第243射:これからのみんな
これからのみんな
Side:アキラ・ユウキ
わいわい、ガヤガヤ……。
賑やかな声が夜になっても聞こえてくる。
それも当然。
だって、今日は……。
「魔王を倒した記念でかんぱーい!!」
「「「カンパーイ!!」」」
全員で何度目かわからないが乾杯をする。
そう、俺たちはついに魔王を倒したのだ。
まあ、倒したのは俺たちじゃなくて連合軍にいたローエル将軍たちなんだけどな。
それでも、嬉しいのは変わりない。
魔王を倒した当日だが、俺たちは、いやラスト王国や連合軍を含めて祝っている状態だ。
もちろん、敵がほかにいないとも言い切れないから、偵察や戦闘待機している兵士たちはいるけど、3分の1は休息をとっている状態だ。
レジスタンスのみんなは、ほかの住人たちにデキラを討ち取ったといって連絡をして、同じように乾杯をして喜んでいる。
「でも、よくお酒なんか振舞ってくれたよな」
「連合軍も太っ腹だよね」
「おそらく、倒した後の魔族の人たちの支援も考えていたのでしょう。今後のために。あと、こうして戦勝を祝うためもあると思いますわ」
確かに、ただ勝っただけじゃ兵士たちやレジスタンスは疲れだけが残ってしまう。
こうして祝ってあげれば、又やる気を取り戻してくれるよな。
「でも、リリアーナ女王たちはいないね」
「仕方ありませんわ。今は王がいなくなったこの国をどうまとめるかの話合いですもの」
撫子の言う通り、ここで乾杯をしているのは、ルーメルメンバーやレジスタンスたちや、連合軍の兵士たちだけで、連合軍の主要メンバーはお城で会議をしている。
後始末って大変だからなー。
そんなことを考えていると、ヨフィアさんたちもお酒を飲みながら上機嫌に話しているのが聞こえてくる。
「いやぁー。なんだかんだで生き延びましたねー。キシュアさん」
「ええ。てっきりリカルド殿が敵との交戦で命を落とすかと思っていましたが」
「ぶっ!? キシュア殿何を物騒な」
「あー、わかります。リカルド様はタナカ様に言われてすぐに玉砕しそうですもんねー」
「ですよね」
「むう。確かに兵は命令で命を投げ出すものですが……」
向こうは向こうで生きていることを祝っているみたいだ。
ヨフィアさんたちは今回のラスト王国解放するために俺たちのように目立った活躍はしてないけど、ずっとドローンの監視や、サポートを丁寧にしてくれた。
彼女たちやリカルドさんがいなければ、今回の事は成功しなかったと言える。
俺たちだけでこんな大きなことはできなかった。
「しかし、会議に参加している姫様やカチュア殿は大丈夫でしょうか」
「キシュアさんは心配しすぎですよー。今回の会議にタナカさんも一緒なんですよ? 変なことになるわけないじゃないですか。何かあるなら、今頃城で銃声が鳴り響いていますよ」
「「「……」」」」
ヨフィアさんはあははは!と笑っているが、冗談に聞こえないのが怖い。
まあ、田中さんだってそんな無茶はしない……はずだ。
だって帰る方法を探すために、各国との繋がりが必要なんだから、ここで何か問題を起こすわけにはいかない。
「え、えーと、まあ、会議の事はいいとして、ノールタル姉さんやセイールたちは今後どうするの?」
光が無理やり話を変える。
でも、ここはちゃんと聞いておきたい話だ。
レジスタンスの人たちはこれからどうするのか。
そして、ノールタル姉さんは本当に俺たちについてくるつもりなのか……。
「ん? それはどういう意味だい? レジスタンスとしてかな? それとも私個人の事かな?」
「あ、えーと、どっちともかな?」
光はちょっと気まずげに答える。
まあ、付いてくるのかって聞くのは、下手をするとノールタル姉さんたちとはここでお別れって意味だ。
それは、ちょっとどころか色々寂しいものがある。
でも、聞かないといけない。
話を変えるために咄嗟に行ったとはいえ、光は頑張って聞いた。
そして答えは……。
「ああ、心配しなくていいよ。私は光たちと一緒に冒険する。せっかく、魔族と人がこうして仲良くやってるんだ。勇者と旅をして平和になったって証明するよ。そして、光たちを家に戻す手伝いをする。ついでに、異世界旅行もしてみたいね。なあ、セイール?」
「ええ。ノールタル姉さんの言う通り、私もついていくわ。まあ、ほかのみんなはレジスタンスと一緒に町を復興するみたいだけどね」
そう笑顔で言う2人。
そして、町に残るといった魔族のみんなは申し訳なさげにしている。
「いや、気にしなくいいよ。残るみんなも、頑張ってくれよ。俺たちもノールタル姉さん、セイールさんと一緒にちょくちょく戻ってくるからさ」
「ええ。そうですとも。これでお別れじゃありませんわ。皆さんが町を復興するのと、私たちが帰る方法を見つけるのが先か競争ですわ」
俺のフォローをしてくれる撫子。
そうだよな。
別に、ここに二度と戻ってこないわけじゃない。
それがみんなわかったのか頷いて、いつでも戻ってきてくださいと言ってくれる。
そして、みんなで笑い合い、再び酒やご飯を飲み食いしていて気が付いた。
「なあ、不意に思ったけど。なんか俺たちも自然とお酒飲んでないか?」
そう、俺たちはお酒を飲んでしまっている。
まあ、タナカさん曰く、とってもアルコール度数が低いから、酒じゃないとか言ってたけど。
