エーリカ様のいたずら

旅程中、お客様である金髪猫耳童女な公爵令嬢のエーリカ様に楽しくイジメてもらいつつ、イリスヨナは無事に河川港湾にたどり着いた。


港湾には古代戦艦イリスヨナを寄せられる大型船用の船着き場がないとのことで、エーリカ様の下船には、渡りの船でも用意するのかと思っていたのだけれど。


港湾からイリスヨナが停泊できる深度の川辺まで、あっという間に、赤いカーペットよろしく長い浮き橋がかけられた。

浮き橋は、さすが貴人が歩く道。当然綺麗で、乱れなく整然と並んでいる。見た目にも映える。


ドラム缶で浮いている板橋とかなら、見たことがあったけれど。

この世界の河川はおだやかで波も立たない。

湖の上にまっすぐの道ができたかのようだ。


そこへ踏み出したエーリカ様が振り返って一言。

「イリスヨナ、ありがとう。良い仕事でした」

エーリカ様の契約満了の言葉に、恭しく頭を下げる。


貴人の礼の言葉には無言で敬意を示すのが、こちらの作法だそうだ。

それと、こちらでも頭を下げる礼があるとのことで助かる。


「あ、ところで」

エーリカ様の口調がいつもの調子に戻った瞬間、嫌な予感がする。

「河川の通行許可のこと、覚えてる?」


まさか。


「あれ、片道しか申請してないのよねー」

「それは、すごく困ります」

「何しろ急に決まったことだったから」


エーリカ様に言い訳をする必要も理由もないから、本当だろう。

しかしこのままでは、イリス伯領地に帰ろうとして来たのと同じ河を通るだけで犯罪になってしまう。


こういう時にどうするかというと、エーリカ様が相手であればいわゆる面倒くさい『貴族政治』をする必要はない。


ひたすら平身低頭。


本心から降伏している相手に、エーリカ様は雨を降らすように慈悲をくださる。

逆に、エーリカ様に頼らずに私達で通行許可の手続きをしてもいいけれど、ここでそうするのは『お前なんかに頭を下げたくないやい!』という意味でもある。


そんなことをしたら、書類をたらい回しにされたりで、許可が降りるのが100年後になりかねない。

エーリカ様は自分に敬意をはらわない相手には、全く容赦してくれないヒトなのだ。


「お願いしますエーリカ様。帰り道の手配をどうか」

「大丈夫よ。

私が依頼してここまで来させたのですから。帰りの航路もすべてこちらで手配しておくわ。

でも数日かかるから、使いの者が連絡に来るまで、船で待っていなさい」


エーリカ様は満足そうに頷いて請け負ってくださった。

ツテを紹介してくれるとかでもよかったのだが、エーリカ様はさすがの寛大さである。

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