第19射:国々の情報
国々の情報
Side:タダノリ・タナカ
俺はルクセン君たちとは別れて、冒険者ギルドへと足を向けていた。
ルクセン君たちは冒険に必要な買い物に行くみたいなので、わざわざ俺が付き添いで行く必要もないと思ったからだ。
いや、これぐらいは自分でこなしてほしいと思うことと、ルクセン君たちがどこまで独自の判断で道具を揃えられるかを見て見たかったというのもある。
まあ、リカルド、キシュア、ヨフィアが付き添っているから、そこまで的外れなモノを買うこともないと思っているが、目利きに関しては黙っているように言ってある。
質の良いモノ悪いモノというのは、自分の目で判断できるようにならないといけないからな。
今回質の悪いものを買うことになるかもしれないが、こういうのは実戦や訓練と同じで繰り返して、成功や失敗して覚えるものだ。最初から目利きができるわけもない。
「ま、そっちの心配より。俺たちの心配だな」
そう、わざわざルクセン君たちと別れて、冒険者ギルドに話を聞きに行くのは、俺たちの今後を左右するものだからだ。
昨日ルーメルの戦況を聞いて唖然としたからな。
まさか、戦闘状態ですらないと来たもんだ。潜在的な敵なだけで、未だに戦端は開かれておらず、敵の拠点はおろか、敵の総数もわかっていないというバカの極みだった。
何も作戦の立てようがない。偵察隊も悉く全滅しているらしいから、敵対する意思があると上は見ているらしいが、武装した集団が国境を犯せば、処分されても何もおかしくはない。
というか、魔王、魔族が穏便とも思えるほどだ。
国境侵犯というのは本来であれば、宣戦布告と変わらない。それを幾度もされて、ルーメルに攻め込んでないというのは、関わりたくないという意志表示に思える。
つまり、歯牙にもかけない、脅威とみなしていないのだ。被害があるなら、抑えにかかるからな。
まあ、正直どんな理由があって、ルーメルの国境侵犯を無視しているのかはわからんが、そんな正体不明の相手へ勇者として投入させられる俺やルクセン君たちはたまったものではない。
「そんな地獄に送り込まれる前に、何としても、情報を得たい」
そう。情報を得るために俺は冒険者ギルドに向かっている。
今後無事に生き残るために。
マノジルと話した、他国への亡命も含めてだ。
その判断をするにも、今は全く情報がない。なさすぎる。
なので、各国に支部がある冒険者ギルドに向かったわけだ。
「よく来たな」
そう言って、執務室で迎えてくれるクォレンは書類の山を積んで処理をしていた。
「忙しそうだな」
「それはな。昨日の被害が思った以上に大きかったからな。おかげで、ルーメルのお貴族にも報告が必要になった」
「俺の事は?」
「無論、黙ってある」
「そうか。で、俺を襲った件は調べがついているか?」
「これだ」
そう言って、クォレンは一枚の羊皮紙を俺に差し出す。
それを受け取った俺は羊皮紙に目を通し……。
「ドゥトス伯爵が依頼人か。で、伯爵ってどのぐらい偉いんだ?」
「知らんのか? いや、そうか、異世界から来たんだったな」
ということで、貴族階級について教えてもらった、騎士<準男爵<男爵<子爵<伯爵<辺境伯<侯爵<王族<公爵<国王となるらしい。
まあ、国々によって特別な階級が存在していたりするので、これが基本という風に覚えればいいみたいだ。
ちなみに「公爵」は基本的に王族の血縁者であり、優秀である者に与えられる地位で、公爵とは王族との繋がりが強いことが多いらしい。
じゃあ、王族の血縁で優秀であれば、みんな公爵になるのかと言うと違うようで、大抵一人だけが公爵位を得て、そのほかはそれ以下の爵位を得て、過ごすことが多いそうだ。
そして、ドゥトス伯爵は……。
「現国王の従弟になるな。直接的に王家とは関係ないが、従弟だということは、親の時代、前々国王、兄弟どちらが王家を継ぐかで揉めたはずだ。そして、現国王の親、ご隠居が玉座について、今に至る」
