VS 円盤海獣1

王都カサンドラの中央付近から、河川に入る。

私たちは第二発令所に上がって、風景を見つつ、接岸の手順確認を始める。


「どの都市も河川に面していることが多いわね」

「大陸鉄道ができるまでは、河川が主要な交易交通路だったからですね」


この世界では大型船が新造されないため大型船の港湾も作られないが、カサンドラ中央部にはイリスヨナが寄港可能な港湾遺跡が残っている。

イリスヨナの到着地点はそこ。


前文明の時代は、古代戦艦のような大型船が物資を運んで行き交っていたのかもしれない。


港湾に接岸している途中に、聴音が反応。


「海側から何か音がするわ」


第二発令所で待機していた掌砲長がヘッドホンを耳に当てて目を閉じる。


「何者かが海中を高速移動しています。魚雷ではないですね。サイズは潜水艦くらいあるはずですが、スクリュー音がない」

「接岸を中止します。第二種警戒配置へ。副長、港湾で折り返しを検討するのに、第二発令所に残って港湾の状況把握をお願いします」


副長が答えるのを待って、全艦に警戒配置と、艦橋要員に第一発令所への集合連絡を入れる。

イリス様を連れて第一発令所に戻ると、ミッキとレインがヘッドホンに耳を当てていた。


「掌砲長、お使いになりますか?」

「ありがとう」


ミッキから掌砲長へ手渡し。


「状況がわかりませんね」

「音が大きくなっているのは、接近しているという判断でいいのかしら?」

「海中の状況にもよりますが、今回は多分」


沿岸からサイレンのような放送音。


「これって津波警報?」

「そうです」


即答したのは掌砲長ではなくレインだった。

レインは異国の警報まで把握しているのか。教会で各国事情について教育を受けたエリートはさすがだった。


掌砲長はヘッドホンを耳元にあてたまま話す。


「濁音がするので、海獣が海面から顔を出したのかもしれません」

「大型海獣だとしても、音が大きすぎない?」


海上で何が起こっているのか。川はカーブを描いているため、海の方向は見通せない。

だがこちらが見に行くまでもなく、異音の原因は向こうから姿を表した。


空飛ぶ、輪っかだった。

海浜に立ち並ぶ防波堤や建物よりも高い位置に浮かぶ、白いフラフープのような円盤。

さらに浮き上がり、その下から顔を出したのは巨大な『エビ』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る