳しく聞かせてくれ」
「そのつもりだ」
さて、ギナスはこの話を聞いてどう動くのか、どこまで影響力があるのか確かめさせてもらうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます