侵入者1 / 古代戦艦イリスヨナの艦内
『ハッチ17に異常発生』
「ん」
肌をくすぐられるような違和感より先に、シグナルが飛んだ。
レインが手配してくれた物資は正午まえに到着して、積み込みの様子を監視しつつ、交代で昼食。
イリスヨナは積み込み作業を2時間で終わらせた。
グランツ氏へ事業提携の承諾を伝えて、レインは教会を往復して情報収集といろいろな手続き。
出港準備はすでに終え、特にやることがないので、船長席に座るイリス様のご尊顔で目の保養をしていたところだった。
船外の光学観測、監視カメラ映像を走査し、見つけたものを第一艦橋のVUHDに映す。
ローブをまとった人物がひとり。後部発射管近くのハッチに取り付いて解錠を試みている。
人影、というほど画像は荒くない。
体格から女性とわかる。顔が見えないのはローブが覆っているからというだけ。
副長が静かに要員を後部区画に向かわせる。
「あんなあからさまに怪しい人物、どうして他にだれも気づかなかったのかしら」
港湾は重要な流通拠点であり、それなりにヒトの出入りが監視されている。
特に、古代戦艦であるイリスヨナの寄港している区画はきちんと警備されているはず。
「たぶん、あのローブではないかと。認識阻害に類する魔術がかかっているのでしょう」
レインが解説してくれる。
「見えているけれど意識に登らない、という意識操作系の術式です。光学迷彩よりは簡単です。
相手に術をかける方式なので、鷹の目をかけつづけている高位魔術師や、当然警戒している軍の警邏には効きませんが、ふつうの警備を抜くには十分です」
それでもかなりの高等魔術で、高価かつ貴重な品物ですけれどね、とレイン。
「発令所員が全員あれを認識できているのは、たぶんヨナさまの『光学観測』を通して見ているからではないかと。
低級な認識阻害ならば、例えば鏡の反射で見るだけでも看破できたりします。
第二艦橋の監視員は直接の目視確認ですから、まだ見つけられていないでしょう。
場所を正確に示してやっても、やはり見つけられないはずです」
監視カメラを通すと効果が届かない呪いだと思えばいいのか。
副長が第二艦橋に指示を飛ばして、そのとおりになっていることを確認する。
「どうやらレイン様の言う通りのようです」
「副長、イリスヨナでは侵入者ってどうするの?」
「最近はめっきり無かったことですが、未遂でも侵入を試みた時点で、基本的にはその場で死刑にするのだと聞いています。
軍事機密である船内への無断侵入は大罪だそうで」
副長はさらりと答えた。
しかし副長の記憶だしいつのことやら、現行法は違うのでは、とレインを見る。
「100年前から変わってませんよ。イリス家で執行したことはないようですが」
野蛮だ。
「野蛮だわ」
「使われない法律って、使われないからほうって置かれて、時代が変わっても改定されないんですよね」
「基本方針としてそれに従わなければならないなら仕方ないけれど、うーん」
私はイリス様を見る。
「ヨナに任せます」
「ありがとうございます」
しかし困ったことにはなった。
気が進まないが、仕方ない。
「何かでびっくりさせて逃げてもらう、というのも考えたのだけれど、イリスヨナについて探ろうとする勢力があるのなら、相手のことを把握しないといけないし。
ともかく、犯人の身柄を確保しないといけないわね」
イリスヨナはともかく、イリス様に危害が及ぶ可能性は、積極的に排除したい。
「ヨナさまはお嫌でしたら、確保と尋問と処理はレインにおまかせください。アリスもいますし。ヨナさまがお手を汚す必要はありませんよ」
レイン、ウッキウキでそういう物騒なことを言うのはやめてほしい。
直接手を下さないだけで変わらない、というか余計に悪辣では。
「それに、今さらだわ」
不明艦もミサイル艦も戦艦も、無人だったはずはない。
そして私は、彼女らを殲滅した古代戦艦イリスヨナそのものだ。
「レイン、確保はお願い。対応はちょっと考えさせて。ともかく、逃さないようにしなきゃね」
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