万能戦艦、深夜の雑談
それから、話は船の話題に戻る。
さっきから私とミッキはレインに監視されていた。
でもレインは話に混ざることもなく、退屈そう。
申し訳ないけれど、最初からこの時間はミッキと艦隊構築について話す予定だったので、今はちょっと我慢してもらう。
「乗員確保は大きな課題ね」
「はい」
ミッキは答えて、状況を整理する。
「初期艦は100m級でも、事実上、人類初の人造艦船です。
古代戦艦とは動力系も操作系統も違う。
こんなに大きな船を指揮した経験のあるヒトは、この世界にまだ誰もいません」
この世界には、わずかに残った古代戦艦のほかに艦船がない。
だから『海軍』も残っていない。
ミッキのおかげで船を作る算段はついたが、その船に乗ってもらう乗員が次の問題だった。
「多くのヒトを指揮して動かした、というところまで広ければ、候補はいるかしら。
それで、できるだけ近い業界。軍艦だから軍人か、漁船だから漁港の関係者?
古代戦艦の乗艦経験者が雇用できれば、それに越したことはないけれど」
「無理でしょうね。どの国も古代戦艦の乗員は少なく、巫女か、巫女の類縁がほとんどでしょうから。
艦長経験者も間違いなく各国の貴人に連なる家系で、指揮官クラスですから。国家レベルの貴重な人材です」
そうだろうとは思っていた。
「ヨナさんやイリス様のはなしを聞く限り、古代戦艦はごく少人数で運用されるという問題もあります」
確かに。
古代戦艦の乗員は、人造艦船の幹部としては向いていない、という懸念はある。
イリス様は伯領地の跡継ぎで貴人だから、いずれはヒトの上に立つお方だけれど、今は人見知りの女の子だ。
『ヨナ』である私はただの操艦システムでしかない。乗員を指揮して船を運営できるわけではないし。
「スイの成長を待つしか無いかなぁ」
スイひとりだけじゃなくて、もっと士官候補は増やすけれど。
とりあえず、チセは絶対に誘ってみようと思っている。
いずれイリス様の麾下として構築する艦隊。
外様を連れてくるのではなく、組織の中で育てるというのは、組織への忠誠心を培う意味では良いが。
初期艦の艦長がすぐ欲しい、といういまの状況には都合が悪い。
「あー、都合のいい人材がそのヘンに落ちてないかしら。あるいは空から落ちてきてくれてもいい」
部屋の端で、レインが『縁起でもない』みたいな顔をした。
まあ確かに、上から落ちてきたヒトに、この前ひどい目にあわされたばかりだった。
「ヨナさんはジョークのセンスを磨くべきかと」
私もそう思う。
ミッキは渾身のジョークと思わしき言い回しを口にする。
「拾い食いはよくないですよ」
「わかってはいるんだけれどね」
つまらなそうにしていたレインが、話に入ってきた。
「ヨナ様、ヒトの好みが独特というか、悪食なところありますよね」
それってエーリカ様のことだろうか。
猫耳美少女公爵令嬢にイジメてもらうの、最高に楽しいと思うのだけれど。
レインはぼけっとした顔をしているらしい私の顔を覗き込んで、ため息。
「私が言うのもなんですけど」
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