魔槍の護送 / レインのリークと隣国の疑惑
「ヨナ様、レインもついて行きますからね!」
第一艦橋で搬入の打ち合わせをしているときに、レインがやってきて言った。
「レインと、ドラゴンのクウと護衛のアリスの席をお願いします」
「え、それはちょっとやめておいたほうが。今回は依頼内容がよくわからないし、安全な航路とはいえないのよ?」
「わかってます。それに事情については、もしかすると私のほうが詳しいかもしれません」
レインは教会の上級職員だし、自分の情報網も持っているらしい。
「イリスヨナ、何をさせられそうなの?」
「依頼内容はたぶん、大国エルセイアが所有する戦略魔術兵器である魔槍の輸送です」
核弾頭の輸送だと思えばいいのか。
少なからず重い話だ。
「というのも、ヨナ様がこのまえ撃破した魚雷艦がアレコレのきっかけになってまして」
いえ、ヨナ様が悪いわけではまったくないんですけれどね、とレインは続ける。
「このまえの魚雷艦、どうやら大国エルセイアと緊張状態にある、大国ストライアの戦艦だったらしいのです。
それで両国のあいだで緊張が高まっていて、外交メッセージとして国境近くに魔槍を移動することになりました」
穏やかでない話だ。
けれど、停戦協議が妨害され、第五皇女様の命を狙われてなお、開戦に至らないというのは意外でもある。
私が思っているよりずっと、大国同士は理性的で戦争を避けようとしているのかもしれない。
「それと、魚雷艦は大国エルセイア支配権のかなり中まで入り込んでいたのですが、どうやら味方エルセイア勢力のはずの隣国の河川から遡上したらしくて」
隣国が敵国に協力したというのは穏やかでない。
それも情報の横流しなどでなく、皇女を狙おうとした古代戦艦を手引きしたとなれば。
「ヘタをすれば、大国エルセイアの勢力下で内戦になりますね。まだ公表されていないので表では騒ぎになっていませんが、どうやら王家にも支持者がいたらしくて。水面下では既に実行犯から指揮系統の洗い出しが始まっています。
魔槍の輸送計画自体は前からあったそうなのですが、予定くり上げになった上に、その隣国が予定の経路に含まれていたそうで。
強力かつ貴重な魔槍ですからね。奪取されたり破壊されるのは避けたいでしょう」
たしかに、そんな国の中を通って重要な兵器を輸送はしたくない。
「だから海路?」
「洋上に出てしまえば、輸送に妨害は入らないという考えのようです。ここ100年、洋上での海戦はなかったから、とも」
レインの言葉でないことはわかっているが、気軽に言ってくれるなぁ、と思う。
経路の自由な洋上はともかく、出港と入港の安全はどうするつもりなのか。
そもそも河川上とはいえ、第五皇女様の命が狙われて古代戦艦同士の戦闘が起こったから経路変更するのだろうに。
「事情がわかってきたわ。急な依頼だったのは、急に決まったからではなかったと。既に決まっていたけれど、機密保持のためにギリギリまで現場に指示が降りてこなかったわけね」
皇女様から届いた6本の魚雷も、『お礼』を隠れ蓑にした護送戦力の増強だったと見るべきだ。
まあそれはいい。危険と厄介はともかく、いちおうは国有の古代戦艦として、為政者のわがままをきかされるのは仕方がない。
それに、エーリカ様がお相手ならば、ワガママを言われるのはむしろ好きだし。
趣味ですし。
閑話休題。
「そんな話を聞かされたら、レインのこと、余計に連れていきたくなくなったのだけれど」
思っていたよりずっと危険だ。レインを巻き込みたくはない。
しかしレインは私の返事を想定していたらしく、すぐに私の判断をからめ取りにかかる。
「ヨナ様、はじめての海外で宗教タブーは大丈夫ですか?」
「うっ」
「国外で悪霊に憑かれると、異国の感染症と同じように厄介ですよ。他にも国ごとのルールとマナーに、教会なら地元団体とのコネもありますから、レインを連れて行くといろいろ便利な万能ツールナイフですよ〜」
「連れて行くから、そういう役立つアピールはやめて」
私とレインの間でしか意味が通じないけれど、レインは自分のことを道具として『使い潰してほしい』と言っていて、私は協力関係と答えて返事を濁しているのだ。
「まあ実際問題、教会的にはヨナ様が国外で要人と会う可能性がありますからね。ここで連れて行ってもらえなかったらレイン、教会から見て監視役としてやく立たずです」
「絶対に連れて行くから安心して」
このへんの少し考えるとセンシティブな会話も、イリス様と副長が聞き流してくれて助かる。
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