政商グランツ家との接触2 / 商売の話


「ヨナ様の考えるイリス漁業連合に、私どもグランツ家も噛ませて頂きたいと考えています」

「それは、鋼材資材等を売りたいというお話でしょうか?」

「ないではないですが、そうではなく。漁業で得られる海産物を売っていただきたい」


私は身構える。


「グランツ家は資源ビジネスが主だと伺っています。私たちが生産するのは食料品ですよ?」


食品を扱うネットワークがグランツ家にないのではないか、というのと、そうでありながら漁業に噛みたい理由がわからない。


「我々が食品ネットワークを持っていないからこそなのですよ」


私の疑問に、グランツ氏はそう答えた。


「グランツは以前より食品産業にも食い込みたいと考えていたのですが、そこで売る商品がなかったのです。

すでにある小麦や野菜、肉は当然、既存の資本がおさえていますから。

我々にとって海産物は、喉から手が出るほど欲しかった、食品事業進出のための新商品なのですよ」


なるほど、グランツ家からはそう見えるのか。


「イリス漁業連合として、我々と組むメリットもあります。

確かに、既存のネットワークに乗るのも良い判断です。しかし、すでにある市場はどうしても変化を嫌う。

海産物という全くの新商品を受け入れてもらうのは大変でしょう。

新参である私たちと組むのは困難な道に見えますが、我々は彼らと違い、新商品と販路の開拓に貪欲です。

流通経路などの難しい問題はグランツが受け持ちます。

それに、商品に合わない既存のルールに縛られることなく、商品に合わせた流通が構築できる」


実現性はともかく、確かに魅力的な話ではある。

確かに私たちの商品には、専用の流通経路が必要になる。

なぜなら、海産物の性質としてーー。


「エーリカ様がおっしゃるには、海産物は河川漁業と同じで本来は足が早い。

だから、高品質な海産物を消費者に届けるためにも、賞味期限の長い野菜や小麦、肉と同じルートでは運べない。

河川と比べ物にならない大量の海産物を効率よく売るため、大陸で広く商売し利益をあげるためにも、いずれ必ず既存と異なる、高速な流通経路が必要になるはずだと」


エーリカ様は、イリス漁業連合と私が欲しいものを、的確に把握されている。

そしてグランツ家が欲しいモノとの噛み合わせの良さにまで考え至っていて、この会談をセッティングしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る