イリスヨナの呪いを調べる / 機関 / 魔法補助制御装置
というわけで、昨晩、イリス様に大見得切ったものの。
まずは『イリスヨナの呪い』について知るべきだろう。
艦隊を作ると言ったが、イリス様の寿命を縮める呪いが、イリスヨナである私の気持ち一つで解決できる問題であるならば、それに越したことはない。
というわけで翌日から聞き込み開始である。正直この話題自体がどの程度タブーなのかわからないので、まず副長に、知っていることを教えてもらいに行くことにした。
副長はイリス伯への説明の後すぐに、イリスヨナでの勤務に戻っていた。
艦橋で話す。
「船のスペックなどは、いちおう軍事機密ではありますが、他は別に。
巫女のことについても、特に秘密とか、忌避されているということはありませんよ。
どの国でも巫女は短命です。船の力が強いほど巫女の寿命は縮まるとされています。
巫女の必要ない船もありますが、それらは力の弱い小型艦です」
「この船がわざと力を弱めたりできないかしら」
「機関出力は、イリスヨナのご機嫌次第でした。少なくともこれまでは。
ヨナ様の感覚としては、制御できそうですか?」
目を閉じて、機関部に意識を向けてみる。
「速度や舵はわたしの支配下ですが、その最大出力自体は機関の設計上のスペックそのものですから変更できませんね」
「やはり、そうでしょうね」
副長の声に落胆の色はない。
私も最初から期待はしていなかった。
「話は逸れますが、副長としてはイリスヨナ機関部の「ご機嫌」を気にかけています。ヨナ様は覚醒前の記憶がないとのことですが、機関部をどの程度掌握していますか。具体的には、これまでのような、不意の機関停止や出力低下は、どの程度ありうるでしょう」
もう一度機関部へ意識を飛ばす。
『機関の現在のフルサービスレベルアグリーメントは99.9999999%。直近のシステム変更以降、現在までのサービス障害はありません。機関部セイリングレコードのダウンタイム統計を閲覧しますか?』
イリスヨナとしての私が、答えるついでに何かの案内をしようとする。
「そんなものが読めるのですか。興味がありますが、後ほど。機関部が安定動作するというのは、正直なところ驚きが大きいですね」
副長は慣れない様子で目を見開いていたが、まずは私の興味を優先してくれるようで、そちらの話題を切り上げる。
「イリスヨナの巫女は、多くが20代半ばでお亡くなりになります。
お亡くなりになる時期は、船の運用回数や強度とは関係がないようです。
死因は多臓器不全や、免疫力と体力の低下による感冒、感染症の悪化が多い。ただ、船の制御がきかないときに、無理やり動かそうとした場合には、強い負担がかかるようです。
その場合、巫女はしばらく寝込まれることが多い」
つまり、このまま何もしなければ、イリス様は20代で死ぬ。
ただ、命を伸ばすことはできないが、私がダダを捏ねなければ、イリス様の負担を軽くできるかもしれない。
「これまで、船の操作はどのように行っていたのですか?」
「それもヨナ様にお伺いを立てなければと思っていたのです。本艦の各所に設置された、各種の補助制御装置については認識されていますか?」
言われてみて初めて、艦内設備に追加されている装置群が意識に登る。
「そういえば、なんだかむずむずするというか、肩が凝りそうというか」
下着が合わなくて息苦しい、タグが触って痛くて不快、が近い感覚か。
「それが、我々がこれまでイリスヨナを運用してきた方法です。
本来の制御装置としては操作盤などがきちんとあるのですが、それらが操作を受け付けない場合、外部から強制的に動作させるための補助端末を、艦内各所に差し込んであります。
この装置は多くが魔法具です。それでも、単純な機構にしか割り込みできませんが。
他にも艦内各所で魔法の助けを借りています」
状況としては、パワードスーツからの電気刺激で無理やり身体を動かされるとか、歯の矯正器具を付けられている感じ?
確かにそんなモノを身体の中にたくさん埋め込まれたら、不快だったり苦痛だったりしそうだ。
あ、そういえば、さりげなく『魔法』が初登場なのでは。
使い方はすごく地味だが。
「先の戦闘で消費した7発の魚雷、あれは発射準備はしましたが、全弾使えるとは思っていなかったのです。
特に、後部魚雷発射管は完全自動なので、稼働率は感覚でざっと3割を切る」
「そんなに」
なんというか、すいません。
「いえ、ヨナ様は記憶もないそうですし。我々はそういう船を動かすのが仕事だったのですから。
それにもし、今後イリスヨナの各部が常に稼働率100%近くで運用できるなら、それは驚くべきことです。
具体的には、もし前回のような対艦戦闘に入ってしまった場合に本艦は、とてつもなく優位に立てるでしょう。
艦内の強制収束器などの魔法具がご不快なようでしたら、すぐとはお約束できませんが、外すようにしますが」
「うーん、そこまで不快なものでもありません。まだ私が目覚めてからの運用実績も無いですし、しばらくそのままにしましょう」
「そう言っていただけると助かります」
魔法補助具は不快ではあるけれど。
いざという時、イリスヨナがイリス様を守る役に立てなかったら意味がない。
「ヨナ様は、これからイリス伯のところにも話を聞きに行かれるのですね?」
「はい。そうするつもりです。
イリス伯は、私とイリスヨナの呪いの話をしてくださると思いますか?」
「イリス家はイリスヨナのためにある家門ですから。
ヨナ様のご要望には、出来る限りのあらゆる便宜を図ってくださるはずです。
少なくとも嫌な顔はしないと思います」
副長はそう言ってくれるけれど。
うん、それはどうだろう。
イリス伯からしたら、私は妻の命を奪い、娘の命を奪おうとしている悪魔の船そのものだと思うのだが。
あるいは家族感情よりも家のことを優先するのが、この世界の貴族というものだろうか。
「ヨナ様がご自身のことを知りたがるのは当然のことですし、良いことだと思いますよ」
それもあるいは、知らせないままでいたほうが、船として使いやすかったりするのではないか。
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