第233射:朗報
朗報
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
僕の視界に映るのは変わり映えしない変態魔王デキラの執務作業姿だ。
なんであんな退屈なことが出来るのか不思議でたまらないね。
一向に減らない書類の山に手を伸ばしては内容を確認してから、何かを書き込むの繰り返し。
「あー、眠い」
「こら、ヒカリ。寝るんじゃないよ。しっかり監視をしておかないと、タナカに怒られるよ」
「あー、うん。わかってる。わかっているけど……ふぁぁ」
眠いモノは眠い。
この監視作業は必要な物。
それは分かっているけど、この変化のない映像をずっと見つめているのは辛い。
本当に辛い。
とはいえ、勝手に強制収容所を占拠して、田中さんたちに迷惑かけたから、やめるってわけにもいかないんだよね。
お姫様たちの顔すごかったし。
ったく、デキラのやつ、もっと激しく動けばこっちも監視する気力もわくのに。
そう、こんな目に合っているのはデキラが悪い!
事実だし、魔王が悪いし!
そう画面越しに、変態に殺気を飛ばすがなんにも気がつかない。
「……意外と気が付かないもんだね」
ふいに、そんな言葉出てくる。
監視されていることも気が付かない変態になんで私たちがこんな苦労をしているんだろうと、本気で不思議になる。
「ああ、こっちとしては助かるよ。アレから10日経っても気が付かないね」
あ、そっち? いや、当然か。僕の殺気に変態が気が付かなかったとかわかるわけないし。
ノールタル姉さんが言っているのは、強制収容所を占拠してから既に10日ほど経っていることだね。
そう、デキラたちはその事実に気が付いていない。
僕たちにとって助かるというか、相手が間抜けというか……。
「……うまく連合軍が到着するまでに、隠し通せればいいんだけどね」
「だね。最悪のことを考えて逃亡ルートの確保も必要だし。長い時間こちらに気がつかないでくれているとありがたいんだけど」
とはいえ、そう上手くはいかないのが、世の中だよね。
今までもそうだったし、予期せぬところで問題が出てくるのは今までよく味わってきた。
どういう状況で、バレるのかなぁ。
いや、そうならないように、そうなってもいいように今僕たちは動いているんだよね。
「そういえば、城下町の方に戻りたいって人たちの方はどうなっているの?」
「今、協力してくれている兵士たちが貧民区の捜索って建前で、避難できることころをある程度見繕っている所だよ」
こっちはこっちでちゃんと進んでいるようで何よりだね。
いざというときは戦えない人とかを逃がせる気がしてきた。
「でも、タナカが言ったように、物資の補給をどうするのかってのもある。それなりに人数がまとまると、それだけ物資が必要になるからね。物資の運搬のために人の出入りが多くなるってことだから……」
「その分、見つかりやすくなるよね……。それでも、やっぱり戻りたいのかなぁ」
「まあ、それが故郷ってそういうものさ。ヒカリたちがニホンってところに帰りたいようにね」
「そっか、故郷か」
それなら帰りたいよね。
それが目と鼻の先にあるんだから、なおのことか。
というか、避難するようなことになれば、敵が攻めてくるってことだし、物資の補給もうまくいかなくなるよね? そうなると、結局物資不足になるから、この場所というか僕たちが無事にいる必要があるから、なかなか難しいよね。
目の前に故郷があるのに、帰れない。
どんな気持ちなんだろう……。
「ああ、彼らにとっては、いや、私にとってもあんなおんぼろ家でも故郷なのさ。とはいえ、まだ今すぐ帰りたいって叫ぶやつはいないよ。今戻ったら簡単に捕まるってことも、食べるものがないってこともわかっているからね」
「そっか、助かるね。でも、あとどれだけこんな日々過ごすんだろうね……」
「さあね。タナカが言っていた、連合軍がどこまで来ているかわかれば、具体的な数字が出来て楽なんだろうけどね」
と、そんなことを話しながらモニターの監視を続けていると……。
「ルクセン君、ノールタル、監視はこのリカルドとキシュアに代わって集まってくれ。話がある」
唐突に田中さんがやってきてそう言う。
「何かあったの?」
「ああ、何かあったから呼んだ。ゴードルからの連絡が来た」
「ゴードルのおっちゃんから!」
「ゴードルのやつに何かあったのか?」
「それをここで話すわけにはいかない。だから付いて来てくれ」
どうやらゴードルおっちゃんの方で何か動きがあったみたい。
また厄介ごとじゃないだろうなーと思いつつ、僕は田中さんについていくと、既に晃や撫子たちはそろってこっちが来るのを待っていたみたい。
「やほー。2人ともぐっすり寝れたかい?」
「なんとかなー」
「……私はいまだに眠いですが、そうも言ってられませんからね」
どうやら、睡眠時間が少ないようで完全回復ではないみたい。
ま、撫子も最近はモニター監視の時間が多めだから辛いんだろうね。
と、そんなことより……。
「王女様たちも集めて何があったの? ゴードルのおっちゃんに何かあった?」
「はっ! そういえば、ゴードル殿は和平派を率いてこちらに向かっていましたね。もうすぐ到着するのですか?」
私の一言で眠そうな顔をしていたお姫様がハッとなって起きる。
言っていることは僕もそうだといいなーと思うから期待を込めて……。
「ゴードルのおっちゃんがもうすぐ到着するの?」
直球で聞いてみる。
「いや、進軍は遅れているな。思ったより負傷者が多いからな。ほれ、こういう強制収容所の連中を集めて編成されたみたいだからな」
「「「……」」」
そう言われて、多少がっくりするけど。納得もする。きっと鞭で打たれて無理やり連れてこられて戦わされていたんだ。