「で、これがどう俺の暗殺に繋がる?」
「本当の依頼主はユーリア姫ではあるが、これを頼んだのはドゥトス伯爵だ」
「そう来るか。よく調べているな。情報元は信頼できるのか?」
「ヨフィア以外にも城内にはいるからな」
「なるほど。そうなると、疑いようはないか」
いや、俺も姫さんの動向には注意していて、特に不思議とは思わないが……。
他の貴族が依頼ね。
「お姫さんは理解しているのか? 王様公認で俺は勇者たちの保護者役にして、一応、近衛兵を鍛えているんだぞ? それを無視した行動をとるってことはそうだろう? 俺憎しだとしても色々不味くないか?」
「どうだろうな。詳しいことはわからないが、ユーリア姫がお前さんの暗殺を頼むのは状況的に奇怪しいな。まず、他の貴族に頼むのが奇怪しい」
「そうだな」
王家が暗殺を依頼するって言うのは、極秘中の極秘だ。
他の貴族なぞに知られれば、王権の地盤が揺らぎかけないスキャンダルだ。
それぐらいはわかる。王政とはいえ、それなりに続いている、時代を重ねていると、絶対王政ではいられない。
貴族たちの議会形式にならざるを得ないのだ。
婚姻や土地の関係で部下が自分たちの力を持ってくる。王様は国の代表という席に座らせるだけになってくることが多い。
日本的にいえば、内閣総理大臣がわかりやすいか。その内閣総理大臣の家族が暗殺をどこかに依頼しましたっていうのは、大スキャンダルだ。敵対する議員は喜んで、総理大臣の座から引きずり降ろそうとするだろう。
「まあ、依頼人は書類上ドゥトス伯爵だから、ここで詰め寄ってもユーリア姫には被害はないな」
「……証拠は処理してあるか。ドゥトス伯爵を斬り捨てる感じか。そんな仲なのか?」
「さあ、とはいえ。これを冒険者ギルドから提出することはない。どう考えても、厄介事だ」
「だな。それが賢明だ。あとはこっちで色々調べる」
「貴族を敵に回す気か?」
「その前に勇者たちを敵に回す気か? と言いたいね」
「今なら、どうにでもなるだろう」
「確かにな。ということで、身の安全を図るために、近隣の国の情報が欲しいんだが?」
ここからが本番だ。
まだルーメル内部に味方の少ない俺が、暗殺されかけたのを告発しても、どこで握りつぶされるかもわからんし、敵や味方の判断も付かん。
ルーメル貴族の内部勢力図がさっぱりわからんからな。
今回のユーリア姫指示の暗殺も、ドゥトス伯爵が闇ギルドに依頼をだしているところから、きな臭い。
貴族っていうのは子飼いの部下もいるだろう。なのに、わざわざ外部委託だ。
ユーリア姫を使っての王家失墜を狙っているのかもしれんし、俺を排除するために真剣になったともとれる。
まあ、どのみち味方や情報も少ないので、この手の輩に手を出すのはまだ早い。
だから、外だ。外に出て時間を置く。
「出て行く気か?」
「一度出て、成り行きを見守る。権力争いなら勝手にやってくれ。俺への復讐なら受けて立つ。わかりやすいだろう?」
「そうだな。タナカ殿たちが出て行けば、何が狙いだったのかはわかるだろう。それに今回の闇ギルド討伐はかなり貴族の間でも騒がれている。後ろめたい連中は山ほどいるからな。王家や貴族の方からは今回接収した証拠を寄こせという打診もある。その混乱の中なら出て行くのに苦労はないだろう」
「結局提出するのか? 冒険者ギルドから出すつもりはないとか言ってたが……。ああ、冒険者ギルドからな」
「そうだ。冒険者ギルドから申し出るつもりはない。向こうから申し出とそれなりの条件を付けてもらうなら、吝かじゃないな」
「あくどいな」
「タナカ殿と変わらんよ。個人的に調べると言いつつ。行動はまず、この国から出て行くことだ。矛盾しているようで、一番効果的なやりかただよ」
「だな。ついでに、この依頼も見せてやれ」
俺はそういって、俺の暗殺依頼書をクォレンに返す。
