ヨナの望む、ヨナの末路 / レインと命の約束

「ヨナ様、レインは嫌です」


ふらりと第二発令所に入ってきたレインが、開口一番に言った。

部屋にはふたりきり、廊下までは声は漏れていないはず。

そこまで考えて、レインの脚が配管に触れていることに気づく。


私の知っている人間の可聴音量が、この世界で相手によっては通用しないのを忘れていた。

自分だって、イリスヨナとして生まれてから、異常に聴覚が良くなっている。

他人のそれに気が回らなかったのは私の考え不足。


「レインだって同じようなことを言っているじゃない?」

「そんなの知らない! レインはヨナ様が死ぬのは嫌なの!!」


わがままな駄々っ子のように。

それでも部屋から漏れないよう声は抑えてくれるあたり、本当にレインは良い子だ。


叫んでから一転、うつむいて弱々しく。


「嫌です」

「レイン、お願いだから」

「ヨナ様のやろうとなさっていること、全部エーリカ様にぶちまけて台無しにしてやる!」

「レインったら」


癇癪を起こすレイン。八本の脚が不協和音を立てながら震える。


困った。

といっても、対処がないわけではない。

この場合困ったというのは、対処がないわけではないことが問題なのだ。


きっと、というか絶対に、レインはそれをわかって癇癪を起こしている。

怒りと悲しみは演技ではないけれど。


そのつもりになれば、どうとでも冷静を装えるはずのレインが激情を隠していないのは、きちんと狙いがある。

わかっているけれど、私はレインの策謀に絡め取られるしかない。


「イリス様をお救いするついでなのが、申し訳ないけれど。もし、それでよければ」


とても情けない枕詞を付けて、私はレインにプロポーズする。


「レイン、私と一緒に死んでくれる?」

「はい。もちろんです」


即答。

レインは一転、私の足元にすり寄って手を取る。


「喜んで」


見たことのない気色を浮かべるレイン。


「一緒といっても、あなたがいない時に不意の撃沈で終わることもありえるわよ。その時は」

「もちろん後を追わせて頂きます」


いっそ楽しみだと言わんばかりに声が跳ねているレイン。


「不確定情報で自刃しないでちょうだいね」

「ヨナ様も意図的に曖昧な終わり方をされないでください。その時は私の方で独自に判断します」


私はいつでも、イリス様が最優先だけれど。

それでも、できればレインを巻き込みたくなかった。

その時が来るより前に、なんとか心変わりしてもらえないだろうか。


「えへへ」


しかし、欲しかった約束を手に入れたばかりのレインは小さな子供のようで、そう簡単には説得されてくれそうになかった。

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