VS潜水艦4.2 / 古代戦艦イリスヨナの秘密、大公開?

「ちょっと、誰なのあの子」

「副長がどうかした?」

「副長? この船の? あの歳で?」


フーカが信じられないものを見る目で私を見る。

副長たち、少女の見た目そのままの歳ではないのだけれど。


「双子や三つ子ならまだわかるわよ? でもさっきから、同じ顔のヒトがこんなにいるなんておかしいでしょ。

それに、すごい美人じゃない」


はしゃいでいる感じはまったくない。驚くほどの美人を見ている、という顔だ。


「えーと、彼女たちはイリスヨナの船員よ。ただの妖精なんだけれど」


不思議そうな表情を浮かべる副長を横に置いたまま、真剣な面持ちのフーカに対して『妖精』のことを説明する。


「つまり彼女たちは古代戦艦イリスヨナの構成部分なんだけど、大国ストライア側では珍しかったの?」

「いやちょっと待って、それ本当、なのよね? まあ同じ顔のヒトがこんなにいるのは確かにおかしいけれど」


フーカは混乱している。


「フーカ、あなた古代戦艦には詳しいんじゃないの? なんで驚いてるわけ」

「詳しいわよ、あなたよりずっと。だから驚いてるのっ」


フーカのそれは逆ギレだった。


「『古代戦艦の妖精』って何? そんなのあたし知らない!」

「知らないって?」

「私の読んだことのある文献にだって書いてなかったわよ。

少なくとも、大国ストライアの所有する古代戦艦には、あなたの言う『妖精』を生み出す機能はないし、乗艦もしてない。

イリスヨナっていったい何なの?」


そう言われても。


私だって副長たちが機関部から生まれるところを見たわけではないけれど、機関長というかレミュウが嘘をついたとも思えない。

これで『ヨナ』の正体を教えたらどうなることやら。

といっても、フーカはうすうす気づいているかもしれないが。


私からすると一番かわいいのはイリス様、一番美人なのがエーリカ様。

副長のことは、整った顔立ちの少女だと思うが、驚嘆するほどの美人とまでは感じない。


視線を副長へ。

花がほころぶような笑顔を見せるわけではないけれど、落ち着いた表情。

立ち居ふるまいが踊り子のように優雅というわけではないが、無駄のない身動きには、何かしら哲学を感じる。ミッキのような。


私からみて副長たちが特別美人だという印象はないが、好ましくは感じている。


「ヒトが美しいと感じる顔は、突き詰めると『特徴が無い』ことだっていう話もあるけれど」


と、そこで話に混ざらず作業をしていた掌砲長が挙手して発言。


「大国アルセイア全体でも、たぶん『古代戦艦の妖精』は他の船にはいないんじゃないかと思うよ」

「どうしてそんなことがあなたにわかるのよ」


掌砲長の発言にフーカが食ってかかる。

もしかして、自分の知らない古代戦艦知識を知っている相手には、食いつかずにいられないタイプなのだろうか。


フーカ、わりと迷惑なオタクだった。


食ってかかられた掌砲長は特にリアクションもなく話を続ける。


「大国アルセイアに所属する古代戦艦の中で、イリスヨナだけ異常に船員の募集が少なかったから」

「そういえば掌砲長は古代戦艦の乗員で求人してたことがあるのよね」

「イリスヨナ以外の古代戦艦は乗員として、防衛戦ができる退役軍人や、政治交渉のできる貴人の類縁を募集することがままある。

しかしイリスヨナはここ数十年ほど募集をしてなかったんだよね」


古代戦艦の各種情報は軍事機密だから外に漏れることはまずない。

妖精の乗員のことも。特にイリスヨナの外に秘密が漏れなかったのは、それこそ乗員の入れ替えがめったに起こらないからだと考えられる。


「ちなみに募集がなかったのなら、掌砲長はどうやってイリスヨナの乗員になったの?」

「先代のイリスヨナの巫女と、家族ぐるみの付き合いがあったんです。船を探していたら、向こうから来ないかって声をかけられて」


なるほど縁故採用だった。


まあ、機密保持が厳しい古代戦艦のこと。

実質的に貴人しか乗れないそうだし、乗員は多かれ少なかれ出自が証明できる縁故採用なのだろうけれど。


「だから私はイリス様の幼馴染ってことになってて。側用人兼船員みたいな」


貴人の側用人。幼い頃につけられて、主がぬまで絶対の忠誠を誓う使用人たち。


「まあでも私のそれはお飾りだから。イリス様に海の底までお付き合いするつもりはないかな。

ヨナからしたら、気分を害するかもしれないけれど」

「そんなことはないかな。

わたし、イリス様が一番だけれど掌砲長のことはけっこう好きだし。

命を捧げる忠誠なんて、率直に言って気持ち悪いと思う」


この世界では貴人の側用人は名誉かもしれないが、誰かに命を捧げるというのは、私の価値観には合わない。


「どの口がそんなことを言いますか」


あ、レインには聞かせられないコトを言ってしまった、と思った瞬間に背後から捕獲される。

物理的に脚が胸を絞め、じっとりとした視線で絡め取られ。


「レインのことも好きよ」

「ありがとうございます」


ご機嫌をとるためのおべっかにしか聞こえないタイミングだろうに、晴れやかな表情で喜ぶレイン。

うーん。

これは、あしらうのが簡単すぎて扱いが難しい。


不機嫌そうなフーカが私たちを捕まえる。


「ちょっと。あたしを無視して何やってるの。何の話をしていたのか、忘れたわけじゃないでしょうね」

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万能戦艦ヨナちゃんを、どうかよろしくお願いします / 愛する我が主のために艦隊作るよ @MNukazawa

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