政商グランツ家との接触1 / お父様
突然の悲劇に見舞われた区画に瓦礫があふれ、未だ収拾のついていない、王都カサンドラ。
イリスヨナが停泊する港湾遺跡の近く、私邸とも官舎ともつかない建物の会議室。
グランツ家の手配した案内人に先導され、闇夜に紛れて船からここまでやってきた私こと、いちおう軍事機密のヨナ。
同席し、隣に座る掌砲長を見る。
掌砲長は古代戦艦イリスヨナに乗艦している、数少ない、未成年のヒトの女の子。
確かに、古代戦艦イリスヨナの船員になる条件は、身元がわかり信頼できる貴人であるなど、いろいろ厳しいという。
彼女がイリスヨナ掌砲長に収まっている理由は不明で、複雑なのかなと思いつつ、出自を尋ねたことはなかったけれど。
『国をまたぐ巨大資源コングロマリットの、極東マネージャのひとり娘。
そのうえ実家とケンカ別れで家出中。』
と、そのあたりで解釈すればいいのだろうか。
エーリカ様が、掌砲長を会談に同席させた理由はまだわからない。
単に、娘と父親を顔合わせさせたいだけなのか。
それで和解か、あるいは逆に決裂を狙っているのか。
掌砲長がこちらを覗き返して、いつのまにかじっと見つめていたことに気づく。
その頑なな内面を滲ませる顔立ちと瞳の鋭さが、とても好ましく私の目には映る。
「頭の上のそれ、えっと、なんだっけ」
「ゴーグルですか。目を保護するための装身具です」
用途はわかる。
なんでここにまでつけてきたのかは、わからないけれど。
「かっこいいね。似合ってる」
「はあ?」
そのタイミングで、案内人のひとりがドアを開けて、壮年の男性が部屋に入ってくる。
私が立ち上がって挨拶しようとし、掌砲長が遅れて私に合わせようと立ち上がって。
相手は私に小さく挨拶。
「グランツ・ジョセフ・ラーモアです。はじめまして、ヨナ様」
「はい。こちらこそ」
それから娘に向き直って。
「3年ぶりか」
「はい」
グランツ氏の表情は少し硬い。
掌砲長の口調は硬いが、表情はそれほど悪くない。
あるいはイリス家やイリスヨナの立場を悪くしないための演技なのかもしれないが、掌砲長はそういうことが苦手な技術者タイプに見える。
お互い座って、話は相手から。
「まずは、魔術具輸送、お疲れ様でした」
グランツ氏は魔槍アロンの輸送についてご存知らしい。
あるいはそれを伝えるための感謝の言葉なのか。
ああ、政治的なお話が始まったなぁ、という気持ち。
私は感情を隠の壊滅的にヘタである。
うんざりした気持ちが表情に出ていたのか、グランツ氏は不思議な顔で一瞬固まり。
掌砲長が呆れ顔。
「ヨナ様、顔に出てます」
「やっぱり?」
「お父様も、言いたいことははっきり言わないと。ヨナ様、言葉のウラを読む会話が嫌いだから」
「エーリカ様から聞いていたんだが、いざとなるとな」
グランツ氏は一瞬上を見てため息。
「申し訳ない。いつもそういう話し方ばかりしているものですから。
こちらの情報優位を匂わせるような言い方をしてすみませんでした。
感謝しているのは本当なのです。
大国エルセイアから遠い海浜の辺境国は、戦地として重要視されないゆえに、ひとたび戦地となれば戦火がどこまでも広がってしまう。
今回運び込まれた魔槍は、それを防ぐための重石だ。
我々グランツ家は、手広く商売させていただいていますが、その重心はつねに辺境国にある。
今回の輸送は、グランツ家としても利益のあることです」
と、これは私にとってもわかりやすい。
「イリスヨナと別の経路、鉄道による地上輸送の方は、グランツ家も鉄道の手配などで協力させていただきました。こちらは失敗したようですが」
「ああ、イリスヨナに乗せる前に検討されていたルートですか。たしか取りやめになった」
「いいえ。計画はそのまま、魔槍アロンの鉄道輸送は実施されました。途中で襲撃を受け、破壊されたそうですが。そちらはダミーだったそうです」
私の知らない話だ。
「えっと、それは知りませんでした」
エーリカ様、そんなことまでしていたのか。
「エーリカ様は海路を強く推されまして。イリス伯領地までの護衛についたため、鉄道を運ぶダミーの護衛には参加しなかったのです。
エーリカ様が鉄道護送についていれば、事前計画のまま地上輸送しても問題なかったはずと言う者も多いですが」
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