VS 円盤海獣2 / 街に生える戦艦、空中都市から生える艦隊
「イリス伯領地でもよく見る小型海獣よね、あれ」
さらに浮き上がり、その下から顔を出したのは巨大な『エビ』だった。
頭の中が真っ白になりかけている私に、掌砲長が応じる。
「でも『エビ』があんなに大きくなるなんて聞いたことないです」
「文献にもそういう記述はありませんね」
続けたのは第二発令所から降りてきた副長だった。
「周辺に小型船はありません。みな逃げ出そうとして船を留めて降りています。方向転換して海上に出ますか?」
私は考える。
都市が襲撃されている状態で逃げ出すのは印象が良くないが、まずはイリス様の安全が最優先だ。
それに荷物の安全もある。
仮にイリスヨナから攻撃するとして、相手はすでに上陸しているように見える。海上にいるとしても魚雷で攻撃できるのは足元だけ。決定打にはならない。
前回の戦艦のように爆雷を落とすことはできるが、都市部でやれば地上が火の海になってしまう。
やれることがあるならともかく、イリスヨナにできることがない。
「洋上に逃げ出して、こちらを追ってくるようならば魚雷攻撃かしら。イリス様、とりあえずの方針はそれで行こうと思います」
「ヨナに任せます」
エビの足元で小さな破裂音が始まる。
「都市防衛の魔術師部隊ですかね」
副長の疑問にレインが答える。
「たぶん強力な魔術武器を持っているはずです。でも対人武器なのでサイズが違いすぎます」
「沿岸は警備されていないの?」
「ありません。津波に大砲は効きませんし、海獣は上陸しませんから」
「まあそうか」
しないはずの上陸はしているけれど。
小型海獣のエビは、大きいものでは全高が1m近くあるが、外骨格と筋力を魔力で強化しても、そのサイズが実質の上限らしいとわかっている。
「上陸しても自重で潰れないのは、やっぱりあの円盤が理由かしら?」
私の疑問に、副長とイリス様はわからないと首を振る。
宗教専門のレインに視線を向ける。
「レイン、この世界でも天使って輪っかがついてたりする?」
「ついている者もいます。天使長は頭上にはありませんが、背中に後光を持ってますね。いつもは出していませんが。
あんな構造物は見たことがありません。あえて該当しそうなものを探すならば、神話の大戦に登場する天使兵でしょうか。
山より大きく天に頭がつくほどの大きさの光の巨人で、頭上に光の輪を持っていたと伝えられています。実在も怪しい話ですが」
古事記に書いてあった話、程度に思えばいいのだろうか。
しかし巨大エビ海獣はいかにもザリガニという外見をしており、羽もないし、どう見ても天使とは呼べない。
建物の隙間から、どう見ても自重を支えていない細い足が覗き見える。
『大型海獣の全長は100m、全高30mと推定。移動速度は最大で13km』
左右の大きなハサミで地面を突きながら歩く。
しかし都市に大きな被害をもたらしているのはハサミではなかった。
頭の先端から伸びてエビ本体と同じ長さを持つ、2本の触覚。
特別太くも固くもなく、ムチのように自在に動くわけでもない。
しかし触覚がしなって地面を触れれば、低層の建物は横薙ぎに区画単位で吹き飛ぶ。
エビの倍ある高さの城も、形を確かめるように2度3度と打たれれば、根本が砕けて崩れるものがちらほら。
イリスヨナの集音分解能は、エビの足元で崩壊する建物の音、なんとなしに触覚が薙ぐ地面の瓦礫にまぎれる、いくつもの悲鳴を拾う。
それを意識して取り除け、状況の把握につとめる。
副長がアクリル丸窓から双眼鏡を覗きながら報告。
「王宮が戦旗を掲げました。続いて発煙信号。右から赤・赤・黄」
「レイン、信号わかる?」
「首都防衛の緊急出動です。戦闘配置で、攻撃開始」
大型海獣に対する足元からの散発的な攻撃が止む。戦闘態勢に入った都市の各所から重めの音でサイレン。続いて高い音の鐘が鳴らされる。
副長が艦長席のイリス様の元までやってくる。
「これよりカサンドラ王都による艦砲射撃が始まります」
「『艦砲』? カサンドラの古代戦艦が出撃するの?」
副長は私の疑問に対して首を横に振った。
----
河川を伝わる振動でイリスヨナの足元が揺れる。
聴音している掌砲長が報告。
「大陸側より地下振動音が3ヶ所で発生。すべて首都西側の、大型海獣近く。断続的に続いています」
揺れの中で、副長と共に地図を確認していたレインが顔を上げる。
「ヨナ様、たぶん、1つ目が海獣の右側面にある山の急斜面から出ます」
地震による土砂崩れ。
最初はそう思った。
ずり落ちるようにスライドした山の斜面。
その奥から現れたのは、中腹に埋め込まれるように据えられた、160mクラスで3基9門の巡洋艦だった。
それと別に、巨大海獣から1kmほど離れた地点の黒い塔の壁が剥がれていく。
現れるのは、艦橋後ろの後部甲板が地面に突き刺さっている、縦置きされた2基4門の駆逐艦。
地面からの高さは50m。80mクラスと推定。こちらは連装砲でありながら左右で砲身サイズが異なる。
最後のひとつは、首都上空に浮かぶ空中都市の水晶宮。
戦闘形態へ移行しながら振動を地面に伝えていた10本の補脚のうち6本を持ち上げる。
同時に、空中都市の底を覆っていた古代戦艦の船体が、花開くように展開する。
平均で220mクラス1基2門の戦艦6隻。これらはすべて同型ではなく、形態に大小の差異あり。
王都から生えてきた合計25門の砲塔が、大型海獣に向かって順次発砲を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます