政商グランツ家との接触 / エーリカ様の手引きと思惑


「エーリカ様からの指示は、グランツ協会の担当者との面談」

「それはまた大変なことになりましたね」


ユーリが帰ったあと。

王都での折衝から戻ってきたレインと、会議室で打ち合わせ。

イリス様はまだ目覚めないので、他に副長と掌砲長。

レインは特に掌砲長の参加を要望したが、意図は不明。

政治の話がメインなので、ミッキは同席せず。

レインは眉を寄せながら話す。


「グランツは鉱山資源でシェア第二位の大商業の財閥です。イリス家がある辺境国アドレオを含む、辺境国周辺は彼らのテリトリですよ。

財閥に属する主要氏族は各国から爵位や騎士号を受けていて、一族の中には多重の爵位を持つ貴人すらいます。

辺境国のいくつかに対しては、政治決定にすら影響を持つ、まさしく政商ですね」


レインは、わざわざ『お忍び』で手配してまで、ヨナとグランツ家を接触させる、エーリカ様の意図をいぶかしむ。


「エーリカ様、私たちが地盤工事と鉱物資材を大量に必要としていることをすでに知っておられますね。言ったんですか?」

「言ってない、けれど想像がつくものじゃない?」

「レインには無理でした。ふつう見かける漁船は、専用の資材と港湾が必要なほど大きくありません。

大型艦船の造船について、周辺インフラまで想像がつけられるヒトはそう多くないですよ。

それにエーリカ様の紹介ということであれば、十分に警戒しないと」

「エーリカ様が紹介してくれるというのだから、お断りをされるということは無いと思うのだけれど」


レインは私を見て、呆れたようにため息をつく。


「紹介ということはエーリカ様の息がかかっている窓口ということです。不利な条件を突きつけたり、つねに注文を後回しにされたり、裏から購入量を把握されたり。エーリカ様のご意思ひとつである日突然に取引がストップ、ということもあります。ヨナさまを妨害する方法はいくらでもあるんですよ」


それはそうかもしれないけれど。


「それは、ぽっと出の第3勢力とかでも同じことだと思うわ」


イリス漁業連合は立ち上げ前の小組織にすぎない。

ちょっとそのへんの貴人のご機嫌を損ねれば、それだけでイリス漁業連合は全ておじゃん。

『あじゃぱー』って感じ。


台風や地震といった天災と同じだ。警戒を怠ってはいけないけれど、ある程度より先は考えても仕方ない。


「戦闘へのイリスヨナの介入については、どういう扱いになりそう?」

「お互い沈黙、ということで落ち着きそうです。裏側での処理はまだ不確定ですが。

王都は助かったけれど、武器を奪って街に損害。賞罰両方あって、表になれば向こうとしても扱いが面倒な政治的問題ですから。

表向きは、あくまで事故。古代戦艦の不明部分が戦闘中に誤作動した偶発的事態。そういうシナリオです。

イリスヨナからの遠隔制御に半信半疑、といった様子でした。なのでこちらも明確な介入を明言しませんでした」


そのあたりの政治的な駆け引きは、私には苦手なのですごく助かる。

イリス様もお眠りになったまま、ヨナが出ていくわけにもいかず。

イリス家とは血縁等で無関係で権限もないレインが、代理として折衝するのは大変だっただろう。


「ヨナさまにお褒めいただければそれで十分です。教会にもイリス家への食い込みをアピールできますし」


頭でもなでてあげればいいのだろうか、と一瞬想像するが、万が一本当にレインが喜んで、それが暗黙のお約束になったらなんとも対処に困る。


「ありがとう」

「えへへ」


なのでとりあえず言葉で。他はおいおい。


「それで、話は変わるけれど。紹介状といいレインといい、掌砲長をご指名なのはどういうワケなの?」


私はレインに尋ねたのだが、レインは視線で答えを掌砲長に譲る。


「レインさんはご存知なんですね」

「ヨナさまの近くにいるヒトは安全かどうか、身辺調査しましたから。教会のチカラで全員」

「はあ、そうですか」


いつのまにか裏で、わりとえげつないことをしていたらしい。

掌砲長は、ため息。


「私はグランツ家の出身で、海洋辺境を統括する血統の1粒種。長女なんです」


掌砲長の真剣な表情は戦闘中に何度も見てきたけれど、うんざりと嫌そうな顔を見たのはこれが初めてだった。


「たぶん、グランツ家の窓口には、お父様が出てくるんでしょう」

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