「またこれはひどいことを。ドゥトス伯爵が処刑されるかもしれん内容だぞ?」
「黒幕かもしれないユーリア姫がどう動くか見ものだな。それか、案外使われている可能性もあるけどな。あの多感なお年頃のお姫様ならさぞ扱いやすいだろう」
「その可能性も考えているのに、返すのか? ユーリア姫に恩や貸しを売るチャンスかもしれんぞ?」
「その代わり、身動きが出来なくなりそうでな。俺たちはこの混乱の間に外を見てくる。で、お勧めはあるか? マノジル殿からは知り合いの関係からリテア聖国と言われているが」
「宮廷魔術師の筆頭のマノジル殿以上の意見は出せないと思うがな」
「ま、伝手を頼るならな。国の情勢を知らないんでなんとも言えん」
「確かにな。まあ、私が知りうる限りとつくが、いいかな?」
「もちろんだ」
「なら……」
ということで、近隣の情報を教えてもらった。
・リテア聖国 ルーメルの隣国。四大国の一つ。マノジルが逃亡先として進めていた国であり、愛の女神リリーシュという神を崇めている国であり、宗教国家だそうだ。国王というのはおらず、リテア教のトップである聖女が国の代表で、政治の方は3大貴族を中心に舵取りをしている。まあ、アレだロー○法王みたいな感じか? 最近は聖女の才覚凄まじく政治にまでその力をふるっているルルアという聖女がいて注目を集めているらしい。
・ガルツ王国 ルーメルの隣国。四大国の一つ。現在、同じ四大国の一つであるロシュール王国と戦争中。理由はよくある国境争いらしい。まあ、激化するかは、今後の戦況次第だと言われている。とはいえ、今だ小競り合いなので、訪問する分は何も問題ないだろうということだ。ちなみに、ガルツは四大国の中では、結構魔物の進軍が多く、魔族のことに関しては情報は多いかもしれないという話だ。
・ロシュール王国 ルーメルとは反対側にある四大国の一つ。ただいま、ガルツと戦争中。今回の国境争いはロシュール側からという話で、訪問にはお勧めしないとのこと。領土争いに巻き込まれかねないという話だ。しかし、ガルツが盾での守りを重視。ロシュールは剣での攻撃を重視という感じらしい。ああ、ちなみにリテア聖国が魔術という感じになるらしい。ルーメルは……聞くな。
・バスカル王国 ルーメル傘下の小国で海に面している所らしい。海からの他国への交流もあるので、小国でありながらそれなりの力を有している国。だが、他国といっても、この大陸の国々で他の大陸と交易があるわけではないようだ。まあ、海には大型の魔物がいるので、岸の見えない長距離航海は自殺行為らしい。本当におっかない世界だよな。
「おすすめは?」
「そうだな。ガルツだな」
「ロシュールと戦争をしているのにか?」
「ああ。激化したら、訪問することもできないだろう。あそこは魔物がそれなりにいるからな。ダンジョンも含めてな。いい経験になる」
「ダンジョンか、魔物が湧きだす洞窟だったか?」
「ああ。その数もかなりある。そういう意味でも、力量を上げるのにはうってつけだ」
「なるほどな……。感謝する。じゃ、手紙のことは頼んだ」
「わかった。しかし、すぐ出て行くのか?」
「いや、まだ上は混乱していないだろう? ギルド長が煽って荒れた時が頃合いだな。しばらくは普通に仕事をこなしておくさ」
「わかった。上の情報は引き続き教えよう。これで、貸し借りは無しか?」
「闇ギルド支部の価値が俺にはまだわからん。クォレンの好きなようにしてくれ。ま、情報は助かるがな」
「タナカ殿と敵対する気はないからな、精々恩を売るとするさ」
「そうか、なら恩にきるとしよう」
そういって、俺は冒険者ギルドから出て行くのであった。
「さーて、どこの国がいいかねー」
ルクセン君たちの道具一式の買い物をみて判断するか。
旅に耐えられるかどうかもあるからな。
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