「そういえばそうですわね。でも、いいんじゃありませんか。こういう祝いの席なんですから」
「おー。撫子が意外な言葉! でもわかってるじゃん!」
「だな。てっきり撫子はダメだって怒るかと思ってた」
「それは当然酔って人に迷惑をかけるなら駄目ですわ。でも、飲酒に関しては国々で違いますわ。このラスト王国では飲酒に関しての制限はありますか? ノールタルさん?」
「んー? お酒は子供が飲んじゃいけないってだけだし、撫子たちなら飲んでいいな。あ、光はだめだあ」
「なにをー!? それを言うなら、ノールタル姉さんもじゃん!」
そんなことを言って取っ組み合いをする2人。
完全にじゃれているだけだから、ほっといてセイールさんが話を続ける。
「別に子供でも祝いの席で飲むから、気にしなくていいわよ」
「まあ、それは日本でもありますわね。常時飲むというわけではなく、祝いの席で一口ぐらいは」
「あるある。俺も爺さんに飲まされたことがある」
でも、当時はお酒の味なんて分からないから嫌だった記憶がある。
それがこうして飲めるようになるんだから不思議だよな。
それで、帰る手段ということに意識が行く。
「でも、帰る方法を探すにも、これからどこをどう探せばいいんだろうな? ルーメルの方で何か帰るヒントでも見つかってるかな?」
「いきなりですわね。とはいえ、悩むのも当然ですわよね。可能性としては、マノジルさんが何か見つけていればいいのですが」
あー、マノジルさんなら誠心誠意探してくれていると思う。
だけど、今まで連絡がないからなー。
「あとは、フクロウさんかなぁー。あの人なら意外と見つけてくれそうな気がする。依頼してみる?」
「駄目です。あのババアを頼るぐらいなら、私を頼ってください!」
ヨフィアさんは本当にフクロウさんを嫌っているよなぁ。
そんな感じで話していると、不意にリカルドさんがなぜか残念そうな顔でつぶやく。
「……私も勇者様たちやタナカ殿たちと行ければいいのですが、魔王が倒れた今。どうなるのでしょうな。キシュア殿も」
「……ああ、そう言えば私たちは魔王を倒す手助けをしろといわれていましたね。まあ、このまま勇者様たちと冒険を続けろと言われる可能性もありますが、そこまで期待はしない方がいいでしょう。なにせこの魔王討伐で名を挙げたのはルーメルではなく勇者様たちと姫様ですからね」
ああ、そうか。
リカルドさんやキシュアさんは、国の騎士だから、これからの冒険についてくるのは難しいのか。
「まあ、一度放逐に近い形で勇者様と同行させられましたが、私たちも一応魔王討伐に貢献いたしましたからなぁ」
「おそらく国としては、私たちを抱え込むことで面子を保とうとするでしょう」
なるほど。そういう目的もあるわけか。
確かに、魔王を倒した人を国に招いた方がいいしな。
日本でも国民栄誉賞とかあるんだし、それぐらいしないと国としてダメなんだろうな。
ま、面倒だ。
で、それは光も思ったようで……。
「うわぁー。面倒だなぁ。リカルドさんも、キシュアさんもこのまま一緒についてくればいいのに」
素直にそう言うんだが、2人とも困った顔をしている。
すると、ヨフィアさんが口を開いて。
「ヒカリ様。そういうわけにはいきませんよ。お二人とも、ご家族がいますし、これで名誉は回復したんですから」
「そうですわね。これで堂々と、国に戻れるのはいいことですわ。ね、光さん?」
「……あ、うん。そうだね。いいことじゃん!」
撫子に促されて返事をしたが、どう見ても残念だって感じの顔をしている。
リカルドさんもキシュアさんも最初から冒険してきたからなぁ。
まあ、リカルドさんは最初の印象は田中さんへの対応で最悪だったけど。
それでも、色々お世話になったのは事実だし、リカルドさんはリカルドさんで頑張ってきた。
キシュアさんも細々としたところで俺たちをフォローしてくれた。
別れは寂しいけど、ようやく元の生活に戻れるんだから、それはいいことだ。
「ああ、私はそういうのはいませんから、アキラさんたちが全てなんでついていきますよ!」
「ヨフィア!」
「ヒカル様!」
ひしっと抱き合う2人。
うん、まあ、ヨフィアさんはついてくると思ったけど、ノリがなぁ。
「なんだよ晃。ヨフィアが付いてくるのが不満なわけ?」
「ええっ!? アキラさん、私捨てられるんですか!?」
「晃さん。そういうのはどうかと思いますわよ?」
「いやいや。何も言ってないから。それに、ノールタル姉さんたちの他にゴードルさんもついてくるって話もあるから、どうなんだろうなって」
そう、減るだけじゃない。
増える可能性もあるんだ。
「あー、ゴードルのおっちゃんこっちに向かってるんだっけ?」
「そういえば、連絡はいたしましたか?」
「いや、してない。田中さんが出ている会議が一度終わってからがいいかなって」
「うーん。あまり会議が長引くとまずくない?」
「そうですわね。ゴードルさんが率いる軍も結構数がいるはずですから」
「じゃ、明日までに戻ってこなかったら、話しに行くってことで」
そういうことで、俺たちはいろんなことを話しながら、夜遅くまで勝利を祝うのであった。
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