だから、遅れるのも当然だね。
となると、ゴードルのおっちゃんたちと合流してデキラを倒すっていうのは無理か……。
そんな感じで、全員落ち込んでいると、田中さんが話を続ける。
「まだ話がある。今回、デキラの動きが遅い、というか鈍いことだが、どうやらゴードルが嘘の伝令をだして、アスタリの町を上手く攻略していると勘違いしているらしい」
「なるほど。だから、私たちの事に反応がないということですね」
「どういうこと? 晃わかる?」
「えーっと、嘘の情報が伝わっているから、俺たちが侵入していることに気が付いてないってことかな?」
「結城君、当たりだ」
「おー! ということは、まだ僕たちの事がばれてないってことじゃん!」
「そうだ。不幸中の幸いだな。あとは、ゴードルが率いる和平派は先に到着するか、それとも連合軍が到着するのが先か待つだけってことだ。ま、俺たち単独で無茶はできないが、いい話だろう?」
そう言われて全員で頷く。
出口のない迷宮に迷い込んだかと思っていたから、ようやく出口の灯りが見えた感じだよ。
「まあ、誤情報がどこまで信じられるかわからないからな。監視は引き続き必要だ」
「「「……」」」
光が見えたかと思ったら、地獄に叩き落されたよ。
あんな無情なクソ変態野郎の監視だけの日々とかそれ以外に言いようがない。
と、そんな感じで話していると……。
「タナカ殿!」
「どうしたリカルド?」
なぜか、ドローン監視を代わったリカルドさんが血相変えてやってきて……。
「連合軍がロシュール側の防御として使っている魔族の砦に攻勢をしかけました!」
「え!?」
「それは本当ですか!」
「見せてください!」
そう言って僕たちはリカルドさんが持っているタブレットをのぞき込むと、確かに砦に攻撃を仕掛けている軍が見える。
「確かに、旗はリテア、ガルツのモノですわね」
確かに、旗には撫子の言うようにリテアとガルツの旗があって、見たことが無い二つの旗も翻っているのが見える。
これはおそらく……。
「うん。あと二つは見たことないけど、連合軍に入ったっていうロシュールとウィードかな?」
見たことが無いとなると、その二つしかないからね。
「おそらくそうだろうな。ま、後は無事に突破できるかだが、突破できても被害が大きければ引き返すしかない」
「「「……」」」
味方が来てるって状況でそんなこといわないでよ!
と思うけど、田中さんの言っていることは事実なので何とも言えない。
「何か、俺たちにできることはないんですか? 操作するドローンを増やして援護するとか」
「あ! そうだよ! 田中さんドローン増やそう!」
晃、ナイスひらめき! 僕もすぐに賛同して、田中さんにドローンを増やしてもらうようにお願いしたんだけど……。
「いや、この状況でどう手助けすれば、味方の援護になるかわからん。下手をすると却って迷惑になる。どう援護するつもりだ?」
「え? えーと……」
あ、あれ? 何も思いつかない。
でもドローンは空を飛んでいるし……。
「ドローンで城壁の敵に体当たり! それか銃撃で援護!」
「いや、連合軍の顔を立てる必要があるからな、リリアーナ女王があの連合軍にいるのに堂々と手助けするのはまずい」
「なんで? 協力するだけなのに」
「協力するのは、各国と魔族だ。勇者が躍り出て手助けしましたとか、結局のところ勇者のおかげということになるし、ルーメルが魔族をどうするかわからんって話はおぼえているのか? それとも最後まで魔族の面倒見るのか?」
「……私たちが活躍するのは、好ましくないということでしたわね」
「あー……そうだった」
そうだった。僕たちが活躍すると名声を得るのはルーメル。
まあ、否定してもいいけど、そうなるとルーメルは孤立するから戦争になるかもしれないし、僕たちが帰る方法も見つからなくなるかも……。
というか、魔族の面倒とか見れるわけもないし!
そんなことを考えていると……。
「あ! なんかあそこ! 門が開いた!」
「「「えっ!?」」」
晃が指摘した場所を見ると確かに軍の人が門を開けてなだれ込んでいる。
どうやら門を破ったようで、魔族の人たちはどんどん殺されていく。
「この人たちも、デキラに命令されただけなんだよね……」
「……そうですね。ですが、これしか……」
方法がないんだよね。
「いや、よく見ろ。救助されている魔族もいるぞ。多分、リリアーナ女王派とデキラ派で内部で意見が割れたんだろうな。門も破られたというより、内側から開けられたみたいに綺麗だしな」
「「「あ」」」
そう言われて破られた門を見てみると確かに多少傷ついているけど壊れてない。
つまり……。
「殺されているのは、完全なデキラ派ってことだ。まあ、人殺しが起こっているのは間違いないけどな。と、あれ、ローエル王女じゃないか?」
「あ! 本当だ! 倒れている魔族の人を介抱しているよ!」
「元気そうというのはアレですが、無事で何よりです」
そっか、人が死ぬのは確かに嫌なことだけど、これはきっと未来につながることだと思える光景が僕の目の前に広がっていた。
これが、人と魔族が手を取り合って進んでいく始まり。
「ここに、勇者なんてものがいるか?」
「いらないね。僕たちなんて必要ないんだよ」
「ええ。自ら乗り越えてこそ意味があるというわけですわね」
「だな。というかさ、これって連合軍がもうすぐってことじゃないですか!? 準備しなくていいんですか!?」
「あ、そうだな。レジスタンスまとめないと、下手すると一緒に殲滅されるな」
「「「ええー!?」」」
やばい、それはやばい!
い、急いでみんなをまとめないと!?
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