幕間:『3年ぶりの再会 / 父と娘の会話1』


戦争と経済、やっていることは、本質的に何も変わらない。


経済戦争とは突き詰めてしまえば食料の奪い合いであり、負けた国は少なくない餓死者を出す。

そして大国に餓死者が出るほどの大きな『うねり』は、あらゆる取引の『差額』を食み、賤貨を束ねて億

万を生み出す投資家にとっては最高の狩り場。


小国がこぞって国庫の中身を動かす。

娘に芋を食わせたい父親が市場の10倍の金を出す。

そのころ隣り村ではカボチャが採れ過ぎていて、農家は国の農業保護政策で出荷を禁じられる。

農家はカボチャを腐らせながら他のものを口にする金を得られず、兄弟姉妹の7人全員が栄養失調を起こす。

小口の商人が、川魚の値を釣り上げようと慣れない物流を失敗してすべて腐らせる。

街には失業者が溢れ、街道沿いは野盗が自由を謳歌。

時間と金と手間をかけて作られた街は一瞬で燃えてなくなり、大人たちは首をつり、子どもたちは飼い犬より雑に死んでいく。


政商グランツ家の源流は飢饉と戦争で成り上がって生まれた。

食品流通を失ったのは、3代ほど前に国家連合に飢餓商人として糾弾され、財閥解体の際に市場から商店に財閥の食品系列一族まですべてを商敵に奪われたから。

それも、正義が国家を動かしたわけではなく、グランツの商敵がグランツ家よりも大きな政商だったというだけのこと。


以降、グランツ家は資源取引に注力しつつ、辺境国の経済と一体となって穏当路線。

それだって、反省して慈愛に目覚めたというわけではない。

社会と財閥は死ぬなら道連れであると、互いに人質を取りあっているだけ。


なぜなら資本主義の世界では、儲けと関係ない挙動をすれば競争で遅れをとる。

行いの良し悪し関係なく、無駄なことをしたものは競争から蹴落とされる世界。


資本家という仕事は残酷だとは思うが、別に嫌いだったわけではない。


財閥一族の傍流、その長女として、子供時代からそれなりに商売を采配し、それなりに才能を示した。

別にそうしようと思ってやったわけではないけれど、つまりそれなりにヒトを食べさせ、ヒトを飢え殺したのだろうと思う。


別に嫌になったとか耐えられなくなったとかではなく。

あえて言うなら、あまりの手触りのなさに飽きた。


それで資本家を廃業して次の仕事へ。

軍隊に入ってヒトを殺すのも変わらない。将軍になれば同じように、采配ひとつで何万人の命を奪う。

だからといって別に、ヒトを殺す仕事をあえて探したわけでもなかった。

まあ、同じヒトを殺すなら、直接やったほうがまだ達成感も幸福も嫌悪も悪意もいろいろスッキリ感じられるだろう、とか、思ったような思わなかったような。


陸軍に入って女軍人、とならなかった理由はいろいろある。

危険が好きなわけでない。人殺しが好きなわけでもない。運動は得意でないし嫌い。

当然に良い暮らしをしてきたので、不潔な環境も耐えられない。


グランツ家の娘が陸軍に食い込むというのは、グランツ家にとって良い話だ。

つまりは疎んで離れたはずのグランツ家の尖兵をやらねばならなくなってしまう。

また商敵にとって都合が悪いから妨害や、もしかすると暗殺なんてことも。


父とは別に関係劣悪でケンカ別れというわけではなかったので、安全な椅子を探してくれた。

条件の中で、政治と経済から遠く、安全で楽な職場を見繕ったら、それが古代戦艦の乗員。

あえていうならば、古代戦艦イリスヨナの仕事はいわゆるひとつの公共事業というやつで、ぬるま湯な環境が心地よかったのは事実。


そして、弾道計算と魚雷調停は、計算により得られる結果の正確さと外乱要因の不確定さが前職と似ていて、肌にあった。


だから私は、古代戦艦イリスヨナの掌砲長になった。

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